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「レオン」を目指せ!

大学院の時、毎日実験ばかりしていた。当時は循環器の生理学的実験では犬を使うのが一般的で、ビーグル犬で揃える事もあったが多くは保健所から払い下げの捨て犬だった。いろいろな犬がいた。多くは雑種だったがシェパードやコリー、チャウチャウとかもいた。何でこんなかわいい犬を捨てるんだろうとチラッと思った。

慢性的な実験ではなく急性実験では、1日でデータを取った後、犬は処分される。犬は麻酔をかけて挿管、人工呼吸器下で開胸され、心臓に処置をして様々なプロトコールで実験、データをとる。最後は塩化カリウムを静脈注射して心停止を起こす。

僕は実験が面白くてたまらない時期で、自分でデザインして学会で発表し、それなりの評価を得ることが生きがいだった。実験がうまくいかないときは2匹、3匹と成功するまで続けることもあった。真夜中になった。実験だけをする建物(動物舎)があり、そこで多くの科の先生が実験をしていた。100匹以上犬を使うと「名犬会」入りといわれ(もちろん冗談だが)尊敬を受けたが(もちろん冗談だが)、僕は最速で名犬会入りした部類で、独身だったから動物舎に住んでいたような時期もあった。動物舎の技師の人たちとよく遊びに行き、医局には行かずに入浴も洗濯もそこでしていた。なんというか狂ってたのかなぁ。

大学院の後輩を指導していたが、ある時どうしても犬を殺すのがいやで実験ができませんというやつが現れた。僕はあきれ、激怒した。何のために大学院に入ったのか。いったいどうするんだい?「でも出来ません。」彼はしばらく実験をしていたが、こんな残酷なことは出来ないと決心したのだ。彼の決心は固かった。別の形の実験をすることになり、ある日、彼は動物舎で実験に使えない雑種を、飼いたいからと貰って帰った。

それから20年たって今でもあの時の実験グループはボスを囲んで年に3,4回集まり飯を食う。昔話も出る。「あの時もって帰った犬はどうなったの?」「長生きしたんです。14歳ぐらいかなぁ、老衰みたいで割と弱ってたんです。ある時庭で花火をしたらその音に驚いて外に飛び出していって、それきり帰ってきませんでした。」「そうかぁ…」

僕は今では彼の気持ちがよくわかる。今実験をしろといわれても、犬を使う気持ちにはなれない。彼には犬の声が聞こえていたんだ。僕には聞こえなかった。でも聞こえるようになったと思う。なぜか? 前は区別していたんだ。人とそれ以外。人種差別みたいなもので、自分と違うものと思っていると声は聞こえない。今は人も犬も蚊も同じだと思っている。どの人種も同じだと思っている。それは犬を飼ってからのことだ。そうでないと僕にはわからなかった。

動物を飼おう。殺生は出来なくなる。本当です。そして次の目標は植物の声が聞こえることです。目指せ「レオン」!。診察室が火事になれば、植物の鉢を持って僕は外に駆け出す。スタッフはおいといて(ウソだぴょん)。

ニッチな男

長年患ってる(もうジジイの発言だね!)足の具合について最近変化の兆しが見られる。明らかに改善のスピードが加速しているのだ。ウッシッシ。なぜアキレス腱の手術をしてかくも長びいているか?これはもともと手術した方の右足股関節はボロボロで、朝寝起きは階段を登るのに手すりにつかまらないと痛くて上がれないというのが日常だったんだな、よく思い出してみると。で、右足にギプスをしていると動かさないので非常に楽になった、やったーと思っているとはしゃぎ過ぎて左の股関節がギクッとなり、両足を使えるようになると両方とも痛くなったという不幸な経過である。長い距離を歩くのがためらわれる(ジジイの発言、再び!)というのはちょっとこたえるが、年をとって足が不自由な人の気持ちはよくわかった。

で、どうするか。痛み止めを飲むというのはイージーな解決策で、実は多くの高齢者は痛み止めを使用しているが腎機能が悪くなったり胃を悪くしたりと副作用も多い。僕もゴルフをするときは1錠飲んでからいくと全然楽で(そこまでしてゴルフしたいか…)気持ちはわかるができればお世話になりたくない。ここは自力でリハビリテーション、努力して動かしていく、骨、関節を支える筋肉を鍛えていくしか道はないのだよ、ベイビィ。

幸いにして僕にはパワーリハビリテーションという手段が近くにあり、痛みに対しては鍼灸、アロマセラピィという味方があったが、もっと日常的にいつでもどこでも鍛えられないかというのが課題であった。で、最近それがほぼ確立してきて、それとともに歩くのが楽になってきたのでそれを皆さんにお伝えしたい。股関節のトラブルを抱えている人は多いので。

