120歳のサリンジャー

 J.D.サリンジャー氏が亡くなった。91歳。

 僕がそのニュースを知ったのは、彼の「ナイン・ストーリーズ」の最初の短編、「バナナフィッシュ日和」をちょうど読み終わったときだった。最後の数行を何回か読み返し、「うーん、何たることだ・・・」。気分を変えようとメールチェックのためネットにアクセスしたところ、ニュースを知った。何たる偶然。シンクロニシティ?

 いやいや、それほど僕はサリンジャー氏に深い関係があるわけではない。「ライ麦畑でつかまえて」や「ナイン・ストーリーズ」(前の訳だと「九つの物語」だな)、「フラニーとゾーイ」という彼の著作はほとんど全部読んでいたのだが、ストーリーはほとんど覚えていない。「ナイン・ストーリーズ」が柴田元幸氏の訳で出たので、確か昔その中の短編「エズメのために」がすごく気に入っていたはずだ、しかし全く覚えていない、柴田氏の訳は素晴らしいので読みなおそうとしていた程度である。

 「ライ麦畑」と同じように口語体で書かれた小説、庄司薫氏の「赤頭巾ちゃん、気をつけて」の方がはるかに個人的に影響は大きい。僕の書く文章はいまだその影響下だ。この小説が出た当時、確かサリンジャー氏を引き合いに出して論じられていたことが多かったはずだ。

 ぜーんぜん別のもんだけどね、今から思うと。同じ大人の世界への違和感でもサリンジャー氏のイノセンスはずっと深刻だ。しかし二人とも華々しい結果を残してさっさっと隠遁してしまった。やはり書く世界と著者は相似形なのかな。サリンジャー氏の死について、庄司薫氏がどう言っているか知りたいけど全くインタビューはない。奥さんは有名だけど彼は完全に雲隠れしている(株でかなり成功しているらしいとかいう話です)。

 91歳はなかなか長生きだ。サリンジャー氏らしい気もする。どうせなら120歳まで生きて欲しかった。「120歳のサリンジャー」、こんな話を庄司薫氏に書いて欲しい。絶対無理だけど。

99%この写真ね。

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