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草食系ふたたび

7年ほど前にいわゆる草食系男子の男性ホルモン(テストステロン)は皆さんの想像通りほんとに低い!という発表を抗加齢医学会でして、医学雑誌 (日本医事新報 (4659), 32-36, 2013-08-1) にも掲載され一部でちょっとうけたことがある。とても大学等では出来ないスタディで、突っ込みどころも満載とはいえそれなりに意味のある研究だったと思うけど、もう過去の話と忘れていた。

今年の初夏にNHKスペシャルのディレクターKさんから連絡があり、今度ジェンダーについて特集をするのだが草食系の話を聞かせてほしいと連絡があった。その後何回かお会いして話を煮詰めていった。

世界的に(特に文明国で)若年、壮年を問わず男性ホルモンの値は減少しつつある。理由ははっきりしない。環境ホルモン(女性化を起こす)や妊娠期のダイエットの影響など諸説があるが、個人的に有力だと思うのは進化人類学からみて文明が進むにつれて男性ホルモンの必要性が少なくなるからではないかという説である。

男性ホルモンは皮下脂肪を減らし筋肉骨格を頑強にし、 性格的には攻撃型となる。つまり戦士型で、野生的世界で生きのびていく場合には有用なホルモンである。文明が発達し他人との協調性が重要となる世界では有用性が低下する。結婚し子供ができると男性のホルモンは明らかに減少するのは一つのわかりやすい例だ。

世界的にみて日本人男性のテストステロンは諸外国、特にアフリカや南米の男性と比べて低値である。これも和をもって尊しとなす農耕民族ゆえ当然かと。草食系男子が日本独自というのもしかり。実は最近欧米でも草食系男子が増加傾向という記事をどこかで読んだ気がするがこれは確かでない。しかしあり得ることだ。

NHKスペシャルはジェンダーの多様性、古典的男性女性の区分の希薄化をテーマとし、その例として草食系男子をとりあげたいとのことであった。僕としては男性の草食化は時代の流れでありむしろ進化系であるという趣旨を強調したかったのだが、11月3日に放送された番組では単に男性ホルモン低値の若年男性としての事例報告だけに終わっていて少し残念。

番組では2分ほど映っただけで、半日かけて取材された割にはと拍子抜けではあったが、構成上仕方のないところでしょう。僕としてはすごく丁寧な取材、打ち合わせで、このようにしてNHKスペシャルは作られるのかと興味深かった。BS版、海外版でも放映されるようなので興味のある方は見てください。

クリニックの男性更年期(低テストステロン)外来は継続して新患さんが来られる。悩み多き男性諸君。テストステロンは時代遅れのホルモンかもしれないが、認知機能を保ち長寿となり、やる気を出す重要なもの。時代はあまり必要としないかもしれないが個人的には男性ホルモン爆発!で生きたい。賛同される方は是非ご相談を。

食わず嫌い

時々読むコジャレた雑誌「T  JAPAN」の編集後記タイトルが「Exploring Disinterest」だった。

おっとー、なかなか洒落とるじゃないの。「興味のない世界への探検」って感じでしょうか。この編集長はキャンプに全く興味がなかったが仕事上止むを得ず付き合うことになり、思いがけず大変楽しかったので、興味がないからという理由で断ることはよくないと自戒しているのである。そのご友人は「全く興味のないイベントに1ヵ月に1度は参加することを自分に課していて、それを修行と呼んでいる」とのこと。

太宰治はあまり気が合わない友人と好んで付き合うようにしていたという話を読んだことがある。何のために?と思うが色々得ることも多いであろうとも察する。ほんまに修行やぁ。気の合わない人はともかく、あまり馴染みのない人々との会合は努めて出た方が得ることも多いと自分では思う。慣れた環境は快適であるが進歩はない。人間は基本的に安全を望むようにできていて、同じことをしているのが一番安全であるが、しかしこれでは錆び付くだけである。

