高齢の患者さんが何よりも恐れているものの一つに脳梗塞がある。その予防としてジャンジャン水分を取りなさいとテレビで言ってたとかで、皆さん夜目を覚ましたら、習慣のように1杯水を飲むと言われるのですが、これは科学的に実証されているのであろうか?昔読んだアメリカの雑誌では否定されてたような気がするのだが、しかし有効なような気もするし…
この疑問に名古屋大学大学院泌尿器科学教授、後藤百万先生が答えている(日本医事新報2011年3月19日号)。
脱水により血液の粘度が上昇し脳梗塞や心筋梗塞のリスクが増すことは報告されている。しかし!
脱水の無い正常人で水分多量摂取が血液の粘度を低下させるかどうか検討した研究では影響がなかったと報告されている。別のデータでは、1週間の水分過量摂取後、排尿回数は増加したが有意の粘度の低下はなかった。これは心血管疾患のリスクを有する患者さんでも同様であった。
この問題に対する論文は結構多く、関連661論文の中適切な22論文のシステマティックレビューでは、脱水は確かにリスクを増加させるが、水分の多量摂取によって脳梗塞の発症率を低下させたという論文は一つもないということだそうである。
早朝には神経内分泌系の働きで血液粘度が若干上昇するといわれる。この予防として頑張って夜水を飲んでも尿として排出され、血液粘度の低下は一過性のごくわずかであってあまり脳梗塞の予防にはなり得ないというのが結論だな。もちろんこれは正常な状態の人であって、暑くて異常に発汗しているとか脱水の時は別である。口渇を覚えているときはちゃんと水分を取った方がいい。
日々の生活でノドも乾いていないのに無理して水を飲むことはない。むしろ非常に多い悩みに夜間の多尿があって、睡眠不足になっておられる場合さえある。よく訊くと、意識して水分を取っておられる方が多いのである。夕刻以降はあまり飲まないでもOK(水分量は1日のトータルが問題という文献もあった)とお話しすると、夜の排尿回数が減って楽になったという方もおられたのであった。
ということで、普通に生活している方の場合は意識して水分を取らなくていいということになる。
ちょっと気になるのは、ご高齢の方は知らない間に脱水傾向になっていることが多い(口渇中枢の働きが弱くあまり喉が乾かない)ので、年齢により結論が異なる気もする。すくなくともちゃんと自立して日常生活を送られている方の場合はあまり水分摂取を意識しなくていい。それより禁煙や体重コントロール、規則正しい運動の方が大事というのが妥当なところかな。
アルコールよりは水の方がいいと思う。