月別アーカイブ: 2006年7月

触媒を捜せ!

 今日はあまり疲れなかった。日によって大変疲れる感じが違う。考えてみると肉体的な仕事量はあまり変わらない。だのに、とてもやってられない位しんどい時もあれば、今から1日働けそうな気分の時もある。

 「脳は疲れない」。これを読んだ時、目からうろこが落ちた(古臭いたとえだなぁ)。糸井重里と池谷裕二の「海馬」である。いい本だ。この本から僕のマイ脳の本ブームが始まった。脳は疲れない。疲れているのは目なのだと若手の薬学博士は言う。脳研究の第1人者だ。

 目かぁ。そうかもしれない。でも自分の1日を振り返ってみると、目も含めて身体的には僕はタフだ。問題はエモーショナルな領域。精神的、感情的な疲れなのである。

 身体的にはまったく疲れてなくても、気分的によろしくないと疲労感は強い。肉体的な重労働はむしろ気分の高揚を呼ぶ。感情的にグッドな出来事があると、それまでの疲労感は一気に消える。化学反応のように。ドーパミンが爆発するのだ。

 身体的な疲労は睡眠でしか解決できない。しかし精神的な疲労は休んでもだめで、楽しい気持ちを触媒にして分解するに限る。触媒を捜せ!

 
 

言葉と響き

 今日は休養日で『2046』を見る。木村拓哉が出て、カンヌでどうたらと話題は多かったが映画評は芳しくなかった。敬愛する僕の元ボスが激賞していたのだが、正直なぜあれほどほめたのかよくわからん。ほめている人間と映画の種類がちょっとミスマッチなのだがなぁ・・・。しかし好きか嫌いかといえば好きな映画です。

 話題が大きすぎたからで、何も知らずこれを見たら拾い物だ。映像もいいが、印象に残ったのは音です。

 お昼に窓を開けて風の吹き込む部屋で見ていたのだが、広東語、北京語、日本語の響きが美しい音楽とミックスされて、本当にうっとりしました。風の香りとあいまって至福…です。

 言葉は響きだと思う。内容より喋り方、そして響きではないかな、実は一番他人に影響を与えるのは。

 ここらへんはちょっと意識したほうがいいな、と人と話す機会の多い開業医は思った。そして、これからアジアの映画を集中して見よう。いいよ。

仕事はキャッチャー

 今日は校医をしている中学校に行って健康相談をする。保健室の先生から前に登校拒否で気になっていた子の話を聞く。欝で大学病院に月1度通っているそう。その子の処遇について、母親が学校に希望しているクレイジーな誤字だらけの手紙を見る。入学してからずーと1日中保健室にいる子の話も聞く。ある時両親の離婚が決定し、鳥取に住む祖父のところに来週引っ越すと突然言われた。

 やれやれ・・・。

 子供たちが普通なら他人に話さないような家族のプライベートな事を話す、と言われる。僕も外来で、そこまで言わなくてもいいんですよ、なぜ僕に、と言いたくなるようなケースがよくあると話す。話すこと、聞いてもらえるだけで解放されるんですよ。指示はいいんです。話す人、場所がないのかな・・・

 「キャチャー・イン・ザ・ライ」のホールデンは言う。だだっ広いライ麦畑みたいなところに何千人もの子供たちがいる。子供たちは遊んでいて、崖とは知らないで全力で走ってくる。僕はその子を危ないところでさっとキャッチするんだ。ライ麦畑のキャッチャー、そういうのに僕はなりたいんだよ。

 話を何も言わないで共感をこめて聞いてあげるのは、ライ麦畑のキャッチャーだ。

 僕もなりたいのはそいつだよ。

読んでる方の「精度」はどうよ。

 昨日は休みだった。本を読んだ。実は僕は活字中毒である、相当。基本的にトイレも風呂も本を持って入る。最近さすがにこの暑さで長風呂をする気はなくなったが、冬から春にかけて浴槽で結構読破した。

 理事長になってから、こうすれば成功するとかいった類のビジネス書や、人生の幸せは、とかいった生ぬるい哲学書みたいなやつをたくさん読んだ。なにか求めていたのだ。しかし何も残っていない(2,3冊いいやつがあったけど)。小説を読むと心に残る影の濃さがぜんぜん違う。「人生はかぼちゃ!!」とハウツー物に書いてあっても「ふむ」と思うだけ。しかし小説に引き込まれて「人生はかぼちゃなのか…」と感じたらずーと残っている。

 で、最近は医学関係のもの以外は小説しか読まない。どんなジャンルの小説でも、結局は人間の生き方を描いている。できるだけ面白いものを読もう。

 昨日は気になっていた伊坂幸太郎の短編集「死神の精度」を読む。予感にたがわず面白かった。本好きな人は判ると思うけど、新聞の広告を見ただけでビビッとくる本があって、大概外れない。伊坂幸太郎は好きなタイプではないけど、こいつは面白そうだ。死神が主人公だけど、仕事は上から指定された人間が死ぬのに値するか1週間で評価すること。「可」もしくは「見送り」と評定。介護保険の調査員のようだ。

