月別アーカイブ: 2006年11月

テオ

 雑誌をパラパラめくっていると(当然風呂の中で)、眼鏡のデザイナーにインタビューしている特集があった。THEO(テオ)というブランドは以前友人に勧められたことがあるのだが扱っている店が京都にしかなくて結局そのままになった。そのブランドのデザイナーが答えている。Patrick Hoetというベルギー人。

ブランド名の由来:姓Hoetのアナグラム。ギリシャ語で「神」を意味する言葉でもある。
自分の眼鏡が似合う人物:極右政党の伸張を大変危惧している。ブッシュ、ベルスコーニ、ブレアらからTHEOフレームを買い戻したいところだが、まだ幸いTHEOフレームを買っていただけてない。
リフレッシュの方法:サウナ、読書(主に哲学的な問答や人間の性格について)、スキューバダイビング、バーで友人とビールを飲むこと。
子供の頃の夢:世界を良くしたかった。今はPatrick Hoetという一人の人間に限定されるけれど。
今後の夢:本を著している。あと大きな野望は幸福なまま死ぬことだ。
生まれ変わるならどの国へ:国境のない世界を夢見ている。

 うーむ、やるなPatrick Hoet。眼鏡デザイナーらしからぬアンサーだ。ほかにもいくつかの質問に答えているが矮小でなく大きな世界を念頭に答えている。写真は憂い顔の中年のおっさんだがいけてるぞ。自分の給料や狭い交友関係だけに頭を悩まして一生を終えることも出来るけれど世界の幸福を考えるべきだよな。

 今度THEOのフレームを手に入れよう。でもちょっと仕事用には無理かもね。

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もうちょっと穏やかなのもある、と思う、多分

 

ノロ!

 メッチャ忙しいです。ノロウイルスが猛威をふるっており、来る患者さん、来る患者さん、俺の顔を見るなり吐くか下痢です。整腸剤ももう1年分は出した気がする・・・。

 しかもこんな時に限って満杯の点滴室でブザーの誤作動が起こる、間抜けなどこかのケアマネさんが間違い電話を二度もかけてくる、俺のエルメスのシルクの白衣に(ウソ)吐物をぶっ掛けられる・・・酸素とともに生存の最低条件である15分の午睡もとれず、夜は夜で、帰ってすぐ飯を食って、生存の最低条件である長風呂から出てくるともう明日は目の前です。

 明日も吐物と下痢が俺を待っている・・・しかも産業医の仕事と20人以上の予防接種で生存の最低条件であるシェスタは風前の灯である。

 開業医は季節労働者。でも忙しく働けるって幸せですよね。感謝しましょう。善人だなー俺って。これで例のオービスの免停が来たらこの世に神はいないということが証明されたようなもんです。裏切るなよー。
 

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暇よりはなー

「萬病之薬」の使い方

 再び開高健。あるかけだしの女性編集者が一緒にした海外の仕事の最後の日に封筒をもらう。

 「私も世界中をあれこれ廻り歩いたおかげでどえらい薬が手に入りましてな。このクスリ、どんな病気にも効くという万能薬や。そやけど一度にたくさん服用したらアカンよ。ちびちびとのまなあきません。これをあなたに差し上げます。病気になったら飲みなさい。」その封筒には「萬病之薬(但シ少量ズツ服用ノ事)」としたためられている。

 ホテルにもっどて開けてみると何とそれは現金だった。かなりの額である。あわてふためいて彼のホテルに電話を入れると「そんなに気にせんでよろしい。私が貧しくて若かった頃、誰かにしてもらいたかったことをやっただけのことです。」

 翌日彼女は開高健を空港で見送る。軽く握手し、それが彼と会った最後となった。

 僕が研修医の頃、仕事が終わった遅くに何人かの同僚と少し遠くへ食事をしにいった。「疲れたからうまいもん、食べようぜ」。ふと近くのテーブルに見たことのある顔、眼科の講師の先生がご友人と食事をされているのが眼に入った。顔を知っているだけで特に話したこともなかったので挨拶もせず我々は騒ぎ、さて帰ろうということになった。お勘定をしに行くと「ついさっき帰られた方が払っていかれましたよ」と店の人が言う。あせって外に出て探すと、運よく話しながら歩いている先生を見つけた。「どうもすいません。ごちそうさまです!」と言う我々に「何いうてんねん。どんどん働いてもらわなアカンから投資投資。またもっと高いもんおごってな!」と笑いながら去っていかれた。

