月別アーカイブ: 2005年9月

ちゅうようはじゅうよう

むっむっ、面白い記事を見つけた。少し古くなるが8月25日のことです。前から書こうと思ってたので古くなりすぎないうちに。

「化粧品防腐剤、紫外線で老化促す作用」 朝日新聞 
化粧して外出するとシワやシミが増える?——。ファンデーションなど化粧品の防腐剤として広く使われているメチルパラベンには、紫外線があたると皮膚細胞の老化を進める作用があることが、京都府立医科大生体安全医学講座(吉川敏一教授)の研究でわかった。 メチルパラベンは抗菌作用が高い一方、皮膚に対する刺激が低いことから、パウダー類や化粧水、乳液など化粧品では最も一般的に使われている防腐剤。紫外線カットのための製品にも含まれている。単体での安全性は確認されているが、同講座は、実際に使われる状況での影響を調べた。
実験では、皮膚細胞(ケラチノサイト)に、通常の使用方法で皮膚が吸収する濃度のメチルパラベンを添加し、夏の日中の平均的な紫外線量(1平方センチメートルあたり30ミリジュール)をあてた。細胞の死亡率は、添加しない場合の約6%に対し、添加した方は約19%。紫外線によって酸化した細胞内に発生し、老化の元凶となる「脂質過酸化物」の量は約3倍だった。
吉川氏は、メチルパラベンが紫外線を浴びると、シワやシミなどにつながる皮膚の老化を進めることが確認できたとして「メチルパラベン入りの化粧品をつけたら、強い直射日光は避けた方がいいのではないか」と話している。

うっひょー! パラベンには5種類あり、エチル、ブチル、プロピルパラベンは、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモンです)の疑いがあるとされているが、メチルパラベンは安全で刺激の少ない保存料として自然化粧品などにも使用されている。日焼け止めにも含まれているが、それをつけて外出したらかえって皮膚の老化を促進していたなんて意味なしだ!パラベンは大体怪しいと専門の人は前から思ってたみたいだけど。実験の結果をそのまま応用できるかは別だけど、僕が化粧品を使っていたら成分のチェックは絶対するね。パラベンフリーの製品もあるんだし。

良いと思ってたのにそうじゃなかった。安全だと思ってたのに実は逆。よくあることです。肉よりも魚がいいというのは多くの人が思っているが、魚(特に大型回遊魚)にはメチル水銀が多く含有されているため、妊婦は摂取量を制限するよう厚労省は勧告している。マグロなんて週1回以下にするべしですよ。PCBも多いみたいだし。無農薬野菜も実態はかなり怪しいという説もある。ラベルは信用できない。ビタミンは安全と考えている人が多いが、脂溶性のビタミンEは過量摂取により死亡率が上昇したとの報告がある。動脈硬化を防ぐために飲んでいるのに。漢方薬は副作用が無いと思っている人もいるが、どっこい効く薬は副作用から逃げられない。一時は肝炎にこれしかないようによく飲まれていた小柴胡湯(しょうさいことう)は間質性肺炎による死亡例が報告され一気に使用量が減ってしまった。病気でいえば脂肪肝はどうってこと無いと思っていたのに、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という肝硬変にも移行する予後の悪い種類もあることが分かった。確実なものは無いのだ。どうすりゃいいのよ?

なんだか「買ってはいけない」みたいになってきたが、食事に関してもし言えることがあるとすれば、それは過剰にならないことだと思う。チャーの曲で大阪で生活することはギャンブル!という曲があるが、今、世界で何かを口に入れることはギャンブル!です。何でも安全だとの保証は無い。大穴を狙うのは危険。だから満遍なく少しずつ食べましょう。過不足なく腹八分目。サプリメントも然り。われわれの陥りやすいのは「健康に、いいもの全部食べて肥え」という川柳状態です。健康のため何を食べればいいですか?なんでも、そして少しずつ。東洋の叡智、中庸が重要(苦しいしゃれなんですけど)でございます。最初の話題と結論がずれましたがお許しを。

