月別アーカイブ: 2019年7月

音楽発作

音楽療法というのがある。音楽を聴いたり演奏したりすることで起こる人間の生理的な変化を利用して持っている能力を引き出したり疾病の改善を試みる代替療法ということになるのかな。当法人のデイサービスでも音楽療法士の先生に来ていただき、その日はとても参加希望者が多くなる。みんな音楽が好きなのね。

認知機能が落ちると音楽の構成要素である和音が引き起こす情動の変化が起こりにくくなるというのを以前第18回抗加齢医学会総会で発表した。認知症の方は早期から嗅覚が落ちるというのは報告されているが、同じように感覚的なトラブルが起きてくる。音楽療法に反応されているのは音楽のメロディックな部分やリズムが大きいのかなと思う。

僕は介護施設をはじめて安定するまでの2年間くらい結構苦労して、仕事に行くのが嫌で嫌でたまらない時が度々あった。そんな時、車に乗ると自分を勇気づけるために大音量で好きな曲、元気の出る音楽をかけた。その時の経験から、①比較的元気な時は洋物ロックがいい、新しいのがいけるほど元気度が高い、②落ち込んでいるときは和物、J-POPが入りやすい。ユーミンとか切ないのがしみるときはかなりやばい、③JAZZが聴けるときは絶好調に近い、という公式ができ、自分のコンディションを判断できるのである。

絶好調時のバックグラウンドミュージック、JAZZであるが、とろけそうに甘いバラードよりわけのわからん前衛ジャズが昔から割と気に入っていた。セシルテイラーとかドンチェリーとかも聴きに行ったりしてたけど本当に好きだったのかわからん。なんとなく雰囲気が好きという感じだったのかな。ところが最近、久しぶりに聞いたアンソニーブラクストンとかオーネットコールマンとかがズズーーンと入ってきたのである。心の被膜をスッと針が突き抜けて簡単に柔らかい内部に達した。・・・・すげぇソウルフルじゃん!!この時は実は割と心の不安定な時で(理由は秘密)、本当に偶然手近にあったCDをかけたんだけど・・・効いたね。でヨレヨレの時は前衛ジャズと。

でそういう日が続いてかなり心の中に重いものが、意識する、しないにかかわらず溜まってきているとする。その時は突然荒療治をしたくなる。翌日が休みの時にCDでもユーチューブでもともかく好きな音楽をかけまくりアルコールを数種飲みまくる。好きな歌を思い切りポーズを付け歌う。踊る。一人で騒いで泥酔して寝る。発作である。

翌日はスッキリするわけがない。後悔のみ。馬鹿だなぁと思い、でもこれで底を打ったという感じでじんわりと立ち直るのである。  ま、あんまりお勧めはしないよ。

 

わたくしのビートルズ

昔から活字中毒である。

高校生のハイブロウな時期に好きだったのが植草甚一氏の「僕は散歩と雑学が好き」。傷がつかないように持ち運びに気を付けるような感じで大事にしていた。頭がやたら固くて融通のきかないダサいやつのことを、ただのスクエア(4角のことだけど堅物を意味する俗語)というよりもファイブ・コーナード・スクエア(5角の4角)と言う、なんてフレッシュな俗語を教えてくれるのがすごく新鮮だった。イカしたやつ=ヒップ、なんてこともここで知った。晶文社の本はよく買っていたね。

その後も好きな本はたくさんあったけど、特にエッセイだと何度読み返したかわからないくらい好きなのは伊丹十三氏の「女たちよ」と景山民夫氏の「普通の生活」かなぁ。間違いなく僕の中のコアな一部だ。

その後小説はともかくエッセイはあまり読まなくなり、Kindleを使うようになってから仕事関係やビジネス書関連が圧倒的に増えて(つまんない)、愛着を持つという感じの本は絶滅していた。しかし小西康陽氏のコラム集「これは恋ではない」を読んだ時、久々に胸が震えた。めっちゃええやん!なにこれ。

彼は今はなきワールドクラスバンド、ピチカートファイブのリーダーでミュージシャンである。彼は書く。「これらの文章を僕は金のために書いた。」「僕がバンドをやってるのは自分の容貌へのコンプレックスのせい」(覚えてるのを書いてるので少し違うかもしれない)。なんというかドライでクールだと思う。で、そう書いているのも本心じゃないかもしれない。彼はすごく面白い体験談をよく書くのだが、ほとんどウソですと別のところで告白したりする。

彼のコラム集第2弾は「僕は散歩と雑学が好きだった」だ。・・・どっかで聞いたことあるな。察するに僕とバックボーンが似ているのかもしれない。大体彼の好きな音楽、本は僕の好みとかなり重なる。だけどこの本は前作と較べてそれほど好きになれなかった。

で、今度3作目の「わたくしのビートルズ」が出ました。どうかって?まだ全部読んでないけど(大体初めからお行儀よく順番に読むタイプの本じゃないのだ)、これはひょっとすると一番いいんじゃない?前作で彼はくも膜下出血で入院した経験を書いていた。無事でよかった。もうそんなことはみじんも書いていないけど、大病の経験はなにかを残すはずだ。ステレオタイプの感想かもしれないけど、なんか前より深み、苦みがあるような・・・。

本を開く。帯が裏表紙に回っているが、そこには「まだ購入を迷っているならば、本のカヴァーを外して見よ!そして今すぐ買いたまえ!」と書いてある。単に手に取ってみただけではわからない。裏表紙を開かないとわからない。見る。うーーーーーーーーーーーーーーーーむ、びっくり。かっこよすぎる・・・。

伊丹氏、景山氏との共通点はあるかな?みんなまがうことなく才人。すごい業績があるが巨匠という言葉は似合わない。一芸ではなくマルチな才能。楽器が出来る。みんなおしゃれ。

女性に対してすごく感受性が高い。はっきりとした好み。

みんな離婚して再婚している。

伊丹、景山両氏は不遇の死を遂げた。3人ともすごく面白い人生を送っているのに底抜けにハッピーという感じがしない。なんかちょっと不幸な影が・・・。気のせいですかね。

3人のような文章を書きたいと思う。そしてできれば3人のような人生を・・・おくりたいような、おくりたくないような。