 お金は稼ぐより使うほうが難しい。使い方にその人間のすべてが表われるからだ。

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毒にも薬にも・・・

ワシントン条約

 お気に入りのレストランに行く。特に名を秘すがかなり気に入っている店で、いつも非常に満足感を得ることができるのだが、そのお気に入りで2軒続けて不愉快なものに遭遇した。

 それはなにか?最近よくみられるグルメライター、もしくはそれもどきの女性である。大体チャラチャラした若い(というわけでもなさそうだが)女性のグルメライターなんぞより一般人のおっちゃんのほうがよっぽどいい舌、センスを持っていることが多いが、そんなこととは露知らず、何の努力もせずになれる腰の抜けたポジションなのに大満足している下品さが露骨に出ているのだなー、これが。

 声がでかい。さして面白くないことでも大きな声で笑う。こんな楽しい時間は無いわというようなオーバーな態度。当然お店の人と大変近しいとこれ見よがしに振舞う・・・という最悪のパターンです。殺虫剤を借りてかけようとしたら友人に止められたのですが(「何度もやったけど無駄」)、まあ、殺虫剤ももったいないし。

 下品とは何か。他人のことを考えないで自分本位(特に目先の利益を追求することで)に振舞うこと、というのが僕の考える定義の一つです。割り込んだり、路肩を走る車とかね。できたら女性の方はこの本、「気品のルール」を読んでいただきたい。偏見のない男性にも是非。なんだこりゃ、というタイトルですが内容は鋭いです。

 気品ある女性はすでに絶滅種であり、ワシントン条約で保護されている・・・らしい。僕の周りはそんな人ばかりですけど。

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嘘と思って読んでね

毒蛇は急がない

 開高健が好きだった。父親が買ってくれた「フィッシュ・オン」は中学、高校と何度読み返したか判らない。それから「夏の闇」「輝ける闇」などにすすみ、一時最もなりたかったのは戦争特派員だった。影響受けやすいな。

 その尊敬する開高健大兄がよく言われていた言葉が「毒蛇は急がない」だった。うん?大して含蓄のある言葉とも思えない。

 しかし最近、身にしみるのである。僕はセカセカといつも急いでいる。それで結局集中できていない。心から満足できる結果も得ていないのである。あせっていると大事なものを見落とす。急がば回れ。少しペースダウンして落ち着いて進んだ方が大きなものを得られるのでは。結果的にそのほうがゲインは大きいのだ。

 「僕はバンコックでチェンマイの貴族に居候していた時、結論を早く出しちゃいけない、人を早く判断しちゃいけない、ということを教えられたの。万事急いではいけない。毒蛇は急がないと。」

 疲れてパラパラページをめくっていると出てきた。啓示?

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巨匠。ちょっと父親に似ている。

Vertigo 眩暈

 一日中雨である。山のほうに住んでいるせいで犬の散歩に出たら雨風で遭難しそうであった。こんな日は外に出ないで内に篭ることにし、小人閑居して不善をなすことにする。べつに忙しくても不善はしてるけどね。

 しかしそれにも飽きTUTAYAでCDを5枚ほど借りてくる。レオン・ラッセル、T・Rexとか古いねー。しかしな、比較的新しいのもあるぞ。U2だ。前から聴きたかった「How to Dismantle an Atomic Bomb」である。1曲目のVertigoは前から相当好きだったのだ。実はU2をアルバム丸ごと聴くのは初めてなのだがボノの声は予想よりカン高い。しかしセクシーで「なるほどね」と思う。

 U2はなんとなく政治色強く、くそまじめという印象があったのだが変わってきているらしい。素晴らしいのは20年以上メンバーチェンジをしていないことである。偉大なロックバンドは変わらない。ストーンズを見よ。

 2つとも大人のロックバンドである。40台から60!台のおっさんがこんなにカッコよくグループで音楽を出来るなんて本当に素晴らしい。懐古趣味で再編したりしているのではないのだ(日本には多いけどね。アメリカも多い。やはりロックはイギリスか)。現役バリバリ、生涯ロックミュージシャンである。歩くアンチ・エージングである。

 彼らに限らずいい年まで現役のロックミュージシャンは身体にすごく気をつかっている。腹も出ていない。2時間以上のロックコンサートなんて体力、精神力が無ければできない。彼らは不良の格好をしたスマートな優等生の男たちなのである。

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   いいです。

怒るよ!

