昨日はある障害者施設でスタッフ対象の講義をしました。主たるテーマはエイズの感染予防について。利用者の1人がHIV陽性(エイズ感染者、発症はしていない)で、多くの施設で利用が断られているためその施設で引き受けようとしたところ、スタッフの半数が反対しているので安全性について勉強したいということでした。
エイズはあなたたちに関係の無い病気ではありません。それどころかかなり一般的な病気となりつつあり、東京とか大阪では、リスクの高い年齢層(10代から40代)だと150人に1人がHIV陽性と考えられています。僕も2年ほど前、非典型的な間質性肺炎の患者さん(カリニ肺炎だった)を病院に送ったところエイズが判明し2週間ほどで亡くなられた経験があります。
エイズウイルス自体の感染性は弱く、血液が入らない限り他の体液で感染する可能性は非常に少ない。e抗原陽性のB型肝炎キャリアーのほうがはるかに感染性は強く、そのB型肝炎キャリアーが10名いる800人が一緒に過ごす施設で10年にわたって観察された結果、1名の発症もなかったという報告がある。それから考えると普通の係わり合いをしてる限りHIV陽性の方から感染する可能性はとても少ない。血液がどこかについても手袋をしてハイターで清拭、その後30分ほどおいて水洗いするとまず問題ない・・・等など話しました。しかし質疑応答では不安感は消えない、理屈はわかったけど実際はねぇーという印象でした。
正体のはっきりしないものに接する事は恐怖がある。B型肝炎キャリアーは受け入れているのにエイズだと不安になるのは、実は意外なところから感染するのだとかいう新しい事実が判明する可能性があるからでしょう。それは否定できない。医学的な知識が必ずしもあるわけではないから、というのもあるでしょう。反対される方の気持ちは十分判ります。しかし、現時点で感染の可能性は極めて少ないということがはっきりしているのに受け入れないのは福祉に携わる人間の精神として問題がある気がします。
もっと事実を知ること。アメリカでは受け入れるのが普通ですが、今まででそのような施設で発症者がどれくらいあったのか、そのようなデータは調べた限りではわかりませんでした。そのような知識を深めること、それが患者さんを救うことになる。僕たちの施設でも同じような問題は必ず出てきます。勉強を急がなくてはならない。そう思いました。