内科の病気の70%は問診で診断がつくといわれる。もっと多かったかな。
そして診断が誤るのは、知識がないというよりもうまく聞き出せないことが主因なのだ。具合が悪くて来ているからそのことを話すだろうになぜわからない?と思われるかもしれない。主たる症状は勿論話していただけるが、そこから病気を絞り込むのに必要ないくつかのファクターを訊きだすのは案外難しい。質問の仕方が悪いのかもしれないし、患者さんが案外忘れていることも多い。診察室から出るときに、思い出したように振り返って言われた一言で判断が逆転するという経験は多くの臨床医がしていると思う。
「人間は自分のことを喋るのが大好き!」というのが脳科学的に証明されたという記事が米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。
自分について話すことが、食べ物やお金で感じるのと同じ「喜びの感覚」を脳のなかに呼び起こすことが明らかになった。個人的な会話であっても、フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアでの発信であっても、それは変わらない。
日常会話の約40%は、自分が何を感じ、どう考えたかを他人に話すことで占められている。米ハーバード大学の神経科学者らが脳画像診断と行動に関する5つの実験を行い、その理由を解明した。脳細胞とシナプスがかなり満足感を得るため、自分の考えを話すことを止められないのだ。
「セルフディスクロージャー(自己開示)は特に満足度が高い」と同大学の神経科学者、ダイアナ・タミール氏は話す。タミール氏は同僚のジェイソン・ミッチェル氏と実験を行った。研究者が呼ぶところの「セルフディスクロージャー」への傾倒度合いを測るために、人は自分の考えや感情を話す機会に対し、通常より高い価値を置くかどうかを検証するテストが実験室で行われた。また、自分のことを他の人に話している間、脳のどの部分が最も興奮しているのかを検証するために、参加者の脳の活動がモニターされた。実験に参加した数十人の志願者のほとんどが大学近くに住む米国人だった。
いくつかのテストで研究者は、自分のことではなく、例えばオバマ大統領など他人に関する質問に答えることを志願者が選んだ場合、上限の4セントまで段階的に設けられた基準に応じて、志願者にお金を支払った。質問は例えば、その人物はスノーボードをするのが好きか、またピザにはマッシュルームをのせるのが好きかといったカジュアルなものもあれば、知性や好奇心、攻撃性といった個人的な特質を問うものもある。
ところが金銭的な動機づけにも関わらず、参加者は自分について話すことを好むことが多かった。本来得られるであろう金額の17~25%を進んであきらめ、自分について話すことを選んだ。
関連した実験で、科学者らはfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使用した。これは精神活動と結びついているニューロン間の血流の変化を追跡するもので、他の人について思考を巡らすのではなく、自分自身の信念や選択肢などについて話す際に、脳のどの部分が最も強く反応するかを見ることができる。
一般的に、セルフディスクロージャーを行うと中脳辺縁系ドーパミン経路に関わる脳の領域の活動が高くなる。ここは食べ物やお金、セックスなどで得られる満足感や快感と関係している部分だ。
だそうです。かなり根源的なもののようね。とすると自分について話していただくことはさして困難なことではないと思われる。病気について話すことは楽しいことではないから時に問診は難しい。これを応用して、自分の話したいことをいっぱい喋って弾みをつけていただくと、訊きたいことが出やすくなる可能性はあるな。
定期的に来られている方には、疾病と関係のない話から始める方がうまくいくことは経験則としてある。これをどれだけの患者さんに広げることができるかという話だけど、ただでさえ待ち時間はBig problem となってるからなー、会話能力を高めるしかないけどどうする?でもきっと一番怖いのは、話し出すと止まらなくなる場合だろうねぇ。