第23回なにわNST倶楽部で発表してきた。
NSTとはなにか?
NST:Nutrition Support Teamのことで、職種の壁を越え、栄養サポートを実施する多職種の集団のこと。栄養サポートとは、基本的医療である栄養管理を症例個々や各疾患治療に応じて適切に実施することである。なにわNST倶楽部は食道楽の会ではなく(そんな感じだ)、大阪市立医療センター、消化器センター部長の西口幸雄先生が中心となって出来たNSTの勉強会である。医療の領域で実は栄養部門は結構なおざりにされてきたのである。医学部での授業時間も少ないし。しかし近年栄養の重要性が見直されてきた。
本来NSTは病院内で実施されるものがほとんどで開業医とは関係が薄いともいえるが、在宅診療をやっていると患者さんの栄養管理は切実な問題で、歩けない患者さんは圧倒的に栄養不良が多いのである。病診連携(病院とクリニックが患者さんのことで連携すること)のこともありNSTとは無関係でおられない。で僕は知り合いのお声掛けもあってどういうわけか世話人となっているのだ、といっても偉そうなことは言えない、たまに参加すると「お久しぶり!」の声がかかる不良世話人なのである。
今回はPEG(経皮的内視鏡的胃瘻造設術)の適応が話題となっており、開業医の立場からお話をしてきた。胃瘻とは経口摂取できない人に腹壁から人工的に食事を入れるカテーテルを装着して栄養を送り込むシステムである。簡単安全で一気に普及したのだが、本来本当に必要か考えなくてはいけない人、たとえば末期の癌だとか重度の認知症だとかの患者さんにも多く増設された時期があり、今その適応が問題となっている。
僕は在宅診療でPEGを装着された認知症の患者さん–かなり高齢ですでに意識もないのだがPEGにより栄養補給が万全なため、ご家族の献身的な介護もあって数年間同じ状態が続いている–を数例あげ、このまま続けることの意味をどう考えるか、問題提起をさせていただいた。批判ではない。
去年NHKで放送された「胃瘻の功罪」という番組以来、胃瘻をすると死ぬこともできないという誤解が広がっており、昨年から胃瘻造設術は日本中でかなり減少した故。適応もなく胃瘻を作ることは問題であるが、それがために本来生きながらえて治癒に向かう可能性のある人さえもご家族が断るという事態も起こっている。日本には今ちゃんとしたアルゴリズムもできて、いい加減な形で胃瘻造設術はおこなわれていないし、途中中止の規定さえも出来つつある。欧米は重度の認知症へのPEGは否定的だが、日本では認知症でも時期を問わず予後がいいというデータもあり、事情がかなり違う。死生観とか宗教も。慎重に考えなくてはならない。
結論として意識のある場合はご本人、ない場合はご家族とどれだけ深い意思疎通ができているかという問題になる。簡単にアルゴリズムで決めるのでなくケースバイケース、テイラーメイドの考え方が必要となるのだ。欧米の受け売りでなく日本独自の考え方で。
いろいろ考えることのできたいい会でした。午後9時過ぎまであったのですが、140人以上の方が参加されていて、特別講演に来られた西美濃厚生病院の西脇伸二先生が「大阪はすごいですねぇ、岐阜では熱心にプロモーションしてもこんなに集まりません」とのこと。
関係者の皆さん、お疲れ様でございました。