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抗加齢→抗華麗→地味

抗加齢医学会のセミナーに行ってきました。東京で2日間、連休をつぶして(泣)。でも行った甲斐はあったと思います。元気なご老人で一杯の世の中になることが僕の仕事のひとつの目標ですが、そのこともあり抗加齢医学会は第1回研究会から興味があって参加していました。当初はエステっぽい人が多かったり、ちょっと医学的な研究会にしては異色のムードだったのですが、学会に昇格した頃くらいから新しい学問を育てていこうという意気込みを強く感じる、アカデミックでフレッシュな学会になっていると思います。アンチエイジングという言葉は女性雑誌などでは完全に市民権を得ていますが(というか今が旬?)、もともとこの学会から広がった言葉です。

抗加齢の意味ですが、不老不死を目指しているわけではありません。加齢による身体精神的な衰えをカバーして、元気なままでコロリと死のう。活気のある爺さん、婆さんになって若いやつを脅かそう、病気しないほうが国家財政的にも助かるし。一種の予防医学です。このパールスでも書いた、パワリハもアロマも鍼灸もその手段として入っています。しかし今回の主たる課題はホルモンの充填と身体に有害な金属(水銀や鉛など)の除去でした。

年齢とともにいろいろなホルモンは分泌が減少してきます。よくご存知の例を挙げれば更年期です。女性ホルモンの減少が顔のほてりや欝気分、動悸などのいわゆる更年期症状を起こしてきます。その治療として女性ホルモンの充填療法が行われるようになり、単に更年期だけでなく動脈硬化や骨粗しょう症、アルツハイマー病などにも予防効果があるとの報告が相次ぎ、皮膚の若返りも見られることから一時アメリカで60歳以上の女性の30%近くがホルモン充填療法を受けているという事態にまで発展しました。ところが大規模な臨床試験が行われ、その際乳癌や心血管系のトラブルでの死亡がコントロール群より多いことが途中で明らかになり、臨床試験は中止になりました。そのため一時のブームともいえる状態は終わったのですが、今でも投与量や方法の改良で利点が多いという意見も多く、臨床試験の結果を知ってもそのまま充填療法を続ける人が少なからずいたことなどQOL(生活の質ですね)の改善においては素晴らしいものがあるとの意見があります。

最近男性更年期という言葉がよく聞かれるようになってきました。女性のように様様な体調不良(疲れやすい、憂鬱だ、EDだ)の訴えが50歳頃から多くなり、それは男性ホルモン(テストステロン)の減少による可能性があります。保険適応があるわけではありませんがテストステロンの減少が証明されそれの補充を行うと素晴らしい改善が見られるという報告がされています。

DHEAというステロイドホルモンは加齢とともに減少しますが、これの補充も寿命を延長させる、活動性が増すなどいい報告があります。しかしまだ確固たる評価はありません。一般に女性ホルモンを除いてホルモンの充填療法はまだまだ症例数が少なく、副作用などまだはっきりしない点も多く、今すぐ臨床応用するのはちょっと危険かなという気がします。有害金属を除去するキレート療法もそうですが、少なくとも今、自分で試してみようという気にはまだなりませんでした。

実はテストステロンは計ったんですけどね・・・結果はまだです。恥ずかしくなかったらまた報告しますね。

抗加齢療法に入れ込んでいるドクターは一般に若々しくおしゃれで(全員ネクタイが派手!スーツの色も明るい。関西の偏見かもしれませんが東京っぽい!)、まあ老け込んでいる人が言っても説得力が無いですがちょっといかにも、というのも少し恥ずかしかったりします。ホームページを見てもかなりサロン化してるケースも多いようです。僕としては元気なご老人を増やすという目的のもと、中身重視の抗加齢医学、脳、内臓の若返りを目指して一般庶民の抗加齢医学をやっていきたいと思ってます。地味です。地味で着実にしぶとくいきます。

パワリハエバンジェリスト、または介護予防給付の陰謀(second edition)

