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クラプトンかスティングか?

人は見た目ですよー。またまたー、中身でしょ。いやいや、見た目が中身なんです。これは結構真実よ。研修医のとき、超優秀な病棟医長が言った。「ええか、池岡。見た目若いやつがおるやろ。あれはな、血管が若いんや。動脈硬化でガチガチのやつはな、見た目も老けてるぞ。」はぁー、そんなもんですか。しかしこれは結構常識のようであった。胸部外科とのカンファレンス、手術適応を決める。患者さんの年齢が問題になる。踏み切るにはギリギリの年齢。外科の教授が主治医に言う。「その人、どんな感じ?老けてる?」「いや、お元気でビンビンです。」「あっそう。じゃ、やろか。」はぁー、そんなもんですか。

25年も前の話だ。今では適応も動脈硬化の評価も科学的なもんだが、見た感じがその人の健康状態を表しているというのは変わらない。見た目が年齢です。実年齢、暦の年齢が問題ではない。表情、立ち振る舞い、オーラが年齢を決めるのですが、それは大きく健康状態に規定されると思う。(補足ですがその見た目の法則は犬にも当てはまると思う。大学院のとき動物実験で犬を使っていたのですが、雑種を使用する場合、開胸すると見た目きれいな犬は内臓もきれいで、本当に外と中は相関していたのだった。)

とは言うものの、純粋に見た目を変えることで内面も変わり、ひいては健康状態も変わったりするというのもある。美容整形で性格が明るくなり欝っぽさもとれ、そして運動もするようになると、これは薬よりも健康に効く!ということになりますね。で、話は頭髪のことになるのですが、今月飲む抗脱毛剤が遂に発売された。頭頂部や額の両脇から禿げてくる、いわゆる男性型脱毛に有効で、半年経過を観察した記録では、本来進行性のものであるから不変の場合も有効に含めると実に90%に有効という脅威の結果である。副作用もあまりなく、当初男性ホルモンをブロックすることから懸念されたポテンツの低下なども殆どないようである。育毛剤であるロゲイン(日本ではリアップ)との併用がとってもいいとのことです。保険は利かないので1ヶ月7000円位かかるが、ここら辺は悩み具合により高いか安いか微妙なとこでしょう。男性型脱毛は比較的若くから禿げてくるタイプも多いので、それ位だとかまわないという人も多そうな気がする。ここで長年の悩みから開放されると、ぐっと生活にも張りが出て、見た目も中身も若返る人が多くなるのはいいことだ!これも1種の抗加齢医学ですね。

去年父の日に、憧れの親父ミュージシャンのランキングをFMでやってました。2位はスティング(54歳)、1位は当然のようにエリッククラプトン(60歳)でした。かっこいいもんなー二人とも。あの年でどうなってんでしょう。スティングなんて禿げてても、かえってそれがシャープな感じを増しているという気さえします。目指しましょうぜ、ご同輩。いや、ほんまに。今やスティングでもクラプトンでも思いのままです、少なくとも頭髪に関しては。

新年のヨーダ

年が明けてはや10日が過ぎた。生まれてきてからの日数に対して1日の相対比が小さくなるから、年を取ると1日が早く感じるのだという説を読んだことがある。1歳児の1日は今までの人生の365分の1、僕はいくらになるのだろう。その50倍か。50倍早く感じるのかな。ともかく新しい発見が少なく繰り返しになるから、日々の記憶がとどまりにくく早く感じるのだろう。興味があって面白いことは記憶にとどまりやすいのです。毎日面白く過ごしたいなー、子供のように。少年の心に大人の財布です、理想は。逆はいけませんですよ。実際はそうですけど。

さてお正月でおめでたいことでもあり長寿の話題など。慶應義塾大学老年内科の広瀬信義部長が百寿者(100歳以上)213人にアンケートして長寿の秘訣を探ったレポートが2006年1月5日発行のMedical Tribuneに載っている。面白いところを少しピックアップしてみよう。

性格について。男性は神経質な人が多く、1匹狼的な自分の気の向くことを好きなようにするタイプ多し。女性は外交的で決められたことをきちんとやるタイプ、同性に慕われゴッドマザー的な人が多い。両性とも健康に敏感で、健康に悪いことは止め、いいと言われることは実行する傾向あり。楽天的でおおらかな性格に関係するといわれている遺伝子が特に女性に多いという報告があるが、両性とも幸福感の強い人が多い。家族は良い人が多く長寿者を大切にしている。

