カテゴリー別アーカイブ: 医療編

そろそろお開きでございます。

さぁーてと。

Pearlsも今回が最後となりました。長年のご愛読有難う。おいおい、シリーズものが始まったんじゃないんかい?とお思いの、鋭い方もおられるとは思いますが、(いないか?)まぁ、それはおいといて。

実は今度の診療所の移転に伴いホームページも一新することになった。今どのような形にするか、部会を立ち上げて進行中であります。その段階で、Pearlsとブログの「外来ウォッチ」を併せることになったのである。内容がかぶる点があるというのが主たる理由ですが、平行した形で書くのも僕の能力(頭脳的、時間的に)を超える感があり、僕としては愛着があるのですがブログのほうを一層充実させることに決めました。

Pearlsは古語ですが、小さな宝、美しいものという意味で、医療や介護におけるちょっとしたいい知識を披露しようということで始めたのですが、もって生まれたキャラクターから内容が拡散していき、ちょっとフレームがわかりにくくなりました。でも今読み返してみると結構悪くないというか、自分でも考えて書いているなと、前のほうが頭よかったんじゃないかと、ちょっと思ったりもする。

ブログも新しくなりますが、今までのPearlsは読んでいただけるように、新しいブログの何処かに残ることになっています。ブログでも新Pearls 1粒目、2粒目という感じで、医学や介護のちょっと知ってるといい知識という感じで続けるつもりです。

新しいブログですがタイトル一新!!内容はいっしょ・・・。オールドワイン、ニューボトルであります。
タイトルはね・・・「ソウル・チェリシュ! Soul Cherish !」チェリシュとはいろんなもの、人、もの、感情などを愛情こめて大事にする、育てる、持ち続けるということであります。そういった気持ちを強調したタイトルだな。文法的には変かもしれない。でもいいや。

I cherish Pearls です。
今までどうも有り難うございました。
これからもこれまで以上のご贔屓を、よろしくお願い申し上げます。

30 ways to be トヨエツ! part 2

第2章 自己認識は鏡でね。

あなたの自己認識は、食べたとたんに血糖値が300まで上がりそうな安っぽいデコレーションケーキより甘く、そして15年はいたパンツのゴムよりもゆるい、というのが相場である。

それはK氏とて例外ではない。ゴルフのフォームをビデオで見せていただいたとき、はっきり言ってもう止めようと強く決心したのだが、せっかく買ったゴルフセットのことを思い出し、泣く泣く思い留まったのである。まあ、今から思えば止めないでよかった。フォームはあんまり変わらないけど生活におけるライフラインを自分で切ったことになるからである。まっ、フォームよりスコアよ、スコア!(といってもこちらも公開できる値ではないが)

このことから判るように、自分のことを知りたかったら自分の姿を直接見るのが一番だ。

年齢はどこに出るか?某女性によれば背中だそうである。背中つまり後姿である。普段意識しない後姿、意識しない分年齢がそのまま出る。それは静止しているときよりも、動いているときに顕著である。

では後姿をビデオで撮ってもらおう、といってもこういうのは案外難しいが。最近は携帯電話でも動画が記録できるから、頼める人がいたら短時間でもいいからこちらが意識しないときに歩き方を撮ってもらおう。

見た瞬間に血の気が引くと思うけど。

他人に頼るのがいやだったら、自分で鏡で見る。自然に立っているとき、歩いているとき、その姿を見る。どうすれば自分で納得できるか、修正を加える。

形だけ直してもそれが若さを保つことになるんですかー?
もっともな質問だ。しかしそれがなるのである。
一つは意識付けの問題。前回でも言ったがこうありたいというイメージを持つと持たないでは大違いである。1年経てば雲泥の差。そのために意識する。

もう一つは、いい姿勢、歩き方というのは全身の筋肉を活性化し、結果的に若さを保つことに寄与するのだ。歩くというのは、とくにトボトボじゃなく背筋を伸ばして颯爽と歩くというのはかなりいい筋トレなのである。

