風邪の患者さんに質問されることが最も多いのが、お風呂に入っていいですかというものだ。お子さんが風邪のとき、お母さんは半分以上訊いてくる気がするし、大人の方にでも良く訊かれる・・・・実は正解はない。医学は統計の学問で、ちゃんとした研究報告を元にすれば答えを出すことが出来る。多くの医者が同様の質問をされているのにもかかわらず、風邪の時入浴が可能か研究した論文は調べた限り世界中に殆ど無い。
報告が全く無いわけではない。五十嵐正紘先生の日本の小児科医を対象とした調査では88%の小児科医は風邪の子供の入浴を容認している。しかしほとんどは熱がないこと、重症や急性期でないことの条件付である。半分近くの親は風邪の時風呂に入れない。しかし入浴させた親の回答では、82%が変化なく、15%は良くなったと答え、2%が悪くなったということである。
個人的には僕は風邪でも風呂に入る。しかしそれは治療を期待してではなく気持ちがいいからである。西欧では風邪の時入浴を勧める場合があるし、サウナは風邪の罹患率を減少させるという論文もある。大人の方は入りたければ入ればいいし、その気も起こらないぐらいしんどければやめればいいのだ。自己責任である。
風邪の時入浴を控える習慣は、江戸時代からほんの数十年前まで銭湯が主流であり、風邪を引きやすい冬に帰宅までの間湯冷めしたこと、また内湯でも浴室以外は気温が低く湯冷めしやすいことが原因ではないかと推察されている。湯冷めすると咳が出やすくなる。入浴して悪化した人は咳がひどくなったという人が多い。悪いのは湯冷めだ!気をつけろ!
といっても基礎に病気をお持ちの方の入浴は慎重にしたほうがいい。入浴は心疾患をお持ちの方の場合、心機能を良くする場合もあるし悪化させる場合もある。要は入り方で、病弱な方に一番安全な入浴方法を完全ではないがまとめてみると・・・
1. 温度は38から41度Cまでの微温浴。
2. 一番風呂は浴室が冷えているため控える。浴室を暖めておくこと。
3. 胸下までの半身浴とし、肩はバスタオルで保温する。首まで入ると心臓に負荷がかかる。半身浴だと、ちょうど空気中で寝ころんだ程度の負荷である。
4. 入浴剤は好みならば使ってもいい。ラベンダーの香りは心拍数を減少させ脳波のアルファ波を増加させるのでリラックスするし、炭酸ガスを主成分とするものは冷えに有効。
5. ゆっくり立ち上がる。
6. 入浴後の温度変化を少なくするため、更衣室など保温する。
7. 入浴後は水分を取る。喉が渇いてなくてもコップ2杯程度の冷やし過ぎないお茶やスポーツドリンクを。
8. 夕食後1時間は入浴を避ける。入浴することで胃への血流量は減少し、水圧のため胃が押し上げられて胃から小腸への食物の排出が制限されるため。
>おまけ:運動後は最低でも30分あけて入浴したほうがいい。入浴により血液は血管拡張した皮膚表面に多くなり筋肉へは減少するため、酸素供給、老廃物除去が不十分となり筋肉の疲労回復が遅れる。また入浴の心臓への負担もあり、運動されている方はしばらく待ってから入浴を。