月別アーカイブ: 2011年10月

嗅覚を鍛える

 イグノーベル賞ってのがあるけど、これって十分、医学賞の候補じゃなかろうかね。

 大腸がんとおならの関係を研究したのは、歯科医で美白歯科研究会代表を務める山岸一枝氏と、名古屋大大学院工学研究科の八木伸也准教授。山岸氏は、歯周病患者の呼気に独特の臭気が含まれることから、その物質の解明に興味を抱き、成分を採取して分析するため、超微粒子を活用した触媒を研究する八木准教授に声をかけてスタートした。

 歯周病はがん発症と関連があると言われているが、2人はこの「臭気」ががんと何かつながりがあると考えた。そこで、実際にがん患者が発する臭気を採取、分析することにした。

 八木准教授に話を聞くと、「呼気だと不純物が多い」ということもあり、腸内にたまった「純度」の高いガス成分を調べるためおならを分析し、大腸がんとの関連性を調べることにしたという。近年、大腸がん患者は国内で増加している一方、自覚症状がないためがんを発見しにくいというのも、今後研究結果を役立てるうえで大腸がんを選ぶ動機づけになったようだ。

 おならの成分を吸着するため、ナノ粒子を備えた小型の基板キットをつくり、直接おならを吹きかける方法で採取。2005~07年に、22人の大腸がん患者からサンプルを得た。その結果、別途採取した健常者のおなら成分と比較して、腐ったたまねぎのようなにおいがする無色の気体、メタンチオールが10倍以上の高さで検出された。

 八木准教授によると、メタンチオールの量は食べ物によって多少は変化するという。実際にこの時も、健常者に硫黄分を多く含む卵を連日食べてもらったうえでおならを採取、分析した。メタンチオールの数値は上がったものの、わずかだったという。対照的に大腸がん患者の場合は、「極端に多い量のメタンチオールだった」と八木准教授は振り返る。

 この検査結果を元に、山岸氏と八木准教授のチームは、おならに含まれるメタンチオールと大腸がんとの関連性を論文にまとめた。2011年8月11日、論文は消化器系の病気を扱う英国の専門誌「GUT」電子版に掲載。さらには英科学誌「ネイチャー」の関連誌「ネイチャー・レビュー(消化器病学)」10月号でも取り上げられた。

 八木准教授は、ゆくゆくは「おならの検査」で大腸がんの早期発見につなげたいと考える。基板キットは簡単につくることが可能で、検査方法も痛みをともなわず手軽にできる。今後、おなら成分と大腸がんの因果関係がさらに究明されれば、初期症状のがんを発見する有効な手段になるかもしれない。「例えば人間ドックのひとつの項目におならの検査が取り入れられ、異常が見つかれば精密検査を受けるといったキッカケになれば」と、八木准教授は期待を寄せる。J-CASTニュース 10月22日)

 「ネイチャー」ですぜ。すごいですね。是非人間ドックのツールとなってほしいけど、検査の説明をするのは結構楽しそうだ。「今すぐいけますか?」と訊いたりして。キットをもって帰って出そうになったら慌てて捜したりしてね。

 以前犬の嗅覚を利用して癌患者を診断するというのがニュースになったことを思い出した。体内の異物というのは何かしら異臭を発するのか。感覚的にはうなずけるけど。嗅覚は五感の中でももっとも原始的な感覚であり、本来敵の匂いなど危険を察知するセンサーとして使われてきた(何かを察知したというのに、匂うって言葉を使いますね)。鍛えればかなり有用な感覚であろう。

 タバコを吸わなくなってから患者さんを診察して「タバコ吸ってるでしょう」とすぐ判るようになったが、もうワンランク上の嗅覚を獲得しなくてはならんな。どうすればいいでしょう?

そんな匂いますか?