医学的所見については百寿者のほとんどが今まで大きい病気をしたことが無く30%が無病であった。特に糖尿病は圧倒的に少ない。アディポネクチン(脂肪細胞で産生されるインスリン感受性ホルモン)濃度高くこれが抗炎症、抗糖尿病、抗動脈硬化作用を持つのではないかと考えられている。

今までの食生活は同定できないが現在の食事を見ると、体重当たりの摂取カロリー、蛋白摂取量、脂肪の対総エネルギー比は若年者とほぼ同等であった。百寿者の平均余命をみると、乳製品、果物を良く取っているグループが一番長い。
認知症の問題もあるが、相対的に賢く、知恵がある人が多いという印象がある。学校の成績がよく高等教育を受けている人が多い。様々な困難に際し適切な判断をし、生き抜いてこれた人々である。

これは余談だが血液型はB型が多く、血液型は糖鎖で決まりそれが関係しているのか研究する必要があるとのこと。

どうです?イメージわきました?やはりとてもバランスのいいdecencyな感じがしますね。人生太く短く、好きなもんだけ食って嫌いなものは食べない。毎日嫌なことも多いし煙草は離せずアルコールも止められません。太ってきたのもちょっと気になるけど仕事も忙しいし運動する時間も医者に行く時間もないよ!100歳まで生きたってしゃあないよ!という方は間違いなくご希望通りになる感じがします。

よくあんまり長く生きたって仕方ないよという声を耳にするのですが本当にそうかな。今の医学の進み方は人間をかなりのところまで丈夫で賢明なままもっていくことが可能な気がします。たとえアクシデントがあったって移植したり機械を使ったりサイボーグのように生き延びていくのって面白くない?僕の診察デスクの上にはヨーダの精巧なフィギュア(めちゃ小さいぞ!自慢にならんか・・・)が飾ってあるのですがこいつが僕の理想です。ダースベーダーじゃないよ。「フォースの庇護がありますように」あなたにも僕にも。そしていい1年でありますように。

Decency

実はこのごろアルコールを飲まなくなりました。働き出した25,6歳のころからナイトキャップというか、寝る前に少量のアルコール(時に大量)を本や音楽とともに消費するという生活が定着していて、まったくアルコールの無い日というのは本当に今まで年に数日だったと思うのですが、何なんでしょう、1ヶ月ほど前から突然やめました。ひとつの理由はアルコールを飲んだときの現実から離れた感じ、真実に薄い膜がかかった感じがあまり好きでなくなった。リアルな現実のほうが面白い(ほんまかい!)というのがあります。もうひとつの理由は・・・

内田樹先生という方が神戸女学院に居られます。僕は先生の(といってもほとんど同年輩のようですが)著作を読むたび、なんと頭のいい人がいるのだろう、違った視点で物事を捉えられる人がいるのだろうかと目の覚めるような思いがします。で、先生の最近の文章の中に、僕の心に非常に強く訴えかけてくるものがあったのです。引用します。

とりあえず、ひとつだけわかっていることがある。
それはどんな場合でも、とりわけ危機的状況であればあるほど、「他者からの支援」をとりつける能力の有無が生き延びる可能性に深く関与するということである。
他者からの支援をとりつけるための最良のアプローチは何か?
たぶん、ほとんどのひとは驚かれるだろうけれど、それは「ディセンシー」である。
「強い個体」とは「礼儀正しい個体」である。
この理路は、わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない。

Decency・・・上品で礼儀正しいこと。 「丁寧」という言葉もありますが、これは兵士の盾に関係する言葉で最強の防御であるというのも別の方の著作で読んだことがあります。礼儀正しく丁寧である、きちんとしている、これらはこの大変な、でも面白い時代を生き抜く上で強力な力となる、このことを僕は大いなる共感を持って支持します。

この態度は必ずしも他人に対するときだけではありません。物に対しても、出来事に対しても、そして自分自身に対してもです。で、僕は自分自身の肉体に対してもディセンシーであろうとアルコ−ルをやめたのです。

だからたまに飲むときはですねー、これは礼儀も理性も何も無くていいや!というわけで・・・(最悪じゃん)。

「型」は大事よ。

武道とか芸道において「型」ってのがありますね。斉藤孝によると「型」は要約力の結晶であり、様々な動きの中で、最も基本となる動きに動作を限定していくことで全体を押さえることが出来る。これが型の基本であり、これは現実の多彩な動きをいわば要約したものである、ということになる(「できる人」はどこがちがうのか ちくま新書)。基本である「型」を何度も繰り返し自分のものにしていくことで発展していくことが可能となる。

