嗅覚は最も原始的な感覚であり、匂いの記憶は強烈に過去を喚起する、ということになっている。僕の場合、その匂いは甘ったるい香水である。最近ではめったに出会わないが、時々ふと誰かとすれ違った時にあまり高級でない、すごい甘い香りがする時があり、その時一瞬気を失ったように過去に戻る。
それは心斎橋の百貨店、大丸である。今でもあるか知らないが昔大丸の1階は化粧品売り場であり、中2階があっていろいろな小物が陳列してあった。大理石の非常にクラッシックな階段。照明もオレンジに淡く僕は小さな子供の時、母親の買い物を待ちながら弟と階段を走り回っていたのである。おそらくその化粧品売り場の匂いではないかと思う。その匂いは幸福であった子供の時に帰らせる。ああ、何でこんなふうになっちゃんだろう・・・
アメリカではこの種の香りによく会う。おばあさんでも大量に香水を使っているが、そんな人から香るなにか古風な、50年代という匂い。
今日夜診が終わって本部に帰ってきたとき、アロマセラピーが終わったところで廊下にいい匂いが立ち込めていて、匂いの記憶を思い出した。後何10年かしたら、アロマオイルの匂いをかいだ時、僕の今の時代を限りなく懐かしく思うのかもしれない。