早朝、犬の散歩をしていると空気の冷たさと虫の声が「秋だよ」と言っているのが分かる。「夏は単なる季節ではない、それは心の状態なのだ」という片岡義男に影響を受けてバイクの免許を取った26歳の夏以来、人生の大半は半パンとTシャツで暮らしていたい、夏が1年の中心だと思っている僕にとって、秋はBang!Bang!バカンス!は終わりましたよ!では張り切っていきまっしょい、というちょっと始まりを告げる季節でもある。アメリカとかで新学期が秋から始まるのは理にかなっている気がするね。私の今までの人生を振り返ってみるといいことは夏ではなくて寒くなってから起こっているような気がする、全然関係ないけど。でも期待しようね。

何でも起こってからでは遅い、その前に手を打つのが大人である。研修医のとき、一緒に働いている何人かの同期生の中で、重症に当たる確率の高いやつというのがいた。こういう人はどこの病院でもいる。霊じゃないけど引いてくるのだ。そいつが当直だったりしたら、担当の看護師さんが「いやだわー、また今夜忙しいのじゃないかしら」と憂い顔でつぶやく。医者は重症例を経験するほど腕が上がるので彼も良い医者だったが、あるとき指導医の先生が言った。「重症によくあたるやつというのがおるやろ。引きが強いというのもあるけどな。案外それは処置が遅くて重症化させているというケースもあるねんで。」うーむ、確かにそういったほうが適切なやつもいたな。無事これ名馬。粋の構造とはいらぬトラブルを避けることなり。結構重症例を持っているんだけど知らぬうちに良くなって退院してたりして、いつもあんた楽そうねというやつがいたが、彼は非常に優秀であった。

そこで昨今の注目は予防医学であり、また介護予防である。介護が必要となりそうな虚弱老人に対して、介護保険から介護予防給付として費用を出してくれることが決定した(といっても詳しいことは全く決まっていない。以前のように本当に本当のぎりぎりの切羽詰った直前になって決まり関連施設はキリキリ舞いすることになるであろうことはお約束のギャグみたいなもんだ)。栄養管理や口腔ケアなどが上げられているが、いろいろ注目されているのが筋力トレーニングであり、その手段としてのマシーンを使ったリハビリ、パワーリハビリテーション(以下パワリハと省略する)である。これは非難する人が多い。老人に筋力トレーニングなんて事前に身体のチェックがきちんとできるのか、それで事故がおきたら誰が責任を取るのか、保険費を使うほど筋力トレーニングの効果が実証されているのか、諸々。器械の導入に関してまたもよくある業者との癒着が週刊誌に取り上げられたりして、一時パワリハは介護予防の救世主のような感じだったのだがぐっとトーンダウンしている。

それでも私は言いたい。パワリハは介護予防の救世主、ネオであると。

大体皆さんの言うパワリハは筋力トレーニングであるというのがそもそも間違っている。わかってるかな。前提からして勉強不足なんだ。パワリハは非常に弱い負荷を用いるマシーンを使った反復運動で(あなたなら指1本で動くだろう)、普段使わない筋肉を使用させることにより全体のバランスを調整するものと考えたほうがいい。老人の姿勢がおかしくなってくるのは何も筋力が落ちてくるわけではなく、使う筋肉と使わないものとのバランスが極端になってくるせいだ。筋力よりも神経−筋反射を円滑に行わせるシステムと考えたほうがいい。器械はもともと西ドイツのリハビリテーションに用いられているもので、スポーツジムで使われているものとは全く異質の医学機器だ。そんな器械を用いて介護予防なんて言っているところも1部にあるけどね(それで圧迫骨折を起こした例も報告されている)。パワリハ研究会では90歳代での有効例が多く報告されていて安全性はかなり高い。プログラムも安全性最重視となっている。そもそもこれを筋力トレーニングとして発表している厚生労働省に問題があるといえるが。

僕が始めてパワリハを見たのは3年前になる。デイケアなどでリハビリをしても結局悪くなっていく脳梗塞後のご老人、パーキンソンの患者さん達を診ていると、これは何とかならんのかと無力感を感じていた。そのときわざわざ岡山まで出かけて聴いたパワリハの講演会。そこで見た映像は衝撃的であった。あんな人がここまで良くなるのか!・・・翌日器械購入の手続きをしていた。で、今まで多くの方にパワリハをしていただいたのだが、その大体の結論。パーキンソンの方、片麻痺の方には残念ながら期待していたほどの効果が得られていない。劇的な効果が得られたのはごく少数である。しかし、ある。疾患を問わず全般的に歩行能力の改善が得られることが多い。一番有効なのは介護予備軍、いわゆる虚弱老人である。単に運動能力が上がるのではなく、行動変容というか生活全般の質が上がる、今まで何もしないで寝ていたおじいちゃんがこの頃は庭の手入れをするようになって・・・という具合だ。顔つきも変わる場合が多い。この意味で介護予防給付としてパワリハがエントリーされているのは至極もっともなことなのだ。本当に有効かどうか実証されていないという意見は研究会での多くの発表をみればいいことだ。そもそもちゃんと実施前後で決まった項目でデータを取っているのはパワリハだけなのだ。他の器械を用いたものでは全くデータは見当たらない。