犬は神

犬は神である。

何、神がかったこと言ってんですか?いくら犬が好きだからって、そこまで言っちゃみっともないですよ。

黙れ、俗人!犬が神である証拠は後で示すとして、犬を飼うことが健康に役立つということは最近のペットブームを反映してか報告が増えているのだ。大体大きく分けて散歩による身体的な好影響と精神神経的なものに対する好影響の2つがある。私は犬を飼いだしたのは4年前だが、そのころと比べて明らかに健康になった感がある。飼っているのはダルメシアンという運動量の多い犬種のせいもあるが、ともかく雨が降ろうが槍が降ろうが毎日外には一緒に出る。週に2回は1時間以上歩く。アキレス腱を切った今、走ることはなくなったが、前は本当に走っていたのだ。それで痩せたし、保険会社が割引を言い出るくらい血液検査の結果はいい。大食でアルコールも少なからず飲むし、食後はアイスクリームを食べないと落ち着かない私がBMI 24%に何とか収まっているのは犬のせい(もうひとつはゴルフか)と言うしかない。

はい、はい。

「はい」は1回でいいぞ。

はい、はい。
でもいい事ばっかりなんですか?

そんなことは総ての物事においてありえない。個人的には朝が早いので慢性睡眠不足だ。旅行とかにも行きにくいしいろいろ手間がかかるのだが、メインテナンスフリーで生き物と付き合いたいというのは愛情も無く女性と仲良くするみたいなもので無理だ。つまらんだけだ。あっ、君にはできたっけな。すまん、すまん。しかし私にとっては手間は愛情である。

僕も出来ないですよー・・・一応。
で、精神的な影響というのはどうなんです?

こちらのほうが奥が深いな。欝を軽快させるとか、アルツハイマー型認知症のイライラとか、徘徊などの問題行動が無くなったという報告もある。ドッグセラピーと言ってデイケアなどで利用者さんと触れ合う治療法もかなり一般化しているな。みんなの表情が豊かになるのが明らかに分かるのだ。また手間の話だが、犬の世話をすることで認知機能が向上したという報告もある。頭を使うこと、そして人間は誰か、何かに必要とされているという感覚が大事なのだよ。と言ってもまったく人間と同化して考えるのも問題があるけどな。この前テレビで、飼い主が倒れたとき犬が助けを呼ぶかという実験をやっていたが100匹中0であった。訓練してないから当たり前だ。人間とは違う。倒れたふりをしていたらおしっこをかけられていたおじさんもいたが気の毒なことだ。犬は犬。それを認識して付き合うべきだと思うがね。贅沢すぎるぜ。顔があえば何時いかなる時でも「ようよう!」といって尻尾を振りながらやって来る。素晴らしい事だ。それ以上神に何を望む?

わっかりやしたー。確かに犬はいい奴ですね。でもなんで神なんです?

愚か者め、まだ分からんか。犬はDOGだ。逆さまから見てごらん。何が隠れている?

全身医者!!

鍼灸の印象はあまりよくなかった。

研修医の時、気胸で入院された中年の女性がいて、その原因が鍼灸だった。長い針が皮膚を貫通して肺に穴を開けたのだ。畳針のような長い針が突き立てられているのを想像した。「おっそろしー!」。何の知識も無かったのだ。その時以来鍼灸が僕の興味に入ってくることは無かった。
 