 日本医師会雑誌の特集「在宅医療の現状と課題」を読む。厚生労働省の事務次官、辻哲夫氏も参加した座談会があり、行政が在宅を推進する一つの大きい理由として、日本では病院で死亡する人が大変多い(80%台) → 人口の増加とともに年々死亡する人が増加しており、特に団塊の世代が高齢化するとエライ数になる → すごくたくさんの人が亡くなる前に病院を占拠することになりこりゃ困る! というのがあるらしい。そのため亡くなる時はご家庭で、というのを推進したいようである。

 こういった問題を医療サイドだけに押し付けるのはかなり問題があるのではなかろうか?医者が頑張ってほしいというエールが出ていたが、国民の居住状況とか経済状況、家庭のあり方とか精神構造の在り方のような大きなものを考えていかないと動かないと思います。大体そこに個人の幸せを考えるという姿勢は無い。

 国のやり方というのは、非常にうそっぽい。高齢化で大変なことになるよ!というのも実際は国の成熟の課程として当然の経過で他の国で十分成功したモデルもあるし、また医療費がやたらかかるという宣伝も、実は他の国に比べれば日本は恐るべき低コストで大きな効果を上げているのであるが、そんなことは絶対に大きく発表しない。WHOによる医療の世界ランキングで日本は1位であるがそんなこと聞いたこともないでしょう。

 ともかく国の基本方針は予算を抑えることで、そのため最近あまり政治力の無い医師会はいじめられやすい子供のようになっているという気がします。どんどん厳しい状況を押し付けられしかも報われない。医者の平均勤務時間は12から15時間という統計がありますが、どうなっているのかなぁ。僕の知っている範囲では医者というのは結構使命感を感じている純なところがありますが、それでもさすがに最近みんな鬱積している感じがあるぞ。

 愚痴っぽくて申し訳ない。政治家、公務員のあまりの不祥事の続く中、怒りを感じて。

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tired…

 

 

フィットする社会

 竹内教授の「認知症のケア」を読む。新鮮な驚きを与えてくれる本であるが、その中に認知症は孤独、孤立から生み出されるという文章があった。若年性アルツハイマー病など例外はあるが、高齢者の認知症が定年後に増加することはよく知られた事実である。人間は極めて社会的な動物であり、社会から切り離されると弱い。

 最近の自殺予告に関して軽々しく論評することは出来ない。だけど学校が彼らの社会であり、そこで疎外されることの苦しさはリアルに感じることが出来る。「社会は唯ひとつだけではない」「そして君自身もいつまでも同じなのではなく時とともに変わり、それとともに社会も変わっていくのだ」「今、ここ、だけにとらわれるな」と言ってあげたい。届くかどうかは判らないが。

 日本の場合、仕事を止めることは社会から切り離されることとほぼ同義だ。別の社会を持っている人は別だが。僕に別の社会はない。「俺はリタイアしてヨットやゴルフ場のグリーンの上で死ぬ気はない。この仕事場の机の上で突っ伏して死ぬのだ」というアメリカのニュースキャスターの言葉にシンパシーを感じる僕にとって、仕事とゴルフは等価、つまり毎日仕事であり遊びであるということだ。両方とも100歳まで止めるつもりはない。

 この幸福を感謝して100歳まで続けられるように自分を鍛えていこうと思う。そして苦しんでいるティーンエイジャーがフィットした社会を見つけられるよう心から祈る。

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世界は君を待っているぞ、本当に

流行りもの

 急に寒くなった。オープンもおしまいやー。外来でも風邪ひきの方がすごく増えてきた。

 とりあえず今の流行りものは「吐き下し」である。ノロウイルスやロタウイルスが有名だがいろいろなタイプのウイルスがこのお腹の風邪の原因となる。本当に突然気分が悪くなる。吐く。その後、水のような下痢。発熱は少し、というのが典型的だが、下痢にならない人や、嘔吐はわずかで下痢がとってもしつこい人などバリエーションがある。