 音楽が何よりも好きで、ジャンルは問わない。人間の世界に仕事で来ると、暇を見つけてCDショップで試聴する。そこでよく同僚と会う。主人公が仕事をするときは常に雨…などなどディーテルが面白い。神は細部に宿りたもう。

 短編集はCDと同じで、話のならびが曲の順番と同じく重要。CDはキャッチーな曲が最初で、力の入った曲が最後か、最後から2番目というのが多いけど、短編集も似たようなもんだ。「死神の精度」も最後の話がものすごーく良いです。この話があるからかなり平均点が上がったと思う。採点は☆☆☆☆にしよう。

あなた無しでは生きられない

 敬愛する内田樹先生のブログにまたまた目の覚めるような卓見が載っていた。一部引用。

 I cannot live without you
というのはたいへん純度の高い愛の言葉である。
このyouの数をどれだけ増やすことが出来るか。
それが共同的に生きる人間の社会的成熟の指標であると私は思う。
幼児にとってこのyouはとりあえず母親ひとりである。
子どもがだんだん成熟するに従って、youの数は増えてゆく。
ほとんどの人は逆に考えているけれど、「その人がいなくては生きてゆけない人間」の数が増えることが「成熟」なのである。
「その人がいなくれば生きてゆけない」と思える人の数の増加と、当人の社会的能力と生存確率の向上はあきらかに正の相関をなしている。
それはI cannot live without you という言葉が相互的なものだからだ。
というか、その言葉が相互的に機能しないと思えるような相手に対して私たちは決してそんな誓言を口にしないからだ。

 俺は何でも出来る、一人で生きていける、といってるのは「自立」じゃない、「孤立」だ、とも。

 自立しようと頑張っている皆さん、こんな考え方もある。

 これとは別に「ワンピース」(知ってる?)という海賊漫画のルフィというリーダーが叫ぶ言葉、「俺は助けてもらわねぇと生きていけねぇ自信がある!!!」について、これはひとつのリーダーシップのあり方とグロービス経営大学院大学の嶋田毅氏が述べている。

 人間はきわめて社会的な生き物だ。あなた無しでは生きていけない、と強く自覚しよう。自覚するとしないじゃ大違いだと思う。

非実用性の快感

 スポーツカーは衰退していると言う記事を読んだ。ホンダやトヨタが2ドアクーペ(インテグラやセリカ!)の製造を打ち切ると発表した。車は実用性が大事というのが一般的な感覚になりつつあるとのこと。

 僕はFairlady Zのロードスターに乗っている。色はしかもオレンジ。地味でしょ? Zに乗ってますというと、俺も好きだったとか、懐かしいとか、おっさんの過去への回帰趣味と思われるのがうっとおしい。僕はZに何の思い入れもないよ。デザインとかもろもろの条件を考えて決定した。
 
 大変満足している。

 「ロスト・イン・トランスレーション」という素敵な映画に中年男がミドルエイジクライシスだと言うと、ポルシェを買ったのかという台詞が続いた。年をとることを恐れるようになると若さを取り返そうと暴走するのは洋の東西を問わないらしい。

 残念ながら僕は違うよ。Zよりも問題はオープンだ。屋根無しで走ること。これが根本。僕は結構いい年になってからバイクの免許を取ったのだが、走っていると風、空気の温度、匂いにすごく敏感になる。それに喚起される感情が多分精神を若返らせる。

 こんな空気の悪いところでよく走るねと言われることもある。工場排水でにごった西宮の海でもウインドサーフィンは楽しかった。環境が良いに越したことはない。でもそれだからといって乗らないのはもったいない。

 とりあえず真冬以外は出来るだけオープンで走る。走った距離だけ時間が逆行する。実用性?お好きな人はどうぞ。僕はいやだね。

ニッチな男

長年患ってる(もうジジイの発言だね!)足の具合について最近変化の兆しが見られる。明らかに改善のスピードが加速しているのだ。ウッシッシ。なぜアキレス腱の手術をしてかくも長びいているか?これはもともと手術した方の右足股関節はボロボロで、朝寝起きは階段を登るのに手すりにつかまらないと痛くて上がれないというのが日常だったんだな、よく思い出してみると。で、右足にギプスをしていると動かさないので非常に楽になった、やったーと思っているとはしゃぎ過ぎて左の股関節がギクッとなり、両足を使えるようになると両方とも痛くなったという不幸な経過である。長い距離を歩くのがためらわれる(ジジイの発言、再び!)というのはちょっとこたえるが、年をとって足が不自由な人の気持ちはよくわかった。

で、どうするか。痛み止めを飲むというのはイージーな解決策で、実は多くの高齢者は痛み止めを使用しているが腎機能が悪くなったり胃を悪くしたりと副作用も多い。僕もゴルフをするときは1錠飲んでからいくと全然楽で(そこまでしてゴルフしたいか…)気持ちはわかるができればお世話になりたくない。ここは自力でリハビリテーション、努力して動かしていく、骨、関節を支える筋肉を鍛えていくしか道はないのだよ、ベイビィ。