時は流れる。

ご老人をたくさん診察するようになると、本当に身体の痛みを訴える方が多い。病気というよりも加齢による自然変化ともいえる。しかし医者のできることはせいぜい痛み止めを出すくらいで根本解決にはならない。むしろ痛み止めは腎機能を障害する可能性もありあまり使用しないほうがいいのだ。どうする?そんな時論文で鍼灸の関節痛に対する効果を知った。アメリカの論文だった。調べてみると日本ではちゃんとした論文は少なくアメリカが圧倒的に多かった。NIH(アメリカの健康、医療に関する中心的存在の政府機関)が鍼灸も含む代替医療に大きく予算をつけた時期であった。その時、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロスアンジェルス校)で鍼灸を講義している日系2世の医者が、医療関係者を対象に鍼灸を講義するという3泊4日のセミナーが浜松であるのを知り休診して参加した。大変印象的で有意義なセミナーだった。実はその時、初めて鍼灸で使う針を見たのだ。とても細く清潔で畳針の印象は大きく裏切られたが、自分自身で指に刺してみるという実習はちょっと汗が出た。しかし、「あんまり痛くないな・・・」という記憶が残った。
 
 結局自分自身で鍼灸を患者さんに行うことは修業の時間も無く、施行する時間もとれず不可能だった(高名なトレーナーが無免許で鍼灸をしていたと逮捕された事件がこの前あったが、医師免許があれば鍼灸は可能なのよ)。しかし鍼灸の可能性を信じていた僕は、運命のように優秀な鍼灸師を雇うことができ、診療所のそばに鍼灸院を開設した。しかし、自分で毎週うけるようになろうとはね・・・

 ブッチン!と音がしたとき、右足の踵が急に分厚くなった気がした。周りの人の顔は引きつっていたが本人は最初わけがわからなかった。その後急速に「やったか!」と意識した。10年前にもテニスで左足のアキレス腱を切っていたのだ。今回は手術した(といっても仕事は休まなかった。休診日の朝に入院、手術して翌朝7時に退院して外来をした。はい!自慢です、すいません)。リハビリの時期、ギプスをつけてどたどた走り回ったり、ケンケン100m競争をしたりしていた。どうしようもない私。で、もともと具合の悪かった股関節が両側とも調子が悪くなったのだ。まともに歩けねー。誰が見ても一目で足がお悪いんですかという言葉が出る状況だが、何よりも痛い。走れないと結構面倒だ。心の支えのひとつであるゴルフができないのもかなり痛い・・・。ためらわず僕は鍼灸(そしてアロマ)をチョイスしていた。

 鍼灸はあんまり痛くないです。
ごく軽く皮膚をつまむぐらい。やり終わった後、明らかに足が軽くなり痛みが軽減しているのがわかる。なぜ効くのか?痛みを覚える筋肉は堅く収縮している。針を刺入すると、筋肉は最初収縮するがその後弛緩を続ける。その部位でベータエンドルフィン(脳内麻薬といわれているものの1種で、痛みや悩みの軽減が起こる)の濃度が増すとも報告されている。問題は2,3日で効果が減弱してしまうことだ。これにはできるだけ間隔をつめて施術するしかない。調子の良い時、筋肉は明らかに動きが違う。その間血流もよくなり治癒過程が促進される。だんだん必要とする間隔が長くなっていく。

 針の刺入による筋肉への直接作用だけでなく、それにより喚起される生体内物質の影響による全身作用も報告されている。風邪引きに良いとか、胃や肝機能が良くなるとか、欝が軽くなるとか。人間の体は巨大な化学工場であり、外から入れるより自分で作らせたほうが合理的で安全だ。今日本でも効果を科学的に実証しようとする動きがあるが、文献的には外国のほうが多い。日本が率先してやるべき仕事だと思うけど。
 
 鍼灸のおかげで足の具合はかなりよくなっている。ある本で外国の女性マラソンランナーが競技中に足がつり、何をしたかというとゼッケンを止めているピンをとって自分の足に刺したという話が載っていた。それで足のつりは回復し競技再開となったわけだが、僕もその程度にはできるようになりたいものだ。医者もその程度まで鍼灸に親しんでいると全く別の医療領域まで可能性が広がっていくような気がする。薬のない状況でも人助けができるかもしれない。丸裸でも診断と治療のできる全身医者。歩く救急箱。そのようなものに私はなりたい。