あっと驚くコーチングセミナー

今日は日曜日だったが当院で念願のコーチングのセミナーを開催した。

講師は木村純子コーチである。カリスマです。午前10時から3時間、うちのスタッフを対象にNLPの講義、引き続いて午後1時から3時間、外部からの聴講者含めて42人を対象にコーチングの講義。ともにワークショップ形式で大変実のあるものであった。

木村コーチは数年前から日常的に着物を着用されておられるそうで、講義時もチャーミングな着物姿であった。イメージを思い浮かべることがいかに大切かという話をされた時、好きだという餃子を想像してくださいと彼女は、形、色、味、匂い、調理の音などをゆっくり想像させるように描写されたのだが、その言葉のあまりのイメージ喚起力のすごさに驚いた。プロだなー。

また基本的な相手の受容、賞賛を講義においても実践されておられるのにも感銘した。本当に気持ちがいい講義なのである。6時間の長丁場にも笑みを絶やさずどんな質問にも本当に丁重に優しく答えられる。後の打ち上げ会の振る舞いでも思ったが本当にカッコよすぎる人格者である。

冷静になるにはdissociateする(幽体離脱のように上から自分を眺める)、意識は脳、無意識は身体がつかさどっており、自分に注意が向きすぎているときは身体能力がうまく働きにくい(ゴルフだとよくわかる)、相手のリソースを引き出すために意見が言いたくなっても5秒待つ!受容する。集団でディスカッションする時、意見を述べにくい方にも話していただくために必ず1分間全員に話してもらう、それを守って全員にマイクを回す。など、個人的にちょっと勉強したNLP、コーチングなどのバラバラな知識、手法が、単に知っているというのではなくドン!と納得して腑に落ちたのである。これは全然違う。

聴講に来ていただいた方々からも、「目から鱗でした」「今まで考えたことなかった。明日からすぐ実行してみます」とか嬉しい言葉をいただいた。そして何より嬉しかったのは、うちの外来、介護のスタッフが本当に興味を持ってくれたことであった。打ち上げでも木村コーチを囲んで話が弾んだ。

ひとえに木村さんの人徳であり実力です。どうも有り難うございました。僕も男性版木村になりたいと思います(本当に)。またのお話を楽しみにしております。

苦痛の減るヨーグルト

 夜寝るとき、プロバイオティックスのカプセルを1つ飲む。簡単に言うと乳酸菌だ。ヘルシーパスの製品で有胞子乳酸菌といい、胃酸に負けないで腸に達して腸内細菌叢を理想的なものに変えてくれる僕のお気に入りである。サプリメント数々あれど一押しで、サプリ何がいい?と尋ねられるとまずこいつをお勧めする。

 いや、飲んでみればわかりますよ。2,3日で〇ンコが全然違うんだもん♪ 僕は前から便秘でもなんでもないが、うむ!と思わずトイレでうなったのである。効いてるなーというのがありありとわかるのです。サプリメントはリピーターが案外少なかったりするのだがこいつはリピーターが多いから、効果を実感している人が多いんだと思う。別に〇ンコが変わるというのが大事なのではなくて、腸内細菌叢の改善は免疫機能を強化し、アレルギーを抑え、抗がん作用を示すのである。それが目に見えるという話。

 で、乳酸菌関連でヨーグルトのこんな報告があった。

 アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークのジャビア・ブラボーが率いる研究チームはまず、普通の実験用マウスに、プロバイオティクスの豊富な餌を与えた。その後、マウスの行動を調べたところ、有意な変化がみられた。

 水中に落とされるなどのストレスの多い条件下にマウスを置いたところ、プロバイオティクスを摂取したマウスは、摂取していないマウスに比べて、不安に関連する行動を示すことが少なく、ストレスホルモンの分泌も少なかったのだ。

 この行動の変化には、ニューロンの活動を抑制する神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が関与している。研究チームがマウスの脳を調べたところ、プロバイオティクスを摂取していた群では、記憶と、感情の制御に関わる領域において、GABA受容体が増えていた(人間に投与される一般的な抗不安薬も、これと同じような効果をもたらす)。

 さらには、対照群のマウスで、腸と脳を結ぶ神経を切断したところ、上記のような変化はみられなかった。つまり、プロバイオティクスの豊富な餌を与えても、マウスのストレス徴候は緩和されなかったという。

 ほかにも、今年に入って、スウェーデンの研究チームが、マウスの脳の発達に腸内細菌の存在が影響していることを明らかにしている。フランスの研究チームも、人間の被験者にプロバイオティクス食品を30日間、多量に摂取させたところ、「心理的苦痛」のレベルが低下したという研究を発表している。