「型」にはいろいろあるが、その一つと言っていい呼吸法というのは結構多くの武道で取り入れられています。今下手の横好きを絵に書いた太極拳を細々とやっていますが、そこでも呼吸はよく言われる。何でもこのては腹式呼吸でゆっくりというのが共通点です。

で、面白い文献を見つけました。Hypertensionという権威あるアメリカ高血圧学会の雑誌ですが、「本態性高血圧においてゆっくりとした呼吸は圧受容体感受性を改善し血圧を下げる」2005,46:714-718というのです。本態性高血圧というのは皆さんご存知の普通の高血圧のこと。圧受容体というのは人間が持っている血圧のセンサーで常に血圧を監視しており、一定の血圧に保つように働いています。高血圧の方はこのセンサーが少し鈍くなっている。ゆっくりとした呼吸(1分間に6回の呼吸。分15回の速い呼吸の場合と比較)はこの感受性を改善し血圧を下げるというのです。

自分で血圧を測ってみるとわかりますが、何回か測定するとき、ゆっくりとした呼吸を繰り返していると下がってきます。吸気、呼気でも心拍数は変化するし、交感神経、副交感神経の反射や心臓への血液流入量の問題などいろいろな因子が関係してきますが、確かにゆっくりとした深い呼吸は血圧を下げる。気分も落ち着いてくる。

「悲しいから涙が出るんじゃない、涙が出るから悲しくなるんだ!」という台詞を読んだことがありますが、然り!この文献でも高血圧患者のもともとの呼吸数は増加していると報告しています。人間は自律神経という、本来自分では意識して調節することのできない血圧や脈拍や発汗などをつかさどる神経があるのですが、呼吸は本来自律神経が支配する領域でありながら自主的に変化させることが簡単にできる唯一の運動であり、それがため自律神経の領域にこちらからアクセスすることが可能な唯一の運動であると考えられます。血圧が高くなると呼吸数も早くなっているが、意識してゆっくり呼吸すると血圧も落ちてくるのです。ヨガの行者は血圧や心拍数を自由にコントロールできるようですが、これは呼吸がポイントになっているに違いない。

で、「型」です。丹田を意識したゆっくりとした腹式呼吸。これを生活の型にしようでないか。武道の達人にはなれないかも知れないが、少なくとも今よりは健康的になると思うよ。そこから大いに人生を発展させよう。

さむー!風邪は生活習慣病だって。

さむー!!寒なりましたねー。紅葉は昔より1ヶ月遅くなってるようですが、急に気温が下がったのでさぞ色付きもよくなるでしょう。寒くなると風邪、風邪といえば医者(というのも今は昔という感じになりそうなご時世ですが)というわけで、季節労働者である開業医が忙しくなってくるのが冬であります。で、診察をしているとちょっと気が付くこと。何度も風邪をひく子供さんがいるのですね。ほんまによー来るなーと思っても「まいど!」とは言いませんがお母さんもなんとなくきまり悪い感じで「何か異常があるんでしょうか?」と尋ねられることがある。栄養状態とか貧血、免疫系の異常とか身体上の問題がないか心配なされてるわけで、ま、ほとんどの場合なにもありません。むしろこう尋ねられるお母さんはよくできた方が多く、実際の回数は平均的です。むしろこちらが心配になるくらい来られるのにあまり自覚のない親御さんが問題です・・・というところでちょっと面白い文献を見つけました。

「多項目の自動解析による子供の生活習慣と風邪の相互影響の評価」昨年、健康科学学会誌に掲載された東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科から出た論文です。4年間に渡り10都道府県から1万人(6から15歳)を対象にアンケートを取ってそれを解析されている。結果を一部抜粋すると、【風邪の罹患頻度との間に有意の傾向が認められた子供の家庭生活】1)テレビを見る時間が長い、2)病気で長期入院の経験あり、3)保護者が口やかましくなりがち、4)保護者が子供の主張を無視しがち、【有意の傾向が見られた子供の食行動】1)無理に食べている(間食が多いということのようだ)、2)ファーストフードをよく食べる、3)おいしく食べてはいない、4)飴、ガム、チョコレートをよくとる、5)副食として冷凍食品が多い、6)野菜を摂らない、7)味噌汁を摂らない、8)保護者は楽しく食事をとることに対する関心が低い、【有意の傾向が見られた子供の交友関係】1)運動が好きでない、2)休み時間も皆で過ごすことが少ない、3)学校では友達がいないと感じている、4)学校が好きでない・・・でその結果として引きこもりがちな子供が多いようである、といった風な結論になっている。