ちゃんと出来ているか、結構まめにチェックすること。

男にとって鏡を見る時間ほど個人差のあるものは無いだろーなという気がする。若い奴は必要以上に気にするが、いい年になると極端に鏡と縁のなくなる人が増える。ナルちゃんじゃないよ。身だしなみのために鏡は必要だ。全身とともに、顔とか他のパーツも鏡でチェックすることを心がけたほうがいい。男性より女性のほうがいい年になると若々しい人が多いのは鏡でチェックすることが習慣になっているからではないかな。

まず、自己認識は鏡を見る時間を増やすこと。といっても1日30秒以上見ることはまず無いK氏ではあるが。

30 ways to be トヨエツ! part 1.

第1章:まず目標を定め・・・

K氏53歳。年齢のことを考えるとクラクラしてくる。10代の時には限りなくご年配、初老ですねーと感じていた年齢に自分がなっているのだ。「若いですね!」と言われたりすることも無いではないが、20代の若者と比べるとその擦り切れ具合、よれ具合の程度は自分でもはっきり意識している。明白だ。少し悲しい。考えていることはあまり違わないのに(多分)。

ご同輩の中にはどう見ても同じ年とは思えない人を多々見かける。完全に爺さん化しかけている。「これは危ない!」K氏は危機感を覚える。

なにが違うのか?

若く見える人、見えない人との違いは簡単なことだ。そうありたいと思っているか、そんなことに興味が無いか、それだけだとK氏は思う。だらしなく腹を突き出しヤニ臭い歯をむき出して笑う友人は言う。 

「今更別にええやん」。

そうかな?若く見えるとちょっと生活が楽しくなるかもしれないぞ。人間は美しいものが好きなのだ。それに大事なポイントは、外観は往々にして身体の内部の状況を反映するということだ。研修医の時、恐ろしいくらい怖かったアメリカ帰りの講師が言った。「外観はそいつの血管の状態を反映するんや。若く見える奴は血管も若い。年取って見えるやつは動脈硬化もきついんや」。そういえば動物実験で雑種の犬を開胸していたとき(今は雑種の犬は使わない)、汚い犬は胸腔内も汚かったな。肺炎の後とかあったりして。

体の中と外の美しさは相関する。・・・セオリーだ。K氏は思う。

若く美しくありたいと思うこと。目標がないとどこにも行き着けない。ゴルフでも、あそこにボールを落としたいという明確な意志が無いと、やみくもに棒を振り回したところでちゃんと飛ばないぞ。まっ、僕の場合は明確な意志があってもちゃんと飛ばないが。そいつはきっと道具のせいだ、そうしとこう。

病気にならなければいいというのは消極的な考え方だと思う。とりあえず合格点を取ること。「無事これ名馬」という言葉もあるし、病気にならないだけでも50歳を越すと立派なものだが、積極的に健康を意識してやっとそのレベルだ。できるなら95点くらいは目指したい。

10年後の自分をイメージしてみる。そいつは結構今の自分を反映しているはずだ。そのイメージは満足できるレベルかな?違う?では満足できるイメージを作ろう。

K氏は考える。やっぱり姿勢はよくなくっちゃな。出来れば髪の毛が淋しいのも避けたい。太ってるのは論外だ。運動神経がいい感じがいいな。新しいこと、物に関して柔軟である。しかめっ面、うっとおしい表情じゃなく、いつも微笑んでいる雰囲気で、勿論めちゃ健康だ・・・

K氏は夢想するが今の自分はどうか、自己認識は甘い。買いかぶりの傾向あり。
冷徹に自己の状態を把握すること。まずそれからだ。

次回は自己認識の方法について。

メタボと男性ホルモンの深い関係

あー、前回の続きを書こうとしていたのですがあまりにもあいだ空き過ぎ!