 うーむ。不安、心理的苦痛が減るのかー。いいじゃん。心労の多い私にはぴったりでそれで気に入ってるのかもしれんな。

 乳酸菌、プロバイオティックスは腸内に十分達しないものもあるのでよく調べてから購入くださいね。

100歳の誕生日

 この10月4日は日野原重明先生の100歳の誕生日であった。

 皆さんもご存じのように日野原先生は聖路加国際病院の理事長として現役でお仕事をされており、それ以上に種々のお仕事、講演等大変お忙しく過ごされている。今度抗加齢医学会のゲストスピーカーとして来ていただくのだが、会長がアポイントのお約束をした時、4年先までいっぱいとのことだったそうである(しかし来年の総会には来ていただくことになった)。

 「食事では、30歳のときの体重を維持するために1日1,300キロカロリーまでと決めています。朝食はアップルジュースにティースプーン4杯分のオリーブ油を入れたもの。昼食はクッキー3枚と牛乳。夕食では週2回、脂身のないステーキを食べ、大きな魚は週に5回とっています。それからお皿いっぱいのサラダも。朝食をきちんと食べた方がいいという人もいますが、私の場合は夕食に比重を置いたいまのペースが体に合っているんです。」
(長寿の原則であるカロリーリストリクションを以前からされているわけである)。

 日々の睡眠時間は4時間半、週に1度は徹夜をするという生活だったが、96歳にして徹夜をやめ、睡眠を5時間に増やした(睡眠時間の必要度は個人差が大きい。うまく午睡を取っておられる気がする)。病院ではエレベーターを使わず階段を上り下りする(ニッチな運動は必須である)。

 「それから、新しいことにどんどん挑戦することです。人間には22,000の遺伝子があります。それを目覚ませるには新しいことを始めるのが一番いい。」

 とまあ抗加齢医学の歩く教科書である。朝日新聞の誕生日記念インタビューを読んでいたのだが、驚いたことが一つ。

 「どうすればチャーミングな笑顔がつくれるのか、鏡を見て練習しているの。笑いすぎると目がなくなっちゃうから気をつけないと。それから週1回、エステに通っています。ちゃんと顔のマッサージをしているからシワが全然ないでしょう。おしゃれ心も大切ですよ。今日は紫のネクタイに、ポケチーフをコーディネートしました。女性からも好評ですよ。」

 うーむ。勿論露出の機会が多いからであろうが、100歳にしてこの感覚はやはり只者ではない。当たり前だが自分を見切ってない、こんなもんと思わず、100歳であろうが150歳であろうがちゃんと外見に気を配る男性。

 おみそれいたしました。少しでも近づきたいと思います。

はっはー!

 

満足すんなよ!

 スティーブ・ジョブス氏が亡くなった。朝外来に降りたとき、チーフのジェットO嬢が顔を見るなり教えてくれた。

 彼とは同じ年である。ビル・ゲイツ氏もそう。ともに及びもつかないが、圧倒的にスティーブ・ジョブスが好きであった。

 この前、ある会で、そこそこ成功し、適当におしゃれで、ちょっと傲慢な、僕と同年輩くらいなオジさんたちの集団を見た。その時、まさに稲妻のように僕の心にジョブスの、あの有名な科白がひらめいたのである。

 Stay hungry, stay foolish

 「それくらいで自己満足してんじゃねぇよ!」

 スタンフォードの学生たちに向けられた言葉は、実は僕らくらいの世代が噛み締めるべき言葉である。

 心よりご冥福を。

 

遊びのレッスン

 毎日の仕事に追われ、時間がぶっ飛んでいく。こんなもんだと思っているが、暇だと困るだろーと思っているが、このまま年を食っていくのもどうなのかな。

 「ライフ・レッスン」という本がある。サナトロジー(死の科学)のパイオニアで、ベストセラーになった「死ぬ瞬間」の著者である精神科医、エリザベス・キューブラ・ロス氏が、ご自身が脳卒中で半身不随になってから書かれた本である。タイトル通り死に面した彼女の今までの経験、考えを、レッスンという形にして、いま生を謳歌している人々に教えてくれる本である。最初に読んだとき、これはとても一気に読めないなと思い(ヘビーだからというのじゃなく、あまりにも納得できる言葉が多いから)、ちょびちょびと折にふれ読んできた。読み終わっても勿論売ったりせず、僕の最重要図書の1冊であった。

