村上龍氏はかなり好きな作家です。今まで連載もので毎回どきどきして、なんというか続きを読むのが楽しみでもあり、つらかったような不思議な感覚を味わったのは、ブルータスに連載していた彼の「テニスボーイの憂鬱」以外ありません。「料理小説集」は何度も読み返すくらい好きだったし、「69」「走れ高橋」も本当に面白かった。上下2巻を2日で読んでしまったのは「愛と幻想のファシズム」「半島を出でよ」以外他の作家数冊しかないと思います。
で本屋さんを覗いていたら「368Y Par4 第2打」というゴルフ小説があるではないか!確か昔読んだ記憶があるのですが、パラパラ見たら全く記憶に無いので読むことにしました。前はゴルフにまったく興味が無い頃に読んだからなぁ。
ところがこれはゴルフ小説ではありません。アメリカでゴルフのプロを目指す青年が希望のモチーフになっていて、主人公のイベント屋のおっさんが大きな苦難の仕事をやっていく各々のシーンにゴルフが挿入される。テーマのひとつは村上氏が何度も書いている日本とアメリカの関係ですが、大事なテーマはタイトルにある第2打です。
ゴルフをされる方はわかると思いますが、第1打でともかく遠くに飛ばそうと思う段階から次に第2打の重要性がわかってくる。シングルになるとアプローチに執念を燃やすという具合で、上達とともにディーテルが重要になってきます。
僕はやっと第2打の重要性がわかった段階で、これがうまくいくと大概いいスコアで上がれる。第1打がだめでもリカバリーが十分きくショットなのです。これはメタファーです。最初がチョロで70ydしか飛ばなくても、林に突っ込んでも、第2打の出来いかんが結果を左右する。前にはクリークがある、右に曲がってグリーンがチラッとしか見えない。勇気と判断で刻んでいくかギャンブルするか、ギャンブルは大概失敗する。が常に刻んで何の人生!男の子だろ!
やり始めは勢いで行くが、次の段階、こいつが難しい。これをうまくやれば後はディーテルをつめるだけだし、最後の詰めでパットということになります。第2打の重要性、今の僕は実際の仕事もゴルフも同レベルかと思います。
本では大変印象的な第2打で結論はお楽しみ。こういう具合にいきたいです。
「368Y Par4 第2打」村上龍著、読んでみました。
「368Y Par4 第2打」村上龍著、読んでみました。 十年以上前の作品ですが、初読です。結構、村上龍は好きで、作品は殆ど読んでいるんですが、「死ぬほど熱狂的」なファンと言う訳でも無く、作品一覧表を覗いてみると、所々、未読が在った。この作品はその一つ。主人公は「自分自身の分析」を冷静にできる、40才位のインディペンデントの「イベントプロデューサー」。金は贅沢するにも困らないほどあり、「チェリストの奥さん」の他に「ミスさくらんぼ」ちゃんという素敵な不倫相手が居て、世界中の「スノッブが好きそうな」場所をファーストクラスで駆け回る。仕事は順調でエキサイティング。ある意味、優秀な部下に恵まれ、ビッグチャンスが舞い込み・・・・。はぁ・・・。羨まし過ぎ。主人公と歳が近いせいか嫉妬してしまう。作者の人脈や体験によるであろう、エピソードや登場人物のディティールはリアリティが有り、惹き込まれる。今読んでもあまり古さを感じさせない。ゴルフが下手な所だけチョット救われる。「欲望」とか「憧れ」は尽きないもので、そんな恵まれた彼も「ケンタロウ」が持つ「プリミティブな輝き」に惹かれ入ってしまう。なんか、この位の歳になると、地位や名誉やお金ではなく「ケンタロウ」が持つ「若さ」とか、「才能」とか、「思考」とかが無性に羨ましくなるのは、凄く良くわかる。ゴルフ好きで、旅好きな自分としては非常に楽しく読めた。時間のある方は「ぜひ読んでみてください」。