少し気分を変えてメタボリック症候群のことを少し書きます。抗加齢医学のことに関連して。

抗加齢医学なのですが、最近はアンチ・エイジングではなく、ヘルシー・エイジングとか、プロ・エイジング(プロは賛同するとかの意味の接頭語です、多分。プロフェッショナルの意と解説しているブログがありましたがまさかね)と言い換えることが多くなってきました。年をとることは誰にも止められない、だとしたら「抗する」というよりもいい感じで年齢を重ねようという肯定的な言葉のほうがいいというのが理由でしょうね。聖路加の日野原先生が日本での提唱者のようですが、しかしまだあまり一般的ではないな。

で、最近のちょっと話題はメタボリック症候群と男性ホルモンとの関係です。

男性更年期という言葉も一部ではポピュラーになってきていますが、女性の更年期同様、ほてったり、いらいらしたり、欝っぽいというのが男性にもみられます。これは多くは初老期の鬱と片付けられてきたのですが、実は男性ホルモン、テストステロンの欠乏症状であることがあります。そしてこういった方の90%はED(わかるね?)といわれています。

血中テストステロン値は個人差が非常に多いのですが、50歳代の12%、60歳以上の28%が平均以下との報告があります。興味深いのはテストステロン値の減少は内臓脂肪量と逆相関するのです。つまりメタボリック症候群ですね。昨年のアメリカ内分泌学会年次総会でテストステロンの低い男性(平均73.6歳)はメタボリック症候群のリスクが3倍高いと報告されています。臨床的にテストステロンを補充すると、筋肉量は増加し、体脂肪量は減少する。

メタボリック症候群はつまりは血管の病気です。動脈硬化が進行する。Nitric Oxide(NOと略し一酸化窒素です。体内で重要な働きをする)減少病とも言うこともできます。NOは血管、筋肉を弛緩させますが、その不足の最初の兆候としてEDが現れるとされています。EDは将来の心筋梗塞、脳卒中の危険信号であり、アメリカでのED患者27万人の統計では、高血圧、高脂血症の合併がともに42%、糖尿病20%、うつ病が11%と報告されています。

つまりEDの多くに合併するテストステロン減少は、男性の将来の健康状態を暗示するといえるのですね。メタボリック症候群の診断をするとき、EDの有無は結構大きなファクターと思いますが日本では全く無視されています。なんか話題にしにくいのですね。僕のところの外来にED治療薬を求めてくる男性は結構高齢の方が多く(看護婦さんがいても平気!)、もっと若い人は恥ずかしいためにネットとかでいい加減な薬を求める傾向があるという報告があります。みんな気にしないで来てね!

ここまで読むと、テストステロンを増やしたい!悩み多きあなたならそう思うはず。

実は特効薬があります。それは「定期的な運動」。なーんだと言うなかれ。日本の厚生労働省の調査では高齢男性に軽度の規則的な運動を行った場合、テストステロン値が1.5倍に上昇しています。日本でもやってるんだ。目下のところ有酸素運動に少しの筋肉トレーニングを加えたあまり激しくない運動というのは、プロ・エイジングにとって最強のツールのようです。

テストステロン補充という手もあり、筋肉注射が一般的ですが、最近抗加齢医学会で、手に塗る簡単なゲルの製造法が公開されました。実は僕のところでも製造に半分着手しており、また成果をお見せすることが出来ると思います。使いたい方は予約を!おっと、その前に血中テストステロン値を測りましょう。

こういったことに着目したメンズ・ヘルス・クリニックは少しずつですが増えつつあり、僕の診療所でも開設準備をしています。お問い合わせはメールでどうぞ。ちょっと宣伝でした。

都市伝説その1

都市伝説というのがありますね。口裂け女とか東京の地下には巨大な地下通路が建設されているとか、ありえないようでも、でもひょとしたらと思わせるような、明らかな目撃者もしくは関係者は同定できないんだけど確実にいるような感じ。ちょっと街の暗闇が深くなるような。うー。まっ、結構好きですこういうの。

医学界に都市伝説はあるか?