話は変わりますがこの前ある会合で某ケアマネージャーと話していた時のこと。「大体どこまで家庭内の事情に入っていくかというのは難しいんですよ。やればやるほど家族が依存してきて、えっ、そこまでは・・・というようなことを要求されたりしますもん。」「そうだよなー、やっぱり人間楽したいもんね。」「そうでしょー、そういう意味で今度の介護予防給付ってやつ、うまくいきますかねー。予防だから筋トレしろ!ってしますかね。僕だったら寝てるほうが楽だから絶対しませんよ。」「そりゃそうだな、予防しようって意志のある人が介護予防に認定される中でどれくらいいるか疑問ではある。」「まあ家族がプッシュするとかありますけどね、でも筋トレしんどいでしょう。」「パワリハは筋トレじゃないけどな。でもパワリハだけ使えって決まっているわけでもないし、筋トレといわれたらやっぱりしないなー。・・・あっ、これってひょっとして?」「ひょっとして?」「厚生労働省の介護保険費を減らそうとする・・・」「陰謀!?」「ありえるなー」「メッチャありえますよねー、確信。」

…そんなことは毛頭信じていませんって。パワリハについてもう少し。やってみて1番印象的だったのはドロップアウトが少ないことだった。リハビリはしんどいので途中で止めてしまう人も多いのだが、パワリハは殆ど無い。1割以下じゃないかな。これは単純動作の反復運動によりβエンドルフィンなどのオピオイド(脳内麻薬とかいわれてるやつです)が分泌されるせいではないかと考察されている。誰でも軽い運動をするととてもさっぱりすることがあるでしょう。疲れるよりやる気が出たりして。あれです。だから一度取り掛かると結構続いて介護予防には本当に適していると思います。

パワリハは誤解が多い。運動能力を保ちたかったら40歳台まではラジオ体操、50台までは太極拳(転倒予防に関し唯一エビデンスあり)、それ以降はパワリハをやりなさいと国際医療福祉大学の竹内先生は言っている。汎用性もあるのだ。あなたもやって納得しましょう。先生はパワリハの考案者であり伝道師、エバンジェリストだが、僕も小粒のピリリとはしていないパワリハエバンジェリスト(ローカル版)として、何か質問があれば、体験したければご遠慮なくいらしてください、お力になりたいと思います。

アロマエヴァンジェリスト

雨が降って気温が下がっている。夏も終わりかけているようだ。皆さん、お盆休みはいかがでしたか?僕はちょっと人里はなれたところで、雨の落ちていく音を聞きながら空と山の境の霞んでいるところを眺めては何時間も過ぎていくという休みでした・・・・。なんか違うなと感じた?以前の俗物ではありませんで。けっけっけっ。男の子は3日会わないと変わるんですよ。心してください。高尚に行きましょう。

アロマセラピーというのがある。聞いたことはあるがこれと説明できる人は少ないんじゃないかな。僕は偶然からアロマセラピーに関わることになり、日本の男性の中ではいわゆるアロママッサージを受けた回数においてかなり上位にランクされると思うが、これでアロマセラピーに詳しいなんていうと恥ずかしいだけだ。でもまぁ少しお話させてください。

花や樹皮から精製した精油(エッセンシャルオイルという)を用い皮膚から吸収(オイルマッサージや入浴時にお湯にたらすなど)、揮発させ鼻から又肺から吸入、まれに飲用して消化器から吸収などのやり方を用い、そのオイルの作用を期待する。リラックス作用が多いが覚醒作用や抗菌、免疫力アップなど様々な作用がある。ちゃんとした学会が日本でもいくつかあり、医学的な応用をいわゆる代替医療として模索中である。レモンオイルを咽頭に塗布することで咽頭痛を癒すなどは単純な方で、癌の鎮痛にも効果があるとされる。

