好きなものがあるとランクをつけたくなる。昔から「無人島に持っていくレコード10枚」とか「10冊」とかのアンケートがあるが、自分でも時々考えてみたものだ。
好きな作家の部門で最近急上昇中なのが山田詠美氏です。彼女の「僕は勉強ができない」「放課後のキーノート」という、高校生を主人公にした2冊はすごくすごく好きで大切にしていた(若い人が主人公の本は、なぜか大切にしようという気になる)。郷愁なんかでは無論ない。僕の高校時代とは違いすぎる。カッコよすぎる。つまりは主人公が好きなのである。憧れてしまう。そして彼らがどんな大人になるか、未来を含めて大きく展望が開けてる感が気分がいいんだろう。
で、実はそれ以外はあんまり読んでなかった。山田詠美といえばなんとなく男女間のセクシュアルなどうのこうの、というイメージがうっとおしかったのね。しかし実は彼女の作品はもっと幅広く深いというのをやっと最近知ったのである。
「無銭優雅」という小説。4年ほど前の書き下ろし。40代男女の恋愛話。帯に「心中する前の日の心持ちで、付き合っていかないか?」と書いてあります。 おおっ。 「恋は中央線でしろ!」ふーん。中央線のイメージは関東じゃないからわかりませんが、言いたい感じは判ります。で、この本、シリアスじゃなく実に軽やかです。実にいい感じ。そして気が付いたのが、帯もそうですが名文句満載、アフォリズムの宝庫であるということ。ぱらっと本を開いてみただけでもだなー・・・
「だって慈雨ちゃんて、よくぼんやり考え事してるでしょう?考え事の似合う人って、恋に合ってるような気がするの。あ、ただし、しっかり考える人じゃなくて、ぼんやり考える人ね」
ここで断言する。恋を進展させるのは、物理的条件である。・・・(院長より注釈。遠距離は難しく会う機会が多い方がいいってことだ)
「二人とも年を取り損ねている感じがした。ちょっと、羨ましかった。この年齢で、現実に噛み付かれていないたたずまい保つのって、技がいるものね」・・・(院長注釈。Reality bitesという言葉があります。きびしい現実にやられるってことですね)
などなど。おおっ思う言葉、よくこんなに深く感じられるなというセリフが一杯でござる。彼女はこういったセリフをかなり意識して小説にいれているようだ。行為もそう。主人公の姪に、二人の名前を相合傘で書いてあるのを見つけられるというシーンがあります。相合傘だぜ、おいっ!まだ生きていたのかー。うーん。暴走してます・・・
で、ほんとに素敵なラブストーリーでした。悩める中年の(じゃなくても)男女にはこの本をお勧めする。Strongly recommended ! ですね。