カテゴリー別アーカイブ: 介護編

出しましょう!

初診の人を診察するとき、何か薬を飲んでいないか訊くのは常識である。最近は健康食品のことも訊かなくてはならない。健康食品の使用率は驚くばかりだ。ある日、あるご老人が医療費の自己負担が増えたことを嘆く。「おまけに先生、私は足が痛いし目も悪いし、皮膚病もある。毎日医者通いなのにその度にお金がかかるのです。」「・・・お気の毒です。」「おまけに良いと薦められたあれやこれや健康食品だけで毎月5000円以上も払わなあかんのに。」「!?(そっちの方が高いのでは?)」

何故みんな健康食品が好きなのであろうか?まあ、なんとなく判らないでもないけど。しかし「健康に良いものみんな食べて肥え」しかり!これはサラリーマン川柳からとったものだがこんなものを引用することからも判るように私は健康食品に批判的である。安全であろうということが健康食品を選ぶ一つの大きな理由と思うのだが、大流行のサプリメントにしてもビタミンEやCの大量摂取は死亡率を上げると最近発表されている。権威ある英国の医学誌であるLancetでは昨年「サプリメントは全く金の無駄!」というタイトルの総論が発表されたはずだ。みんな、もっと情報を集めよう。日本はかなりのところ金儲けで情報が左右されているぞ。サプリメントについてはまた別の機会に書こう。

一体何を私は言いたいか?一言で言うと、健康のためには色々な物を摂取するよりも、むしろ出さなくてはならないという事だ。インプットよりもアウトプット重視。食べるだけで便秘になると身体に悪い。声を出すこと、汗をかくこと、大いに喋ること、本を読むだけでなく感想を書くこと、映画を見るだけでなく内容を他人に説明すること、絵を見るだけでなく描くことが大事ということやね。

痴呆の専門家である俗風会病院の大友英一院長は「小説家、政治家、作曲家、画家、彫刻家・・・それと俳句を作る人にはボケが少ない。皆、見たこと、聞いたこと、感じたことを自分の感性で表現している人たちです。データをインプットするだけではダメで、自分の頭で整理整頓、再構成してアウトプットすることが重要。日記を書く、手紙を書く、周囲に気配りをすることもボケ防止になる。また適度の運動は脳血流を増加させ脳の老化を遅らせる。ボケたかったら1日中ボーとして運動しないでテレビを見ていなさい」と述べられている。全くその通り。

受身ではなく能動的に生きる楽しみを探していくとボケも病気も寄ってこない・・ってことは無いかもしれないが少なくともなりにくいと思う。やってもらうじゃなくって自分でやることだ。一つの例なのだが、当院でやっているパワーリハビリテーションのマシーンは筋トレのマシーンと間違われやすいが、元々ドイツの整形外科で使われているリハビリの道具である。日本でリハビリというとマッサージやホットパックをやってもらうと考えている人が多いがドイツではマシーンを使って患者さんが自分で能動的にするのがリハビリなのだ。能動的に参加しないとリハビリにならない。もちろんそのようにリハビリをやってられる方も沢山おられるが、どうも受身な姿勢が強いという方も多い。どうもこれはリハビリだけでなく我々日本人の一般的な傾向のように思われる。これを変えよう。受身でなく自主的に!身体のために、自分のために、入れるよりも出しましょう!

日本は健康寿命世界一

世界保健機構(WHO)は2000年に日本を健康寿命のランクを世界1位としました。これは日本が単に余命だけでなく活動的余命においても世界1の長寿国である、つまり年をとっても元気な人が多いという事をあらわします。わが国には長寿者が多いが反面寝たきりが多いなど高齢化社会に悲観的な感じを持たせる報道が多く、この結果に意外な感じを抱く人が多いのではないでしょうか。2001年2月1日のmedical tribuneは老化に関する疫学研究の専門家である桜美林大学の柴田博教授にインタビューし、興味深い話を引き出しています。

日本において死の直前に寝込む期間が半年に及ぶものは10数%に過ぎず、多くの高齢者は死の間際まで高い身体能力を保っている。

統計を出す場合施設入所者を対象にする場合が多いが、日本はかなり身体能力が悪くなってから入所する例が多く、比較的軽度でも入所していることの多い北欧と比較した場合、高齢者の能力は悪く出て当然である。

