月別アーカイブ: 2009年9月

鍼灸礼賛

「緩和ケア研修会」は無事終わった。いろいろ得ることが多く、参加してよかったと素直に思えるのだが、1つの収穫は、鍼灸が呼吸器リハビリテーションに使用されているということを知ったということである。

 

 グループミーティングの時、癌末期の患者さんの痛みをとる手段として鍼灸はどうでしょうかと僕が話していたら、「鍼灸ね、それはいい。うちでもCOPD(慢性閉塞性肺疾患。タバコが主たる原因で年月が経つと呼吸困難が出てくる。これから患者さんが大変多くなると予想されている)の患者さんにやってもらっていて、すごーく良くなるよ」と呼吸器センターのF先生がおっしゃったのである。

「それは呼吸筋がリラックスするからですか?」

「多分ね。本当にすごく良くなるのでもっと(鍼灸師さんに)来て欲しいんだけど」

「!!!」

 

 僕がアキレス腱を切って、それに伴う股関節の障害等でちゃんと歩くのもしんどい、となってから久しいが、最近目覚しく改善してきたのは、それはひとえに鍼灸のおかげであると断言できる。いろいろ人のやりそうなことは試してきたのだが、うちの鍼灸院のH先生の施術を一度受けてこれに賭けようと思い、週に3回は施術していただくという贅沢な、しかし切実な絨緞爆撃作戦の結果、間違いなくADLが向上したのである。来年からジョギングを再開するという目標に手が届きそうな感じまで来たと思う。

 

 おまけに実験的に顔針(顔の周辺にひまわりのように刺す。針が細いので全く痛くない)もしているのだが、どうも白髪まで少なくなったような気がする。ぼくが30年近くお世話になっている散髪屋で「白髪減ってない?」と言うと「いやー、やっぱりそうやね。少なくなったなと思っててん。一時多かったけどね」という返答であった。リップサービスかもしれないが本人の印象もそうなんだな。

 

 鍼灸は副交感神経刺激作用があり、刺入部位のみならず四肢末梢の血流量も増加することが証明されている。筋肉の弛緩効果もあいまって毛根部の血流増加がおこってそうなったのか。そういえば最近あまり疲れないけど、交感神経過緊張があまり起こらないせいかもしれないな。

 

 というわけで薬も使わないで、刺激により体内の化学工場をドライブする鍼灸は相当お勧めです。どの鍼灸師の先生がやっても一緒とは思わないけど。また怖がっている人には言っとくけど痛くない。考えていると来年の抗加齢医学会に向けて鍼灸のデータを取るアイデアも出てきた。乞うご期待というところです。

 

 

 

そう、そう。

緩和ケア研修会

今日は土曜日ですが、休診にして研修会に行ってきました。「大阪きた緩和ケア研修会」。緩和ケアとは、主として末期の癌により耐えられない痛みや精神的苦しみを感じている患者さんを救うための医療介護的なスキルをいいます。

 

2007年、国のがん対策推進基本計画で「全てのがん診療に携わる医師が研修等により、緩和ケアについて基本的な知識を習得する」ことが目標として掲げられました。そのため講習会が昨年より定期的に開催されています。緩和ケアに僕も多少関わっており、勉強させていただこうと参加しました。今日明日、土曜日曜と朝9時から夕方6時までビッチリです。

 

会場の北野病院に8時半に着き、分厚いテキストをパラパラと見ます。9時からテストがあります。おお、昨晩予習していてよかったぜ。しかしかなり難問でした。参加ドクターは20名ちょっとですが、なんと7割は北野病院の先生です。うーむ、どうなっとるのでしょうか。がん診療連携拠点病院であるためにはこの講習会を必ず開かなければならず、定員をうめるとかいろいろあるのでしょうね、きっと。よく分かりませんが。

 

確かなことは緩和ケアに興味を持っている開業医の先生はかなり少ないということです。講師の先生もおっしゃっていたのですが、緩和ケアは特殊なものではなく、その精神は一般診療のコアの一番大事な部分なのです。僕は緩和ケアの患者さんと付き合っていると、否が応でも医療ってこういうことなんだなぁとしみじみ日頃の診療を反省させられることが多く、しんどいですが絶対続けていこうと思います。患者さんだけでなく医者も癒されるのです。今度城東区医師会で淀川キリスト教病院ホスピス長の池永先生のご依頼で僕がつないで緩和医療地域連携の説明会が初めて開かれますが、その時城東区の緩和医療への関心度が参加者数でわかるでしょう。

 