 便に排泄されるウイルスが手について、それがいろいろな場所について、そのウイルスをまた手につけた人が口から感染して、という経路をたどる。一度体内に入ったウイルスの増殖は早く、基本的に自分の免疫力しか頼りにならない(タミフルはこのインフルエンザウイルスの増殖を押さえる。一般的なウイルスの増殖を抑える薬はない)。唯一の予防法は手についたウイルスを出来るだけ早く洗い流すこと。流水でウイルスは洗い流せる。1日に5回以上手を洗う人は風邪になりにくいというデータがある。しかしできるだけきちんと洗うこと。2秒だけ手を水を触れさせる、みたいな洗い方はだめ。

 こんだけ多いと絶対うつるな、と思っていたが、かるーく下痢っぽくなっただけで治まってしまった。僕の体の中にはものすごい数の抗体が出来ているのだろう。ここ20年以上風邪で寝込んだことはない(ずる休みはあるぞ)。ナイーブで傷つきやすいのにそう思われない理由である(と思ってんだけど。違う?)。

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インフルエンザワクチンはうってね

 

脱水ですよ

パワリハの総師、国際医療福祉大学大学院の竹内教授著「認知症のケア」を読む。210ページ一気読みである。竹内教授とは何度か直接お話したことがあるのだが、こんなに認知症介護に深入りしている人とは知らなんだ。

ものすごくシンプルに書くと、先生は認知症ケアの大基本は「脱水、便秘、低栄養、運動不足の克服」であると。これはものすごく示唆に富んだ話なのだが、ちょっと脱水について。

医者の間では(特に大学病院では)何でも「点滴!」という医者はアホであるということになっている。ちょっとした風邪で「点滴してください」という患者さんには、僕も水分が飲めていたら必要ないですよと言っている。でもデイサービスに来られているご老人で、食事が取れない、しんどそうという方に明らかな脱水のサインが無くても点滴すると著しく改善するという感じは持っていた。

老人の脱水のサインは難しい。もともと「老化とは乾燥である」。ただでさえ乾燥気味で唾液分泌も悪く大概口腔中は乾いている。皮膚もつまむと元に戻らない。それがスタンダードであるような(というかすでに脱水状態だな、これは)認知症のご老人の軽度の脱水傾向を見破るのはかなり難しいと思う。

脱水になると血液は濃縮され循環が悪くなる。脳循環の悪化は意識レベルを下げる。各臓器のエネルギー代謝は悪化し倦怠感が強くなる。不純物、代謝産物は運び出されず、産生される熱量も放熱されないため発熱となり、結果ますます脱水は増悪する。人間の体重の60%は水であり、その水分環境で恒常性が保たれている。脱水は細胞の生存を支配する。

ご老人とまでいわないまでも、最近の健康ブームで水分摂取の重要性を説く人は多い。元気なご老人も意識して飲水量を増やしている方がいるが、これがまた夜間頻尿の原因になっていたりする。1日の総水分量が大事で、夜間は飲水を控えても脳梗塞の発症率は変わらないという文献があり、そのお話をしてもあまり止められないのはやはり何か有用性を意識されておられるのかもしれない。

健康な成人は1日2000cc、ご老人は1300ccが推奨される最低量だ。発汗がひどくない限り、あまりスポーツドリンクの有用性は無い。認知症の方は便秘も増悪因子なのだが、水分摂取は便秘も改善する。先生はある老健施設で、摂取水分量の増加に伴い認知症が改善していったデータを示されている。

デイに来ている方はすべて脱水症の可能性がある。飲水を促すことは今まででもやっていますが、認知症の改善に大きな効果があるというのは目から鱗でした。早速うちの施設でも飲水量を調べ(家庭内で少ないことが多い)、十分に水分を取られるようにしていきます。

「認知症を見守るのではなく回復させる施設へ」。トライする大きな目標ができてとても嬉しく思った。