まずは1日10回でもいいからスクワットをやりましょう。相撲で股割りという稽古がありますが、すこし両足を外側に開いた状態でゆっくりと腰を落としていく。背中は垂直なままで、前かがみにならないで、曲げた足の膝が足の指より前に出ないように腰を落としていく。膝が90度まで曲がったらそれでOK。今度はゆっくりと戻していきましょう。その時完全に膝を伸ばしきらないで、少し曲げたままで次の屈伸に入る。行程はできるだけスローに、呼吸もゆっくりしたままやりましょう。10回できるようになったら20回くらいまで。それを1日3回位する。できれば膝の曲がる角度をもっと深くしてもいいです。

わざわざ時間をとるのはこれくらいにしておいて、後は暇があればやる。ふと時間が余ったとき、ボーとテレビを見ているのならその時に、ともかく時間を見つけてこまめに稼ぐ。これがコツです。

案外何もしていない時間、というか実は複数のことができるのにやってない時間というのは多い。歯を磨く時、片足で立つ(これは大腿骨頸部を鍛えるのに役立つ。ここは高齢者で骨折の多い場所で、寝たきりになることが多い。この片足立ちで有意に骨折が少なくなることが証明されている)。または爪先立ちになる。車に乗っているとき、停車中にハンドルを両手で左右から力を入れて押す。大胸筋のトレーニング。本を読むとき座らず立つ。またまた片足立ちで。またはいすを使わないで中腰で読む。

こういうのはいくらでも工夫できる。身体だけでなく仕事も数分で片付くのに取り掛かるのが億劫でずるずる出来上がりが遅れているものが多い。そういうのを選んでおいて、あいた中途半端な短い時間にさっと取り掛かる。完成しないかもしれないが、一度とっかかると続けることが簡単になる。案外手間じゃなかったな、と思ってしまう。

隙間のような短い時間を利用して身体を鍛える、仕事をしてしまう。案外すでに実行している人は多いんじゃないかなとも思うが、かなり有用ですよ、このニッチは。使いであり。ニッチな男になりましょうね。

禁煙近縁

タバコを止めたのは二十歳くらいのときだ。大学のクラブが競技スキー部で、ほんのちょっと長距離走が速かったからノルディックという走るスキーをやることになった。はからずも。荻原健二が出てから日本でも知られるようになったがそのころは全くマイナーなスポーツで、大会で部全体として得点を稼ぐためには水物のアルペン(滑降や回転など上から下に滑るやつ。実力があっても転んだりするから得点が読めない)以外にある程度実力どおりの結果が出るノルディックを鍛えるほうがかたいので、しんどいのはいやだーと言うのを無理やりやらされた訳です。箸にも棒にもかからない時期が続いて、これではいかんと一念発起。いい成績が出るようになってくると面白くなってきてもっと練習しよう(基礎は長距離の走りこみ)というわけで、タバコを吸ってると走れないから完全に止めたというわけです。スポーツ選手が喫煙なんて今では話にならないですが、その頃はそれほどシビアじゃなかったです。以後時々飲み会で吸ったりすることもあったのですが、それで終わって再び続くことはなかった。

ニコチンパッチが6月1日から保険適応になったと報道され、ここ2週間程で10人以上の患者さんがニコチンパッチを希望された。「はいはい、まいどありー♪」と言いたいとこなんですがそう簡単には入らないのです。保険で手に入るのは限られた施設、限られた患者さんなのです。知らなかったでしょー?そういう都合の悪いことはあまり報道されず、医療機関に説明させて「何だよー」と言われるわけです。なんか、ほんといつもそうなんですけど。施設基準というのがあってそれを満たしていることを(悪名高い)社会保険事務局に届け出ていなければならない。敷地内が禁煙だとか禁煙治療に係る専任の看護師、準看護師を1名以上配置することとかいろいろあるのですが、呼気1酸化炭素濃度測定器を備えていることというのがあって、こいつが10万円以上するのだ。呼気1酸化炭素濃度を測定すると、その人の喫煙数がほぼ正確に推定できる。

使用できる人もスクリーニングテストでニコチン依存症と診断される必要があり、ブリンクマン指数(1日の喫煙数X喫煙年数)が200以上であることなどハードルがある。「ニコチンパッチ、保険でもらったぜー、すっげー、えらいぜ俺!」と大威張りしたくなりますね。ブリンクマン指数は400以上で肺がんが発生しやすくなり,600以上は高度危険群。1200以上で喉頭がんの危険性が極めて高く、ブリンクマン指数が400になる前に禁煙することが望ましい。今計算した?