抗加齢→抗華麗→地味

抗加齢医学会のセミナーに行ってきました。東京で2日間、連休をつぶして(泣)。でも行った甲斐はあったと思います。元気なご老人で一杯の世の中になることが僕の仕事のひとつの目標ですが、そのこともあり抗加齢医学会は第1回研究会から興味があって参加していました。当初はエステっぽい人が多かったり、ちょっと医学的な研究会にしては異色のムードだったのですが、学会に昇格した頃くらいから新しい学問を育てていこうという意気込みを強く感じる、アカデミックでフレッシュな学会になっていると思います。アンチエイジングという言葉は女性雑誌などでは完全に市民権を得ていますが(というか今が旬?)、もともとこの学会から広がった言葉です。

抗加齢の意味ですが、不老不死を目指しているわけではありません。加齢による身体精神的な衰えをカバーして、元気なままでコロリと死のう。活気のある爺さん、婆さんになって若いやつを脅かそう、病気しないほうが国家財政的にも助かるし。一種の予防医学です。このパールスでも書いた、パワリハもアロマも鍼灸もその手段として入っています。しかし今回の主たる課題はホルモンの充填と身体に有害な金属(水銀や鉛など)の除去でした。

年齢とともにいろいろなホルモンは分泌が減少してきます。よくご存知の例を挙げれば更年期です。女性ホルモンの減少が顔のほてりや欝気分、動悸などのいわゆる更年期症状を起こしてきます。その治療として女性ホルモンの充填療法が行われるようになり、単に更年期だけでなく動脈硬化や骨粗しょう症、アルツハイマー病などにも予防効果があるとの報告が相次ぎ、皮膚の若返りも見られることから一時アメリカで60歳以上の女性の30%近くがホルモン充填療法を受けているという事態にまで発展しました。ところが大規模な臨床試験が行われ、その際乳癌や心血管系のトラブルでの死亡がコントロール群より多いことが途中で明らかになり、臨床試験は中止になりました。そのため一時のブームともいえる状態は終わったのですが、今でも投与量や方法の改良で利点が多いという意見も多く、臨床試験の結果を知ってもそのまま充填療法を続ける人が少なからずいたことなどQOL(生活の質ですね)の改善においては素晴らしいものがあるとの意見があります。

最近男性更年期という言葉がよく聞かれるようになってきました。女性のように様様な体調不良(疲れやすい、憂鬱だ、EDだ)の訴えが50歳頃から多くなり、それは男性ホルモン(テストステロン)の減少による可能性があります。保険適応があるわけではありませんがテストステロンの減少が証明されそれの補充を行うと素晴らしい改善が見られるという報告がされています。

DHEAというステロイドホルモンは加齢とともに減少しますが、これの補充も寿命を延長させる、活動性が増すなどいい報告があります。しかしまだ確固たる評価はありません。一般に女性ホルモンを除いてホルモンの充填療法はまだまだ症例数が少なく、副作用などまだはっきりしない点も多く、今すぐ臨床応用するのはちょっと危険かなという気がします。有害金属を除去するキレート療法もそうですが、少なくとも今、自分で試してみようという気にはまだなりませんでした。

実はテストステロンは計ったんですけどね・・・結果はまだです。恥ずかしくなかったらまた報告しますね。

抗加齢療法に入れ込んでいるドクターは一般に若々しくおしゃれで(全員ネクタイが派手!スーツの色も明るい。関西の偏見かもしれませんが東京っぽい!)、まあ老け込んでいる人が言っても説得力が無いですがちょっといかにも、というのも少し恥ずかしかったりします。ホームページを見てもかなりサロン化してるケースも多いようです。僕としては元気なご老人を増やすという目的のもと、中身重視の抗加齢医学、脳、内臓の若返りを目指して一般庶民の抗加齢医学をやっていきたいと思ってます。地味です。地味で着実にしぶとくいきます。

