暑いは気のせい?

 お盆も終わりですが、お昼時の暑さはなかなかのものである。僕は非常に暑さに強くて、クーラーをつけて寝たことがなく(この夏でもだ!せいぜい除湿を1時間ほど)、PCいっぱいでかなり熱がこもる診察室でもクーラーをつけていると調子が悪くなるので時々切る。忍耐強いNナースがふと見ると汗をいっぱいかいているので「暑い?」と訊くと、ささやくような声で「暑いです…」と言ったので非常に反省した。

 しかし「心頭滅却すれば火もまた涼し」という諺もある。実は先ごろ『European Journal of Applied Physiology』誌にそれを実証するような結果が発表されていた。この研究では、男性の自転車競技選手7名に固定した自転車を用いて30分のタイム・トライアルを行わせた。このとき研究結果を大きく左右したのは、テスト環境の実際の温度ではなく、被験者に見えるように表示されていた温度だったというのだ。

 3つの試験が行われた。まずは室温を摂氏約21.8度に設定した試験。2つめの「暑熱」試験では室温を約31.4度に設定。そして最後の「虚偽」試験では、表示室温は26.0度だったが、実際の室温は約31.6度と、3つの試験中で最も高温に設定された。

 試験はランダムに実施され、7名の被験者は全員、3つの試験をすべて受けた。その結果、約21.8度での成績は平均約16.63kmで、暑熱試験の成績(同約15.88km)を上回った。しかし虚偽試験は、他の2つよりもさらによい成績(同約16.74km)を記録した。

 また、被験者がこれらの自転車運動で発揮した平均パワーも、虚偽試験(184.4ワット)が暑熱試験(168.1ワット)を上回った。約21.8度での試験と虚偽試験は、実施時の室温が後者は10度近く高かったにもかかわらず、発揮されたパワーに大きな差はなかった。

 過酷な条件下であっても、温度の表示といった視覚的な刺激だけで運動パフォーマンスに直接的な影響を与える可能性があるということが示されたのである。

 なかなか興味深い。プラセボ効果という、実際に効果がない薬物でも効果があると信じていればそれなりに有意の効果を示すという現象は医者ならだれでも知っている。言い換えてみれば、心理的な作用は十分身体的パフォーマンスに影響を与えるということであり、この実験もそれを証明したということだ。

 「暑い、暑いっていうな!」と怒る人がときどきいるが、暑いという言葉を聞いているともっと暑くなってくるからだろう。「いやー、いいお気温で」と言ってる方がいいな。やせ我慢も意味がある。まっ、僕は単に鈍いだけだけどね。

 でも診察室はちゃんとクーラーをつけていることにする。みんなのためね。

暑いは気のせい?」への2件のフィードバック

  1. ムーラン・ルージュ

    初めてコメントさせて頂きます。
    プラセボ効果 恐るべしですね
    カフェイン抜きの珈琲とカフェイン入りのミルクの実験でも
    ミルクを飲んだグループの方が早く寝てしまうという
    実験を何かで観た事があります。
    バファリンやセデスでは全く頭痛が治らないのに
    キャベジンを飲むと頭痛がケロッと治るという友人がいます。
    それも暗示という名の作用なんでしょうね (笑)

    返信
  2. 着ぐるみ院長

    ムーラン・ルージュさま

    コメント有難うございます。
    おっしゃる通りプラセボ効果は侮ることはできません。
    新しい薬剤の説明でMRさんのお話を聞くと、対象となる偽薬でも
    結構効果が出ていますもんね。
    薬というものはそれを含めての効果だろうし、また医者たるもの、
    プラセボで治っていただける位の説得力を持たなければ、と思い
    ます。
    いや、まだまだ勉強することが多いです。

    返信

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