記憶違い

 記憶はあいまいだ。確かにそうだったという記憶も、時間が経つにつれ一部は忘れ、一部は混同し、同じ場所同じ時間に居合わせた同士でも、話すと食い違いが起こっていることはよく経験する。

 人間の記憶は他者の意見により変化するということを証明したレポートがある。

 権威ある「サイエンス」誌に掲載された論文の解説によれば、

 数十人の被験者が、5人ずつのグループに分けられ、警察の逮捕の様子を追った現場レポート風の短いドキュメンタリー映像を見せられた。3日後、被験者たちは、ドキュメンタリー映像についての記憶テストを受けた。さらにその4日後、被験者たちはもう一度呼び出され、今度は脳スキャナーにかけられた状態で、映像についてのさまざまな質問を受けた。

 被験者たちは、同じグループで映像を視聴した他の人々の回答を見せられた。ところが、「ライフライン」として提示された回答は、実はどれも間違いであり、しかもその質問は、前回、彼らが自信を持って正しく回答したものだった。驚くべきことに、この偽のフィードバックは被験者の回答を変化させた。ほかの人の意見に従って、事実と異なる回答を行った確率は70%近くにものぼった。

 問題は、彼らの記憶が実際に変化していたかどうかだ(過去の研究において、人は社会に同調するために、間違っているとわかっている回答も行うことが確認されている)。このことを調べるために、研究チームは、被験者をさらにもう一度呼び出し、再び記憶テストを受けさせた。その際に被験者には、前回見せた回答は、実は同じグループで映像を見た人のものではなく、コンピューターでランダムに生成したものだったと告げた。すると、最初のテストと同じ回答に戻るケースも見られた一方、40%あまりの回答は依然として間違ったままだった。これは、前回植えつけられた虚偽の記憶が、被験者の中ではすでに事実となっていたことを示している。

 虚偽の記憶が永続したケースと、「社会への同調」によって一時的に誤った回答をしたケースとで、脳の活動を比較した結果、研究チームは、記憶間違いの神経的要因を突き止めることに成功した。主要な引き金になっているとみられるのは、2つの脳の領域、海馬扁桃体が同時に激しく活性化することだ。

 海馬は長期記憶の形成に関わっていることで知られる領域、扁桃体は脳の感情中枢だ。この2つの領域が同時に活性化すると、正しい記憶と虚偽の記憶は、虚偽の記憶のほうが社会的要素を帯びていた場合、入れ替わってしまうことがある、と研究チームは述べている。このことは、他者によるフィードバックは、われわれの記憶する体験を形づくる強い影響力を持っていることを示している。

 だそうです。「何となくそう言われればそんな気もする・・・」なんてセリフはよく言ってるような気がするなぁ。冤罪とかもこうやって起こるのかなぁと思う。他人の記憶も強く主張すれば変化させることも可能だということで、そう考えれば恐ろしい。脳は視覚もうまく自分でつじつまが合うように調節するので錯覚というのが起こるのだが、記憶もそうなのか。ある脳学者が「脳は騙されやすい」と述べていたが、そういうことね。 

 記憶だけでなく記録はやはり大事である。マメにメモを取ることの重要性はよく判ってる。助かってることも多い。他人の意見に左右されやすい自分の脳力を過信しないように。まあ全然してないけど。

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