「世界の果ての庭」という小説は大好きであった。
2002年に第14回日本ファンタジーノベル大賞を得たこの小説、4つの全く違う話が同時進行し、いつか夢のように終わってしまう。雰囲気といい文体といい、僕の好みのど真ん中であった。何の気なしに手に取ると、何度か読んでいるのにもかかわらずそのままずるずると最後までいってしまうという小説が僕にはいくつかあるのだが(村上春樹氏や倉橋由美子氏の短編とか片岡義男氏の「僕のオートバイ、彼女の島」とか)、この小説はその最愛カテゴリーのかなりいいポジションを占めていた。
著者の西崎憲氏はくしくも僕と同年齢で、何冊かの翻訳書はあるが小説はこれだけである。何年か前から時々書いてないかなぁーと検索していたのだが新作は全く出なかった。
で、この土曜日、会合の前にまたまたふらりと本屋さんに寄ったのだが、そこで「西崎憲」の名前が飛び込んできたのである。「蕃東国年代記」The chronicles of Bandon。 なんじゃこりゃ?
ファンタジーです。蕃東国は日本海に位置する国家で首都は景京。時代背景は平安時代かな。もともと倭国(日本ね)の移民からなり、言葉の違いはフランス語とイタリア語の差異程度。文化は唐と倭国の影響を強く受け詩や謡が盛ん。文化国家ですね。そこの中程度くらいの地位の貴族、宇内(うない)とおつきの少年藍佐(らんざ)の冒険物語である。
すべて創作だが地図、蕃東国の研究論文、学術書からの引用などがちりばめられ、実際に存在する国の話のようである。その時代にふさわしい妖怪、異形の人物が跋扈する。
全然子供っぽくないです。単純じゃない苦味や不条理、大人の小説。5つの話からなるが、第1話「雨竜見物」を読み終えた時点で止まらなくなり完読してしまう(池に産卵された竜が、成長して初めて雨に乗って天に上るのを見物する話。見物客で野外コンサートのような賑わいになる。ラストにこう来るか!というエピソードが入る)。宇内はちょっとやんちゃで魅力的な人物ですが、他の登場人物もかなりのもんです。村上春樹氏や倉橋由美子氏の短編のなかにも同じようなテイストのものがあり、ちょっと不思議でクールで、ビジュアルに美しく自然を感じさせるというのが好みなのかと思う。
いや面白かった。生まれ変わるなら平安時代の貴族がいいな。
こういうのって映画にしたらどうなるかとすぐ考えちゃうね。