 最近なぜか手に取って読み始めた。情けないことにほとんど覚えていない。それだけ新鮮である。

第10章「遊びのレッスン」。

死の床にある人を見ていると、人間にとって遊びたいという欲求が果たす役割がはっきりわかってくる。彼らが愛する人と話している内容は、ともに分かち合った遊びの時間、楽しい時間の記憶にまつわるものである。人生の最後にあって、遊びはそれほど重要な話題になりうるものなのだ。

自分の人生を振り返った時、彼らが一番後悔するのは「あんなにまじめに生きることはなかった」ということなのだ。長年、死の床にある人たちのカウンセリングをしてきたが、「週5日でなく6日働けばよかった」とか「1日8時間でなく9時間労働をしていれば幸福な人生を送れたのに」という人は一人もいない。誇りを持って仕事の成果を語る人はいるが、そんな人でも人生の最後には、仕事の成果以上のものがあったのだということに気付く。仕事の成果に匹敵するほど充実した私生活がなければ虚しい人生になるということを発見するのである。

 ぼくは仕事が面白ければいいんじゃないのと思った、最初は。仕事と遊びが等価だと一番いい。それが理想。仕事って一生懸命やるとこんなに面白いものって無い。ゲームと同じようなスリルや達成感を実生活のレベルで味わえるんだから。

 しかし、今はやっぱり仕事と遊びは違うんじゃないかなと思う。

 自分の益にならないことに熱心になること。好きで面白いから、お金がかかっても頭を使って工夫すること。単純に面白いと思ったり美しいと感嘆したり、うっとりしたりすること。生産性の高い人生を目指すなら無駄?

 いいや、そんなことはない。「神は細部に宿り給う」という言葉があるが、こういった人生の些細な時間がその人間の一番深い部分ー魅力だったりソウルだったりーを形づくっているに違いない。

 という訳でせっせと遊びことにした。遊ぶのは時間を作り出す工夫、情熱、そして体力、気力が必要なのだよ。結構難しいぞ。

ロス氏

 

This week

10月1日、朝愛犬の散歩に出たら突然秋になっていた。風に夏の湿り気はなく、金木犀の香りが漂っている。今年の夏よ、バイバイ。

 

今週は勉強会が2つ。

木曜日に夜の8時過ぎから10時まで城東区医師会館で「肺がん」の画像を中心とした勉強会。済生会野江病院放射線科部長の大中先生がコメンテーターの形で参加され15人程度が参加。

城東区医師会学術部の主催であり、主として呼吸器専門の先生方がご自分の症例を紹介、意見を交換する。若い先生方が多かったが、その勉強熱心なこと、博識、読みの鋭さに感銘を受ける。

自分の読影の甘さをしみじみ反省。患者さんのマネージメントの仕方も勉強になった。時間が遅いので正直どうしようか迷ったのだが参加してよかったです。

 

土曜日は某製薬会社本社重役会議室(32階ですごい景色、すごい設備!)で関西医大付属枚方病院心臓血管病センター内科、湯浅文雄准教授の講演の座長をする。

「高コレステロール血症患者さんの最前線治療戦略」。大学のデータを中心に有益な面白い話を聞く。

心筋梗塞症例は実際LDL(悪玉コレステロールですね)が高くない例が多い(これは常識に反するデータ)がLDL/HDLは圧倒的に2以上であり、やはりこの比が心血管イベントの予測に有効なのでは、とか、スタチン(高コレステロール血症の薬ね)使用例は予後がよく炎症反応の抑制効果が大きい、特にストロングスタチンは、といった話題の話。LDLは新生児の値である50mg/dlまで下げてもいいのではということであった。

少人数の会で僕自身の疑問点も沢山訊けて満足しました。


こういった会に出ていると、参加される先生方はかなりかぶっているということに気づく。出る人は常に参加し、出ない人は出ない。また別の情報収集の仕方があるのだろう。

会に出るのは人に会うのと一緒で最初はおっくう。でもいざやってみると得ることが多いケースがほとんど。糸井重里氏はこのことを入浴に例えていた。風呂に入るのは最初はおっくうでも湯上がりを後悔したことはないと。

出来る限り出るのが義務と心得ておこう。しかし参加された先生方の名簿を見ると僕より若い先生ばかりで何となくフーンと思う。昔はどんな会でも最年少のことが多かったんだけど最近は圧倒的に最年長。まあ深くは考えまいよ。