「禁煙なんて簡単だ!俺は何度もやっている!」というのはマークトウェインでしたっけ。ニコチンパッチのハードルはここでも。もし失敗したとして、また一からやり直しーというのはあると思うのですが、1回目の開始日より換算して1年後でなければリスタートはできません。

なんていろいろ書きましたが、でも禁煙は実行すべきです。禁煙に手遅れはなく、全く元のようにはならないまでもかなりのところまで取り返しがきく。止めて12時間以内には血中の1酸化炭素濃度が下がり始め、8ヶ月以内には肺は以前よりきれいになり、5年後には動脈の老化度が喫煙しない人とほぼ同等まで回復する可能性がある。1日1箱タバコを吸う人は実年齢より8歳老化しているといわれるが、禁煙により7年は取り返せる。

8週間のニコチンパッチ。保険診療で診察代も入れて8〜9000円位、自費でも20000円位です。タバコ代を考えると、そしてこれからの人生を考えると超お買い得では?ご存知とは思いますが明らかになっているタバコの害を列挙。著しく動脈硬化を促進(心筋梗塞、脳卒中にとてもなりやすい)、肺癌、喉頭癌、腎臓癌、膀胱癌のリスクを増やす。乳癌も可能性あり。慢性閉塞性肺疾患(COPDというやつでお年寄りが息苦しそうにしているのは心臓よりこっちが多い。これからの著しい増加が懸念されている。)免疫力の低下(風邪も引きやすい)等など。みんな自分だけは関係ないと思ってるんでしょう?甘っー。これらから逃れられる確率はワールドカップドイツ大会における日本代表の決勝トーナメント進出の可能性くらいです、知りませんけど。

それでも吸ってるチャレンジャー達よ!安心してね。僕の診療所でも7月から保険がきくようになります(多分)。来たれ!勇気ある自殺志願者たち!呼気1酸化炭素濃度測定器をかまえて待ってるよ!

華麗老人登場

ふっひゃっひゃっー!!わしは華麗老人、白鳥麗蔵じゃ!おお、字面もほんとに華麗じゃのー。石を投げたら抗加齢医学にあたるというくらい最近よく「アンチエイジング」という言葉を見かけるが、どうも意味がわかって使ってるのか疑問じゃ。ひじょーにビジネス、コマーシャルの匂いがするぞ。クンクン。それに騙されて、サプリがぶ飲み、化粧品をぶさいくな顔に塗りたくりおって、シャツの釦を上2つもはずせばOKと勘違いしているちょい悪(頭が)おやじが量産されているという報告が入っているぞ、ふっひゃっひゃ。愚か者!!わしは本当のアンチエイジングとは何かを教えてあげようと思ってここに来たのじゃ。いや実は今度ブログをやるんでな、その宣伝も兼ねて。タイトルは「激辛!カレー(加齢)塾」じゃ。華麗、カレー、加齢、しつこいぞ!ってな。わかっとる。わかってやってるんだからほっといてー。

<加齢、いや華麗老人、白鳥麗蔵はどう見てもジジイだが年齢不詳だ。明るい感じがするのはポップなジーンズを穿いているからか(トゥルーレリジョンのようだ、初めて見た)。仕立てのよさそうな白いシャツ(あけている釦は1つ)、そしてトッズの革のスニーカーを履いている・・・きわめて感じワルッ!中肉中背で腹は出ておらず姿勢のいいのが目立つ。筋トレをしているに違いない。>

アンチエイジングの目指すものは不老不死ではなーい。誤解しとらんか?生物学的に老化していくのは止められない。しかし!元気に老化していくのと、元気無く老化していくのと2種類あるのに気付いとるじゃろ?こいつじゃよ、問題は。みんな年をとることを異常に恐れておる。それは年をとったら全員寝たきりの認知症になるかのような間違った感覚をもっておるからじゃ。そんなわけ無かろー、わしを見ろ!しかしそんな生活をしてたらまあ絶対なるわな、と思わせるやつが結構おるのも確かじゃがな。病的な老化は生活習慣病じゃ。ということは修正可能ということじゃな。アンチエイジングの目指すのは心身のバランスのとれた、元気で楽しい加齢じゃよ。ふひゃ。

<白鳥麗蔵の顔は非常によく動く。表情豊かであるが、微笑んでいるのがベースになっている顔である。シンメトリカルな顔だ。偏ってない。年齢にしては英単語がスムースに出てくるのがイヤミである。帰国子女か、こいつは?>

今日は一つ、取って置きの秘訣を教えてやろう。オープン記念の特別サービスじゃ。それはな、「異文化に飛び込め!」ということじゃ。異文化と聞いたら海外旅行というステロタイプしか思い浮かばないそこの君、アタマ老化しとるよ。異文化というのは慣れ親しんだ自分の環境と違うものということじゃ。いつもと違う道を帰る、違うレストランで飯を食う、違う友人と喋るということじゃ。潜在意識は基本的に変化を嫌う。いつもといっしょだよーでいたいんじゃ。安心第1、これが生存の基本じゃからの。しかし!これでは頭も体もなまる。兵士の顔を見よ。海外で活躍するスポーツ選手の顔を見よ。安閑とはしておれん、それが脳細胞をフル活動させるのじゃ。戦争に行かんでもいい。それを日常に生かすのじゃ。

