「先生、血圧が!頭がフラフラするー!死ぬかもしれない・・・」
「まあ落ち着きなさい、大丈夫だから。ふーん、170/95 mmHgね。確かにちょっと高いな。」
「でしょう!昨日の夜からずーと1時間おきに測っているんです!」
「本当に1時間おきに測ってるの?寝たんですか?」
「寝れるわけないじゃないですか!心配で30分おきに測ってたかも知れない。そうするともっと血圧が上がってきて・・・」
これはある日の患者さんとの会話である。内科医、循環器医なら誰でも経験がある会話である。すこし体調が悪い、血圧でも測ってみるか、やや、高い・・・もう1度。やはり高い・・・もう1度。いやもう1度、下がるまで・・・
この方の場合はそのまま眼を閉じて休みましょう、というのが正解だと思います。動脈瘤とか、高血圧を放置してはいけない疾患をお持ちの方は確かに急がなくてはならない。しかし多くの患者さん、特に心配性の方、白衣性高血圧の傾向のある方(医療機関に来ると血圧が上がる方)は少々血圧が高くても横になってお休みになると大概下がってくる。降圧剤よりも安定剤のほうが有効なケースが多い。心配で何度も測っていると必ず血圧は上がる。これはデータでも実証されているのだ。
血圧の測り方にも慣れがあって、Blood Press Monit 2001, 6(3):133-8のカナダ、カルガリー大学からの論文では、ベテランの看護師さんと患者さんの自己測定を比較すると、収縮期圧で約10mmHg、拡張期圧で約2mmHg自己測定値が高いとされている。
血圧は1日中変動している。起床後高くなり、また落ちついて午後1時ごろに向けて上昇し、また下がって夕方また高くなるというデータが平均的と示されている。大体40から最大80mmHgくらいまで変動がある。興奮したとき、運動時は普通の方でもかなり高くなる。その変動があるから血管の柔軟性も保たれる。
ゆえにある一時の値のみを捉えて危険というのは難しい。またアメリカの心身医学学会では「“高血圧”と“血圧が高い”というのは別の疾患プロセスであり混同すべきでないというのを再認識する必要がある。“血管運動の不安定性”という現象を疾患と混同してはならない」とするステートメントを出している。外来に来られても高血圧であると診断するのは案外難しい。最低、日を変えて3回測って投薬はそれからというのは教科書的はことであるが、それでも投薬してすぐ血圧が下がり、薬をやめてそれが維持されていることも多い。一時的な血圧上昇だったのである。仕事や家庭のストレスで血圧はすぐ上昇する。僕自身の経験から言っても環境の変化で血圧は結構変化するのだ。5,6年前僕は降圧薬を2年ほど続けなくてはならないくらい血圧が高かったのだが、環境の変化(それだけじゃないけど。運動しだしたのも大きいかな)で今は必要ないしPWVなんかでも動脈硬化のサインはまったく認められない。心理的な要素は大きい。
高血圧は心身症といってもいい要素があるし、またそれで本当に状況を悪くしていることも多いです。自己測定は大事だけど、とりあえず高くてもあんまり慌てないようにね。大丈夫。