月別アーカイブ: 2009年7月

私的音楽療法

今週はどういうわけか忙しかった。仕事が終わってからの会合が3つ、で、今日も午前診が12時半に終わってから往診、15分で昼食、交通機動隊の検診、かえって外来ミーティング、そのまま午後診に突入、終わって、帰って、晩飯食って風呂に入ればもう11時である。

 

朝は梅雨明けを思わせる爽やかさだった。診察室で「こんなとこに居る場合ちゃうで。俺はビーチや」なんてほざいていても、実際は潤いも余裕もちゃんちゃら無いのであった。

 

で、診察室でゴンチチをかける。待合室とは別の音楽が診察室ではかかっているのである。「南方郵便船」「修学旅行夜行列車南国音楽」、この2曲はキラーチューンである。前奏が始まっただけで僕は副交感神経優位の状態となり、心は南の潮風の中を漂う。患者さんが何を言っても気持ちよく受け止め、優しく励ます言葉しか出てこない。望ましかるべき医者の姿が1枚のCDで現出するのである。まぁお安いといえばその通りであるが、こういう処方箋があるのは悪くないではないかね。

 

音楽は人間を変容させる強力なツールである。不眠の方が、ベッドで音楽を聴きだして入眠剤が要らなくなったと言っていた例もある。デイサービスでもやっているが音楽は療法なのである。

 

僕のCD処方箋の一部(現時点ね)。

 

頭をクールにしたい・・・マイルス・デイビス「In a silent way

菊池成孔「花と水」

攻撃モードでいこう!・・・同じくマイルスは「ジャック・ジョンソン」

ゴキゲンでいこう!・・・リー・モーガン「サイド・ワインダー」

            ハービー・マン「メンフィス・アンダーグラウンド」

つらい・・・アートアンサンブル・オブ・シカゴ「ナイスガイ」

 

なーんてね。今回はジャズで揃えてみました。もっとあるけど眠気で思い浮かばず、また来週。

 

love it !            

 

 

 

 

ディア・ドクター

「ディア・ドクター」を見てきました。僻地医療がテーマのひとつですが、考えさせられる内容はもっと広く深いです。

 

ストーリーは書かないですが、医者とか医療のあり方に関してすごく考えさせられました。医療介護に携わっている方はまがうことなく必見!の映画だと思います。できるまですごく綿密な取材をされているのですが、この台詞は現場でやっている人からしか出てこない、という深い言葉が散在している。いくつかの言葉はいつまでもあなたの記憶に残るだろう。

 

医者のあるべき姿は?ってことを書くとややこしくなるので止めとく。ミーハーな話題を。

 

主役の鶴瓶師匠、いいです!前からなんとなく好きなのに、好きと言うのははばかられるって感じがしていたのですが、今は、おっさんの中では一番好きです。

 

そしてなんといっても西川美和監督の実力爆発です。重い話題なのに重くなく、暑苦しくなりがちなのに爽やかで、小うるさくなくクールで正確。音楽も非常に素敵です。彼女はこの映画を一部ノベライズした「きのうの神様」という短編小説集を出していて今年の直木賞候補にもなっていますが(忘れてた!是非読もう)、映像にもまして言葉、文章にすぐれている方のようです。彼女の前作「ゆれる」(こいつはいろいろな賞を総なめにしています)はオダギリ・ジョー主演!ぜひ見よう! 

 

 アエラのインタビューによると、彼女はこの映画を撮り終わった後、医療事務の学校に通おうとしていたそうです。いつまでも映画を撮り続けることはできないし確かな資格を得ておこうと思って、と言っています。ユニークです。忙しくなりそれもかなわなくなった様ですが、この才能を生かさないのは世界に取って損失でしょう。

 

 先週、K医大の学生さんが二人、デイサービスの実地体験に1日来られました。この試みはもう5年以上になりますが、毎年彼らの素直さ、伸びやかさにちょっと感動を覚える。映画の鶴瓶師匠と瑛太君のスタンスのような感じです。

彼らには本当に是非見て欲しいです。

 

 

君たちは是非!

the Open

 今週は全英オープンだなと思う。

 

ゴルフなんて何の興味もない人が多いと思うけど、オバマ大統領の息抜きもゴルフらしいし(6月は4回、7月もすでに2回コースを回ってるらしい。副大統領と回ったりするらしいが、シークレットサービスがどれくらいついているのだろう。ロストボールなんて絶対起こりそうもないね)、90歳でもできるスポーツとして、しかも20歳とも対等に争える稀有なスポーツとして、少し話題に触れよう。日本人の平均寿命がまた延びたという話もいいけど。