ほんまかいな!というのが最初読んだ印象。あまりにステロタイプでないかい。風邪の診断自体が確実でないかも知れず(アレルギーとの差異は難しい)、風邪をひきやすい子供の精神構造に及ぼす影響などちょっと偏見ではないかしらと思ったりもしますが、何しろマスが大きい。統計としては十分成立しているのでやはり傾向があるのかな・・・。というと風邪も生活習慣病ではないか!ここから出てくるのは身体的にも精神的にも免疫機能が弱くなりそうな生活です。特に親御さんが放任か過保護か、子供とのスタンスがまずそうな感じが印象に残ります。

大人の風邪も、自分で自分の面倒がちゃんと見れる人は風邪が少ない印象があります。よく「お医者さんは風邪ひかないんですか?」と訊かれます。そんなわけはないのですが、比較的あやしいと思うとすぐ手を打つ(ひいた気がして瞬時に薬を飲むと重症化しない印象があります)のは大きいと思います。風邪の人に多く接しているとそれなりに抗体の種類も多くなっているのだろうとも推察しますが(本当に医者は風邪をひきにくいのか?それはなぜか?調べても文献は見当たりません。どなたかご存知の方は教えてください)。昔から「あほは風邪ひかない」と言いますが、悪い意味ではなく、いつも楽しく笑っている人、生活を楽しんでいる人はひかないんでしょうね。大人の風邪は自己責任。生活習慣病との認識をもって今年の冬を乗り切りましょう。しかしこのごろは何でも生活習慣病ということになるな。いろいろ読んだ中でも、一番納得したのは後藤芳徳という人が言っている「もてないのは生活習慣病」というやつです。鋭い!

口先で生きる

人間の3大欲望って何だったっけ?

確か性欲と金欲と名誉欲では?

・・・なるほど、欲望はその人間を語る。君の場合はそうかもしれんが、一般的には食欲、性欲、睡眠欲ということになっている。年をとってくるとそのどれもがだんだん枯れてくるのだが、患者さんを診ていると食欲が最後まで保たれている人は強いな。でそういう人はやはり歯が丈夫な人が多い。歯科医師会が8020運動というのをやっているのを知ってる?これは80歳で20本以上の歯を残そうという運動で、オーラルケアの先進国スウェーデンでは既にこの目標が達成されている。日本では1999年で、80歳での歯の残存本数の平均は8.21本だ。

かなりお寒いですね。

確かに。健康というと内臓とか筋肉とか全身的なことに目が向きがちだが、歯というか、口腔内のケアは長生きのためにとっても大事なのだ。来年改定される介護保険に介護予防給付として口腔ケアが入ることになったが、これはそのことが一般的な認識となっているというひとつの証明でもあるな。介護の領域で特に大事なのは、口腔ケアが肺炎を予防するという証拠があるからだ。

それはまたどういう関係で?肺炎って風邪からなるんじゃないんですか?

肺炎は日本における死亡率の4番目だが、その92%は65歳以上の高齢者だ。抵抗力が落ちているとか、いろいろ病気を合併しているとか要因はあるが、繰り返す誤嚥がその大きな原因だ。別にいつも食事のたびにむせていなくても、夜咳をしていなくても、多くの高齢者で睡眠中に唾液が肺まで誤嚥されているというデータがある。夜間は嚥下や咳の反射が低下しているのだ。食事後に口腔内を観察すると、食物のかすが残っている高齢者が、特に脳梗塞の人に多いのに気づく。足や手と同じように口にも麻痺の影響が残っているのだ。虫歯の原因にもなるし、著しく不潔なためそれを誤嚥すると肺炎となる。特に寝る前に歯磨きをちゃんとしないといけないのが分かるだろう。ブラッシングは単に細菌を除くというだけでなく口腔内の知覚神経を刺激し摂食嚥下機能を向上させることも実証されている。何は無くても歯を磨け、うがいをしろ!

了解。ブラッシング以外にもなんかないんですか?