人間どうしはハードルが高いが、イベントとか趣味であまり接点のない領域に触れるのは悪くないぞ。

車の中で聴く音楽は嬉し恥ずかし70〜80年代ロックとかジャズとかだいたいお馴染みのものが多いのだが、この頃時々FM802に合わせる。最近の曲はどの曲もおんなじに聴こえるわいと思っていたのだが、そうでもないぞ。結構いい。気分も若くなってくる(ような気がする)。

キップ・ハンラハンという(多分ほとんどの人が知らない、Wikipediaでも英語版しかない(泣))ミュージシャンが作る音楽が肌に合い、ちょっととっつきにくいけど彼の音楽を好きでいる間はボケたりしないだろうとここで書いたことがある。でも耳になじんだ音楽、好きだった曲は大概ずっと好きだ。それよりも新しい音楽、若い人の曲を聴くほうが脳のトレーニングになるのではないかな。ホンマに修行や!と言いたくなる曲もあるけど。

あっ、いいです、と断る人も多いけど、NOと言わない私、すべてまずは経験、やってみなくてはわからない。食わず嫌いはやめて、たとえ興味はなくても種々の未経験の領域を探検しようではないか。案外すごく好きになることも稀ではないんだから。

 

不快と快

「高齢者には筋トレと音楽が必要だ!」とおっちゃんは言った。

彼は70歳代前半でありながらトライアスロンとギターが趣味というなかなかいけてる高齢者です。このチョイスは悪くない、というかとてもいいんじゃない。

高齢者にとって認知症と骨粗鬆症とがんの予防が最優先(by 白澤卓二先生)なのだが、筋トレはこのすべてにとって有効なポテンシャルがある。筋肉と血糖値を制する者がエイジングを制す(by 池岡清光)のですが、筋トレには単に筋肉量を増やす、筋力を増す、骨を強くするといった整形外科的優越性だけでなくメンタルに効くというあまりない特性があるのです。弱ったときには筋トレよー。ぐっと前向きに顔が上がるでー。

加えて、筋トレはつらい。楽しいから毎日やろっ!というものではなく、始めるまで結構自分を鼓舞しないとあかんと思うのですが、このちょっと辛い、少しイヤねーということをやり続けることこそ若さの秘訣と私は思うのです。

「ホルミシス効果」というのがあって、もとは極少量の放射線は健康に有益な作用があるということから注目されたのですが、頑張れば克服可能なストレスは能力を上げる!楽過ぎは能力を落とす、きつ過ぎはやめちゃうということで、これぞアンチエイジングのキモと多くの先生も言ってますね。毎日が日曜日だとボケるわけで、通勤とか仕事とか、そういうのもやる意味があるわけです。運動の効果も一部はホルミシスだとされている。

で音楽ですが、3年前に認知機能が低下すると和音が心に引き起こす感情の変化が分かりにくくなるというのを日本抗加齢医学会総会で発表しました。認知症の方を診ていると、心の喜びとか快楽とかがほとんど感じられていないように思われる。つらいことです。ロックミュージックを聴くとワクワクできるうちは自分でも大丈夫(前衛ジャズを聴いてワクワクできているうちは特に!)と思うけど、音楽を愛し続けること、これも若さの秘訣だと思います。演奏できればもっといい。

でおっちゃんの言葉のポイントは、このちょこっと辛いこと、快楽の組み合わせです。どっちか一つだけではだめで、不快と快を繰り返す。この変化が老化を防ぐ。ワンパターンはよろしくない。

筋トレと音楽以外の組み合わせもオッケーですが、今のところ個人的にはこれがベスト。でも皆さんも考えてみてね。野菜とステーキってのはだめよ(ってそうでもないか)。

心のステッカー

最近のグッドニュース。

アマゾン創始者のジェフ・ベゾス氏が設立した民間宇宙開発企業ブルーオリジンが今月行う同社初の有人宇宙飛行に、ベゾス氏とともに女性パイロットの草分けウォリー・ファンクさん82歳が搭乗することになった。

ファンクさんは1960年に女性として宇宙飛行士の訓練を受けた13人の一人。ベゾス氏とともに喜ぶ写真を見よ。元気だ。素敵である。

宇宙飛行士を目指そうという人だからもともとのパーツは優秀にしても、日本人男性の平均寿命(81.4歳)で宇宙に出ようという気概、そして十分な準備ができる体力気力はどこから来るのだろう。