幸いにして僕にはパワーリハビリテーションという手段が近くにあり、痛みに対しては鍼灸、アロマセラピィという味方があったが、もっと日常的にいつでもどこでも鍛えられないかというのが課題であった。で、最近それがほぼ確立してきて、それとともに歩くのが楽になってきたのでそれを皆さんにお伝えしたい。股関節のトラブルを抱えている人は多いので。

まずは1日10回でもいいからスクワットをやりましょう。相撲で股割りという稽古がありますが、すこし両足を外側に開いた状態でゆっくりと腰を落としていく。背中は垂直なままで、前かがみにならないで、曲げた足の膝が足の指より前に出ないように腰を落としていく。膝が90度まで曲がったらそれでOK。今度はゆっくりと戻していきましょう。その時完全に膝を伸ばしきらないで、少し曲げたままで次の屈伸に入る。行程はできるだけスローに、呼吸もゆっくりしたままやりましょう。10回できるようになったら20回くらいまで。それを1日3回位する。できれば膝の曲がる角度をもっと深くしてもいいです。

わざわざ時間をとるのはこれくらいにしておいて、後は暇があればやる。ふと時間が余ったとき、ボーとテレビを見ているのならその時に、ともかく時間を見つけてこまめに稼ぐ。これがコツです。

案外何もしていない時間、というか実は複数のことができるのにやってない時間というのは多い。歯を磨く時、片足で立つ(これは大腿骨頸部を鍛えるのに役立つ。ここは高齢者で骨折の多い場所で、寝たきりになることが多い。この片足立ちで有意に骨折が少なくなることが証明されている)。または爪先立ちになる。車に乗っているとき、停車中にハンドルを両手で左右から力を入れて押す。大胸筋のトレーニング。本を読むとき座らず立つ。またまた片足立ちで。またはいすを使わないで中腰で読む。

こういうのはいくらでも工夫できる。身体だけでなく仕事も数分で片付くのに取り掛かるのが億劫でずるずる出来上がりが遅れているものが多い。そういうのを選んでおいて、あいた中途半端な短い時間にさっと取り掛かる。完成しないかもしれないが、一度とっかかると続けることが簡単になる。案外手間じゃなかったな、と思ってしまう。

隙間のような短い時間を利用して身体を鍛える、仕事をしてしまう。案外すでに実行している人は多いんじゃないかなとも思うが、かなり有用ですよ、このニッチは。使いであり。ニッチな男になりましょうね。

ヒデの引退

 中田英寿選手が先ほど引退を表明した。

 ニュースステーションは橋本龍太郎元総理が亡くなった時よりも大きく、沈痛に報道していた。それってセンス・オブ・プロポーションが間違っているぞ、と思うも気持ちはよく判る。

 ヒデは間違いなく異質の人だ。日本代表でも僕はヒデだけが気になっていた。どんな表情をしているのか、疲れ方はどんな感じなのか・・・

 診療所のホームページのアドレスikeoka.netは、.comもあったのだけどnakata.netがあったから.netにしたのだ。結構気にしてる。

 彼の目には、世界は一般ピープルとは違うように見えているのに違いない。サッカー以外の世界でもキラーパスを出してくれるだろう。どきどきしながらそれを見るのを楽しみにしている。裏切らないでね。

帰る家がない…

さっきから何度もやり直しをしている。同じ文章(じゃないな、どんどん変化し簡潔になっている)書くのこれで3度目だよ!あーあ、と言いながらもう一度。

 今日は外来はお休み。ボブ・ディランの「ノー・ディレクション・ホーム」を見る。マーティン・スコセッシ監督の、ディランのインタビューとライブや私生活のフィルムで構成されたイカしたやつだ。

 ディランは、母親が中学生の僕に突然レコードを買ってきてくれた思い出のミュージシャンです。ビートルズを聴き始めた頃の僕に「ビートルズもコンサートに行く大物らしいから買ってきた」と言う言葉とともに。

 「グレーテストヒッツ」だったけど、1曲目の「雨の日の女」の奇妙な出だしの音と、続くディランのしわがれ声が強烈な印象だった。「???」。でも結構よく聴いていた。

 「ビフォ・ア・フラッド」という、ザ・バンドとのライブが1番好きだったけど、それは音が好きだったわけで、DVDを見てディランは歌詞が総てというのがよくわかった。また聴きなおします。

 ディランは有名になる前は、有名になるためにずるいこともやっちゃう普通の人。有名になってからも、利己的で自分のやりたいことしかやらない芸術家。若い時はかっこよすぎる。表情、目があんまり美しいのにびっくり。現在もいい顔をしている。僕の友人に表情が似ているのにびっくり。彼はだからもてるのかしらね。今度会ったら言ってあげよう。

 感動はしなかったけど、きっと何回か見るDVDだ。ディランのように何かがある。見たい人は貸してあげるよ。
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