嚥下運動や咳反射の上でサブスタンスPという物質が非常に大切で、神経節におけるサブスタンスPの減少が誤嚥を生じやすくする。血圧を下げる非常にポピュラーな薬であるアンギオテンシン変換酵素阻害薬や、軽度のパーキンソン病などに用いるアマンタジンという薬はサブスタンスPを増やす作用があるということで、使用すると肺炎の発症率が3分の1や5分の1になったとかいう報告がある。しかし実際に使ってみると効いてます!という手ごたえはあんまりないです。ちゃんと口腔ケアをするほうが大事な感じがするね。

そうかー。しかし歯が悪くなってから頑張ってもしんどい感じがしますね。その前にちゃんとしとかなきゃ。

その通り。まともだな、めずらしく。最近は歯石を取ったり定期的に歯科に通う人もいるがあんまり口には注意を払わなかった。昔アメリカに行ったとき、みんな異常に歯並びがきれいで白くて、それは矯正を一生懸命するからと聞いてそのときの自分の気持ちにはぴったり来なかった。八重歯とかそういうのはかわいいと思わないのかと思った記憶があったが、美意識の問題かね。日本で口腔ケアが遅れたのはそういうのも関係あるのかな。わからん。最近は審美歯科というのも出来てきたし、これからは口だな。ちゃんと手入れに通うように。

はい、そうします。先生は歯科医でしたっけ?

(無視)食べることもそうだが、日本というか東洋にはあんまりおしゃべりはみっともないという感覚があるだろう。ところがアメリカのやつは本当に良く喋る。驚く位だ。道端で男二人が立ち話をしているのを見て1時間後に通りかかったらまだやってたというのも珍しいことではない。サムスペードというハードボイルド御三家の探偵の一人が悪役の親分に捕まったとき、お前は良く喋るかと聞かれてスペードはそうだと答える。すると親分はそりゃ良かった、無口なやつは喋る内容が無いから喋らないんだ、ちゃんと喋るには才能が要るんだよというようなことを言う。それを読んだとき面白いことを言うなと思ったが、どうもそれは正しい。年をとるとお喋りをするというのはボケないということでとても大切だ。自分を他人に対してアピールすることは呆けの大きな予防だ。よく食ってよく喋るという、つまり社交に上達しろってことだな。口は社交なのだ。

それが結論ですか。口先だけで生きてるとよく言われるんですが少し安心しました。もっと磨きをかけるようにしよーと。

太極拳ってサルですか?(パート1)

太極拳ってサルですか?

「?」

何のことか判らんだろう。これは私が太極拳を習っていることを某30代前半(多分)
の女性に述べた時に返ってきた言葉である。以下こう続く。

「さる!?」
「えー、そうじゃないんですかー。金色の雲に乗って飛んだり跳ねたりするやつ?」
「それは孫悟空。」
「えー、違うのー? あっ、何とか雑技団でしたっけ?」
「雑技団はあるけど関係ないよ。テレビなんかでさ、上海の朝の公園でおじさんとかがゆっくりと動いてるやつ、知らない?」
「・・・・・」

伊丹十三に「女性から見たこの世界の構造」(だっけ?違うかもしれないがこういう意味のタイトルです)という文章があり、人工衛星は細い金属の誘導線にまたがって移動しているとかいった恐るべき非科学的な知識を披露する女性達を揶揄したものがある。いまだと完全にアウト!!の文章だが。ちょっとそれに近い感慨を抱いたのだが、考えてみると彼女は非常に優秀な女性だし、実際太極拳といっても聞いたことはあるがちゃんと説明できるやつはほとんどおらんだろう。私自身がそうだったからな。

そんな人がまたなんで太極拳を?

これは私の仕事に関係がある。患者さんであるご老人は本当によく転倒するのだ。寝たきりになる大きな原因に大腿骨頚部骨折というのがあり、それは転倒で起こる。だから転倒予防教室というのを地方自治体でもよくやっていて、うちの診療所でも企画したことがあるが、実際のところあまり効果がない。ところが世界最大の医学データベース「MEDLINE」で、中国の伝統武術・太極拳が高齢者の転倒を減少させる効果があるとの研究結果が2004年1月に紹介されているのを見つけたのだ。これはアメリカ老年医学会からの発表で、70〜90歳の高齢者が、太極拳を1年間継続した結果、転倒のリスクが25パーセント減少したというもの。体操やエアロビクスは効果がなし。いろいろな報告があるが、学問的に転倒予防に関してちゃんとエビデンスがあるのは唯一太極拳だけなのである。この結果がアジアから出ていないというのが相変わらずだな。