彼女はたぶん自分の暦年齢は無視しているに違いない。自分で感じている年齢で判断しているのだ。

社会心理学の有名な実験にエレン・ランガー博士が1979年に行った「時間を巻き戻す」というものがある。75歳の男性グループに1週間合宿を行ったのだが、20年前の服を着てもらい、生活様式をそのまま実行できるように宿舎の中はその時代のものだけで装飾され、テレビ、ラジオもそのころの番組だけ、新聞も同様で、配られた身分証明書もそのころの写真が入っていた。合宿生活の間20年前の話題しか話さないように促され、過去に戻った自分、55歳の自分として1週間暮らしたのである。

体力、認知能力などのテストを事前に受けていたのだが、1週間の合宿後、予想通りすべてが改善していた。なんと視力さえも良くなり外観も平均3歳ほど若返った。

人が自分自身をどうとらえるかが、老化の肉体的プロセスに直接影響するという素晴らしい結果だ。心の状態が現実に及ぼす力がいかに大きいかわかる。暦年齢より人が自分自身を何歳ぐらいと感じているかが実際の健康状態を反映するという別の学術報告もある。

マインドセット、心の状態が肉体に影響すること、「病は気から」は科学的に認識されつつあり、精神神経内分泌免疫学として日々新たな発見がなされている。個人的に大変興味ある分野である。マインドフルネスの有効性もこの方面から研究されている。

村上春樹氏のトライアスロンに使用する自転車には「18 till I die(死ぬまで18)」とステッカーが貼ってあるというのを彼のエッセイで読んだ。

みんな好きな数字をいれて、心にステッカーを張っておこう。

おっさんジャズボーカリスト

ジャズボーカルが好きである。特に男性の。

ジャズボーカルというと大体女性で、特に日本なんかでは誰でも知ってるスタンダードばっかり唄ってる感じで(著作権とか関係あるのかな)つまらない。好きなのはフレッシュなロックミュージックをアレンジしたのとかすごくマイナーな曲を抑えてアレンジで歌ってるオッサンだけどなかなかそういうのには出会えない。

ところがね、アプリでアメリカのFMを聴けるのを教えていただいて、そこで知ったJAZZ24 という局がやばい。シアトルの地方局だけど寄付で成り立ってて24時間コマーシャル無し。そしてなんでなんでそんなに僕の好み知ってんの?というくらいグレーーートな選曲で、ボーカルを5曲に1曲はいれるのである。これが信じられないくらいどれもカッコいい。

アメリカは広い。こんな素敵な唄がいっぱいあって、そしてそれを見つけてこれるってのはすごいなー。そしてここで聴けるオッサンボーカルが渋い。なんで僕が男性ジャズボーカルが好きなのか考えてみると、きっとこいつはいろんな経験してるよねーという個人史(多分色気のある)を感じさせるからである。センスいいし知的だし面白い話聞けるよなー、きっと、と思わせる深さを感じるからで、こういうのはロックボーカリストからはあまり感じたことない。そういう男になりたいという願望があるんでしょうかねぇ。

こういう人は安定化を望まないでしょうね、多分。Sporting life という言葉があって賭博ばかりしている悦楽人生ということのようですが、そういう感じ。実際は結構着実な人が多いでしょうが(でないとビジネスとしてやっていけないよね)、最近若い人がよく言う「早く落ち着きたい」「まったりしたい」とかいう世迷言とは対極で、私もこれを支持するものであります。

不安定、中腰で踏ん張る、新しい面白そうなことにはとりあえず手を出してみる、失敗じゃなく成功するための貴重な経験を得た、「すれ違いのないドラマが面白いか?ワサビ抜きのすしがうまいか?」ということであります。わかる?