あるんだなぁ、これが。British Medical Journal 2007;335:1288-1289はMedical Myths・・・医学的伝説?として7つのサブジェクトを取り上げ検証しています。BMJのような、ちゃんとした医学雑誌にこのような話が載るというのが、なかなかイギリス人、大人やねー、さすが、という気がします。

で、その7つとは、①健康のため1日に少なくともグラス8杯の水を飲まなくてはならない ②人間は脳全体の10%しか使っていない ③髪の毛と爪は死んでからものびる ④髪の毛を剃るとかえって濃くなる ⑤暗いところで本を読むと目が悪くなる ⑥7面鳥を食べると反応が悪くなる ⑧病院での携帯電話の使用は問題となる電磁的干渉作用を起こす
・・・であります。

⑥はあまり日本でなじみがありませんが、他の項目は結構世界共通なんだなーと思いますね。①⑧なんかは、えっ、これ違うのか、という気さえしますが、これらはいずれも正しいという明らかなエビデンス(証明する確かな論文)は無いのですね。これを書いたVreeman先生とCarroll先生は、間違いであるという証拠を探すのは難しく、まずこれらをサポートする証拠が見つけられなかったということであると書かれています

正直なところ短いペーパーであり、簡略すぎてもうちょっと調べりゃ別の話が展開する感じもするのですが、ちょっとサマライズすると・・・

① は1940年代に1日2.5リットルの水分を取るといいと書いた論文があるのですが何分昔ことで根拠もない。以後水だけでなくすべての飲料水(ジュースやコーヒーなども含んで)あわせてそれぐらい飲んだほうがいいというのはあるがいずれも確かな証拠は無い。水分の取りすぎは水中毒、低ナトリウム血症、死を招くという論文はある。飲んだ人、飲まなかった人で比較したペーパーなんて不可能だろうし確かにエビデンスは無いか、と思います。経験則ですかね。多く飲むと過量な分は尿として出て行くのですが、体内にある不純物というか有毒物質がウォッシュアウトされるので水分は多く取れと推奨するドクターも多く(それも多分エビデンスは無いな)、今のところ血液が濃縮する程度まで水分を取らないのはいけない、血管が詰まる可能性があるから、という位しか言えないと思います。しかし実証していないだけで経験則は侮れないとも思います。

② は最近の脳科学の進歩よりあらゆる方面からみて10%以上は使っている。むしろ脳のあらゆるエリアで使っていないところは無いというのが実情のようです。天才に対する凡人のやっかみが幻想を生んだか?むしろ使えば使うほど良くなるという(これは事実)ことを言いたいのでしょうね。

③ こんなことはありえない。死後脱水のため皮膚が萎縮しそう見えるのだそうです。だけど向こうでは一般的な話と捉えられているのでしょうね。ジョニー・カースンが「死後3日の間、髪も爪も段々と増える。でもかかってくる電話は段々と減る」というジョークを言っていたそうです。

④ これも見た目だけの問題で、皮膚科的には剃ることの刺激で毛根が活性化することはありえない。剃った後はえてくる場合、もともとの毛より周辺部の輪郭がシャープに見える、また日光で脱色していないため濃く見えるなどが原因では、とのこと。

後の3つの検証はまた長くなるので次回に。
しかしどの世界にもある都市伝説。なんとなく信じているが全く事実と違うことというのも日常生活で頻繁に実はある。疑って調べることの重要性を教えてくれたのが、実はこのペーパーの一番いいところかもしれん、と思います。

愛だよ、愛!

 本を読む。山川健一「ヒーリング・ハイ」。本棚に会って、以前読んだとき結構影響を受けた。なんとなく気になり再読。10年以上の前の本かーと、発行年月日を見て驚く。2,3年前の感じがしていた。

 山川健一氏は僕より2つ上の作家でありロック・ミュージックに造詣の深い人(バンドもやっていた)。今では結構こういう人が多いがそのはしりのような人だ。何冊か読んでいるが、僕の高校時代と同じあだ名の主人公(タイトルになっている)の話が面白かったかな。後はこの本だ。

