囲碁十訣

 夜の外来に高血圧でかかっているYさんが来られた。少し耳が遠く皮肉っぽい発言も多い、なかなか硬派でハンサムな初老のおっちゃんである。いつものようにぶっきら棒な物言いで診察も終わろうかという時、「先生な・・・」と話し出した。

 「この前碁の大会があって・・・」「優勝したんですか!」僕は彼が碁が唯一の趣味でかなり熱くなっていたことを知っていた。

 彼は恥ずかしそうな嬉しそうな複雑な顔で免状と書かれた袋を取り出した。「ついにとってな」と取り出されたのは碁六段の免状であった。「昔はアマチュアは六段が最高位やったんや」「六段!」僕でもそれがどんなにすごい段位かわかる。「びえぇぇぇ!」と驚く僕に彼は扇子を取り出した。異様に達筆で4文字熟語らしきものが書かれている。

 「これは王さんという碁の名人が秘訣を書いたものらしいわ。お礼に先生にあげる」「びえぇぇぇぇ!いいんですか?」

 碁の極意が10個書かれている。一、不得貪勝・・・貪らば勝を得ず。欲張ると負けるよということらしい。ははー、おっしゃるとおり。五、捨小就大・・・小を捨てて大に就け。目先の利にとらわれるなということね。勉強になります。

 しかしこの10の教えよりも、一人暮らしで孤独な、ちょっとヘンコツなYさんが、本当に嬉しそうにご自分の勝ち得たものを僕に教えてくれたことが、僕の心を強くうったのだった。

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心して学びたまえ

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