月別アーカイブ: 2011年2月

蕃東国年代記

 「世界の果ての庭」という小説は大好きであった。

 2002年に第14回日本ファンタジーノベル大賞を得たこの小説、4つの全く違う話が同時進行し、いつか夢のように終わってしまう。雰囲気といい文体といい、僕の好みのど真ん中であった。何の気なしに手に取ると、何度か読んでいるのにもかかわらずそのままずるずると最後までいってしまうという小説が僕にはいくつかあるのだが(村上春樹氏や倉橋由美子氏の短編とか片岡義男氏の「僕のオートバイ、彼女の島」とか)、この小説はその最愛カテゴリーのかなりいいポジションを占めていた。

 著者の西崎憲氏はくしくも僕と同年齢で、何冊かの翻訳書はあるが小説はこれだけである。何年か前から時々書いてないかなぁーと検索していたのだが新作は全く出なかった。

 で、この土曜日、会合の前にまたまたふらりと本屋さんに寄ったのだが、そこで「西崎憲」の名前が飛び込んできたのである。「蕃東国年代記」The chronicles of Bandon。 なんじゃこりゃ?

 ファンタジーです。蕃東国は日本海に位置する国家で首都は景京。時代背景は平安時代かな。もともと倭国(日本ね)の移民からなり、言葉の違いはフランス語とイタリア語の差異程度。文化は唐と倭国の影響を強く受け詩や謡が盛ん。文化国家ですね。そこの中程度くらいの地位の貴族、宇内(うない)とおつきの少年藍佐(らんざ)の冒険物語である。

 すべて創作だが地図、蕃東国の研究論文、学術書からの引用などがちりばめられ、実際に存在する国の話のようである。その時代にふさわしい妖怪、異形の人物が跋扈する。

 全然子供っぽくないです。単純じゃない苦味や不条理、大人の小説。5つの話からなるが、第1話「雨竜見物」を読み終えた時点で止まらなくなり完読してしまう(池に産卵された竜が、成長して初めて雨に乗って天に上るのを見物する話。見物客で野外コンサートのような賑わいになる。ラストにこう来るか!というエピソードが入る)。宇内はちょっとやんちゃで魅力的な人物ですが、他の登場人物もかなりのもんです。村上春樹氏や倉橋由美子氏の短編のなかにも同じようなテイストのものがあり、ちょっと不思議でクールで、ビジュアルに美しく自然を感じさせるというのが好みなのかと思う。

 いや面白かった。生まれ変わるなら平安時代の貴族がいいな。

こういうのって映画にしたらどうなるかとすぐ考えちゃうね。

 

 

 

 

シンクロニシティ(ひさびさの)

 昨晩、昔の友人の夢を見た。

 ここ1年ほど会ってない。時々メールはするが、また飯を食いに行こうと言いながら実現までいたってない、よくあるといえばよくあるケースの友人ではあるが、実は僕に与えた影響はかなり大きい人である。

 ふっと眼が覚めて、夢かーと思い、久しく会ってないなと思い、これでメールでも来たらシンクロニシティというのねと思いながらまた寝た。

 朝枕元のアイフォンを見たら(昨日変えたのです)、なんと本人からメールが来ていた。しかも最近アイフォンに変えたので苦労するぜ!と書いてある。偶然?

 統計学者によると、僕たちがシンクロニシティと感じる出来事は、ほとんどが統計上説明できる範囲内だそうである。科学的でなく因果関係はない・・・ということだけどねー、不思議な感覚である。考えてみれば同じような体験をしている人が結構多いのだから確率論的に起こりえる話。印象的だからよけいに関係ない他の多くの出来事から浮き上がって見えるだけか。

 こういったことに意味付けするかどうかは本人の性格によるなぁ。僕はせっかく思い出すチャンスがあったんだから近いうちに会って話そうと思うけど、深い意味付けを信じるかといわれると、正直、?です。どうなんでしょう。

ドクター・ユング。この人が言い出しました。

 

 

事業所評価加算

 当院のパワーデイサービスに事業所評価加算が可能との評価を大阪府庁より戴いた。

 事業所評価加算とは運動器機能向上,栄養改善,口腔機能向上の各サービスを行う介護予防通所サービス事業所において,効果的なサービス提供を評価する観点から、利用者が1年間のうちに要支援状態の維持・改善の割合がある程度を上回れば認められる保険点数の加算のことである。