よく老化予防には異性と接する機会を増やせという。これは性ホルモンの分泌も増えるだろうが、異文化と出会うという側面もあるわな。わしの友人で以前は女性と聞くと目尻を下げていたやつが社長になって多くの女性スタッフを使うようになってから極端に女性嫌いになったやつがおる。そいつによると女性と火星人は同義らしい。未知との遭遇じゃ。よほど苦労をしたんじゃろうな・・・・いい気味じゃ!うっひゃっひゃ!異文化と出会っても喧嘩していてはいかん。今そこにUFOが着陸して宇宙人が下りてきても「ウエルカム!いらっしゃーい!(三枝風に)」ってな具合にいかんとアンチエイジングには生かせんな。おっ、急に腹が・・イタったった・・(と麗蔵がしゃがみこむと、通りかかった妙齢の女性が大丈夫ですかと駆け寄ってきた。)

<演技だ!! 最悪だ!>

回想療法

今日は夏だった。5月になっても朝夕冷え込むことが多く風邪引きも多い。皆さん、気をつけてね。この前村上春樹氏の短編集「象の消滅」を買った。彼は今最もノーベル賞に近い作家だよ。知ってる?チェコの文学賞であるフランツカフカ賞を彼は今年受賞したが、この賞は受賞者が次のノーベル文学賞を受賞することが多いことで知られている。チェコの新聞は「ミスター村上はストックホルム行きの切符を予約していたほうがいいだろう」と書いた。素晴らしい。

「象の消滅」にはアメリカ人の編集者がセレクトした17編の初期の短編が収められているが、その中に「午後の最後の芝生」がある。村上氏の短編の中で僕の最も愛するものの一つだ。そこには夏の晴天の日の心に深く残る出来事が記されているが、行間からは夏の昼前から夕方までの、空気とか日差しとか風の匂いがリアルによみがえる。僕は20台の独身のとき、デートの無い休日はよく半日アパートの屋上に海パン1つで寝っころがって音楽を聴きながら好きな雑誌を読んでいたものだ。そのころの夏の空を思い出す…あぁ、青かったよな・・・。本当に何の悩みも無かったなぁ。まっ、そのつけが今廻っているわけですけど。

音楽も強烈に過去を想起させる力がある。僕の年代だと松任谷由美や山下達郎は間違いなく時代のアイコンだった。たまたま出てきたCDを車で聴いていたりすると、ある歌詞でぐっと胸が詰まる、シーンを思い出す、ギャアーと突然反省、頭を垂れて過去の自分を悔いる、というパターンが出現する。車の中でこんなことをやってるようでは馬鹿な上に危なくて仕方が無いですが、まあそれだけ感情を動かす力が強いということでしょう。

認知症の方の治療のひとつに回想療法というのがある。今までの自分の人生を語り、それを他人に共感して聞いてもらえることで今までの受け入れがたかった自分の人生に納得がいく、様様な悔いが氷のように溶けカタルシスが起こり、自分を受け入れる。欝っぽかったり乱暴だった人が、新しく生きなおすような心の安定が得られることがあるのです。

頭をフレッシュに保つためには、インプットだけではだめでアウトプットが大切ということを前にも書いた。心に感情が渦巻いていてもそれを表現することなく自分でも気がつかないうちに無視して封じ込めてしまう、それが普通の人間の態度かなと思う。だけどそれはまずいんじゃ?漢方に気が滞るという病態があるが、振り返ることの無かった、封印してしまった過去の感情、いいものであれ悪いものであれ、それを誰かに受け止めてもらうことで気が流れ出すという感じがします。思い出を反芻すると、その後の行動は悪いものにはならないと思わない?男女がより親密になったと意識するのは自分の子供時代、学生時代の話を相手にしたときだったりするしね。

過去の好きだった音楽、小説をもう一度味わおう。その気持ちを聞いてくれる人がいなければ、自家発電型回想療法、自分の心と対話して過去の自分を受け入れよう。未来が少し変わると思う。そしてできればいい思い出を、今からでも間に合う、作りましょうね。村上龍氏が「つらい出来事があっても、いい思い出がある奴は耐えられる」と言っているが、そのほうが思い出しても楽しいし。でも酒の力を借りた回想はやめようね。酔うのは一つで十分。酒ではなく思い出に酔いましょう。