日米比較調査では、地域在住高齢者を比較した場合、日本の方が慢性疾患を持つ者の割合も低く、身体能力も高いことが明らかにされている。

寝たきりの実態が過大評価されているところがあり、介護保険ビジネスの伸び悩みはそれを裏付けるものである。わが国の地域高齢者の健康度が高いのは事実でその要因を解明していくのが今後の課題である。

わが国の高齢化社会の問題点は自殺が年々増加していることであり、その背景にある鬱への対策が今後大きな課題となる。これまで障害を持った高齢者のサポートが問題とされてきたがこれからは健常な高齢者について議論することも重要となる。

年をとることの悲観的な面ばかり強調されていますが、むしろ年をとることで伸びていく英知というものがあります。障害を持った高齢者に対する医療介護だけでなく、健常な高齢者の問題を考えなくては。 能力を保つためにどうすればいいかという医学的側面に加え、社会にとって必要な人間でありつづけるためには地域社会はどうあればいいかという社会的側面が大事です。医療という枠を越えて地域とかかわっていくにはどうしていけばいいか、私自身の問題です。

楽天的で長生きを

2002年12月12日発行のメディカルトリビューンによれば、エール大学疫学公衆衛生学のBecca Levy助教授が「加齢に対して肯定的な態度を取れば寿命が平均7年半延びる」と発表した。1975年に50歳以上の660人の男女にアンケートを行い、23年後に回答内容と生存の関係を検討した。その結果加齢についての考え方がより肯定的と判断された回答者は多くの条件(年齢、性、社会的経済的地位、身体機能など)を補正一致させた段階でもより長寿であることが認められ、それは高血圧や高コレステロール血症の治療、禁煙や持続的な運動よりも寿命に対する効果が大きかった。自分を消極的に評価すれば寿命が短くなり、前向きに評価すれば長くなる。同助教授の前回の研究では、高齢者は加齢により自分が賢明になったと思うかその反対かと思うかにより、ストレスに対する心血管反応、記憶力、演算能力などに大きな差が出てくることが証明されている。

自分を前向きに評価するにはそれなりの自信が必要だろう。根拠の無い楽天性も有効に作用する可能性があるが、年をとっていく自分に自信がもてるだけの生活設計がちゃんとなされていたことが寿命の延長に一番大きかったのではないかな?とはいえ楽天的に考えることの効用はあなどれない。最近ご老人の欝傾向が増加しているが今までの人生が無駄に思えるような痛々しい結果になる場合もある。笑えば免疫力も増強する。単純に楽天的に考えるように心がけるようにしよう。

若い奴らを助けてやろうぜ!

日本は高齢化社会である。あと何年もしないうちに65歳以上の高齢者があなたの周りにあふれます。えらい事です。寝たきりばっかりでっせ!何とかしないと・・・。日本の未来はこんな話ばっかりである。だけどホントなのか?シカゴ大学のベルニース・ニューガートンという学者は65歳越えたら高齢者というのではなく、65歳から75歳までをヤングオールド、75歳を超えたらオールドオールドにしようと提唱している。日本でも前期高齢者、後期高齢者と最近言っている。前期高齢者は元気である。寝たきり老人や痴呆老人の発生率は75歳まではかなり少ない。芸能人を見よ!高倉健は73歳だっけ(間違っていたらごめんなさい、だけど70台は間違いない)?森光子とか、一体どうなるんだ?失礼な話だ。なんとなく引退というニュアンスのある高齢者という言葉はそぐわない。あなたの周りにもバリバリの70台がきっといることと思う。

ということは65歳以上が老人という定義はもう古いんじゃないか。75歳以上という方がいいんじゃない・・というのは僕のオリジナルではなくて和田秀樹というやたらめったら本を出している精神科医の先生が言っていることだ。2025年が高齢化のピークで、4人に1人が老人だということだが、75歳以上を定義にすると2025年でも現在より少なくなる。老人が増え働き盛りの人口が少なくなる。とても国は回りません。だから消費税でも介護保険でも何でもかんでも皆様に負担していただかないと・・とか言うのが政府の見解だが75歳以上を老人と定義しなおすとこの理論は成り立たなくなる。だいたい老人はみんな働けないぐらい体が弱ってるのか?どーも信じられないな。このpearlsでも書いたけど日本は健康寿命世界一だ。元気な高齢者の率が世界で一番高い。その方たちがバリバリその能力を発揮していただける場所を作るほうがもっと大事なことではないかな。