 山川氏はある日突然オーラが見えるようになり、彼自身驚くがそのことから精神世界の勉強を始め、その結果彼が得た、ある種の結論を書いた本である。ノンフィクションであり、実話である(書きっぷりからもオーラが見えるようになった彼自身の戸惑いがよく判る)。相対性理論、宇宙論からホーキング、ライアル・ワトソン、そしてラブロック博士の「ガイア仮説」など、もっと専門的なものも含めてよく勉強されているが、結果として彼はこの世界だけが総てではない、人間だけが唯一のものでない、肉体と精神はもっと大きな根源的なものにつながっているのだという感覚を持つに至る。

 宇宙の存在は本当に不思議なものだ。なぜあるのか、どういう構成なのか、その存在を考えると、確かにこの地球は何か大きなものの一部分で、人間はその中のほんのほんの一部分で、僕たちが自分で考え行動していると思っているのも、実は大きな生態系の中で、目に見えないようなささやかな動きなのかもしれない。悩みや苦しみなど、実はそんな風に感じることなど間違っているのかもしれない。お金や法律とか、それはシステムでありツールであり、本質的、絶対的なものではないのだ。昔から晴耕雨読など、世捨て人がいたが、彼らは俗世間が仮の姿と本能的にわかっていたのかもしれない。最近の宇宙論は、人間の精神が本質的に宇宙とつながっているような結論を出している。

 なぜ僕がこの本を急に再読したくなったのかわからない。所々ああ、あったっけと思うところがあったけれど、ほとんどが新しい本を読むような気持ちで読んだ。で、大いに共感した。読むべきタイミングだったのかな。読むべくしてよんだのだ、きっと。最近診療所の移転や諸々の手続きで、現実生活のシステムにやや疲れていたのかもしれない。・・・・・大事なのはね、愛なんだよ、愛。・・・・・これが結論。何でこうなったのかは本を読むように。山川氏は「ヒーリングとは楽しむこと」とも言っている。これにも共感。生活、人生の行動指針の1番目に「愛」をおくこと。これが僕のこれからのマニュフェストであります。

血圧マニア

 「先生、血圧が!頭がフラフラするー!死ぬかもしれない・・・」
「まあ落ち着きなさい、大丈夫だから。ふーん、170/95 mmHgね。確かにちょっと高いな。」
「でしょう!昨日の夜からずーと1時間おきに測っているんです!」
「本当に1時間おきに測ってるの?寝たんですか?」
「寝れるわけないじゃないですか!心配で30分おきに測ってたかも知れない。そうするともっと血圧が上がってきて・・・」

 これはある日の患者さんとの会話である。内科医、循環器医なら誰でも経験がある会話である。すこし体調が悪い、血圧でも測ってみるか、やや、高い・・・もう1度。やはり高い・・・もう1度。いやもう1度、下がるまで・・・

 この方の場合はそのまま眼を閉じて休みましょう、というのが正解だと思います。動脈瘤とか、高血圧を放置してはいけない疾患をお持ちの方は確かに急がなくてはならない。しかし多くの患者さん、特に心配性の方、白衣性高血圧の傾向のある方(医療機関に来ると血圧が上がる方)は少々血圧が高くても横になってお休みになると大概下がってくる。降圧剤よりも安定剤のほうが有効なケースが多い。心配で何度も測っていると必ず血圧は上がる。これはデータでも実証されているのだ。

 血圧の測り方にも慣れがあって、Blood Press Monit 2001, 6(3):133-8のカナダ、カルガリー大学からの論文では、ベテランの看護師さんと患者さんの自己測定を比較すると、収縮期圧で約10mmHg、拡張期圧で約2mmHg自己測定値が高いとされている。

 血圧は1日中変動している。起床後高くなり、また落ちついて午後1時ごろに向けて上昇し、また下がって夕方また高くなるというデータが平均的と示されている。大体40から最大80mmHgくらいまで変動がある。興奮したとき、運動時は普通の方でもかなり高くなる。その変動があるから血管の柔軟性も保たれる。