時間が無い僕たちへ

時間が無い。ほんとに無いんだなぁ、毎日少しずつ宿題がたまっていってる感じです。ずーと無い。全然無い。どうすんのよっ俺っ!続く!!ちゃうって。同じように感じている人は結構多いようだ。患者さんに説明する。1日30分、週に2回でいいから歩きましょうよ。いやー、時間無いし。そうだねー、でも身体の事だから・・・。彼はたぶんやらないだろう。でも考えよう。多忙は怠惰の隠れ蓑です。本当にそれだけのこともする時間はないのか?テレビ見てない?「仕事が忙しくて…」というのはデートを断る典型的言い訳だぞ。

優先順位というのがある。センスオブバランスというのもある。何に重点を置くか?そのまっとうな判断ができるのが古典的な英国紳士の資質といわれている(らしい)。テストになれば小説が読みたくなる典型的非英国紳士的資質の持ち主である僕は自戒の意味もこめて皆さんに言いたい。「身体の手入れに時間を使いましょう!これの優先順位はかなり上だよ。」

幸福の条件を考える。

まじめに考えると案外少ない。愛する人がいること、誰かに愛されていること。これで十分か。でも次くらいに健康であることというのが来てもおかしくないでしょ。身体はメインテナンスフリーじゃない。何もしないでちゃんと動くのが普通というわけじゃないのだ。長距離の長い旅に自家用車で出かけることを考えよう。それなりに車の整備に気を使うでしょう?人生って最長の旅で大切なビークルである身体をおろそかにしてどうする!

提案です。毎日テレビを見る時間を30分減らして身体のために使いましょう。散歩でもいい。軽い筋肉トレーニング。水泳。ヨガ。太極拳。打ちっぱなし。マッサージ。他のことは何も考えず身体に集中する。他にやらなければいけないことがあるのはわかる。でもそれを犠牲にしても得るものは大きいと思うよ。

 前にも書いたが今僕はパワーリハビリテーションをやっている。毎日30分。1年半ほど前から両側の股関節、右のアキレス腱の痛み(手術後)でまともに歩けない。誰でもできる歩行を意識してやらないと、とってもみっともない格好になるのだ。積極的に訓練しようと目覚めて半年、わかったことは、①鍼灸はほんとに痛みが消える、しかし効果の持続は数日で、継続しないといけない。②ストレッチは大変有効だ。大層に考えずに、日常のわずかの時間に犬が伸びをするように、こまめに行うのが良し。③パワーリハビリテーションの器械の組み合わせは、発表されているデータが示すように歩行機能の改善にもっとも有効であるように思われる。ストレッチ効果が加わるためか驚くべきことに直後から痛みが消える。伸びをしたときのように気持ちがいい。

 ご老人の多くがいろんな場所の痛みを訴える。その主たる原因は使わないからだ。過負荷で無く満遍なく全身を使うこと(それこそがパワーリハビリテーションの本質だが)で必ず痛みは消える。僕は確信している。そしてできればそこまでいかないうちに予防しておこう。他力本願じゃだめ。自分で時間を作って身体のメインテナンスをしよう。結構快感になるって。やらないとわからないよ。

嘘だと思ってやってね!

僕は雑誌が好きだ。雑誌ポパイの出現により世界が変わったポパイ世代であり、“NOW”(知ってる?)“ワンダーランド”(知ってる?)“話の特集”(めっちゃ面白かった)“アンアン”“オリーブ”(女の子のやつだろ?いやいやこれがなかなか共に初期のセンスの鋭さは当代随一、ノンセックスで楽しめた)“ブルータス”(一時期低調でしたがこの頃はなかなか)などなど、その時々の僕の精神生活を賦活してくれた大切な友人です。

で最近は“GQ”が気に入っていたのですが、延々とヤンエグ(死語)とはお友達路線を続けるのでコリャだめだと思っていたところ、アンチエイジングの特集が出て思わず買ってしまった。渋いグレーをバックに表紙は古田じゃないか!実は古田選手はアンチエイジング特集とは全然関係なかったのですが。で内容はといえば見かけのみ、しかも顔に絞ってケア用品を紹介するのがメインで、やはりどうってことなかった。しかし斉藤薫女史の男のアンチエイジングに関する巻頭論文?は興味深かったです。男の場合若く見える人とそうじゃない人は大きく二極化する。それは見かけに気を使うかどうかという点において分かれるのであり、年をとっても女性を女性としてみているか否かという意識の違いによる。また一律に若く見えれば善しではなくて、その見え方も職業により適切なものがあるのでお気をつけあそばせ等、フンフン、参考にさせていただきやしょう。

