下り坂では…

 本をネットで購入する。「下り坂では後ろ向きに」。首都大学東京の教授でドイツ文学者、丘沢静也氏の本。書評を読んで(実はあまりちゃんと読まなかった)高齢者の運動についてのメソッドが書かれてあると思っていたのである。到着した本をパラパラして、これはかなり哲学的な内容であると気がついたのだが、なかなか興味深い文章が並んでいるので、結局1時間ほどで読了した。

 30代の後半から全く運動に縁のなかった丘沢氏はジョギングと水泳を始め、今では立派な「運動習慣病」患者である。今66歳であられるが、年代にふさわしく無理をしないスローなエクセサイズを実践されており、その考え方は実際的になかなか有効である。筋トレはやはり高齢者に必要であることや、何回やるか決めるより、何分と時間を規定してその範囲でゆっくりやればよいなど、うなずけるアドバイス多し。

 しかしこの本で一番印象的なのは、そのような運動姿勢を裏付ける賢人たちの言葉の引用です。タイトルもヴィトゲンシュタインが述べている哲学する姿勢、いつも同じでなく違ったやり方を用いることの、運動における彼自身の(人生に対する姿勢もかねて)応用を表わしたもの。

 

「腰を下ろしていることは極力少なくせよ。戸外で自由に運動しながら生まれたのではないような思想は信用するな。筋肉もお祭りに参加していないような思想は信用するな。すべての偏見は内臓に由来する」(ニーチェ)

身体は大きな理性だ。一つの意味を持った多様体だ。(中略)「私は」と君は言ってその言葉を自慢に思う。「私は」より大きなものを君は信じようとしないがー「私は」より大きなものが君の身体であり、その大きな理性なのだ。大きな理性は、「私は」とは言わず、「私は」を実行する。(ニーチェ)

神はお急ぎでない (ガウディ)

人間の身体は、人間の魂の最上の姿である (ヴィトゲンシュタイン)

自分の中に「自分」を求めようとすると、迷路に迷い込むだけだ。自分の中に「自分」を探すのではなく、自分の外に「自分」を求めなさい。自分の外に「自分」を探しなさい。外からの課題に身をゆだねることによって、あなたは自分に出会うだろう。(ルドルフ・シュタイナー)

 

 どう?いいでしょう。運動は万薬に勝る。「気晴らし」(もともとのスポーツの語源)としての、しんどくないスローな運動を、地道に続けましょう。言うは易く・・・なんて言ってないでね。

久々の岩波書店

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