パワリハエバンジェリスト、または介護予防給付の陰謀(second edition)

早朝、犬の散歩をしていると空気の冷たさと虫の声が「秋だよ」と言っているのが分かる。「夏は単なる季節ではない、それは心の状態なのだ」という片岡義男に影響を受けてバイクの免許を取った26歳の夏以来、人生の大半は半パンとTシャツで暮らしていたい、夏が1年の中心だと思っている僕にとって、秋はBang!Bang!バカンス!は終わりましたよ!では張り切っていきまっしょい、というちょっと始まりを告げる季節でもある。アメリカとかで新学期が秋から始まるのは理にかなっている気がするね。私の今までの人生を振り返ってみるといいことは夏ではなくて寒くなってから起こっているような気がする、全然関係ないけど。でも期待しようね。

何でも起こってからでは遅い、その前に手を打つのが大人である。研修医のとき、一緒に働いている何人かの同期生の中で、重症に当たる確率の高いやつというのがいた。こういう人はどこの病院でもいる。霊じゃないけど引いてくるのだ。そいつが当直だったりしたら、担当の看護師さんが「いやだわー、また今夜忙しいのじゃないかしら」と憂い顔でつぶやく。医者は重症例を経験するほど腕が上がるので彼も良い医者だったが、あるとき指導医の先生が言った。「重症によくあたるやつというのがおるやろ。引きが強いというのもあるけどな。案外それは処置が遅くて重症化させているというケースもあるねんで。」うーむ、確かにそういったほうが適切なやつもいたな。無事これ名馬。粋の構造とはいらぬトラブルを避けることなり。結構重症例を持っているんだけど知らぬうちに良くなって退院してたりして、いつもあんた楽そうねというやつがいたが、彼は非常に優秀であった。

そこで昨今の注目は予防医学であり、また介護予防である。介護が必要となりそうな虚弱老人に対して、介護保険から介護予防給付として費用を出してくれることが決定した(といっても詳しいことは全く決まっていない。以前のように本当に本当のぎりぎりの切羽詰った直前になって決まり関連施設はキリキリ舞いすることになるであろうことはお約束のギャグみたいなもんだ)。栄養管理や口腔ケアなどが上げられているが、いろいろ注目されているのが筋力トレーニングであり、その手段としてのマシーンを使ったリハビリ、パワーリハビリテーション(以下パワリハと省略する)である。これは非難する人が多い。老人に筋力トレーニングなんて事前に身体のチェックがきちんとできるのか、それで事故がおきたら誰が責任を取るのか、保険費を使うほど筋力トレーニングの効果が実証されているのか、諸々。器械の導入に関してまたもよくある業者との癒着が週刊誌に取り上げられたりして、一時パワリハは介護予防の救世主のような感じだったのだがぐっとトーンダウンしている。

それでも私は言いたい。パワリハは介護予防の救世主、ネオであると。

大体皆さんの言うパワリハは筋力トレーニングであるというのがそもそも間違っている。わかってるかな。前提からして勉強不足なんだ。パワリハは非常に弱い負荷を用いるマシーンを使った反復運動で(あなたなら指1本で動くだろう)、普段使わない筋肉を使用させることにより全体のバランスを調整するものと考えたほうがいい。老人の姿勢がおかしくなってくるのは何も筋力が落ちてくるわけではなく、使う筋肉と使わないものとのバランスが極端になってくるせいだ。筋力よりも神経−筋反射を円滑に行わせるシステムと考えたほうがいい。器械はもともと西ドイツのリハビリテーションに用いられているもので、スポーツジムで使われているものとは全く異質の医学機器だ。そんな器械を用いて介護予防なんて言っているところも1部にあるけどね(それで圧迫骨折を起こした例も報告されている)。パワリハ研究会では90歳代での有効例が多く報告されていて安全性はかなり高い。プログラムも安全性最重視となっている。そもそもこれを筋力トレーニングとして発表している厚生労働省に問題があるといえるが。