でもアンチエイジングにおいて若く見えることは付加的なものに過ぎず、年を取っても元気で楽しく人生を送るということがその本義である!よいか皆のもの!間違えるなよ!若く見えてもボロボロの人はいます。少ないけど。見た目が年齢というのは大本において正しいのですが、それは内面(内臓、精神)の充実が現れてこそ正しいのであり、皮だけ取り繕ってもしかたねぇよ!と言いたい。中身が本物でこそアンチエイジングです。

で、アンチエイジング覚書。今のところ学問的に正しいであろうといわれているところプラス個人的意見をランダムに。詳しくは今までpearlsに書いたものの中に(あるものもあります)。参考になれば幸いです。

①実年齢と実際の老化度とは別。

②中年以降の健康状態は個人差が大きいが、それは遺伝因子よりライフスタイルで   決まる場合が多い。

③ライフスタイルの変更はいかなる年代からはじめてもそれなりの効果があり“手遅    れ” はない。

④基本は脳と足腰。両方とも鍛えればある程度の年齢になってからもちゃんと向上    する。

⑤足腰の鍛錬は単に生活と同程度の軽い運動(散歩など)よりわずかの負荷をかけ   る筋肉トレーニングが有効。

⑥関節の屈曲性能が落ちてくるので、ゆっくり深く関節を曲げるストレッチが有効。

⑦肉体的なトレーニングは精神機能にも好影響を与える。必須。

⑧“食べ過ぎない”というのが基本。何でも満遍なく少しずつ。元気で健康な老人の   共通点は決して太っていないことである。

⑨抗酸化食品、サプリメントなどは金の無駄(と言い切ってしまおう)。

⑩老化とは乾燥である。特に口腔内は要チェック。1日2L程度の水分摂取を心がける。

⑪頭を鍛えるには単に情報を入れるだけなく、自分なりに処理加工して出すこと。人   に説明する、自分なりにまとめて書き留める、気持ちを何かの形で表現する(絵や音  楽にするなど)ことが大事。

⑫手順を考えたり並行して複数のことをするのは有効。料理や掃除など家事をする   のはいい手段である。

⑬“まめ”でいこう!面倒くさがりは百害あって一利なし。足も腰も軽く。

⑭計算や書き取りなど単純な知的活動は脳の回路を錆び付かせないために有効で   あるように思える。

⑮酒、タバコ、日焼けはミニマムに。

⑯義務があることは大切。無ければ作ろう。誰かに必要とされているという自覚はボ   ケを防ぐ。

⑰“年はとりたくないねぇ”“お迎えが来るのを待ってます”などは死んでも言わない。

⑱犬を飼おう。異性と接する機会を増やそう。

⑲でももう一つ。人に頼らない、一人で生きていくという姿勢は精神を錆び付かせな   い。

⑳若くあろうと常に意識すること。

では諸君、グッドラック!

No TV, No dementia (認知症)

午前中の診察が終わると在宅診療に出かけます。外に出ることの出来ない患者さんを診察するため定期的に自宅を訪問するのですが、お一人の方が多い。そして必ずテレビがついています。勿論言うまでもなく「思いっきりテレビ」です。「成人病、今は医者よりみのもんた」。よく出来た川柳ですよねー。実際に医者の掲示板にみのもんた症候群として医者の言うことより思いっきり!テレビを信じる患者さんのことが話題になったりしました。あっ、言いたいのは「思いっきりテレビ」のことじゃありません。テレビを長時間見続けることについてなのです。

あなたが呆けたかったら1日お菓子を食べながらテレビを見ていればいいのです。テレビの害に関しては、日本小児科学会が子供のテレビを見る時間の制限を正式な提言として出しています。ちゃんとしたコミュニケーション能力の発育が妨げられることや身体的な発育障害の問題など、他にも子供に対するテレビの弊害に関しては本当にたくさんの報告がされています。しかし、どういうわけかかなり長い時間テレビを見ている老人に対する影響を調べたものは余りありません。

テレビは有用なツールです。情報を得る手段としては非常に優れている。百聞は一見にしかず。しかし一方通行です。コミュニケーションこそ脳を活性化させる。テレビの画面を漫然と眺めている老人の脳に新鮮な刺激が与えられているとは思えません。大事なのはそこで得たことを材料に話し合うこと、自分の思っていることを出すことで、アウトプットこそ要なのです。老人だけじゃありませんよ。あなた、そこのあなたも同じ。ビールを飲みながらニュースを見ているだけでは脳は活動を停止しているのに等しい。疲れてるんだよー、うるせえな。成る程。しかし脳は疲れません、身体は疲労しますが。別の新しい刺激を与えれば再び甦ります。

テレビは身体を動かさない。アンチエイジングの基本は脳と足腰です。70歳台でも鍛えれば筋肉は肥大することが証明されています。筋肉を鍛えることに手遅れはありません。勿論脳も同じです。年をとれば脳細胞は減っていくだけというのは過去の常識であり、今では成人でも学習することでニューロンが新生することが認められています。It is too late というのは間違いなのです。