「大阪きた緩和ケア研修会」の講師陣はゴージャスです(池永先生も参加されています)。しかも講義だけでなく2日間運営にも携わられます。僕としては非常に優秀な先生方の話が聞け、北野病院の3年目から指導医のバリバリの先生までいろいろお話できて大変満足しました。講義だけでなくロールプレイ(僕は痛みをとるために処方された麻薬で吐き気がひどく薬を変えて欲しいとごねる患者さん役をやりました。面白かったです。自分の性格の悪さがよく判った。あまり聞き分けがないので医者役のドクターが本当に困っていました)やグループ演習など盛り沢山で時間があっという間にたってしまった。明日もありますが、身体をほぐすために帰りにドライビング・レンジでぶんぶんクラブを振り回してきたし(最近本当にゴルフが簡単に思えてきた・・・→たぶん妄想)、明日もオッケーです。

 

講義ノート

ダブル・ジョーカー

東京から帰ってくると関西の蒸し暑いのに驚いた。うーむ、だいぶ違うぞ。

PCの前に座っていても、入ってくる風が違う。なんかエキゾチックな感じさえしてきた。

 

エキゾチックといえば「ダブル・ジョーカー」を最近読んだ。僕より10歳以上下の柳広司氏の書いた第2次大戦前、帝国陸軍の中に作られたスパイ組織「D機関」の物語。若い彼がこの時代を選ぶのが興味深い。前作の「ジョーカー・ゲーム」は本屋大賞2位に選ばれていたが面白いの何の、カッコいいのなんの。そしてこの続編も期待を裏切らない。

 

ジョーカーは悪い意味もあるが、異端でありながら負けることの無い最強という意味もある。D機関と創立者の結城中佐のことだね。その時代の常識を超えた感覚で選ばれたスパイたちが活躍するのだが、短編2冊で10話ほど、駄作無しである。

 

そして舞台が世界中であり、エキゾチックなのである。古い外国、背筋の伸びた端正な顔の日本人、鉄の意志、クレバーすぎる、そしてびっくりする展開。

 

カッコよすぎる。特に亡霊のように決め所に現れる結城中佐はなんとかせえよっ!って感じね。もし映画化されるとすると誰がいいかな。山崎努?もう少し若ければ。

 

ストーリーは言えない。是非お読みを。

 

テレビなんか止めてさ。

 

抗加齢医学の実際2009

「抗加齢医学の実際2009」に行ってきました。発表です。抗加齢医学会では春の学会、秋のこのセミナーが2大行事ということになっている。学会は演題募集ですがこのセミナーは講師依頼の形式で、今回初めて依頼されて当院の取り組みを紹介に行ってきました。

 

僕のテーマは「障害を持つ人々への抗加齢医学的アプローチ・Exercise for everybody !」というもので、パワーリハビリテーションの有効性を事例を交えてご紹介しました。連休にもかかわらず、安からぬ参加費用を払って日本の各地から集まって来られている勉強熱心の方々を前に話すのですからちょっと緊張した。いや、かなり。

 

結果はまあまあだったかなー。内容は十分自信のあるものなのですがプレゼン能力だよ、きみー。人前では結構話し慣れているつもりだったのですがまだまだです・・・

 

終わった後数人の方から質問とかコメントとか戴きました。面白いのはみんな関西の方で(紹介の時順天堂大学の青木先生は、必ず僕のことを大阪の、という接頭語をつけられます。コスト意識の高い大阪では抗加齢クリニックは大変難しいという話を前したことがあり、よくそれを覚えておられるのでしょうか)抗加齢医学不毛の地といえる関西では、みんな心細いねんなぁという気持ちがしました。心臓リハに情熱を燃やしている先生、僕のクリニックの行き方に共感を示してくれた先生達、有難う!頑張ろうね。

 

印象的だったのは、話が終わってやれやれおしっこでも行こうと僕が自分の席でもぞもぞしていた時にさっと歩み寄って名刺を差し出してきたちょっとご年配の女医さんでした。「面白かったわよ」とどすのきいた声でそれだけ言って去って行かれました。僕は初めて高座に上がり、ちょっと褒めていただいた新米落語家よろしく「有難う御座います」とだけ言ってしみじみと嬉しい気持ちになったのです。

 

抗加齢医学会は今では会員数7000人近い大所帯ですが、僕の会員番号は200番台で、思えば昔から関わってきたよなと愛着のわく学会であります。こういうのは他にありません。なんやかんや形になるのに78年かかるもんやなという感慨を少し抱きながら、これからよりパワーアップしていこうと少年は心に深く誓ったのであった。

 

スライドです。

 

 

 

 

プレゼンの達人

先週の土曜日、城東区、旭区、都島区、鶴見区という4区の開業医と、基幹病院との間の糖尿病を中心としたネットワーク DM net ONE (ONE = Osaka North East) の会がありました。今回は糖尿病と高血圧がテーマで、僕もクリニックで行った小さなスタディの結果を話させていただいたのですが、メインであった勝谷友宏先生(大阪大学・臨床遺伝子治療学・特任准教授)の講演がとても面白かった。