誕生日を迎え、「四捨五入すると70ですね」という悪友の意地悪な言葉も意に介さずこれからの方針を述べさせていただきました、ハイ。

P.S. 「CBDオイルって何よ?弐の巻」は3月にある関連学会に参加してフレッシュな話を書こうと 思ってたんですが、学会が中止となりました。勉強してネタを仕入れてからまた書きます。ごめんなさいね。

脱ペットライフ

当院で物忘れ外来をはじめて5年以上たつ。元々循環器専門として内科医をやってきたのだが、認知症という、このいまだ解決策の見いだせない難物に魅入られて今では男性更年期外来とならぶ当院専門外来ツートップの一つである。

認知症にならないためにはどうすればいいでしょうか? これは多くの方が最も興味を持っている問題だ。現在認知症に有効な薬剤はない。壮年、若年の時から予防できないか?何をすればいいか? 簡単だ。脱ペットライフである。

ペットを飼わない、ではない。ペットにならない、のである。食事の準備や家の片づけや何でもかんでも何方かにやっていただいて後はテレビと寝ているだけのペットのような生活、これにあこがれられている輩もおられるようだが、これは認知症への最速到達法である。言い換えるとトラブルの無い平板な生活である。

気を配らない、腰が重い、新規なことに取り掛かるのが面倒で同じ繰り返しを好む、とか色々あるが、こういうのをあきらめて頑張らざるを得なくなるのは小さなトラブルを解決するときである。大問題は時に精神を消耗させ鬱や認知症のきっかけになり得るが、小トラブル(人生はこれの繰り返しともいえる)を避ける生活を続けているとペットのように自立して生きられなくなるぞ。ウエルカム、小トラブル! バイバイ繰り返しの生活! 小トラブルは生活の句読点で歓迎すべきもの。

ホルミーシスという単語がある。元々は放射線が高線量では有害だが低線量では体にいい効果をもたらすという意の言葉であるが、そこから派生して、適度なストレスは返って抵抗力を増し能力を向上させるという意味で使う。 アンチエイジングの要はこいつであると僕は思う。

大事なポイントは嫌々やらないこと。楽しむ。こいつは心がけ次第でほとんどのことはそう考えることが出来る。ゲームで敵を倒してアイテムを手に入れる、パワーアップするという感覚ね。小トラブルを自分から求めていると案外シンプルに解決する。

安楽を求めペットのような生活は結果的には不幸を招くぞ。小トラブルは三度の飯より好き、とこういきたい。 脱ペットライフ! ワイルドサイドを歩け!

と叫び、2019年最後の「ゴキゲンジャーナル」の筆をおくものであります。

皆さま、良いお年を。

 

男性諸君、神は細部に宿りたもう

「神は細部に宿りたもう」というフレーズを知ったのは開高健氏の著作から。彼は20代のころ激読!していた作家で、随筆にその文章があった。小説でも映画でもごく小さな部分、例えば映画だと主人公の持ち物がちゃんと使い古されているとか、小説で本筋に関係のない店の描写が素晴らしいとか、結論に影響はないがそういった周辺部に気がちゃんと使われていると作品が輝いてくる。

で思うに、人間にもそれは言えるんじゃないでしょうかね?

話しが面白い人というのはこういったdetailがちゃんと話せる。一つは固有名詞。えーなんだっけ?あれ、あれと固有名詞でポイントが定まらないと話はつまらなくなる。そして表現力。細かい描写が上手でありありと目の前に浮かんでくるように話されるとリアリティがぐっと増す。

そして見かけについていうと、全体の印象ももちろん大事だけど細かいところ、特に末端ね、これがカギなのでは。手(そして足、難題やなー)の爪、指、髪の毛。女性にとっては何をいまさらという話でしょうが、男はあんまり考えてないぞ。

20年以上前の話、ある仕事で運転席の隣に僕を乗せてくれた保険会社の社員さんの手、運転しているその手の指、爪がとても美しいのに気が付いた。男ですよ、もちろん。30代前半かなぁ、身なりももちろんきちっとしているけど、絶妙に手が美しいのだ。