当院でも主として鎮痛作用に応用できないか(お年よりは痛いとこだらけなのよ)、関西医大の心療内科に併設されているアロマセラピー室にお伺いしてお話を聞いたりして創世期の苦闘後アロマールームを3年前に開設。1年で諸事情により閉鎖し今年再開。しぶとくしつこくやっていこうと決意を新たにしている。アロマセラピーは代替医療に分類されるが、今のところ効果が確立されたものではない。化学薬品の代わりに自然の花の成分を用いその薬効(薬理学的に多くが証明されている)を期待するわけだが万人に等しい効果が得られるというところまではいっていない。でもこれは精油の問題やら投与法やら対象の選び方でかなり進化すると思っている。今のところ精油を使うマッサージが一番世間的には浸透しておりそれについて少し。

マッサージといってもいろんなタイプがあるが一般的にアロマは非常にソフトだ。マッサージの揉むという感じではなく触る、息を吹きかける感じというのが近い。それで効果あるのか?あるんだなこれが。皮膚や筋肉は刺激がきつければきついほど効果があるというのは間違いで、刺激の性質に敏感に反応する。ためしにあなたの腕を柔らかく撫ぜてみて、その後グイグイ揉んでごらん。どちらが筋肉がリラックスする?

それにあなたの選んだ心地よい香りが常に漂っている。周りは薄暗く、心地よい音楽か自然の虫や鳥の声がかすかに聞こえる(こういう環境をしつらえているところが多い)。半分以上の確率で寝てしまうことが多いが、ここで大事なのはあなたが何も考えていない、もしくは不快なことは考えていないということだ。煩雑な日常から分離される、完全に。

5感の中で嗅覚は特殊だ。他の4感と違い視床下部を介せずダイレクトに臭球を介して大脳皮質にメッセージを伝える。多分最も古い感覚だからだ。他の4感より圧倒的に多くの遺伝子を必要とする。古代人は自己を守るために匂いに大変敏感だったんだろう。プルーストの「失われた時を求めて」もマドレーヌを紅茶に浸したときの匂いから記憶が喚起され物語が始まる。匂いはあなたの何か深い部分につながっているのだ。

慢性的な痛みはかなりのものが心因性と考えられている。痛みは肉体的なものとは限らない。匂いはそれを癒すし、その種類により分泌される様々なホルモンやオピオイドが精神肉体的に影響を与える。リラックス、安らぎ、そんなものが純粋に手に入る。それがアロママッサージだと思う。出来れば定期的に受けるべきだ。なんでもそうだが1回触れただけでは分からない。繰り返すことで別の世界が広がる。私はそれを伝えたい。アロマエバンジェリスト(伝道師)だからだ。

頭を垂れる・・・

皆さん、お久しぶりです。生きてました。

リニューアルしたホームページをチェックしていて愕然とした。院長の連載コラムと銘打っておきながら全然書いてないじゃないか!!!何してんねん!・・・いやー、判ってましたよ。書かなあかんなぁと思いながらも光陰矢のごとし。たらたらと生きているうちに時間だけが過ぎていきました。とても反省してます。

反省したところに読むぴったりの文献があった。医者は経験が多いほど有能なのか?
Systematic Review: The Relationship between Clinical Experience and Quality of Health Care。Annals of Internal Medicineという信頼できるアメリカの内科雑誌に、臨床経験・年齢に関する医学知識とケアの質に関連する論文のシステミック・レビューが載っている。システミック・レビューとはそれに関する多くの論文を集め検証したもの。多くの論文だから当然結果が違うものも含まれるが大方結論は一致していて・・・・・・・臨床経験が長くなった医師は質の低いケアを供給するリスクがある。故にこれらの医師は質向上のための介入が必要。つまり勉強しなくてはいけない。知識量は若いほど多く、診断、治療のスタンダードへの遵守性も高いというデータもあり。

ぐすん。もう若くない俺としてはうなだれて聞くしかないなぁ。もちろん全面的に同意するわけではなく個人差、集団差がかなりあるけどね。でもある集団においてはその傾向はあるかも知れぬ。それは日本の開業医である(勿論ながくされていて経験豊富ですごく優秀な医者はごまんといるよ)。