で、テレビを見るのは止めた。アルコールに続き本年第2弾。まあ、どおってことない。正直仕事がはかどって良いです。お笑いを見れないのは寂しい気もするが、もうマンネリだもんなー。僕が再びテレビをつけたとき何人が残っているだろう。その程度です。止めるつもりはなかったのですが、尊敬する福田和也氏が全くテレビを見ないというのを知ったとき突然「あっ、止めた」と思った。やってみると快適です。代替医療のアイコン、アンドリューワイルはニュースも含め一時的に一切情報を切ることを勧めていますが、確かにすっきりする。ぜひお試しを。

テレビを見ない老人は何をするか。いいモデルがあります。伊能忠敬です。日本地図を最初に作った人。彼は50歳で隠居し、54歳から17年かけて日本全国の海岸線を歩いて地図を完成させます。江戸時代の50歳は今で言うと70歳ぐらいに相当するかな。隠居の仕事にしてはいい仕事してますよね、頭も身体も使って。伊能忠敬がこれからの日本にあふれることこそ明るい日本の将来、ライジングサン再びの近道と思えます。

で、No TV, No dementia(認知症)。できるかな?

カフェ俺!

嗜好品というのがあります。辞書では「栄養をとるためでなく、その人の好みによって味わい楽しむ飲食物。茶・コーヒー・タバコ・酒など」なんて書いてある。生きていく上で絶対必要なものではないということですが、人間性を表すのは必需品なんかじゃなくこういった趣味性の高いものですよね。それにまったく必要じゃないのかというとそうじゃない。大雪のスキー場でぼろぼろになりながら転がり込んだレストランで飲んだコーヒーなんて本当に生き返った心地がするものですし、僕は吸わなくなりましたがタバコも状況により体がとろける位うまいものであるのはわかっています。せやから止められへんわけだ。そして耽溺する。溺れる。流される。そこから悲劇が始まるのであります。何でもやりすぎはいけませんで、旦那さん。私も覚えがありますが。いえいえ、私は今では酒もタバコも博打もやらないつまらん男でございまして・・・。

でもコーヒーは飲むんだな、これが。かなり中毒かもしれません。出典は忘れましたが10年以上前にアメリカから出た医学論文で、習慣的にコーヒーを飲む人はやめると作業効率が落ちるというのがあり、こりゃますます止められへんなー、ただでさえこの能率だもんと思った記憶があります。で何の気なしに調べ物をしていたらコーヒーに関する文献があったのでちょっとそれを。

「コーヒー及びカフェイン摂取とパーキンソン病との関係」。アメリカ医師会雑誌に2000年に載った文献です。信頼性高し。8004人を30年間にわたって観察したもので、観察期間中102人にパーキンソン病が発症したのですが、コーヒー摂取者の発症率は飲まない人の6分の1で、カフェインがその発症率と関係していた。ナイアシンなど他のコーヒー成分は関係が認められず。ミルクや砂糖も関係なし。パーキンソン病は喫煙者に発症が少ないことが知られていますが、この研究ではコーヒーによる発症率の低下とは無関係でした。

もうひとつ。Diabetes Careというアメリカ糖尿病学会誌に今年載ったばかりの文献。「コーヒー、カフェインと2型糖尿病の危険度」。88259人のアメリカ人女性。2型糖尿病というのは一般的なよく見られる糖尿病ですが、10年にわたっての観察期間中1263人が発症。コーヒー毎日2杯以上飲むと発症率が低下。この傾向はカフェインレスのコーヒーでもインスタントでも同じ。紅茶は影響せず。カフェイン以外の他の因子が発症率低下に関与しているが同定できず。

すごい数の対象者ですね。日本の健康食品でかっこつけてデータを示しているのが時々ありますがほとんど10人以下ですもんね。大嘘というのがよくわかります。なお出典は明らかではありませんが、コーヒーは脂肪酸の分解を促進する(カフェインが脂肪分解酵素リパーゼを活性化させるため)ため、好気性運動(ウォーキングや軽いジョギングなどですね)の30分前に飲むと筋肉のエネルギー源として脂肪酸が使われやすくなり体脂肪が減少するというのもありました。

いいことずくめではないか!糖尿病とパーキンソン病は本当にタフな病気ですが、コーヒーで罹患率が下がるなら飲まない手はない。俺はカフェでいこう!俺カフェ!カフェオレ!・・・失礼しました。こういうのはちょっと疑ったほうがいいよと僕の脳細胞にわずかにこびりついている理性が囁きますが、少なくとも嗜好品としてはタバコやアルコールより益がありそうです。しかしコーヒーをたくさん飲むとなんか歯がコーヒー色に染まってきそうな気がするのですが。そんなことない?誰かいい対策をご存知ないですか?うーむ。

食わず嫌い達よ!

