カテゴリー別アーカイブ: 医療編

ボケたくなけりゃ肉を食え!

なんてタイトルだ。だけどこれ嘘じゃないかも。高齢者がどんどん増えてきて大騒ぎしている割には、実のところ高齢者の方のデータというのはあまり無くてわかってないことも多い。その中で東京都老人総合研究所は多くの高齢者のデータを発表しているが、その中で長寿と栄養について面白い発表があるのでいくつかを書き出してみよう。

1. 1970年代における100歳以上の方100人のデータでは、食事における蛋白質の割合は当時の日本人の平均を大きく上回っていた。
2. 東京の高齢者の中で20%ほどは、量は多くないものの毎日肉を摂取していた。沖縄の高齢者はもっと多くの肉を摂取していたが脳卒中の発生率は全国最低だ。
3. 牛乳をよく飲む高齢者ほど魚、肉、卵などの動物性食品を積極的に取っており、高学歴で運動習慣があり、歯が多く残っていて朝食を取る習慣があるという共通点があった。
4. これらの方は栄養状態の指標である血中アルブミン値が高く、その値と長寿とは相関関係がある。
5. 肉に多く含まれるセロトニンは脳内神経伝達物質であり、鬱やボケの予防につながる可能性がある。

どうよ、皆さん。他にもあるぞ。神奈川県立保健福祉大学の杉山みち子教授は、高齢者の最大の栄養問題はたんぱく質、エネルギー低栄養状態であると看破している(日本医事新報4141:1,2003)。70歳以上では体力と筋力をつけるためエネルギー、たんぱく質をちゃんと食べることを目標とした栄養教育が必要とまで言っているのだ。肉を食べるな、粗食こそ長寿のもと、というのが一般論だが、それは成人病になりやすい70歳台までにいえることで、その激戦区を勝ち抜いてきた高齢者の方はむしろ栄養をつける必要があるのであった。

イメージが変わるなぁ。後期高齢者は絵や音楽をたしなみ(芸術はボケ予防に最適だ!)、マシーンを使ってパワリハをし、赤ワイン(含まれるポリフェノールは老化やボケ予防に効果ありとされている)でステーキを食うのが望ましい生活なのである。店の方も考えないといけない。焼肉屋は年齢によって値段を変える。成人病予備軍の30歳から70歳までは高めの設定で、それ以上は半額。今日は金が無いから焼肉にしようぜと、高齢者はスポーツで汗を流した後相談する。こういう人が増えると暗い日本も少しは変わるんじゃないかなぁ。

感情が怖い

夏樹静子の「椅子がこわい」を初めて読んだ時の衝撃は大きかった。彼女が実際に経験した激しい腰痛が整形外科的なもので無く精神的なものであり、精神科的な絶食療法で治癒するまでのドキュメントだ。それまで外来診療にはそれなりの自信もあって望んでいたのだが当時は専門バカであった。腰痛が心理的なものから呼び起こされるとは知らなかったのだ。おぉ、なんたる無知よ!

多くの医療機関を受診して全く異常ないといわれる。しかし恐ろしいぐらいの激痛が走る・・・症状が過度に激しく思えるとき精神的なものを疑うのは経験から知っていたが、一見何ら精神的な問題の見つからない知的な人間がそう訴えたとき診断は難しい(今となってはかなり確診をつける自信はあるけどねー、僕の患者さんが怯えないようにそう言っておこう)。内科の外来をしていると、この人が肉体的に苦しんでいるのは精神的なものが原因であり、症状はそれを表しているのに過ぎないと思うことがある、というか多いのだ、割と。同業者ならわかると思う。動悸、眩暈、腹痛など色々な場所の痛み・・・多くはご自身も気持ちから来るものだなと感じているが、時には全く意識されていないときもある。身体表現性障害だ。交通事故後のどうしても治らない腕の痛みに対して訴訟まで起こしていた人が、抗不安剤の投与で全く痛みが消失し神様扱いをされたことがある。原因はどうであれご本人の苦しみはリアルにあるわけだから、理解されないと痛みは2乗になるだろう。潜在意識は怖い・・・実は今アキレス腱を切断してやっとギプスが取れたところなのだが、健常側の股関節が痛くて困っている。松葉杖の片足歩行で無理がかかった結果なのだと思っていたが実は心因性だったりして。完全な状態で働くことの恐れが痛みを作り出している可能性は・・・心配になってきた・・・。