僕は10年前に開業したが、大学病院にいた時と比べて医学的情報量の違いを埋めるにはかなりの努力が必要と感じた。大学なんてボーと医局にいるだけで先輩やら学会やらで情報がいやでも耳に入るようになっている。そしてライバル意識というか競争があるもんな。勉強するしそのための大学だ。しかし開業医はワンマンバンドである。孤独なのよー。最終決定は全部自分。相談に乗ってくれる上役、同僚がいないわけではないが、昼飯時に「ちょっとさー」というわけにはいかない。完全に個人の医療にたいする努力、熱情、責任感で差が出るのだ。で、年をとってもそれを維持していくのは結構難しかったりする。またやる気のある医者ほど患者さんも増え本業が忙しくなるとともに雑用もどんどん増えてくる(普遍的法則、仕事は忙しいやつに頼め)。やることは多い、勉強時間は取れない、苦しいー。あっ、別に俺のことを言っているわけじゃないよ。

医療は日進月歩である。これは真実だ。昨日正しかったことが今日はやっちゃいけないなんて信じられないこともあったりして、アップトゥーデイトな情報を仕入れることは必須。医学雑誌だけでなく、最近はインターネットやメーリングリストがそれに大きく貢献しているのだが、年齢によって利用頻度が異なるのは致し方ない。そんなこれやで臨床経験、年齢だけではだめという結論が出るのだろう。

しかし医者にとって臨床経験は財産というのも確かである。自分でも週に1回か2回しか外来をしていなかった専門馬鹿寸前の大学の時と比べ、何でも診なくてはならない開業医となって臨床能力が向上したところは多々あり。複数の医者が外来をしている病院では、多くの患者さんを外来で診ている先生のほうが、そうでない医者に比べやはり臨床センスは上回っていることが多い。患者さんが治る→評判で患者さんが増える→臨床経験が増え診断精度が上がる→患者さんが治る、といういい連鎖が形成される。そこで忙しさに流されないで勉強時間を作って研鑽進歩できる医者が残るんだろうなー。経験だけでいくと必ず行き詰まる。新しいことを勉強していく努力、熱情、責任感。それの維持がみんなも自分も救うのだ。

ロシアのボリショイバレーで活躍する日本人ダンサー(この人の業績は大リーグにおけるイチローに匹敵するかそれ以上らしい)、岩田守弘の言葉。「世界中の35歳の中で僕ほど努力したものはいないと胸を張って言えるんだ」。  頭を垂れる私・・・

「とりあえず自分に課するものとして週1で更新しようと思う(小声)。」

ED(勃起不全)って単にそれだけの問題じゃなくって・・・

シルデナフィル(バイアグラのことです)発売4周年記念講演会(2003年)で、英国の心臓専門医グラハムジャクソン氏が、EDの人は潜在する冠動脈疾患や糖尿病を持っている可能性があると発表した。もともとEDは精神的な問題だけでなく血管内皮機能障害が原因でおこるとされ、その障害を基盤とする心血管系疾患、糖尿病、高血圧の患者ではEDの発症率が4倍高い。心血管性疾患の症候がみられないED患者50人を検査したところ20例に冠動脈造影で冠動脈疾患が確認されたとのこと。それ以外にも氏は、シルデナフィルが全身の血管内皮機能障害を改善することから、狭心症患者の運動耐容能(胸痛が起こるまでどれだけ運動できるか)を改善、心筋梗塞の発症率や死亡率も抑え、肺高血圧やレイノー病も著明に改善するというデータを示した。

同じ講演会で三井記念病院の山門實氏が、日本人のデータ(平均年齢54歳)で高血圧薬物治療中の人に有意にEDが多い(正常血圧の人の約2倍)ことを示した。

生活習慣病の人に有意にEDが多く、シルデナフィル内服によりEDだけでなくベースにある血管内皮機能障害が改善されるのであればいいとこずくめではないか!薬品会社の主催する講演会で往々にして見られるいいとこずくめの話かもしれず鵜呑みにするのは止めとこうと思うが、論理的には説得力あり。冠動脈疾患のため硝酸薬を使用している人は残念ながらだめだが、それ以外の生活習慣病を持つお疲れでよれよれのおと−さん!ちょっと考慮に値する話かもしれんよ。恥ずかしがらず相談してください。

極意!