アメリカは好きだからなー。ゴルフの教則本でもメンタルのことを書いた「禅ゴルフ」ってのを読んだことがあります。

ニクラウスが推薦していたやつだろう。私も読んだがティーグラウンドに立つと何もかも忘れてしまうので役にたたん。おっと、太極拳の話だが、それでこの前から週に1度、先生について習い始めたのだ。私が会得してよければ広めようと思って。いくつかの型をゆっくりゆっくりやっていく。もともと武術で、敵がかかってくるのを想定して防御し、攻撃する動きだ。大事なのは脱力すること。まだまだどがつく素人だから間違っているかもしれないが、今のところの感想は結構しんどい。最近スロートレーニングというのが注目されてるがまさにあれだな。ゆっくりした動きにかかわらず10分もすると汗ばむ。基礎代謝が上がるなーというのが分かる。太極拳をしているやつであんまり太ったやつは見たこと無いだろう。

そういえば無いですね。

それとバランス感覚が大事だ。重心の移動を意識するし、足の裏の深部知覚も意識する。ずーとやってりゃ確かに転倒しにくくなると思う。関節を痛めることも無いし道具も使わないし理想的だ。問題なのはこれが出来るご老人がいるだろうかという点だ。初めてするとすれば結構少ないぞ、多分。中年からしていたほうがいいな。今のところやっと14式(14の型)といってごく基本を教えていただいたところだが99式まである。道は遠い・・・。

・・・またどうなったか教えてくださいね。1ヶ月後聞いたら何のことだなんて言わないでよ。

音楽のアルバムタイトルで「パート1」とつけてあって永遠に「パート2」が出ないやつは結構あるな。ユーミンの「サーフ アンド スノー」や、ハニードリッパーズもそうだったっけ。「パート10」までいけたら「きんと雲」で来るよ。

前の女の子と変わらないじゃないですか・・・

「先生って孫悟空っぽいですもんね!」というのがさっきの続きだけどな。意味不明だ。

ちゅうようはじゅうよう

むっむっ、面白い記事を見つけた。少し古くなるが8月25日のことです。前から書こうと思ってたので古くなりすぎないうちに。

「化粧品防腐剤、紫外線で老化促す作用」 朝日新聞 
化粧して外出するとシワやシミが増える?——。ファンデーションなど化粧品の防腐剤として広く使われているメチルパラベンには、紫外線があたると皮膚細胞の老化を進める作用があることが、京都府立医科大生体安全医学講座(吉川敏一教授)の研究でわかった。 メチルパラベンは抗菌作用が高い一方、皮膚に対する刺激が低いことから、パウダー類や化粧水、乳液など化粧品では最も一般的に使われている防腐剤。紫外線カットのための製品にも含まれている。単体での安全性は確認されているが、同講座は、実際に使われる状況での影響を調べた。
実験では、皮膚細胞(ケラチノサイト)に、通常の使用方法で皮膚が吸収する濃度のメチルパラベンを添加し、夏の日中の平均的な紫外線量(1平方センチメートルあたり30ミリジュール)をあてた。細胞の死亡率は、添加しない場合の約6%に対し、添加した方は約19%。紫外線によって酸化した細胞内に発生し、老化の元凶となる「脂質過酸化物」の量は約3倍だった。
吉川氏は、メチルパラベンが紫外線を浴びると、シワやシミなどにつながる皮膚の老化を進めることが確認できたとして「メチルパラベン入りの化粧品をつけたら、強い直射日光は避けた方がいいのではないか」と話している。

うっひょー! パラベンには5種類あり、エチル、ブチル、プロピルパラベンは、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモンです)の疑いがあるとされているが、メチルパラベンは安全で刺激の少ない保存料として自然化粧品などにも使用されている。日焼け止めにも含まれているが、それをつけて外出したらかえって皮膚の老化を促進していたなんて意味なしだ!パラベンは大体怪しいと専門の人は前から思ってたみたいだけど。実験の結果をそのまま応用できるかは別だけど、僕が化粧品を使っていたら成分のチェックは絶対するね。パラベンフリーの製品もあるんだし。

良いと思ってたのにそうじゃなかった。安全だと思ってたのに実は逆。よくあることです。肉よりも魚がいいというのは多くの人が思っているが、魚(特に大型回遊魚)にはメチル水銀が多く含有されているため、妊婦は摂取量を制限するよう厚労省は勧告している。マグロなんて週1回以下にするべしですよ。PCBも多いみたいだし。無農薬野菜も実態はかなり怪しいという説もある。ラベルは信用できない。ビタミンは安全と考えている人が多いが、脂溶性のビタミンEは過量摂取により死亡率が上昇したとの報告がある。動脈硬化を防ぐために飲んでいるのに。漢方薬は副作用が無いと思っている人もいるが、どっこい効く薬は副作用から逃げられない。一時は肝炎にこれしかないようによく飲まれていた小柴胡湯(しょうさいことう)は間質性肺炎による死亡例が報告され一気に使用量が減ってしまった。病気でいえば脂肪肝はどうってこと無いと思っていたのに、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という肝硬変にも移行する予後の悪い種類もあることが分かった。確実なものは無いのだ。どうすりゃいいのよ?