 

高血圧の治療について、基礎から臨床までカバーしてわかりやすくお話されたのですが、印象に残ったのは話の内容もさることながら、その話術、プレゼンテーションの技術です。「ムーブ!」に出ていたコメンテーター、ジャーナリストの勝谷誠彦氏(色つきレンズの眼鏡をかけた短髪でよく怒っている人)はお兄さんだそうで、血筋でしょうか。話のメリハリ、ジョーク、良く出来ていて全く退屈しない、もっと聞いていたいとさえ感じさせるような出来でありました。

 

医者のプレゼンというのは勿論内容が第1ですので(なんでもそうか)、話す技術、表現方法はあまりとやかく言われない。有名な教授でもびっくりするくらい退屈な人もいたりするのですが、やはり人に判っていただくのが目的なのでこれではいかん。ある程度エンターテインというか、ぐっとひきつける魅力を発揮するテクニックを考えるべきでしょう。

 

基本的に場慣れ、場数を踏むことが原則だとは思います。話慣れてるなぁというのは強い。しかし思うに、基本はその方のキャラか。プレゼンがうまい人がその場を降りて、実は退屈な人だったということはまずありえないわけで、まずは面白い人間になること、これが最低条件だと思います。そして発表の内容に関して圧倒的な知識と自信を持っていること。そこから出る余裕ね。

 

というと結構ハードル高いよなー。今週末に東京の抗加齢医学会のセミナーで話すことになっているのですが、急に人間、変われるわけないし。内容に関する十分な確認か、まず。面白い人間になることはぼちぼちね。

 

お兄さんの方です。

在宅医療

4時過ぎに枕元の携帯が鳴った。患者さんの家族からだとすぐ判った。「今呼吸が止まりました」と思いのほか冷静な奥さんの声がした。すぐ行きますと答えて車に乗る。

 

末期のがん患者さん。前日も夜往診し、あと23日も持たないかもしれないとご家族にはお話していた。早く寝とこ、と思いながら寝たのが1時過ぎだったのを思い切り悔やみながら高速を走る。思いのほか車が多い。朝の通勤時と変わらないな。

 

到着すると奥さんが一人で亡くなったご主人の手を握られていた。安らかな顔。死亡確認を済ませ他の親族の方が到着されるまでお話をした。ご主人のお人柄、ご夫婦の経緯、タバコを最後まで止められなかったこと(ホスピスにいたときも吸っていたのだ)。ご長男のご家族が到着し、少し手続きのことなどをお話して僕は帰る。エレベーターまでご家族が来てくださる。

「先生も大変ですね」「いえいえ、そんな・・・」

 

在宅で最期まで看取るのはご家族も医療スタッフも大変である。しかし、そこに地域医療を選んだ医者の本来の姿、純化した本質があると感じるのも確か。携帯を持って眠りにつくとき、ちょっと何かを呪いたくなるときもあるのだが、いざ現場に行くと勝手に心が身体が動くのである。「楽したい」と、「達成感」との間の揺れ動き。僻地医療の「ディア・ドクター」に激しく共感するのもそこだ。

 

映画の台詞にもある「あんな、弾が飛んでくるんや。打ち返しているとな、どんどんどんどん飛んでくる。ちょっと面白なったりする気もするけどな、もうだめや、止めよ思てもな、もう止められへんようになっとんのや。ほんでもう知らんうちに何年もたってもうた。使命感なんて大層なもんちゃう」

 

しみる。こうやって揺れ動いているうちに年をとるのか?いやいや、別の考え方があるはずだ。それを捜すことにする。

 

 

ホリディ

 今日は火曜日で仕事は休み。宿題が山積みで、朝いつも通り起きて愛犬と散歩し、その後机に向かう。

 

 休憩中に読んだ朝日新聞の記事。「脳卒中 病は気から」・・・人生に絶望する気持ちがあると頚動脈に病変が起き、脳卒中や心臓病を起こす危険が高いことが米ミネソタ大の研究でわかった。「ストローク」の最新号に掲載された。中高年女性559人が対象で、人生に最も前向きな集団と、最も絶望感が強い集団とでは頚動脈の厚みに有意の差があった。

 

 精神神経免疫学では病は気からというのは科学的に実証されている。うつ病の人に循環器系の疾患が多い。自律神経の破綻から内皮障害をきたす等の説あり。

 

 悲観はイカン。悩んでいるのはふりだけにしよう。どうしようもないことはほって置く。方針が見えているものは他人を気にせず実行あるのみ。

 

 午後に1時間ほどまた愛犬と散歩に出ただけで、1日パワーポイントを考える、学術雑誌を読む、昼寝する、コーヒーを飲む、を繰り返す。ずっと音楽が鳴っている。とても幸せ。脳卒中ははるか彼方。

 

1日は早い。