「手、きれいですね」「えっ、わかります?嬉しいなぁ。気が付いていただけることってあんまりないんです」「ふーん、でもとってもきれいだ」「実はね、僕エステに行ってるんです」「エステ!?(その当時男性用エステは話題にもなってない)」「そう、僕の妻はアメリカ人なんです。で彼女が人と会う仕事をやってるんだったら手をきれいにしろと言われて、知り合いに頼んで手とちょっと顔だけ」「へー」

あとで彼の上司と会う機会があり、彼が非常に優秀で褒賞としての会社の費用もち外国旅行は毎年の常連だと聞いた。末端に気が回る男はすべてに気が回るんだろう。

上の末端は髪の毛だ。髪はその人間の勢いを示す。ヘアースタイルも大事だが(ウォール街という映画で、大立者マイケルダグラスがチャーリーシーンに、成功したいなら100ドルの床屋に行けというセリフがあったのを覚えてます。当時の100ドルはなかなかね)、艶とかそういうのは若さに直結する。これも女性ならとっくにご存じだろう。疲れてくると髪の毛がヨレヨレになってくるし、髪にかまわないと落ちぶれた感が漂う。昔の日本の武将も「将は老いたりを見せず」ということで、わざわざ髪を黒く染めていたという話がある。まっ、こういった見かけは大事で、こいつが内面に反映されてくるのです。

ということで神は細部に、そして末端に御座す。そこを大事に。とくに男性諸君。

外来のシャーロック・ホームズ

日曜日に「第13回見た目のアンチエイジング研究会」に行ってきました。東京です。ほとんど始発の新幹線(泣)。ここんとこ毎週のように土曜、日曜と研究会に行かざるをえず(大泣)。しかしやはり行くとそれだけのことはあるもんで(たまに無駄足!(泣))、なかなか収穫がありました。今日はその内容というよりも関連して医学における見かけについて。

見た目年齢がその人の健康年齢である。実年齢よりも見た印象。60歳の人が80歳に見えたならその方の内臓機能は80歳レベルの可能性がある。成人においてこれはかなり確かで、それを証明する論文も結構あります。高齢になった双子で若く見えるほうが結果的に寿命が長いという論文もあります。同じDNAでも生活環境により変化する見かけが予後を示すのですね。おっさんみたいに見える小学生(診察室に「どうも」と言いながら入ってきたちっちゃなおっさんみたいな小学5年生がいました)の健康度がおっさんみたいということはまずないですが、中高年における見かけはかなり健康状態を反映します。

だいたい病気というか、コンディションが悪いとかなり老けて見える。お子さんの風邪でよく来られるきれいなお母さんがご本人が調子悪くて来られた時、「んっ、Who is she?」と一瞬思うくらい変貌されるのは(最後まで分からなかったりもする)、単にスッピンだからというわけではありません。また長く慢性の疾病で苦しまれていた方が手術により軽快した時、そのあっぱれな全身の輝くオーラ、10歳は若く見えるのはやはりコンディションの反映と思われます。

それこそ40年近い昔、僕が研修医だったころの話です。胸部外科とのカンファレンスで手術適応ギリギリの高齢のため決行の決定が難しい患者さんのケースで外科の教授が主治医に尋ねた。「この人若く見える、老けて見える?」「若く見えます」「わかった、やろか」 !! その当時大胆な決定の仕方やーととても印象に残ったのですが、その当時から見かけはその人の身体予備能力を反映すると経験上分かっていたのですね。ベテランはすごいものです。

若さだけでなく、内分泌疾患で甲状腺機能低下の橋本病とか、副腎疾患のクッシング症候群、成長ホルモン異常の末端肥大症とかは外観で大体(知識と注意力があれば)診断がつきます。それ以外にも爪が丸く膨らんでいたりすると肺が悪いかなとか、単純に体が黄色い!黄疸!これは肝疾患とか。こういう一発診断は正解だとかなり医者として快感があります。そしてこのように明らかな病気というのではなくなんとなく調子が悪い、いわゆる未病の処方を決めるのにも、漢方では望診と言ってその人の全体的な見かけ、話し方、診察所見を決め手の一つとしています。実証、虚証なんてかなり全体の印象が決める気がします。