昨年末、城東区医師会の会長も務められた松岡先生がお亡くなりになった。先生は電子カルテを始め医療におけるIT化で日本の先頭を走っておられた方である。お元気だった頃先生を見るたび、人間70を超えてもあんなに好奇心が旺盛で新しいことに取り組めるのだなぁと明るい気持ちになった。前向きである。療養中に抗癌剤で少なくなった髪の毛を3つに括り、オバQの扮装でニコニコして写真におさまっておられるのを見ると胸が詰まった。心よりご冥福をお祈りします。

松岡先生は自分が癌であることを突如メーリングリストに告白された。その後先生は自分の治療とその効果を計時的に報告されたのだが、通常の、と言っても粒子線等を含む最新の現代医学の治療と共に代替医療も次々と試みられ、それを読む僕は大いに啓発されたのである。
先生が紹介された1つにサイモントン療法がある。代替療法の一つの大きな考え方である気の持ち方、精神状態と病気との関係性に注目した療法で、単純に言えばイメージ療法ということになるのかな。癌細胞とそれを攻撃している白血球のイメージを描くことで実際に腫瘍縮小効果が認められるというものである。ご冗談を・・・とつぶやきたくなるが実のところ全く否定する気持ちは無い。日本古来の気の療法で同じようなテクニックは多く用いられている。また鬱患者の癌や心血管系の病気における死亡率が普通の人と比較して大なることは多くの研究で立証されている。最近では笑うことで免疫系が賦活され癌患者の余命が延びたという報道は知っておられる方も多いだろう。病は気から。多くの医者はそう感じている。

プラシーボ、プラセボと言うほうが多いか、偽薬のことです。薬が本当に効くか評価するとき、全く薬効は無いが同一形状のプラセボを内服したグループと本物の薬グループと比較する(内容は薬を渡した人も内服した人も知らない)。ホラ、プラセボ群と比較して有意に効果が認められました!効果あり!と薬会社の人は言うのだが、プラセボ群でも何パーセントかは効果が認められる。これはどうよ。臨床の場でも眠れない眠れないと嘆く薬依存の人に、これはとてもよく効くからと言って偽薬を渡すと「効いたー、ぐっすり眠れました!」と晴れ晴れとした顔をして来たりする事もある(そうだ、やったことないけど)。びっくり。プラセボ効果という。

身体の状態は心に影響を与えるが、その逆も当然あり。もうこれは自明のこととしよう。これに付け加えるに大事なのは頭で理屈で納得させようとしても上手く行かない点だと思う。本当に信じる、心で信じる、そして理屈で無く無心で身体に任せることが肝要なんだと思う。これが難しいから上手くいかないことが多いんじゃないかな。

身体には頭でコントロールできない無意識な部分がある。その無意識は身体を健全な方向に向かうようセットされている。風邪を引くと熱が出るが、それは免疫系を働かせるために必要な現象で、解熱剤を使うと治癒が遅れることは証明されている。食欲がなくなるのも免疫や他のシステムにエネルギーを使うため、状況においてそれほど大事でない消化器系での消費を抑えるためだ。横になりたいのはそれで身体を休めるように防御反応が働くからだ。身体は自分で治そうとしている。身体を信じて任せること。それを上手くできたら薬は今より必要じゃなくなる。

実は最近ゴルフをやっていて、かなり好きなんです。いや、芝を痛めつけているというレベルですけど。で、パットが本当に上手くいかなかったのだが、アメリカのインナーゴルフという本を読んでパットに目覚めました。単純に言うと、ゴタゴタ考えないで身体にまかせてさっさと打ちましょうというもんだ。身体を信じなさい、目をつぶって打ってもいいよという感じです。パッと見て、後はもうホールを見ないで身体にまかせて打つ。チラッと見るとアラ不思議、ボールは穴の中に・・・なわけないが、それでも以前と比べると格段に寄ってます。なんか怖いですけど、慣れるとこうじゃなきゃいかんと思えてきます。そういう目でいろいろ調べてみると、この身体に任せるというのはいろんな方面で極意となっているんですね。洋の東西を問わず。考えすぎると身体が硬くなる。これはろくな事がありません。
理屈じゃなく感情。しかも前向きな明るい気持ちで信じる。そして身体にお任せ。極意だと思うんですけど、どうですか?