 つまりデイサービスの利用により、その方の身体的状態が維持出来たり改善したりするケースが多いというお墨付きである。そのため利用する費用が若干高くなりそこが申し訳ないところであるが、せっかくデイサービスを利用してもどんどん状態が悪くなっていくようでは意味がない、価値ある投資と考えていただければありがたいと思う。

 大阪府下で2000以上ある事業所の中でこの加算を今年つけられるのは110か所に過ぎない。城東区内では当院のみであった。

 これは勿論スタッフの頑張ってくれたおかげである!!評価されて大変うれしく思う。

 そしてパワーリハビリテーションをメニューの主体に置いたのがよかったんだな。パワーリハビリテーションは名前から誤解を受けやすいが筋肉トレーニングではない。マシンを使用するが、それは安全に正確に負荷をかけるためであって、その負荷は驚くほど軽く、本質は全身のストレッチという有酸素運動である。この運動の有効性は今いろいろな領域で証明されていて、今回は高齢の方の全身機能改善に有効であることをまたも証明することになった。

 マシントレーニングを行っている事業所は多いが、パワーリハビリテーションを理解して行っている事業所はほとんどない。使う器具も違うし、大事な点は筋肉トレーニングを主眼に置くのは脆弱な高齢者の場合大変危険だということだ。理論もやり方も全く違うのである。本当にこのことは判ってほしいと思う。パワーリハビリテーション研究会の認定を得ているところでないと効果は不十分なのだ。

 3月にパワーリハビリテーション研究会の竹内教授(国際医療福祉大学大学院)が大阪に来られて講演をされるので是非興味のある方はご参加を。詳しくはまた掲示します。

 

これはクリニックの方のパワーリハ室とストレッチ運動

 

土曜と日曜

 今日は愛犬ララの誕生日です。パチパチ。10歳、早いもんだ。人間にすると56歳、僕とほほ同じです。最近おしっこを時々漏らしたり、オイオイと思っていたのですがまだまだ若いじゃん。

 老け込むのは早すぎるぜ!

 

 昨日は診療が終わってから済生会中津病院の病診連携勉強会に行った。

 かってのボスであり、今も精神的ボスであるグレート川嶋先生が院長をされているので、実際中津病院に患者さんがお世話になる機会はそれほどないのだがお顔を拝見しがてら出かけたのである。看護師さんや事務の方の対応が丁寧で優しいのに感銘を受ける。会も参加者のみなさんなかなか積極的で、普段城東区でしている会と肌触りが違う。気のせいか。川嶋先生はお元気そうでいつも通り若々しい。昨晩は東京でご友人と飲まれて二日酔い気味とのことであったが全くそんな感じせず。

 その後、3月にどういうわけかパネラーになっている第13回在宅医学会大阪大会の打ち合わせに出かける。

 パネラー同士の初顔合わせで座長の提案により会食をすることになったのです。テーマは「食べる」。以前ナニワNSTの会で話したことがあったのだが、その内容を話してくださいと要望があったのだ。開業医がいかに「食べる」ということ、在宅の患者さんの栄養やNSTと遠い存在であるか、またこれからどうしていけばいいのかという提案をしたのだが、その時以来あまり進展していないなぁーと思いながら待ち合わせ場所へ。

             約束の場所まで梅田を歩く。新しくできた丸善ージュンク堂でバカ買いする。

 歯科衛生士Kさん、STのTさん、訪問看護師のTさん、訪問歯科医のO先生がメンバーで、座長の歯科医K先生が朴訥な感じで、しかしポイントを抑えた進行で友好的に推移する。問題と思っている点はみんな同じ、実行可能な解決策を提示できれば大成功。皆さん頭のクリアーな方ばっかりで、これからの展開が楽しみとなる。会だけでなく、これからの診療でも一緒に仕事ができればいいなと思う。こういうふうに思えることはあまりない。機会を与えてくださったK先生に感謝。

 

ゴキゲン

 抗加齢医学会の会長、慶應の坪田教授のモットーは「ゴキゲン」である。ゴキゲンでないと生きていても意味がない、またゴキゲンな人ほど長生きなのだ。坪田先生は本当にそれを実践している方で、ポジティブなオーラが全身からあふれ出ていて、近づくだけでこちらの口元も緩んでくる。これはリップサービスではない。本当に前向きで陽気なオーラに包まれている。

 素晴らしいことだ。僕もそうありたいと思う。このご時世に…と思うが、不可能なことではない。

 「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」という言葉があるがこれは本当である。また、微笑む、口角を上げると、それだけでセロトニンが分泌されることも証明されている。意識した表情、行動は精神状態にも影響を与えるのである。