精神は肉体を支配する。健全な精神は健全な肉体に宿るというがありゃ嘘だ。そういう時もあるが、健全な肉体を持つ不埒な輩は多いし、不健全な肉体を持つ健全な不屈の精神の持ち主もいる。パラリンピックを見よ。いずれにしろ、身体は精神の単なる乗り物に過ぎないのかもしれん。感情は強い。全てをぶち壊すのは肉体ではなく精神であり感情だ。頑張ってるとき、肉体よりも感情が負けた時が最後の時だ。肉体のコンディションに気をつける人は多いが自分の気持ちのコンディションは結構投げやりだ。そいつは間違いだ、大事にしなくてはいけない。最優先事項だと思う。

お風呂入っていいですか?

風邪の患者さんに質問されることが最も多いのが、お風呂に入っていいですかというものだ。お子さんが風邪のとき、お母さんは半分以上訊いてくる気がするし、大人の方にでも良く訊かれる・・・・実は正解はない。医学は統計の学問で、ちゃんとした研究報告を元にすれば答えを出すことが出来る。多くの医者が同様の質問をされているのにもかかわらず、風邪の時入浴が可能か研究した論文は調べた限り世界中に殆ど無い。

報告が全く無いわけではない。五十嵐正紘先生の日本の小児科医を対象とした調査では88%の小児科医は風邪の子供の入浴を容認している。しかしほとんどは熱がないこと、重症や急性期でないことの条件付である。半分近くの親は風邪の時風呂に入れない。しかし入浴させた親の回答では、82%が変化なく、15%は良くなったと答え、2%が悪くなったということである。

個人的には僕は風邪でも風呂に入る。しかしそれは治療を期待してではなく気持ちがいいからである。西欧では風邪の時入浴を勧める場合があるし、サウナは風邪の罹患率を減少させるという論文もある。大人の方は入りたければ入ればいいし、その気も起こらないぐらいしんどければやめればいいのだ。自己責任である。

風邪の時入浴を控える習慣は、江戸時代からほんの数十年前まで銭湯が主流であり、風邪を引きやすい冬に帰宅までの間湯冷めしたこと、また内湯でも浴室以外は気温が低く湯冷めしやすいことが原因ではないかと推察されている。湯冷めすると咳が出やすくなる。入浴して悪化した人は咳がひどくなったという人が多い。悪いのは湯冷めだ!気をつけろ!

といっても基礎に病気をお持ちの方の入浴は慎重にしたほうがいい。入浴は心疾患をお持ちの方の場合、心機能を良くする場合もあるし悪化させる場合もある。要は入り方で、病弱な方に一番安全な入浴方法を完全ではないがまとめてみると・・・

1. 温度は38から41度Cまでの微温浴。
2. 一番風呂は浴室が冷えているため控える。浴室を暖めておくこと。
3. 胸下までの半身浴とし、肩はバスタオルで保温する。首まで入ると心臓に負荷がかかる。半身浴だと、ちょうど空気中で寝ころんだ程度の負荷である。
4. 入浴剤は好みならば使ってもいい。ラベンダーの香りは心拍数を減少させ脳波のアルファ波を増加させるのでリラックスするし、炭酸ガスを主成分とするものは冷えに有効。
5. ゆっくり立ち上がる。
6. 入浴後の温度変化を少なくするため、更衣室など保温する。
7. 入浴後は水分を取る。喉が渇いてなくてもコップ2杯程度の冷やし過ぎないお茶やスポーツドリンクを。
8. 夕食後1時間は入浴を避ける。入浴することで胃への血流量は減少し、水圧のため胃が押し上げられて胃から小腸への食物の排出が制限されるため。
>おまけ:運動後は最低でも30分あけて入浴したほうがいい。入浴により血液は血管拡張した皮膚表面に多くなり筋肉へは減少するため、酸素供給、老廃物除去が不十分となり筋肉の疲労回復が遅れる。また入浴の心臓への負担もあり、運動されている方はしばらく待ってから入浴を。