再び開高健。あるかけだしの女性編集者が一緒にした海外の仕事の最後の日に封筒をもらう。
「私も世界中をあれこれ廻り歩いたおかげでどえらい薬が手に入りましてな。このクスリ、どんな病気にも効くという万能薬や。そやけど一度にたくさん服用したらアカンよ。ちびちびとのまなあきません。これをあなたに差し上げます。病気になったら飲みなさい。」その封筒には「萬病之薬(但シ少量ズツ服用ノ事)」としたためられている。
ホテルにもっどて開けてみると何とそれは現金だった。かなりの額である。あわてふためいて彼のホテルに電話を入れると「そんなに気にせんでよろしい。私が貧しくて若かった頃、誰かにしてもらいたかったことをやっただけのことです。」
翌日彼女は開高健を空港で見送る。軽く握手し、それが彼と会った最後となった。
僕が研修医の頃、仕事が終わった遅くに何人かの同僚と少し遠くへ食事をしにいった。「疲れたからうまいもん、食べようぜ」。ふと近くのテーブルに見たことのある顔、眼科の講師の先生がご友人と食事をされているのが眼に入った。顔を知っているだけで特に話したこともなかったので挨拶もせず我々は騒ぎ、さて帰ろうということになった。お勘定をしに行くと「ついさっき帰られた方が払っていかれましたよ」と店の人が言う。あせって外に出て探すと、運よく話しながら歩いている先生を見つけた。「どうもすいません。ごちそうさまです!」と言う我々に「何いうてんねん。どんどん働いてもらわなアカンから投資投資。またもっと高いもんおごってな!」と笑いながら去っていかれた。
お金は稼ぐより使うほうが難しい。使い方にその人間のすべてが表われるからだ。
毒にも薬にも・・・
先生が妻と私に、結婚のお祝いとして、ごちそうをしてくださったことを思い出しました。
先生は品のあるカッコいい、とってもスマートな振る舞いで、あの時、妻と二人、あたたかくとっても幸せな気分で帰ったのを思い出しました。
今でも時々、あのときの話をするのです。
どうも有り難う。なんか照れるなー、でも嬉しいです。僕も時々思い出します。いつまでもフレッシュは二人であられんことを。