 だから上機嫌のふりをする。暗い顔をしない、スマイル、快活に喋る。そうすることで、気分が変わってくるのが判る。「無理」?そんなことはない。本当にそのつもりでやると間違いなく気分が変わってくる。僕が保証する。絶対明るくやろうと心に決めること。そいつが大事なのだ。

 気分を変えるのは実はそんなに難しいことではない。考え方。坪田先生もコーチングを受けているのは間違いないと思うけど、考え方なのだ。そういった自分でありたいと意識することが基本なのだと思う。

 イギリスにおいて最も尊重されるキャラクターは「常に一定の気分でむらがないこと」だそうだ。そのベースの気分が上機嫌だったらみんなを幸福にできる。そういう人に私はなりたい。

この人です。

緊急特集

 先週はなにやってたんだっけ…

 とりあえず仕事は忙しく、帰って飯食って風呂入って寝るというシンプルなオッサンの生活だった。ほとんどない自由時間は、早急に迫っている総合内科専門医の更新期限に間に合わすべく、足らない単位を補うために内科学会の生涯学習DVDを消化する。

 1日かかって講義される内容を詰めたDVDを3枚分、つまり3日分だがそれをいかに効率よく理解するか、巻末のテストで60点を切ると単位がいただけないため悪知恵を絞る。なかなかいい方法を見つけたのだがみんなやってるか、こんなこと。

 

 で今日の休みは運転免許の更新に行った。しかしなんで更新しなくちゃならないのだろうか?

 免停とか住所の変更があったとか変えるべき単元があれば必要だが何もなかったら新しくする必要ないんじゃない?法規の講習のため?そのために結構な時間を取られるのはどう考えてもおかしい。きっと金儲けと天下りが・・・などと考える。以前来たとき交通安全協会に強制的に入らそうとするのでこれはおかしいと思ったら同じようなことを考えている人が結構多いのがネットを見て判った。そのためか今は全く任意になっていてあまり入っている人がいない。

 

 帰りに知り合いが入院しているのでお見舞いに行く。その前に本屋さんにちらっと寄るとブルータスの特集が「緊急特集:桑田佳祐」だった!ブラボー。

 約束の時間まで熟読する。彼の、世界で最も好きなアルバムがマッカートニーの「ラム」と知り泣く・・・。一緒だ・・・(僕は世界で1番じゃないけどベスト5には入る)。僕の大好きなジャズミュージシャンの菊池成孔氏がすごく好意的で驚く。どう考えたって聴いたことなさそうなのにさ。

 「そう、だから桑田さんがいないと、「国レベル」でやばいですよ。この国情が不安定なときにね(笑)。この国には、桑田さんがいるということで持ちこたえている人がいっぱいいますからね。」

 その通りです。他の方のご意見も。

 「そこでわかったこと。やっぱりこのおっさん、日本にいなくちゃ困るじゃん。」

 「総理大臣の代わりはいても、桑田佳祐の代わりはいない」

 

 そう思うよなぁ。僕が引退するまで是非続けてほしい。勝手だけど。

 

 

セミナー

 行ってきました、「てらこ屋セミナー」@京都大学。土曜の午後と日曜半日つぶしてクリニカルスタディに必要なデザインの立て方や統計など知識の習得に励んできた。

 論文を書く上では非常に大事な基本を学べるという明治国際医療大学の天才S先生のお勧めで鍼灸院のK先生と一緒に参加した。今更論文でもないでしょうという考え方もあるかもしれないが、僕としては開業医の世界から情報発信出来ることはかなりあるはずだと確信していて、クリニカルスタディはそのひとつである。まあ大したことは出来ないかもしれないけどね。

 100名くらいの参加者は日本中から集まっているのだが、こういった会に参加しようかという方は学者っぽいテイストをお持ちで、いつも行く臨床の会とはちょっと違う涼やかな風が吹いていた。いろいろ趣向も凝らされており、楽しみながら勉強しよう、自分を高めようといういい感じの雰囲気であった。素晴らしいことだ。

 個人的には基本的なことがおぼろげながらも少しは理解できて嬉しいが、それよりも統計周辺に興味が持てたことがよかった。以前買っていてそのままギブアップしていた本も読み返すことにした。

 若手が多い会場に年配の方も参加されていた。僕も見習いたい(なんか今日は真面目だな)。

 

 

On a clear day

 この2日間は散々であった。

 原因不明の胃痛、下痢に襲われたのである。まぁ多分ノロウイルスであろう。インフルエンザと並んで今の外来でも大変多い。でも今までなんともなかったからなぁー、今さらであるが、ともかく午後の診察中に胃の不快感が極度に達し、正直途中棄権しそうであった。

 しかしなんとか耐えしのぎ、その晩から完全絶食とし(ひどい下痢も始まっていた)朝の外来を始める。僕はあまり不調が表面に出ないのであるが、その日も声は張りがあるし、顔もちょっと頬が削げて精悍そうである。しかし実はまいってたのよ。(外来チーフのO嬢に「ストレスのせいに違いない」と言うと「何のストレスですか?」と心底不思議そうな顔をした。俺はなんだ!?)

