陽炎のように

 勝海舟の「氷川清話」をパラパラと読む。角川文庫で昭和47年発行とある。30年以上前に買ったのか・・・。僕は何度か引越しをしているが、そのたびに本を処分している。しかし数度のそのような大粛清を生き延び僕の手元に残っている何冊かは、間違いなく僕の心の奥の何かに深く触れた本である。

 この本も古本屋で見たら間違いなくスルーしそうな日焼け振りである。ページの周りが茶褐色に縁取られ、セピア色の過去そのものである。

 しかし内容は色あせない。

 勝海舟が75歳くらいの時に彼の弟子やファンの人が回顧談を引き出しそれを速記したもの。最初に刊行されたのが明治31年らしい。「外交について」だとか「人物評」だとかいくつかのパートに分かれているが、どこをとっても幕末、明治維新の大立者、肝の据わった意見が聞ける。

 その中で最近の世相について「金持ちの屋敷の周りに植えてある樹木なども、身代が左前になると、どんな大木でも勢いがなくなって見える。人間もそのとおりで、元気の盛んなときには、頭の上から陽炎のように炎が立っているものだ。然るに此の頃往来を歩いてみると、どうも人間に元気がなくて、みんな悄然としておるらしい。これは国家のためにも決して喜ぶべき現象ではないよ」と述べる。

 頭の上から陽炎のように炎が立っている、というのが好きだ。明治維新の頃はそんな奴がごろごろ歩いていたのだろう。

 頭の上から陽炎のように炎を立てたい。

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37歳咸臨丸艦長の時。陽炎立ってるねー。

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