なんだか「買ってはいけない」みたいになってきたが、食事に関してもし言えることがあるとすれば、それは過剰にならないことだと思う。チャーの曲で大阪で生活することはギャンブル!という曲があるが、今、世界で何かを口に入れることはギャンブル!です。何でも安全だとの保証は無い。大穴を狙うのは危険。だから満遍なく少しずつ食べましょう。過不足なく腹八分目。サプリメントも然り。われわれの陥りやすいのは「健康に、いいもの全部食べて肥え」という川柳状態です。健康のため何を食べればいいですか?なんでも、そして少しずつ。東洋の叡智、中庸が重要(苦しいしゃれなんですけど)でございます。最初の話題と結論がずれましたがお許しを。

犬は神

犬は神である。

何、神がかったこと言ってんですか?いくら犬が好きだからって、そこまで言っちゃみっともないですよ。

黙れ、俗人!犬が神である証拠は後で示すとして、犬を飼うことが健康に役立つということは最近のペットブームを反映してか報告が増えているのだ。大体大きく分けて散歩による身体的な好影響と精神神経的なものに対する好影響の2つがある。私は犬を飼いだしたのは4年前だが、そのころと比べて明らかに健康になった感がある。飼っているのはダルメシアンという運動量の多い犬種のせいもあるが、ともかく雨が降ろうが槍が降ろうが毎日外には一緒に出る。週に2回は1時間以上歩く。アキレス腱を切った今、走ることはなくなったが、前は本当に走っていたのだ。それで痩せたし、保険会社が割引を言い出るくらい血液検査の結果はいい。大食でアルコールも少なからず飲むし、食後はアイスクリームを食べないと落ち着かない私がBMI 24%に何とか収まっているのは犬のせい(もうひとつはゴルフか)と言うしかない。

はい、はい。

「はい」は1回でいいぞ。

はい、はい。
でもいい事ばっかりなんですか?

そんなことは総ての物事においてありえない。個人的には朝が早いので慢性睡眠不足だ。旅行とかにも行きにくいしいろいろ手間がかかるのだが、メインテナンスフリーで生き物と付き合いたいというのは愛情も無く女性と仲良くするみたいなもので無理だ。つまらんだけだ。あっ、君にはできたっけな。すまん、すまん。しかし私にとっては手間は愛情である。

僕も出来ないですよー・・・一応。
で、精神的な影響というのはどうなんです?

こちらのほうが奥が深いな。欝を軽快させるとか、アルツハイマー型認知症のイライラとか、徘徊などの問題行動が無くなったという報告もある。ドッグセラピーと言ってデイケアなどで利用者さんと触れ合う治療法もかなり一般化しているな。みんなの表情が豊かになるのが明らかに分かるのだ。また手間の話だが、犬の世話をすることで認知機能が向上したという報告もある。頭を使うこと、そして人間は誰か、何かに必要とされているという感覚が大事なのだよ。と言ってもまったく人間と同化して考えるのも問題があるけどな。この前テレビで、飼い主が倒れたとき犬が助けを呼ぶかという実験をやっていたが100匹中0であった。訓練してないから当たり前だ。人間とは違う。倒れたふりをしていたらおしっこをかけられていたおじさんもいたが気の毒なことだ。犬は犬。それを認識して付き合うべきだと思うがね。贅沢すぎるぜ。顔があえば何時いかなる時でも「ようよう!」といって尻尾を振りながらやって来る。素晴らしい事だ。それ以上神に何を望む?

わっかりやしたー。確かに犬はいい奴ですね。でもなんで神なんです?

愚か者め、まだ分からんか。犬はDOGだ。逆さまから見てごらん。何が隠れている?

全身医者!!