僕が始めてパワリハを見たのは3年前になる。デイケアなどでリハビリをしても結局悪くなっていく脳梗塞後のご老人、パーキンソンの患者さん達を診ていると、これは何とかならんのかと無力感を感じていた。そのときわざわざ岡山まで出かけて聴いたパワリハの講演会。そこで見た映像は衝撃的であった。あんな人がここまで良くなるのか!・・・翌日器械購入の手続きをしていた。で、今まで多くの方にパワリハをしていただいたのだが、その大体の結論。パーキンソンの方、片麻痺の方には残念ながら期待していたほどの効果が得られていない。劇的な効果が得られたのはごく少数である。しかし、ある。疾患を問わず全般的に歩行能力の改善が得られることが多い。一番有効なのは介護予備軍、いわゆる虚弱老人である。単に運動能力が上がるのではなく、行動変容というか生活全般の質が上がる、今まで何もしないで寝ていたおじいちゃんがこの頃は庭の手入れをするようになって・・・という具合だ。顔つきも変わる場合が多い。この意味で介護予防給付としてパワリハがエントリーされているのは至極もっともなことなのだ。本当に有効かどうか実証されていないという意見は研究会での多くの発表をみればいいことだ。そもそもちゃんと実施前後で決まった項目でデータを取っているのはパワリハだけなのだ。他の器械を用いたものでは全くデータは見当たらない。

話は変わりますがこの前ある会合で某ケアマネージャーと話していた時のこと。「大体どこまで家庭内の事情に入っていくかというのは難しいんですよ。やればやるほど家族が依存してきて、えっ、そこまでは・・・というようなことを要求されたりしますもん。」「そうだよなー、やっぱり人間楽したいもんね。」「そうでしょー、そういう意味で今度の介護予防給付ってやつ、うまくいきますかねー。予防だから筋トレしろ!ってしますかね。僕だったら寝てるほうが楽だから絶対しませんよ。」「そりゃそうだな、予防しようって意志のある人が介護予防に認定される中でどれくらいいるか疑問ではある。」「まあ家族がプッシュするとかありますけどね、でも筋トレしんどいでしょう。」「パワリハは筋トレじゃないけどな。でもパワリハだけ使えって決まっているわけでもないし、筋トレといわれたらやっぱりしないなー。・・・あっ、これってひょっとして?」「ひょっとして?」「厚生労働省の介護保険費を減らそうとする・・・」「陰謀!?」「ありえるなー」「メッチャありえますよねー、確信。」

…そんなことは毛頭信じていませんって。パワリハについてもう少し。やってみて1番印象的だったのはドロップアウトが少ないことだった。リハビリはしんどいので途中で止めてしまう人も多いのだが、パワリハは殆ど無い。1割以下じゃないかな。これは単純動作の反復運動によりβエンドルフィンなどのオピオイド(脳内麻薬とかいわれてるやつです)が分泌されるせいではないかと考察されている。誰でも軽い運動をするととてもさっぱりすることがあるでしょう。疲れるよりやる気が出たりして。あれです。だから一度取り掛かると結構続いて介護予防には本当に適していると思います。

パワリハは誤解が多い。運動能力を保ちたかったら40歳台まではラジオ体操、50台までは太極拳(転倒予防に関し唯一エビデンスあり)、それ以降はパワリハをやりなさいと国際医療福祉大学の竹内先生は言っている。汎用性もあるのだ。あなたもやって納得しましょう。先生はパワリハの考案者であり伝道師、エバンジェリストだが、僕も小粒のピリリとはしていないパワリハエバンジェリスト(ローカル版)として、何か質問があれば、体験したければご遠慮なくいらしてください、お力になりたいと思います。