月別アーカイブ: 2005年10月

口先で生きる

人間の3大欲望って何だったっけ?

確か性欲と金欲と名誉欲では?

・・・なるほど、欲望はその人間を語る。君の場合はそうかもしれんが、一般的には食欲、性欲、睡眠欲ということになっている。年をとってくるとそのどれもがだんだん枯れてくるのだが、患者さんを診ていると食欲が最後まで保たれている人は強いな。でそういう人はやはり歯が丈夫な人が多い。歯科医師会が8020運動というのをやっているのを知ってる?これは80歳で20本以上の歯を残そうという運動で、オーラルケアの先進国スウェーデンでは既にこの目標が達成されている。日本では1999年で、80歳での歯の残存本数の平均は8.21本だ。

かなりお寒いですね。

確かに。健康というと内臓とか筋肉とか全身的なことに目が向きがちだが、歯というか、口腔内のケアは長生きのためにとっても大事なのだ。来年改定される介護保険に介護予防給付として口腔ケアが入ることになったが、これはそのことが一般的な認識となっているというひとつの証明でもあるな。介護の領域で特に大事なのは、口腔ケアが肺炎を予防するという証拠があるからだ。

それはまたどういう関係で?肺炎って風邪からなるんじゃないんですか?

肺炎は日本における死亡率の4番目だが、その92%は65歳以上の高齢者だ。抵抗力が落ちているとか、いろいろ病気を合併しているとか要因はあるが、繰り返す誤嚥がその大きな原因だ。別にいつも食事のたびにむせていなくても、夜咳をしていなくても、多くの高齢者で睡眠中に唾液が肺まで誤嚥されているというデータがある。夜間は嚥下や咳の反射が低下しているのだ。食事後に口腔内を観察すると、食物のかすが残っている高齢者が、特に脳梗塞の人に多いのに気づく。足や手と同じように口にも麻痺の影響が残っているのだ。虫歯の原因にもなるし、著しく不潔なためそれを誤嚥すると肺炎となる。特に寝る前に歯磨きをちゃんとしないといけないのが分かるだろう。ブラッシングは単に細菌を除くというだけでなく口腔内の知覚神経を刺激し摂食嚥下機能を向上させることも実証されている。何は無くても歯を磨け、うがいをしろ!

了解。ブラッシング以外にもなんかないんですか?

嚥下運動や咳反射の上でサブスタンスPという物質が非常に大切で、神経節におけるサブスタンスPの減少が誤嚥を生じやすくする。血圧を下げる非常にポピュラーな薬であるアンギオテンシン変換酵素阻害薬や、軽度のパーキンソン病などに用いるアマンタジンという薬はサブスタンスPを増やす作用があるということで、使用すると肺炎の発症率が3分の1や5分の1になったとかいう報告がある。しかし実際に使ってみると効いてます!という手ごたえはあんまりないです。ちゃんと口腔ケアをするほうが大事な感じがするね。

そうかー。しかし歯が悪くなってから頑張ってもしんどい感じがしますね。その前にちゃんとしとかなきゃ。

その通り。まともだな、めずらしく。最近は歯石を取ったり定期的に歯科に通う人もいるがあんまり口には注意を払わなかった。昔アメリカに行ったとき、みんな異常に歯並びがきれいで白くて、それは矯正を一生懸命するからと聞いてそのときの自分の気持ちにはぴったり来なかった。八重歯とかそういうのはかわいいと思わないのかと思った記憶があったが、美意識の問題かね。日本で口腔ケアが遅れたのはそういうのも関係あるのかな。わからん。最近は審美歯科というのも出来てきたし、これからは口だな。ちゃんと手入れに通うように。

はい、そうします。先生は歯科医でしたっけ?

(無視)食べることもそうだが、日本というか東洋にはあんまりおしゃべりはみっともないという感覚があるだろう。ところがアメリカのやつは本当に良く喋る。驚く位だ。道端で男二人が立ち話をしているのを見て1時間後に通りかかったらまだやってたというのも珍しいことではない。サムスペードというハードボイルド御三家の探偵の一人が悪役の親分に捕まったとき、お前は良く喋るかと聞かれてスペードはそうだと答える。すると親分はそりゃ良かった、無口なやつは喋る内容が無いから喋らないんだ、ちゃんと喋るには才能が要るんだよというようなことを言う。それを読んだとき面白いことを言うなと思ったが、どうもそれは正しい。年をとるとお喋りをするというのはボケないということでとても大切だ。自分を他人に対してアピールすることは呆けの大きな予防だ。よく食ってよく喋るという、つまり社交に上達しろってことだな。口は社交なのだ。

それが結論ですか。口先だけで生きてるとよく言われるんですが少し安心しました。もっと磨きをかけるようにしよーと。

太極拳ってサルですか?(パート1)

太極拳ってサルですか?