鍼灸の印象はあまりよくなかった。

研修医の時、気胸で入院された中年の女性がいて、その原因が鍼灸だった。長い針が皮膚を貫通して肺に穴を開けたのだ。畳針のような長い針が突き立てられているのを想像した。「おっそろしー!」。何の知識も無かったのだ。その時以来鍼灸が僕の興味に入ってくることは無かった。
 
時は流れる。

ご老人をたくさん診察するようになると、本当に身体の痛みを訴える方が多い。病気というよりも加齢による自然変化ともいえる。しかし医者のできることはせいぜい痛み止めを出すくらいで根本解決にはならない。むしろ痛み止めは腎機能を障害する可能性もありあまり使用しないほうがいいのだ。どうする?そんな時論文で鍼灸の関節痛に対する効果を知った。アメリカの論文だった。調べてみると日本ではちゃんとした論文は少なくアメリカが圧倒的に多かった。NIH(アメリカの健康、医療に関する中心的存在の政府機関)が鍼灸も含む代替医療に大きく予算をつけた時期であった。その時、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロスアンジェルス校)で鍼灸を講義している日系2世の医者が、医療関係者を対象に鍼灸を講義するという3泊4日のセミナーが浜松であるのを知り休診して参加した。大変印象的で有意義なセミナーだった。実はその時、初めて鍼灸で使う針を見たのだ。とても細く清潔で畳針の印象は大きく裏切られたが、自分自身で指に刺してみるという実習はちょっと汗が出た。しかし、「あんまり痛くないな・・・」という記憶が残った。
 
 結局自分自身で鍼灸を患者さんに行うことは修業の時間も無く、施行する時間もとれず不可能だった(高名なトレーナーが無免許で鍼灸をしていたと逮捕された事件がこの前あったが、医師免許があれば鍼灸は可能なのよ)。しかし鍼灸の可能性を信じていた僕は、運命のように優秀な鍼灸師を雇うことができ、診療所のそばに鍼灸院を開設した。しかし、自分で毎週うけるようになろうとはね・・・

 ブッチン!と音がしたとき、右足の踵が急に分厚くなった気がした。周りの人の顔は引きつっていたが本人は最初わけがわからなかった。その後急速に「やったか!」と意識した。10年前にもテニスで左足のアキレス腱を切っていたのだ。今回は手術した(といっても仕事は休まなかった。休診日の朝に入院、手術して翌朝7時に退院して外来をした。はい!自慢です、すいません)。リハビリの時期、ギプスをつけてどたどた走り回ったり、ケンケン100m競争をしたりしていた。どうしようもない私。で、もともと具合の悪かった股関節が両側とも調子が悪くなったのだ。まともに歩けねー。誰が見ても一目で足がお悪いんですかという言葉が出る状況だが、何よりも痛い。走れないと結構面倒だ。心の支えのひとつであるゴルフができないのもかなり痛い・・・。ためらわず僕は鍼灸(そしてアロマ)をチョイスしていた。

 鍼灸はあんまり痛くないです。
ごく軽く皮膚をつまむぐらい。やり終わった後、明らかに足が軽くなり痛みが軽減しているのがわかる。なぜ効くのか?痛みを覚える筋肉は堅く収縮している。針を刺入すると、筋肉は最初収縮するがその後弛緩を続ける。その部位でベータエンドルフィン(脳内麻薬といわれているものの1種で、痛みや悩みの軽減が起こる)の濃度が増すとも報告されている。問題は2,3日で効果が減弱してしまうことだ。これにはできるだけ間隔をつめて施術するしかない。調子の良い時、筋肉は明らかに動きが違う。その間血流もよくなり治癒過程が促進される。だんだん必要とする間隔が長くなっていく。

 針の刺入による筋肉への直接作用だけでなく、それにより喚起される生体内物質の影響による全身作用も報告されている。風邪引きに良いとか、胃や肝機能が良くなるとか、欝が軽くなるとか。人間の体は巨大な化学工場であり、外から入れるより自分で作らせたほうが合理的で安全だ。今日本でも効果を科学的に実証しようとする動きがあるが、文献的には外国のほうが多い。日本が率先してやるべき仕事だと思うけど。
 
 鍼灸のおかげで足の具合はかなりよくなっている。ある本で外国の女性マラソンランナーが競技中に足がつり、何をしたかというとゼッケンを止めているピンをとって自分の足に刺したという話が載っていた。それで足のつりは回復し競技再開となったわけだが、僕もその程度にはできるようになりたいものだ。医者もその程度まで鍼灸に親しんでいると全く別の医療領域まで可能性が広がっていくような気がする。薬のない状況でも人助けができるかもしれない。丸裸でも診断と治療のできる全身医者。歩く救急箱。そのようなものに私はなりたい。