この前、書評やCD評なんぞあてにならないと書いた。と、その舌の根も乾かぬうちに、CD評の本を2冊も読んでいるのである。あきれたものだ。でもよかったぞー。
その本は「マーシャル・マクルハーン広告代理店。ディスクガイド200枚。小西康陽。」と「200CDロックンロール」(こっちの監修はシーナ・アンド・ロケッツの長身メガネのカッコよすぎる鮎川誠氏)。ロックンロールの方は小西氏の本の後書きに褒めてあったので読んだ。
小西康陽氏は解散したピチカートファイブ(こんなにセンスのいいバンドがあったであろうか…空前絶後だと思う)のリーダー、というよりプロディーサー、音楽おたくとして有名だが、文章家としても僕の最も好きな人。彼の「これは恋ではない」「ぼくは散歩と雑学が好きだった」「東京の合唱」は僕の宝物である。で、このディスクガイドもハイセンスである。大体この本のタイトルの意味は何かね?
いろいろなセクションに分けてCDを紹介してあるのだが、その章のタイトルも「こういう声に生まれたかった」「ブラックコーヒー」「印税生活者たち。ドル・ユーロ編」「昨日、エレヴェイターの中で聴いた」「1974年以降の音楽に聴くべき価値などない」とくる。嬉しくなってくるなー。当然CD評もすごくいい。セロニアス・モンクはソロピアノを選んであるのだが「とても美しい顔をした少年が微笑むと、前歯が2本欠けている。セロニアス・モンクのことを考えるとき、いつも思い浮かべるのはこんなイメージ。」とか、マッカートニーのRAM「無神経さと繊細さがこれほど見事につづれ織りとなった作品も珍しい。「ラム・オン」の導入部や「アンクル・アルバート」の間奏の詩的な瞬間。確かに鼻持ちならないほど嫌な男だったのかもしれない」とか、フィフス・アベニューバンド「大学に入ったらこんなバンドを作ろうと思った。この年齢になっても、今度バンドを組むなら、と考える。現代の若いリスナーにもこの作品はいまだ力を持つのだろうか。就職なんかしないで生きよう、と思わせる説得力を」。・・・というわけでゾクゾクしながら楽しんで読めた。
「200CDロックンロール」は感じが違うけど、同じく名文満載。「パンクというのは瞬間最大風速なのだ」とか「ロックはアティテュードや。構え方とかさ。それが全部入るんよ。趣味も入るし面構えも入るし、本気ちゅうことも入る。本気じゃないといかんけんね、アティテュードゆうのは。これはその全部に満ちとるんやなあ」と鮎川氏の博多弁そのままで元気が良くて非常に気分がいい。
ディスクガイドだけど2冊ともいつも以上に著者のパーソナリティがとっても強く出ていて、そこが魅力だ。好きなものを言えばその人がどういう人か判るね。そして好きな人が好きなものを一生懸命解説してくれる。それを読んで気に入らないわけないな、考えてみると。だからこのお二人を好きじゃない人は読んでもつまらないかもね。
小西氏推薦の中からオルガン、ベース、ドラムという編成で時にストリングスが入りスタンダードを歌うというイギリスのロックバンド(モッズですね)、ザ・ペドラーズを購入。ハズレかと思いきや、あまりの僕の趣味とドンピシャに感動したのであった。よかった。
置いてあると、ついパラパラと読んでしまう。