「?」

何のことか判らんだろう。これは私が太極拳を習っていることを某30代前半(多分)
の女性に述べた時に返ってきた言葉である。以下こう続く。

「さる!?」
「えー、そうじゃないんですかー。金色の雲に乗って飛んだり跳ねたりするやつ?」
「それは孫悟空。」
「えー、違うのー? あっ、何とか雑技団でしたっけ?」
「雑技団はあるけど関係ないよ。テレビなんかでさ、上海の朝の公園でおじさんとかがゆっくりと動いてるやつ、知らない?」
「・・・・・」

伊丹十三に「女性から見たこの世界の構造」(だっけ?違うかもしれないがこういう意味のタイトルです)という文章があり、人工衛星は細い金属の誘導線にまたがって移動しているとかいった恐るべき非科学的な知識を披露する女性達を揶揄したものがある。いまだと完全にアウト!!の文章だが。ちょっとそれに近い感慨を抱いたのだが、考えてみると彼女は非常に優秀な女性だし、実際太極拳といっても聞いたことはあるがちゃんと説明できるやつはほとんどおらんだろう。私自身がそうだったからな。

そんな人がまたなんで太極拳を?

これは私の仕事に関係がある。患者さんであるご老人は本当によく転倒するのだ。寝たきりになる大きな原因に大腿骨頚部骨折というのがあり、それは転倒で起こる。だから転倒予防教室というのを地方自治体でもよくやっていて、うちの診療所でも企画したことがあるが、実際のところあまり効果がない。ところが世界最大の医学データベース「MEDLINE」で、中国の伝統武術・太極拳が高齢者の転倒を減少させる効果があるとの研究結果が2004年1月に紹介されているのを見つけたのだ。これはアメリカ老年医学会からの発表で、70〜90歳の高齢者が、太極拳を1年間継続した結果、転倒のリスクが25パーセント減少したというもの。体操やエアロビクスは効果がなし。いろいろな報告があるが、学問的に転倒予防に関してちゃんとエビデンスがあるのは唯一太極拳だけなのである。この結果がアジアから出ていないというのが相変わらずだな。

アメリカは好きだからなー。ゴルフの教則本でもメンタルのことを書いた「禅ゴルフ」ってのを読んだことがあります。

ニクラウスが推薦していたやつだろう。私も読んだがティーグラウンドに立つと何もかも忘れてしまうので役にたたん。おっと、太極拳の話だが、それでこの前から週に1度、先生について習い始めたのだ。私が会得してよければ広めようと思って。いくつかの型をゆっくりゆっくりやっていく。もともと武術で、敵がかかってくるのを想定して防御し、攻撃する動きだ。大事なのは脱力すること。まだまだどがつく素人だから間違っているかもしれないが、今のところの感想は結構しんどい。最近スロートレーニングというのが注目されてるがまさにあれだな。ゆっくりした動きにかかわらず10分もすると汗ばむ。基礎代謝が上がるなーというのが分かる。太極拳をしているやつであんまり太ったやつは見たこと無いだろう。

そういえば無いですね。

それとバランス感覚が大事だ。重心の移動を意識するし、足の裏の深部知覚も意識する。ずーとやってりゃ確かに転倒しにくくなると思う。関節を痛めることも無いし道具も使わないし理想的だ。問題なのはこれが出来るご老人がいるだろうかという点だ。初めてするとすれば結構少ないぞ、多分。中年からしていたほうがいいな。今のところやっと14式(14の型)といってごく基本を教えていただいたところだが99式まである。道は遠い・・・。

・・・またどうなったか教えてくださいね。1ヶ月後聞いたら何のことだなんて言わないでよ。

音楽のアルバムタイトルで「パート1」とつけてあって永遠に「パート2」が出ないやつは結構あるな。ユーミンの「サーフ アンド スノー」や、ハニードリッパーズもそうだったっけ。「パート10」までいけたら「きんと雲」で来るよ。

前の女の子と変わらないじゃないですか・・・

「先生って孫悟空っぽいですもんね!」というのがさっきの続きだけどな。意味不明だ。