ということであなたの健康状態はかなり見かけで分かる。aging、加齢程度も実年齢は参考程度で実は見かけが大事と。しかし最近の医療はデータ重視で、こういった観察の印象を余り重要視していない感が無きにしもあらず。医者は1回も自分の顔を見ないでPCの画面を見たままで診察が終わった、なんて話もあったりする。AIが本格的に医療現場に入ってくるともっとその傾向が強くなるかもしれません。

シャーロック・ホームズは依頼者やワトソン博士を見ただけで、どこから来た、何をしていたなど正確な推理を観察した事実を根拠として述べて驚かせる。子供時代に読んだ時、かっけー!とぞくぞくしました。足元にも及ばないにしろ外来でもそうありたいなーと思ってます。

 

 

 

 

 

男はとっても寂しいもの (Man We Was Lonely)

僕のクリニックでは専門外来が2つある。「男性(更年期)外来」と「認知症外来」である。

この2つは全然関係無いようだけど、ともにクリニックの基本的なコンセプトである、子供からご老人までをカバーする「みんなのための、誰にでもできる抗加齢医療」の範疇内だ。そして患者さんを診ると、男性更年期も認知症も突然ぽこんと発生したもんじゃなくて、今までのライフスタイルの一つの帰結じゃないかという気持ちになることが多い。男性更年期障害になる人はひょっとして認知症になりやすいかも。

二つとも悩みの度合いは深いようで、両外来の半数以上の患者さんが城東区外から来られている。で、今回は、最近患者さんが増加している男性外来について。

男にも更年期はあるが女性と比べ性ホルモンの低下度合いはゆっくりなので、女性のように明らかな症状が出ることは少ない。男性ホルモン(テストステロン)の特徴:攻撃性、社会性、運動能力、筋肉をつけ脂肪を落とす、骨を強くする、快活でよくまわる頭脳、性的にも快活、といったところね。更年期というか、テストステロン低下だとその逆の症状となる。活気なく、鬱っぽく、やる気が出ない、メタボになってきた、おねえちゃんを見ても何も感じないです・・・。

あの人じゃない!?とうなずかれる方も多々おられると思いますが、このような男性は稀ではない。問題なのは、今までそうじゃなかったのに、年齢を経るとともにこの傾向が出てきた場合で、それを男性更年期という。

外来をやりだした当時、中高年の疲れたおっちゃんばかりと思っていたら、思いのほかテストステロンが低いかもしれないので測ってほしいというヤングマンが多く、どう見ても彼らは草食系で、草食系に見える若年男性はほんとに男性ホルモン値が低い!というのを小さな論文にして医事新報に載せてもらった。 ホルモンは結構外観に反映する。今ではパッと見て大体のホルモン値が予測でき、しかもあまりはずれない・・・ということもないか。

最近は名前にたがわず疲れた中年男性が多い。ほとんどは仕事上、もしくは家庭のトラブルという明らかな原因があり、通常の診断名をつければ鬱傾向、適応障害に近い。彼らの多くは一般的な内科的検査では異常が出ず、何か納得のできる診断を付けてほしいと望まれて来院される。感情的なストレスはそれ自体でテストステロンを低下させるので、多くの方は明らかな低下を示す。精神科の領域と思われた方には病院をご紹介するが、それ以外の方には話し合って男性ホルモンの注射を2~3週間おき、もしくは毎日軟膏塗布などの治療を行う。有効率は80%近い。

男性ホルモン充填療法とともにカウンセリングというか、よくお話をお聞きする。

ひじょうーに身につまされる。悩まれている内容が痛いくらいよくわかるのである。男の歴史である。無理ないなぁと思い、心からよくなってほしいと思う。幸いなことに多くの方は3か月から半年以内に回復する。興味深いことに調子が良くなると、注射しなくても高いテストステロン値が維持できるのである。また調子悪いです、と再来する方もいるが、男性ホルモン充填により再び元気を取り戻す。