介護保険で今度おそらく介護予防というのが新設される。ガタガタにならないように気をつけてね、ちょっとそのためのお金は負担するから(といっても国民が大部分の費用を負担してるんだけどね、しかも出してくれる金額はめっちゃ安いかもしれん)、という、まあ珍しくまともなプランだと思います。僕の診療所ではパワーリハビリテーションというのに力を入れている。これは介護予防の切り札、というか介護を必要とする方にとっても身体能力回復の切り札だと確信しているのですが、考案者の国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授は50歳超えたらやった方がいいといっている。予防が大事だ。よれよれの高齢者になったらアカン。スムーズに体を動かせることが大事なのだ(パワリハは筋トレじゃなく神経と筋肉の連携をスムーズにし、使っていない筋肉を利用するようになることで身体と精神を活性化する)。高齢者というと何かしょぼいイメージがある。これが問題だ。パワリハでしなやかな身体をつくり、美しい外見とさわやかで前向きな精神を持って、今から将来を思ってうつむきがちな若いやつらを助けてやりましょう。あなたには若い奴らには無い知恵があるのです。やる気があれば能力を発揮できる場所はきっとある。探しても見つからなかったら僕に連絡してください。

身体の手入れに費やす時間

TOEIC会長で、65歳で司法試験に合格した渡辺弥栄司という人がいる。今87歳だが125歳まで生きると決めている。30年前に中国人で太極拳の高名な師家に幾つまで生きるつもりですかと訊かれ、神様が決めることですからと答えたところ、「それは幼稚な考えです、社長さんが社員にこの会社は後何年続くのですかと尋ねられて俺は知らないと答えるのですか、目標は無いのですかと質問され、無い、毎日一生懸命やればいいのだと答えるのですか、そんな会社は潰れてしまいますよ、幾つまで生きるかは自分で決めるのです」と諭される。すごい話しだが、彼は逃げ回った挙句、しつこい先生についに根負けして125歳と言ってしまう。根拠は特に無い。しかしこの年齢は現在生存可能な最長年齢と科学的に言われている。そして彼は偉いことに、何とかこれを実現しようとしている。

前向きなものの考え方、控えめな食生活など、多くの方がご存知のことを実行されているが、速歩き、真向法の体操、木刀の素振りなど身体的なトレーニングを毎日40分以上休まず続けておられる。おお、なんと素晴らしい。ところが彼が三浦敬三氏(プロスキーヤーの三浦雄一郎氏のお父様で、確か一昨年アイガーだっけ、氷河を滑走した。現在100歳のはずだ)に会われたとき、三浦氏は言うのである。「それではダメです。これから本当の人生を拓いていかれるならその程度で健康なんてことを信じていてはいけません。まあ、やらないよりはいいが。私は毎日、4、5時間ほど身体の手入れをしています。125歳まで生きるという理想は大きくてよろしいが、それに見合う努力をしていませんね。本気で取り組みなさい。どんなに忙しくても時間は取れるでしょう。」

どうよ、お父さん。僕もテレビで見たが、確かに彼は走っていた。100歳だぜ。仕事で忙しい?いーわけ、いーわけ。言い訳、好いわけ?素直に認めよう。あなたの身体だ。目標も無く、アイデアも無く、努力も無い。結果は明らか、火を見るよりも・・・

> ※2004年10月23日のニュース(共同通信)で三浦氏のことが出ています。 世界最高齢の70歳でエベレストに登頂したプロスキーヤー三浦雄一郎さん(72)の体力は20代男性と同じで、100歳の現役スキーヤーとし て知られる父親、敬三さんの大腿(たい)骨は60歳並みの強度があることが23日、東京都老人総合研究所の調査で分かった。  同研究所分子老化研究グループの白沢卓二研究部長は「遺伝的要因もあるが、体を鍛えていることが老化を抑える一因と考えられる。日ごろから 運動することが大切」と指摘。「三浦家の長寿の秘密を探る」と題し、11月8日に都内で開く特別公開講座で発表する。