 外来があんなにつらいものとは思わなかった。自制心がないと務まらないが、体が不調だと気力がなくなり忍耐がなくなりネガティブになる。健康であってこそできると当たり前のことを深く認識する。

 午後は生まれて2度目の点滴をして、内服薬も効いてきてやや元気になってきた。1日の完全絶食後食べる晩飯に驚嘆。ハングリー・イズ・ア・ベスト・ソース。然り。

 この2日は8時間近く寝た。考えてみるとここ数年、2日続けてこんなに寝たことなかったんじゃなかろうか。ゴージャスな気分。で、今朝であるが、完全復調どころかリバウンドで全く疲れを感じないのである。軽いのである。世界が明るく考えが恐ろしく前向きである。脳内セロトニンを測定したらおそらく振り切れるに違いない。「晴れた日には永遠が見える On a clear day, you can see forever」という映画が昔あったが、永遠を垣間見たようなグッド・フィーリングのまま1日が終わる。

 いい気分である。で思ったこと:

 ①1日くらいの絶食は胃腸を休めるのにいい。これからも時々日曜日位白湯だけで過ごそうと思う。 

 ②病み上がりのグッドフィーリングは、どんな状態でもその境地に達することが可能な精神状態だと思う。どうすれば普段でもこの境地に達せられるか考えてみよう(睡眠時間?)。

 ③でもつまりは体調が整っていなければダメなのだ。軽率だからもっと用心深くすること。アランというフランスの哲学者は精神的落ち込みはすべて体調のせいと考えよといっているが(違ったかな?)リーズナブルな思想である。

 で、明日から土日の2日間「臨床医のためのクリニカルリサーチの仕方」のセミナーに出るため京大に行ってきます。2日前は申し込んだのを後悔してたんだが今は楽しみ。勝手なもんだ。体調は恐ろしいぜ。

患者さんの突然の嘔吐に備え机の下に備えてある膿盆

(僕のためではない)

世界征服は可能か?

 おお、もう2月じゃないか!愕然とする。

 1月はやたら忙しかった。外来もそうだが、週替わりにやるべきことが魔法のように出現する(保健センターでの講義とか在宅医学会の抄録とか、考えてみれば前もって準備できることなんだ。でも忘れていたり、締め切りが急に早まったり)。週末も全部新年会でつぶれたし(こいつも考えてみれば行かなきゃいいんだが)。

 忙しい、忙しいと言ってるやつが仕事ができたためしがない。カッコ悪いからやめよう。

 で読むべき文献をわきに置き、読みたい本をせっせと読む。岡田斗司夫氏の「世界征服は可能か?」を読む。こいつは面白い。子供化の一部のようにも見えるが、これは組織論として勧めている人がいたので読んだのです。世界を征服する目的、手順などまじめに(でもないか)述べられているが、何のために世界を征服するかとか、征服後の統治が問題とか、結構考えさせられる。

 で、この本のキモは最後の10ページ、結論の部分。世界とは何か?この我々が生きる世界とは「現状の価値観や秩序の基準」のことである。そしてそれは「自由主義経済」と「情報の自由化」である。この二つには暗黒面がある。「貧富の差の肯定」「個人から信念や価値観や考える力を奪い社会風潮やネット内の流行で生きることを当たり前とする文化」。

 それを破壊することが世界征服なのだ。人にやさしく環境にやさしく。良識と教養ある世界をめざすこと .現在の「幸福」と「平和」にノーを言うこと。世界征服は可能です。

 ということになる。発想、視点の転換ですね。岡田氏の本は2,3冊読んでいるがいつも面白い。彼が終始一貫主張していることは、我々が持っている価値観は洗脳されたものではないか、ちゃんと自分自身の頭で真剣にしっかり考えよう、ということだと思う。

 今の生活を続けながら世界征服を夢見よう。時間に流されないように。

 心するように(もちろん自分に言ってる)。

 

2時間くらいで読めます。