出しましょう!

初診の人を診察するとき、何か薬を飲んでいないか訊くのは常識である。最近は健康食品のことも訊かなくてはならない。健康食品の使用率は驚くばかりだ。ある日、あるご老人が医療費の自己負担が増えたことを嘆く。「おまけに先生、私は足が痛いし目も悪いし、皮膚病もある。毎日医者通いなのにその度にお金がかかるのです。」「・・・お気の毒です。」「おまけに良いと薦められたあれやこれや健康食品だけで毎月5000円以上も払わなあかんのに。」「!?(そっちの方が高いのでは?)」

何故みんな健康食品が好きなのであろうか?まあ、なんとなく判らないでもないけど。しかし「健康に良いものみんな食べて肥え」しかり!これはサラリーマン川柳からとったものだがこんなものを引用することからも判るように私は健康食品に批判的である。安全であろうということが健康食品を選ぶ一つの大きな理由と思うのだが、大流行のサプリメントにしてもビタミンEやCの大量摂取は死亡率を上げると最近発表されている。権威ある英国の医学誌であるLancetでは昨年「サプリメントは全く金の無駄!」というタイトルの総論が発表されたはずだ。みんな、もっと情報を集めよう。日本はかなりのところ金儲けで情報が左右されているぞ。サプリメントについてはまた別の機会に書こう。

一体何を私は言いたいか?一言で言うと、健康のためには色々な物を摂取するよりも、むしろ出さなくてはならないという事だ。インプットよりもアウトプット重視。食べるだけで便秘になると身体に悪い。声を出すこと、汗をかくこと、大いに喋ること、本を読むだけでなく感想を書くこと、映画を見るだけでなく内容を他人に説明すること、絵を見るだけでなく描くことが大事ということやね。

痴呆の専門家である俗風会病院の大友英一院長は「小説家、政治家、作曲家、画家、彫刻家・・・それと俳句を作る人にはボケが少ない。皆、見たこと、聞いたこと、感じたことを自分の感性で表現している人たちです。データをインプットするだけではダメで、自分の頭で整理整頓、再構成してアウトプットすることが重要。日記を書く、手紙を書く、周囲に気配りをすることもボケ防止になる。また適度の運動は脳血流を増加させ脳の老化を遅らせる。ボケたかったら1日中ボーとして運動しないでテレビを見ていなさい」と述べられている。全くその通り。

受身ではなく能動的に生きる楽しみを探していくとボケも病気も寄ってこない・・ってことは無いかもしれないが少なくともなりにくいと思う。やってもらうじゃなくって自分でやることだ。一つの例なのだが、当院でやっているパワーリハビリテーションのマシーンは筋トレのマシーンと間違われやすいが、元々ドイツの整形外科で使われているリハビリの道具である。日本でリハビリというとマッサージやホットパックをやってもらうと考えている人が多いがドイツではマシーンを使って患者さんが自分で能動的にするのがリハビリなのだ。能動的に参加しないとリハビリにならない。もちろんそのようにリハビリをやってられる方も沢山おられるが、どうも受身な姿勢が強いという方も多い。どうもこれはリハビリだけでなく我々日本人の一般的な傾向のように思われる。これを変えよう。受身でなく自主的に!身体のために、自分のために、入れるよりも出しましょう!

代替療法は安全か?

漢方薬は多くの方が使われています。有効性が科学的に証明されているものなどは医者が積極的に用いる場合も多くなっています。どちらか言うと副作用が少ないという印象をお持ちの方が多いと思いますが、必ずしもそういう訳ではありません。

Chinese Herbs Nephropathy (漢方ハーブ腎症)という病気があり、4月7日発行の医事新報に中本安先生が解説されていますのでそれの大事なところを要約してみます。

1. 半年から2年間の漢方薬服用後に腎障害が起こり、急速に腎不全となる。
2. 日本では今まで30例の報告があり3分の2は西日本。ベルギー、フランス、台湾などでも報告あり。
3. 漢方薬に含まれるアリストロキア酸がその原因と考えられる。
4. 腎不全だけでなく尿路系の悪性腫瘍の合併が多い。
5. 報告されている漢方薬は中国産のものが多く、健康茶の報告もある。