 

59歳のトム・ワトソンが最後まで優勝争いをした末、惜敗した。こんなメジャーの大会で、この年齢でも活躍できることを示したのは大きな功績である。ちゃんと体力を保ち、老練な作戦で立ち向かえば、恐るべきフィジカル・パワーを持ったアスリートゴルファーなんて目じゃない。ギャラリーの喝采振りも気持ちよかった。大人が活躍してるのは気品があっていいものである。

 

日本人の活躍ぶりもよかった。久保谷選手はひょっとすると優勝するんじゃないかと思うくらいステディなプレイ振りだったし、控えめなコメントも好感が持てた。石川遼、今田竜二の両選手は残念だったけど実力は世界のメジャーと紙一重だと思うな。

 

思うのは彼ら日本人選手のカッコよさである。スリムで筋肉質。いかにもアスリート然とした姿は欧米の選手よりもシャープな印象を与える。最近の若いスポーツ選手は世界を恐れていないし、見た目もクールで本当にいいなと思う。政界の冗談かしらと思うようなドタバタ振りとは、全くDNAから違っているのではないかしらね。

 

彼らの世代がこのまま進歩すると日本もなかなかのものではないだろうか。期待したい。また負けないような、トム・ワトソンのようなタフな大人になりたいものだぜ。

 

これっしょ!

触れ合うことが一番!

医事新報を読む。この歴史ある医学雑誌で人気のあるのが「質疑応答」のページで、主として開業医が日常診療で持つ疑問点を投稿すると、専門医がそれに回答するという趣向である。誰に答えて欲しいか、リクエストすることもできる。

 

 疑問点というのは大体誰でも同じようなことに関して持つもので、読んでいると役に立つことが多い。今日気になったのは「アルツハイマー病を家庭だけでケアするのと、デイサービスに週2から3回通うのでは病気の進行に差が出るのか」という質問であった。これに東京浴風会病院精神科診療部長の須貝先生が答えておられる。

 

 結論から言うと、デイサービスの効果について科学的な方法で検証した論文は皆無である。もともと非薬物療法の効果判定は非常に困難であり、しかもアルツハイマー病の場合、スタッフと患者さんとの相互作用、関わりやコミュニケーションが「療法」といわれる介入プログラム以上に重要な役割を果たすからである。デイサービスでも脳トレーニングがよく行われているが、アメリカとイギリスの研究では、その有効性を裏付けるデータはほとんどないとのこと。

 

 ではデイサービスは無駄なのか?そうではない。数千人、56年と追跡調査した各国の疫学データは、なによりも人とのコミュニケーションをとり続けることが認知症の予防に有効であると結論している。ひとりで家にこもって計算練習をしていても認知症はすすむが、デイサービスで多くの人と触れ合っていればすすまないかもしれないのである。

 

 うーむ、これは大変勇気付けられる結論ではないかな。うちのデイサービスのやり方にも、より良くなるヒントが有ると思う。よく考えてみることにします。

 

こういうやつです。

 

 

 

 

ヘルスケア・マーケティング セミナー

 「ヘルスケア・マーケティング:医師・看護師・スタッフのための患者満足度マネジメント」に行ってきました。ハワイ大学教授、ダナ・アルデン先生が講師です。年代は僕と同じくらいかちょっと若い?苦みばしった男前。

 

 日曜日の朝10時からですが、70人程度の方が兵庫県看護協会のセミナー室に集まっていました。僕のクリニックからも僕以外に3人が参加。でも多くの方はクリニックというより病院関係の方です。話の内容はむしろクリニックに関係が深かったのですが。

 

 医療もサービス産業に位置づけられており、他の職種と同じく顧客満足を考えなくてはいけないというのは僕も当然だと思います。でも医療と教育は他のサービス業というのとちょっと違うところがあり、経営効率のみ重視は問題があります。アルデン先生も他の業種と比べてずっと複雑であるという旨話しておられました。

 

 患者さんは治療の決定にどのようなアプローチを好むか、その見極めとか、患者さんが受診した場合問題が発生しやすいところはどこか、解決法は、とか、アンケートのとり方とか、有益な話が多かったですが、正直目からうろこというより、そうだろうなぁと再確認できたことが僕には大きかったです。

 

 事務長初めうちのスタッフが頑張ってくれているので、すでに実行できていることも多い。むしろ参加した他の方とお話していると、病院の方が小回りがききにくい分、なんとかしないとなぁと悩まれている方が多いようです。

 

 勿論うちのクリニックも改善点が多々あります。やっぱりそこだな、と納得できたところもありこれからに生かしたいと思います。いつものことですが、なんでも参加すると必ず何か得られる(優秀な看護師さん達とお知り合いになれたのも収穫でした)。この積み重ねが大事だよなぁ。

 

パワーポイントのコピー

吹けよ風、呼べよ嵐!