調子が良くなると上がり、悪くなると下がる男性ホルモン。

勝手なやつです。

これに絡めてお話すると皆さんとてもよくご自分の状態を納得される。男はテストステロンに依存してんのかなぁと思う。

Man We Was Lonely .  男はとっても寂しいもの。

こういうと、女もよ!という言葉は当然予想しております。この言葉はポールマッカートニーの曲のタイトルで、男女のカップルが今まで寂しかったけど今は幸せよ!というちょっと予想外の意味が本来wereがwasになっているところに含まれているという曲者なんですが、本当にそういきたいですね。

 

 

マイ・パーソナル・トレーナー

Ultimate Fighting Championship(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ、略称UFC)はウィキペディアによると「世界58カ国以上から最高峰の選手が常時600名近く参戦し、26カ国153都市以上で大会を開催、156カ国以上でテレビ放送されている、実力・人気共に世界最大の総合格闘技団体」で、フェザー級のチャンピオンは写真に写っているタトゥーだらけのマックス・ホロウェイである。その左、マックスの出身であるハワイ州の旗を持っている若い男が僕のパーソナルトレーナーであるタケちゃん、井谷武君です。彼は日本人として初めてUFC チャンピオンのセコンドに付いた。

僕はかれこれ6年近く彼のパーソナルトレーニングを受けている。両側人工股関節置換術を受ける前の、痛みと歩行困難のうんざりする時期に筋力アップを考えて知人から紹介された。ムキムキマッチョという外観の変化が筋トレの目的という間違った認識を、抗衰老(アンチエイジングの中国語)における最強の手段という正しい理解に変えてもらった恩人である。

手術前後は結構力の入ったメニューで、事情を知らない人から「身体大きくなりました?」と尋ねられるくらい筋肉量が増したこともあるが、最近は筋力体型維持(糖質制限を始めたこともあるけど体重は30代後半の重さでその頃のズボンがはけるようになった。物持ち良すぎ!)、コンディショニングが中心になって、トレーニングしながら彼の話を聞くのが大きな楽しみである。ジジイか!

彼は高専柔道優勝校のメンバーであり総合格闘技選手を目指していたが、ブラジルでの修行後に頸椎骨折しトレーナーに方針を変えた。個人のジムを開設するところまで行ったのだが契約のトラブルに直面していたところを友人が僕を紹介したというわけ。パーソナルトレーナーとして僕が彼の最初のクライアントである。

彼の話を聞くたびに、信念はその人間を希望する方向に導くと思う。努力を彼はあまり話さないが、それなしで今の生活は築かれない。京都大学柔道部のコーチとして七帝戦での優勝という成果を上げる、マックス・ホロウェイのトレーナーとして月に一度ハワイに行く(勿論旅費はマックスもち)なんてことだけでもすごいが、ファッションにも興味があって制作した柔道ショーツはレオンの通販で一番人気、アメリカのセレクトショップにも置かれている。彼の言葉「貧相な身体ですごくおしゃれしている人って、なんかやたら飾り立てた軽自動車みたいでかっこ悪くないですか?高級スポーツカーってシンプルで、それだけですごくかっこいいですもんね」というのがファッションポリシーか。

そんなことを話すと人は「やり手なのね」と言う。頭が回り、権力のある人の間をうまく立ち回れる人間って感じ。実は彼は最もそういったことから遠い人だ。むしろ不器用、嫌なことでも利益があればやるということが出来ない。いくつかの魅力ある要請を彼は断っていて、なんで!?と俗人の僕は思ってしまうが結局納得する。話の裏にあるビジネス最優先の感覚に敏感に反応し拒絶してしまうのだ。ハートが無ければだめ。それが分かればむしろ彼にやってほしいという人も多くいて、それが彼の仕事につながっていく。

会いたい人には面識が無くても連絡して約束を取り付けるとか、お金が十分無くても必要と感じたら海外でもどこにでも行くという行動力、人の興味を引く体型(スーパーマンみたいなのだ)、謙虚な人柄、なんてところに、最近すごく進歩しているコンディショニング、痛みをとる技術が人を呼ぶ。もうすぐ大手出版社から本も出すようで、僕なんかが朝の7時からパーソナルトレーナーをやってもらってていいのかなぁと思うが、これも腐れ縁とあきらめてもらおう。