冬になると全身のかゆみを訴えるご老人が増える。皮膚がカサカサである。乾燥性皮膚炎である。空気も乾燥し暖房も入れるとますます乾燥が増悪する。「老化とは乾燥である」という言葉もあるとおりただでさえ水分が少ないのに、おしっこの回数が多くなるからと水分を取りたがらないご老人が多い。それに唾液分泌が少なくなって口が乾燥しても、知覚的にわかりにくくなっているのでよけい水分摂取量が減る。
ご老人に限らず小さな子供でも乾燥肌は多い。アトピーまでいかなくても乾燥肌で背中に掻き傷をたくさん作っている子が増える。
そんな時「お風呂に入るとき、タオルはなに使っているの?」と尋ねると、驚くほどの確率で「ナイロンタオル」という答えが返ってくる。泡がいっぱい出てゴシゴシこすれて、なにかすごい清潔になった気がするタオルですが、かなり前に皮膚の黒変が問題になったことがある。こいつが悪者なのである。「いけないんですか?知らなかった」と言われる方も多い。
身体の外側を覆う皮膚はバリアとして重要な役を担っている。病原体やアレルゲンが体内に侵入するのを防ぎ、一方では体内の水分が蒸発しすぎるのを防ぐ。皮膚の中で最も外側にある角質層が特に重要だ。細胞がきっちり並んでいることに加え細胞内や細胞間がケラチンやセラミドなどの繊維やたんぱく質、脂質で満たされているからである。
ナイロンタオルは角質層の細胞をはがしてしまいバリアが壊してしまう。普通のタオルでもゴシゴシこするのはよくない。乾布摩擦や垢すりなんかちょっと失神物だ。石鹸も皮脂を取りすぎてしまうことがあるのであまり大量に使わないほうがいい。少量を泡立てる、それを身体にそっと置いて撫ぜるだけで十分なのである。伊丹十三の「女たちよ!」だったか「ヨーロッパ退屈日記」だったかどちらかに、石鹸は使うときこすらないでいいのだと主張している友人の話が書かれていて、彼は風呂場で石鹸の泡をつけたまま、じっと身体が冷えてくるのを我慢しながら「これが正しい身体の洗い方なのだ」と呟いているのだろうかと皮肉っぽく書かれてあったのを思い出した。彼の友人は何十年も前からスキンケアの真髄を会得していたのである!
入浴後は保湿をおこなう。バリア機能の保持と保湿とは全く同一ではないが(セラミドは両方の性質を持つ)、保湿のみでもそれなりにバリア機能は改善される。ただし尿素は角質を溶かして皮膚をつるつるにするので子供さんやアトピーの方には適さない。大事なのは入浴が終わってから3分以内に塗ることである。入浴して皮膚内に入った水分が蒸発するときは周りの水分子も引っ張って蒸発するので何も塗らなければ皮膚は入浴前より乾燥する。しかも皮脂も減っているのでどんどん乾燥する。保湿剤は脱衣場に置くこと。身体の水分を拭くのもゴシゴシこすらずタオルをあてて水分を取る(こういうのは女性をよく知っているのだろうが男性は全く無知である)。
アトピー性皮膚炎はアレルギーということで食事制限を厳格にしている親御さんも多いが、基本は皮膚が弱いということでスキンケアが非常に重要である。今春「ネイチャージェネティックス」にアトピーの患者さんは角質の構造と保湿能力に大切なたんぱく質であるフィラグリンを作る遺伝子異常率が非常に高いというレポートが載った。アトピーになりやすさを左右する要因として皮膚のバリア機能が重要ということだ。アトピーの患者さんの皮膚は炎症のない部分でも普通の部位より水分の蒸発が1.5倍ほど多く保湿能力が低いと報告されている。角質セラミドも6割程度しかないとされている。ポイントはスキンケアなのだ。ナイロンタオルの使用をやめただけでアトピーといわれていたのが一挙に改善した例が何例もあった。
僕はコスメティックには全く未開発な人間で、整髪料もほとんど使用したことがない。僕の後輩でこういったことに詳しく、実践もちゃんとしている男がいるが、彼の顔はツヤツヤである。うーむ、そろそろ考えねばなるまい。うちの法人で扱っている清酒の「大関」が米を材料にして作っているスキンローションを塗ってみるとこれがなかなかよろしい。僕は車の小さな傷もタッチペイントでちょいちょいと直しておくだけであまり気にしない人間なのだが、自分のボディペイントも気にかけるようにしよう。こういうことをちゃんとすると内臓のこともちゃんとするようになる。是非皆さんも、特に男性の方、1に清潔、2に保湿です。来年からちゃんとしようね。