診察が終わり、午後5時から始まる糖尿病の勉強会まで法人本部でコソコソ仕事をする。途中本部のスタッフが誕生日なので、ハッピーバースディを歌い、甘いものを食べてささやかにお誕生会をする。おめでとう!

 

勉強会はお馴染みの済生会野江病院の安田浩一郎先生の講演である。外来でのインスリン導入に役立つ話をお聞きして、その後食事をしながらフリートークになる。また新しい知識を得、来てよかった!(行くまではめんどくさいのだが、ほとんどの場合有益であったと感謝することになる。知識の浅いのが判るね)と思う。

 

こういった会で大概一緒になる某先生がちょっとお疲れである。開業されて3年目になられるのだが、「最近外来がしんどい、ちょっと欝っぽいなぁ」と話される。精力的な先生なのでちょっと意外でもあるが分からないでもない。「患者さんと話すのがしんどい、繰り返しの毎日もなぁ。心カテでもやってたら、すーと爽快になっとったけどなぁ」

 

僕も開業してから数年は、大学を辞めないでやってたほうがよかったかな、という考えが結構頭をよぎった。でもこれはないものねだり、隣の芝生は緑、ってやつだ。個人でやっても組織にいても、どちらもそれなりにしんどい。開業すると経営とか全く経験のないことにかなり力を注がなくてはならないし、外来自体も病院とは違いかなり患者さんとの接し方が濃厚になる。単に病気を診ているのではなく、その人の生活を受け止める感じになる。これが結構疲れたりするのだ。毎日多くの人を診ていると。

 

まっ、僕も開業して10年を越えて本格的に腹がくくれたような気がする。今は面白くて仕方ないけどね。某先生もきっと突き抜けていくに違いないと思う。開業医のこれからは波乱万丈だから、きっと楽しいぞー。

 

ユナイテッド・アローズ

 

1週間ほど前にクリニックに看板をつけた。移転したクリニックはスタイリッシュでいこう!というわけでゴタゴタ宣伝らしくするのは避けたのだが、その結果通り過ぎる人が続出し、電話でも説明にちょっと困る、という事態になった。

 

もう少しめだとーぜ、というわけで設置したのがこいつである。シンボルのミネルバ・ミーちゃんが羽ばたいている、なかなかイカシタ看板である。

 

クリニック以外に3つの表示がある。パワーリハを中心としたエクセサイズ・スタジオ、アロマテラピー、そして鍼灸院である。この3つがなぜあるか?これは僕が考える、健康に生き延びるのに必要な3種の神器、3本の矢(ユナイテッド・アローズだな)であるからだ。

 

僕のクリニックが抗加齢学を標榜しているのは若返ろうと考えているわけではない。予防医学として重要性を認めているからだ。病気でなくてもその前の段階で異常を認識できる抗加齢ドックを行い何らかの改善点が示された場合、サプリメントは多くの人に適応だが、それ以外に必要なのは運動であり精神的なリラクシゼーションであることが圧倒的だ。

 

パワーリハビリを含むプリシジョン・スタジオの運動プラグラムは、高齢者にとって最も安全で(心臓や肺、そして関節疾患があっても可能)確実なメソッドである。そして鍼灸は運動に組み合わせるに最適な筋肉の休息をもたらすし、自律神経にも作用し心身を若返らすことができる。針を怖がることなかれ。うけてみればその効果が実感できるはずだ。そしてアロマセラピーは僕の知る限りのマッサージ療法の中で、最もリラックス効果の強いものである。

 

生活をしていく上でこの3つは僕にとって必須のものであり、そしてそれは僕にとってだけじゃないはず。是非皆さんに体験していただきたいと思う。

 

P.S. 3本の矢は介護部門にもあるのである。それはまたの機会に。

 

 

 

 

サボテンの夏

これは何か?