 ゆえにある一時の値のみを捉えて危険というのは難しい。またアメリカの心身医学学会では「“高血圧”と“血圧が高い”というのは別の疾患プロセスであり混同すべきでないというのを再認識する必要がある。“血管運動の不安定性”という現象を疾患と混同してはならない」とするステートメントを出している。外来に来られても高血圧であると診断するのは案外難しい。最低、日を変えて3回測って投薬はそれからというのは教科書的はことであるが、それでも投薬してすぐ血圧が下がり、薬をやめてそれが維持されていることも多い。一時的な血圧上昇だったのである。仕事や家庭のストレスで血圧はすぐ上昇する。僕自身の経験から言っても環境の変化で血圧は結構変化するのだ。5,6年前僕は降圧薬を2年ほど続けなくてはならないくらい血圧が高かったのだが、環境の変化(それだけじゃないけど。運動しだしたのも大きいかな)で今は必要ないしPWVなんかでも動脈硬化のサインはまったく認められない。心理的な要素は大きい。

 高血圧は心身症といってもいい要素があるし、またそれで本当に状況を悪くしていることも多いです。自己測定は大事だけど、とりあえず高くてもあんまり慌てないようにね。大丈夫。

禅ライフ

 「禅ゴルフ」(すごいタイトルだなー)という本を読んでいます。実は2回目で、遥か彼方に読んだときは経験不足もありあまり理解していなかった気がしますが、なんとなく引っかかるので本棚に残っていました(この春に書籍の大量処分をした)。

 今読むとすごく心に入ってきます。ゴルフだろ、と言うなかれ。著者はジョセフ・ペアレントというアメリカの心理学者でチベット・シャンバラの教義と仏教のスペシャリスト。PGAのトレーナーでもあり、1番弟子がビー・ジェイ・シン(すげー!)だそうです。やってみるとわかりますが、ゴルフはメンタル・コントロールできないと上達しない。自信、安心があればミスショットしない。不安、自己不信が破滅を招く。普段のあなたの生活と同じ。著者自身も言っています、この本は人生にもあてはめることが出来るのだと。

 その中で「イメージ」の重要性を述べている章があります。「イメージ」は「視覚化」ではありません。そこには触覚や聴覚、嗅覚も含まれる。いかにありありと現実に近く想像するかということです。意図したイメージをはっきり心に描けば身体はそれをなぞるように実現しようとする。ロングパットの時、入るわけないと思って打って入るわけがない。ボールが動く軌道を想像しホールに吸い込まれるイメージが出来たらそれを信じて確信して打つこと。こう構えるべきとか、マニュアルのように言葉で考えても身体は硬くなるだけでスムースに動きません。

 最近PETで脳の活動を調べると、身体でイメージした部位に対応した脳の領域が実際に血流量が増えると報告されています。あなたが身体を動かさないでも思い切り右手を握り締めたイメージを描くと脳の右手の運動野が活動するのです。実際に動かしているのと同じように。

 サイモントン療法というのがあります。放射線腫瘍専門医のカール・サイモントン博士により開発された癌のイメージ療法です。同じ重症度、同じ治療でも患者さんにより回復度が違う。どうもそれは患者さんの病気に対する態度、精神的な受け止め方に左右されているようであると気づいた博士は、リンパ球が癌細胞を攻撃するというイメージの訓練をすることにより癌細胞が退縮する場合があるという信じられないような結果を得ます。それを発展させて癌のみならず多くの病気にイメージ療法が適応され効果を上げています。

 イメージすることで実際にそれが実現する可能性がある。これは目標を定めよということかもしれません。目標がなければ何も実現しない、しようがない。目標がリアルに想像できればできるだけ実現の可能性が増す。精神が、そして身体がその方向に動いていくのです。

 患者さん、特に高齢の方を診ていて感じることは、とにかく不安の強い方が多いということです。杞憂としか思えないことを一日中考えておられ、その結果体調不良に陥る。ますます不安になるという悪循環に陥っている方が多いようです。バッド・イメージの典型です。大事なことは自分自身に対していいイメージを持つこと。望ましい生活のイメージを抱くことが実生活の改善につながるのです。高齢であるということは生活を変化させるのに遅いというわけではありません。禅ゴルフではなく禅ライフ。瞑想できればいいですがそうでなくてもいいイメージを持つ時間を作ること。まずこれから始めたら体調も変わっていくと僕も信じています。信じるものは救われる。鰯の頭も信心から。これらも同じことを言っているように思います。あきらめず、まず良くしていこうというポジティブな気持ち、目標を持つこと。成功を祈る。(おお、なんか今日は教祖みたいだ!)