医薬品でなく個人輸入の漢方薬、健康食品、民間薬などを使用する代替療法は最近高まりを見せています。西洋医学の不十分な点、悪い面に対する補足的な役割を果たしているのですが、医薬品のように治験(効果、副作用などを発売前に実際の人間を使って調べる)が行われているわけではなく、代替医療学会などがチェックを行っていますが十分ではありません。安全性に関しては個人の責任が大きいと考えられます。

できるだけ内容の情報が公開されているものを使用すること、副作用などの情報公開が行き届いた会社を選ぶなどが気をつける点ですが、ちゃんと治験を通過したはずの医薬品でも思いもよらぬ副作用が出てくるのはみなさんご存知の通りです。
できるだけ必要のないものは摂取しない。

そのためには精神、身体にいいライフスタイルを心がける。できるかどうかは分らんがともかく心がける!

日本は健康寿命世界一

世界保健機構(WHO)は2000年に日本を健康寿命のランクを世界1位としました。これは日本が単に余命だけでなく活動的余命においても世界1の長寿国である、つまり年をとっても元気な人が多いという事をあらわします。わが国には長寿者が多いが反面寝たきりが多いなど高齢化社会に悲観的な感じを持たせる報道が多く、この結果に意外な感じを抱く人が多いのではないでしょうか。2001年2月1日のmedical tribuneは老化に関する疫学研究の専門家である桜美林大学の柴田博教授にインタビューし、興味深い話を引き出しています。

日本において死の直前に寝込む期間が半年に及ぶものは10数%に過ぎず、多くの高齢者は死の間際まで高い身体能力を保っている。

統計を出す場合施設入所者を対象にする場合が多いが、日本はかなり身体能力が悪くなってから入所する例が多く、比較的軽度でも入所していることの多い北欧と比較した場合、高齢者の能力は悪く出て当然である。

日米比較調査では、地域在住高齢者を比較した場合、日本の方が慢性疾患を持つ者の割合も低く、身体能力も高いことが明らかにされている。

寝たきりの実態が過大評価されているところがあり、介護保険ビジネスの伸び悩みはそれを裏付けるものである。わが国の地域高齢者の健康度が高いのは事実でその要因を解明していくのが今後の課題である。

わが国の高齢化社会の問題点は自殺が年々増加していることであり、その背景にある鬱への対策が今後大きな課題となる。これまで障害を持った高齢者のサポートが問題とされてきたがこれからは健常な高齢者について議論することも重要となる。

年をとることの悲観的な面ばかり強調されていますが、むしろ年をとることで伸びていく英知というものがあります。障害を持った高齢者に対する医療介護だけでなく、健常な高齢者の問題を考えなくては。 能力を保つためにどうすればいいかという医学的側面に加え、社会にとって必要な人間でありつづけるためには地域社会はどうあればいいかという社会的側面が大事です。医療という枠を越えて地域とかかわっていくにはどうしていけばいいか、私自身の問題です。

家庭血圧測定の際の注意点と逆白衣性高血圧

高血圧に診断、治療には家庭血圧の測定が大事です。その際に知っておいたほうがいい知識を東北大学教授の今井潤先生の文献を参考にまとめてみました。血圧値に一喜一憂しないよう以下の事を覚えておきましょう。

1. 血圧は1心拍ごとに変動するし、わずかな内的外的刺激(腹が立っていること、寒い、痛いなど)により簡単に上昇する。
2. 1度に数回測定すれば一般に最初の血圧値が高く、だんだん低くなる。どの値をとるかは諸説あり、すべて記録しておく。計時的変化を見るには1回目に統一しておく。
3. 測定開始の最初の数日はその後の血圧より高い。
4. 一般に朝寝床から起きて動き出した直後の血圧は夜の血圧にくらべ高い。起き上がらず寝床の中でぼんやりしている状態で測った血圧は基礎血圧といい、この血圧が高い場合は注意。
5. 冬季には夏季に較べ血圧が上昇する。

病院でお医者さんや看護婦さんに測定してもらうと緊張して血圧が上がるのを「白衣性高血圧」といいます。逆に家庭内で自己測定時に神経質になって高い血圧値がでると下がるまで何度も測定を続ける人がおり、病院で測るほうが安心して低くなる人もいます。そういう人を「逆白衣性高血圧」といいます。

血圧に神経質になって自分で高血圧を作り出さないようにしましょうね。