 

診察室に鎮座するサボテン様の先端である。先のほう、15cmばかりが薄緑なのがわかるかな?新芽である。新しい息吹が吹き出ているのである。

 

今は全長2m近く育ったサボテン様だが、4年ほど前には50cmほどの子供だった。

 

初めて知ったのだが、サボテンは先端部から元々の径の4分の1程度の細い新芽がオリジナルの大きさの1.5倍程度の長さにまで伸びていく。そこで大きくなるのは止まり、今度はゆっくりと径が太くなっていくのである。

 

元の径の半分程度にまで太くなって暫く活動が止まっていたのだが(冬のせいだな)、今度はその太さでゆっくりと長くなってきた。色がいかにも新鮮である。できれば天井を突き破って欲しい。

 

世話係である外来のI嬢が「大きくなれーと思って一杯水をやったんですが、よかったんでしょうか?」と言っている。サボテンやからあんまりええことないんちゃう??

 

この人的環境でよく育ったものである。植物は偉大だ。地球の支配者は植物という説があるが、僕は同意するね。ゴッド・ブレス・サボテン!

 

 

先端部を凝視するように!

夏のパヒューム

午後の診察が終わり、1件往診に行く。自転車に跨った時、夏の湿度の高い水の匂いがした。「日本の夏」の香り。梅雨時の匂いだ。

 

五感の中で嗅覚はもっとも原始的な感覚である。古来鼻で感じるシグナルは生存に欠かせない、危機の感知に必要なものであったのだろう。敵の匂い、危険な現象、物が焼ける匂いなど。その名残で匂いや香りは人間の奥深い感情をもっとも強く刺激するらしい。

 

僕にとって夏の匂いは今までプールの塩素のにおいであった。プールに行かなくてもどこからか漂ってきたような気がしたものだが、昨今ご無沙汰である。プールに行ってもそんな匂いはしない。過去の記憶の中の匂いか。

 

ココナッツの香り。こいつも夏だ。サンオイル、昔風の資生堂とかの香り。今はサンオイルは使わないで、サンスクリーンに変わってしまった。蚊取り線香の匂い。素晴らしい。でもこいつも出会うことが少なくなってしまった。線香花火やなんか、打ち上げじゃない花火。いいなぁ。でもやらなくなって久しい。こう考えるとすべて過去の香りである。潮の香り、森の草いきれ、これは幸いなことに今でも感じることができるが、都会の夏の香りではない。

 

2009年の都会の夏の香りは何か?

 

誰か素敵な女性のコロンだったりしたら楽しいけどねー。まあまだ夏は終わっていない。夏が終わるまでに決めておこう。

 

仕事が終わっても明るいのは嬉しいな。

漢方、そしてプリニウス

 今日の日曜日は半日、漢方医学のセミナーにでる。漢方の著明な先生のお話を聞く機会が最近多いが、かなり個人により捉え方が違い、興味深い。共通していることは病気でなく個人を診るというオーダーメイド医療の観点か。これからの医療にも、僕個人としても極めたい必須の分野と思う。

 

 お昼にお弁当が席に配られた。あるドクターはずーと席をはずしていたが、あと午後の部開始まで5分というときに戻ってきて弁当がないのに気づき(いないと思って配られなかったのです)、間に合わない、なってないと激怒。関係者があやまるは、ちょっと小さな騒ぎとなる。しかしこれは君、えらそうに怒ることじゃないだろう。患者さんを治す前に君の性格をまず直すべき。

 

 帰ってきてから池澤夏樹氏の「真昼のプリニウス」を読む。この、僕が池澤氏の小説にのめり込むきっかけとなった小説を、しばらく前から再読しはじめていたのだ。芳村頼子という女性の火山学者(大学理学部助教授、今だったら准教授か、という設定)が主人公の、なんというのでしょう、僕の好みから数ミリもずれていない小説。4分の3残っていたが、レセプトのチェックがあるなぁーと気にしながらも読みきる。

 

 これは簡単にストーリーをなぞれる話ではない。この「世界」について、対し方について語る小説。前読んだときは少し判らないところがあったのだが、今日は得心して読む。素晴らしさのあまり絶句。そして小説はやっぱり主人公の魅力が大きい。プリニウスはローマ時代の博物学者で火山を調べにいき近づきすぎて死ぬ。芳村先生も世界の真実を確かめに・・・

 

 池澤氏の主人公はみんな理系でクールである。自立していて勇気がある。そしてやっぱりこの小説が一番好きかもしれないな。これからも何度も読み返すだろう。世界の感じ方が変わるのだ、僕の場合。下らん奴には読んで欲しくない。