パワーリハ・re-mix

春だなぁ。桜もなんだか今日で終わりの感じです。薄くけぶった春の風の中、ゴルフの打ちっぱなし(車はもち、オープン)と犬の散歩に出かけたのですが、後はおとなしく第6回パワーリハビリテーション学術大会に出す演題の抄録を書いていました。で、いろいろ勉強し直ししていたのですが、もう一度おさらいというか、パワーリハのエッセンスをまとめてみよう。

パワーリハビリテーションはその名前とジムに置いてある筋トレ機器のような外観のマシンのせいで、相変わらず筋肉トレーニングと思われており、「高齢者に筋トレしていいのか!危なくないのか?」といった誤解から解放されていないように思います。パワーリハは筋トレではない!ぜーんぜんちゃう!というのがやっぱり一番大事なとこかな。ではなにか?パワーリハはヨガです。いいですかー、皆さん。ストレッチと言ってもいい。

僕はアキレス腱を切って手術してからもともとあった股関節の故障が悪化して、結構歩行もままならない状態が続いていました。で、ある時パワーリハをやったのですが、終わったその瞬間から足が軽くなり、歩行に力が要らなくなる、リラックスした感じがして驚きました。今やっても同じように感じます。パーキンソン病の患者さんで、同じように終了後から急に歩行状態が改善する方が居られますが、その効果が筋トレで得られるわけがない。低負荷の反復運動による筋の脱力、協調運動の改善が考えられますが、これを日常的に繰り返すことにより神経—筋肉連関の再構築が起こり動かしやすくなるのです。

筋トレはレジスタンス運動であり、無酸素運動です。パワーリハは有酸素運動であることが証明されており、血圧の低下、糖尿病の改善が起こります(当院でも経験済み)。今それ以外にも心臓疾患、呼吸器疾患のリハビリにも有効と報告されています。つまりキモは、本来有酸素運動が有効なのに歩いたりすることさえ困難な方でさえパワーリハなら可能であり、その恩恵を受けることが出来るということです。

パワーリハのもう一つの特長として脱落が少ないということが挙げられます。リハビリテーションは本来苦しい。動きにくい身体を動かしていくのですから痛みもあるしつらいです。やる気のある人しか続きにくいのですが、パワーリハはそんなことがない。気持ちがいい。たまにスポーツをすると「ああーいい気持ち」というのがあるでしょう?あの感じが起こります。低負荷でしんどくない、単調な反復運動にはβエンドルフィンなどのいわゆる脳内麻薬といわれる内因性オピオイドを分泌させる作用があり、それが作用しているようです。それ以外にも神経伝達物質であるアセチルコリンやドーパミン、セロトニンの増加も報告されています。それらは認知症、パーキンソン病や欝の改善に有効な可能性があり、実際にそのような例も多く報告されています。このような物質の作用と身体の状態が良くなっていくことでの達成感、やる気の増大などで行動変容が起こります。実際の身体機能の改善より日常生活での行動範囲が増える方が多いのもそのせいと考えられます。

といったところかなぁ。やったことのある人はわかると思うけど筋トレじゃなくてヨガに近いでしょう?ヨガが出来ない人にも出来るし。問題は器材が高価であり(西ドイツ製の医療器械だからなぁ、安全のためには仕方ないですが)、1家に1台というわけにはいかないところだ。でもジムに通うような感じで障害のある方、なくても運動不足の方は利用すると非常に快適に生活がおくれるようになると思います。一時言われたように魔法の機械ではありません。でも確実に、何もしないよりはるかに有益な、素敵なマシンです。しかもちゃんと学術大会が開かれ、データの蓄積が行われている唯一の器材です。

