禁煙近縁

タバコを止めたのは二十歳くらいのときだ。大学のクラブが競技スキー部で、ほんのちょっと長距離走が速かったからノルディックという走るスキーをやることになった。はからずも。荻原健二が出てから日本でも知られるようになったがそのころは全くマイナーなスポーツで、大会で部全体として得点を稼ぐためには水物のアルペン(滑降や回転など上から下に滑るやつ。実力があっても転んだりするから得点が読めない)以外にある程度実力どおりの結果が出るノルディックを鍛えるほうがかたいので、しんどいのはいやだーと言うのを無理やりやらされた訳です。箸にも棒にもかからない時期が続いて、これではいかんと一念発起。いい成績が出るようになってくると面白くなってきてもっと練習しよう(基礎は長距離の走りこみ)というわけで、タバコを吸ってると走れないから完全に止めたというわけです。スポーツ選手が喫煙なんて今では話にならないですが、その頃はそれほどシビアじゃなかったです。以後時々飲み会で吸ったりすることもあったのですが、それで終わって再び続くことはなかった。

ニコチンパッチが6月1日から保険適応になったと報道され、ここ2週間程で10人以上の患者さんがニコチンパッチを希望された。「はいはい、まいどありー♪」と言いたいとこなんですがそう簡単には入らないのです。保険で手に入るのは限られた施設、限られた患者さんなのです。知らなかったでしょー?そういう都合の悪いことはあまり報道されず、医療機関に説明させて「何だよー」と言われるわけです。なんか、ほんといつもそうなんですけど。施設基準というのがあってそれを満たしていることを(悪名高い)社会保険事務局に届け出ていなければならない。敷地内が禁煙だとか禁煙治療に係る専任の看護師、準看護師を1名以上配置することとかいろいろあるのですが、呼気1酸化炭素濃度測定器を備えていることというのがあって、こいつが10万円以上するのだ。呼気1酸化炭素濃度を測定すると、その人の喫煙数がほぼ正確に推定できる。

使用できる人もスクリーニングテストでニコチン依存症と診断される必要があり、ブリンクマン指数(1日の喫煙数X喫煙年数)が200以上であることなどハードルがある。「ニコチンパッチ、保険でもらったぜー、すっげー、えらいぜ俺!」と大威張りしたくなりますね。ブリンクマン指数は400以上で肺がんが発生しやすくなり,600以上は高度危険群。1200以上で喉頭がんの危険性が極めて高く、ブリンクマン指数が400になる前に禁煙することが望ましい。今計算した?

「禁煙なんて簡単だ!俺は何度もやっている!」というのはマークトウェインでしたっけ。ニコチンパッチのハードルはここでも。もし失敗したとして、また一からやり直しーというのはあると思うのですが、1回目の開始日より換算して1年後でなければリスタートはできません。

なんていろいろ書きましたが、でも禁煙は実行すべきです。禁煙に手遅れはなく、全く元のようにはならないまでもかなりのところまで取り返しがきく。止めて12時間以内には血中の1酸化炭素濃度が下がり始め、8ヶ月以内には肺は以前よりきれいになり、5年後には動脈の老化度が喫煙しない人とほぼ同等まで回復する可能性がある。1日1箱タバコを吸う人は実年齢より8歳老化しているといわれるが、禁煙により7年は取り返せる。

8週間のニコチンパッチ。保険診療で診察代も入れて8〜9000円位、自費でも20000円位です。タバコ代を考えると、そしてこれからの人生を考えると超お買い得では?ご存知とは思いますが明らかになっているタバコの害を列挙。著しく動脈硬化を促進(心筋梗塞、脳卒中にとてもなりやすい)、肺癌、喉頭癌、腎臓癌、膀胱癌のリスクを増やす。乳癌も可能性あり。慢性閉塞性肺疾患(COPDというやつでお年寄りが息苦しそうにしているのは心臓よりこっちが多い。これからの著しい増加が懸念されている。)免疫力の低下(風邪も引きやすい)等など。みんな自分だけは関係ないと思ってるんでしょう?甘っー。これらから逃れられる確率はワールドカップドイツ大会における日本代表の決勝トーナメント進出の可能性くらいです、知りませんけど。

それでも吸ってるチャレンジャー達よ!安心してね。僕の診療所でも7月から保険がきくようになります(多分)。来たれ!勇気ある自殺志願者たち!呼気1酸化炭素濃度測定器をかまえて待ってるよ!

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