介護予防の講演を聴いてきました。大阪府医師会の主催で4月からの介護保険制度変革に伴い主治医意見書(介護保険の認定のとき必要)の様式が変わるのでその解説と、目玉である介護予防についての解説があり、それをちゃんと聴いて城東区の先生方にお知らせする役割がどういうわけか劣等不良理事である私に課せられたためであります。やらせんなよ!いえいえ、冗談です。インフルエンザが爆発しているため診療が延び、予定より30分近く遅れてひいひい言いながら医師会館に着けば黒山の人だかり。会場の外にモニターが3台ほど設置してあり立ち見の状況です。絶句していたのですが、どうせなら会場に入って聴こうと人波を強行突破して中へ。するとスライド係りの兄ちゃんがあそこが空いているよと目で合図してくれました。奇跡的に空席が真中に!目でありがとうを言い返し、周囲に迷惑がられながら席に着きました。ごめんね!まったく馬には乗ってみよ、人にはそってみよ、会場には入ってみよであります。こんなときに日頃の精進、善行の積み重ねがものを言うね!しかしぎゅうぎゅうでダウンも脱げないぞ。

介護保険では要介護1というのが最も軽いクラス(ここに分類されている人が全体の3分の1強でこれからも増加が予想される)で、その下に要支援というのがあります。今回要介護1に分類されている人の中には予防段階の人が多く含まれているということから要支援を2段階に分けてそれらの人も新要支援の区分に入れ、介護給付でない新予防給付でまかなおう、そしてそれらの人には新しいサービス(運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の向上)を受けていただこうというのが骨子であります。まっとうです。でも実際の運営に際してはうまく機能するとは思えないシステムが多々提示されており、4月の開始時には混乱が予想されます。まぁ普通やったらでけへんで、あんなこと。だいたい厚生労働省の狙いは要支援が増えると介護保険費からの支出が少なくなる(クラスが下なほど使える介護保険料は少なく規定されている)というのが大きいのですが。

運動器の機能向上にはストレッチやバランストレーニングなどとともに筋力向上トレーニングが上げられており、今までその代名詞としてパワーリハビリテーションが上げられていました。しかし今はマシンを使わなくても可と、かなり控えめになっています。それでもいたねー、パワリハ批判派が。毎回マシントレーニングをして事故が起きたらどうするのだ!誰が責任取るのだ!とヒステリックに叫ぶ質問者がいるのですが、バランストレーニングでもひっくり返るぞ。相変わらずパワリハの誤解は解けていないようです。

パワリハは筋力トレーニングではない。この点、厚生労働省も悪いと思いますがマシンを使うために、またパワーという名称から完全にマッチョなトレーニングと間違えられているようです。負荷を定量的に決められること、同一運動を間違いなく反復できることからマシンを使用しているだけで負荷は恐ろしく軽い。老化による姿勢の悪化、移動能力の低下は筋力の低下というよりも使用する筋肉、使用しない筋肉のばらつきが起きてくるためで、それを一様に使用することで明らかに歩行能力の向上が見られます。病気を抱えているお年寄りは危険ではないのかという批判もありますが、研究会では90歳以上の実施例を集めてシンポジウムをしていましたし、我々の経験でもパワリハの規定を守っている限り安全です。しかし負荷の設定、マシンの調節など、講習を受けて免状を持っている指導員が必ずつくことが必要で、むしろ危ないのはマシン経験の少ない介護者が真似事をすること、ドイツの医療器具であるコンパス社製マシンでない適当なジム用のマシンを使うことです。そんなケースで事故の報告があります。パワリハ研究会はデータをちゃんと公表しており、介護保険での運動器機能向上の効果判定のやり方はパワリハ研究会のメソッドそのままです。実施方法も腰砕けにならずパワーリハビリテーション流のみで、その他のマシントレーニング、マシンを使わないトレーニングは不可としたほうが効果も安全性も絶対高かったやろねー。残念。政治的な駆け引きがいろいろあるのでしょうが。

パワリハ批判を聞いていると、言っている人は実際にやったことが無いというのがよくわかります。触ってみて話している人には本当にお目にかかったことが無い。僕はアキレス腱の手術後、もともとあった股関節の痛みが自分の不注意から両側に広がり結構みっともない歩き方を1年以上続けていたのですが、クラプトンを目指す私がこれではいかんぜ!と目覚め、今全力で回復に努めています。で、最終手段がパワリハだったのですが・・・どうだったって?みなまで言わせんなよー、1日あくと不安になるんだぜ、これが。食わず嫌いは止めような、おっさんたち。