最近新しくできたデイサービスに筋トレと称して機械が置いてあることが多いですが、あれは本当に筋トレでパワーリハではありません。安全かどうかは知らない、というか高齢者に過度の筋トレは本当に危ない。丈夫な奴でも故障することが結構多いのに、と思います。ワチッアウト!まあ他の所のことはいいや。

で、僕は出勤している限りは毎日パワーリハをやり、以前ブログで書いたようにミニトライアスロン参加を目指すと・・・。やっぱり行動変容は起こっている気がします。

抗加齢より好加齢

光陰矢のごとし。しみじみ。Pearlsの更新日時をホームページで見るたびに感じます。この前は1月かー。もう3月じゃん。ブログの「外来ウォッチ」も、ちょっと更新していないとあっという間に日がたってびっくりしますが、それはいかに日常業務に追いまくられているか、仕事の繰り返しの毎日であるかということである。これでいいのか、院長。

 この人は何を言っているのでしょうかとお思いの方もおられるかと思いますが、実は結論を言いたいがための枕で御座います。この前ブログでも書きましたが抗加齢医学会主催のセミナーに行ってきました。講師、受講者あわせて総勢30名程度の非常に内容の濃いセミナーで、大学教授、助教授が5人も参加され、抗加齢クリニックを運営されている方の内容の濃い話もフォーマル、インフォーマル聞くことが出来て大変勉強になりました。

 その中で「カロリー制限」がこれからの抗加齢医学の一つの柱になるという話が出ました。単に低栄養ではなくて、十分なビタミン、アミノ酸など必須の栄養は取りながらもカロリーのみ制限するとすべての動物で寿命が延びることはほぼ定説化しています。なぜか?これも今多くの説が出ていて、実際にカロリー制限をしなくても同効果が得られる薬品の開発(ある酵素が増えるからそうなるという説はいくつか出ていて、それを薬品で再現する)もアメリカではベンチャー企業がすでに始めていますが、実際に食事制限をして寿命を延ばそうという団体もあるようです。痩せこけ骨と皮になりながら「快調です、健康は素晴らしい!」と語っている人の映像(アメリカ人らしいなぁー)は僕も見たことがあります。

 「健康のためなら死んでもいい!」というのは健康おたくをからかう台詞ですが、本当に冗談ではなくなってきます。何のために抗加齢医学はあるのか?

結論。それは毎日をご機嫌に過ごすためにあるのです。毎日が楽しい、こんな生活を出来るだけ長く続けたい、そのためにあるのです。単に寿命を延ばすことに意味はない。楽しく面白い生活を出来るだけ長く続けるため身体精神のコンディションをハイに保つ、それが目的です。抗加齢医学というのは誤解を招きやすい。アンチエイジングではなくアメリカでもヘルシーエイジング(健康な加齢)やオプティマルエイジング(望ましい加齢)という言葉を使う場合も多くなっていますが、僕は抗加齢ではなく好加齢という言葉を使いたい。グッドエイジング、ラブエイジングという感じですね。

そう考えれば目指すものは明らかになってきます。楽しい生活とは何か、自分がなりたい自分、やりたい生活とはどんなものなのか、まずはっきりそのイメージを持つことから始まります。

今度今の診療所に好加齢クリニックを部分的に開きます。皆さんの楽しい生活のために出来るお手伝いをやっていきたいと考えています。でもそのためにはまず自分がラブエイジングな生活をしていなければだめですよね。冒頭のパラグラフがここでつながる。こんな生活でいいのか、院長?慶応大学の眼科教授で好加齢医学会会長の坪田先生は「こんなに遊んでいいのかというくらい遊ぶことは脳の抗加齢になる」とある講演でおっしゃっていました。いいかい、やるぞー(と単なる言い訳であった)。