カテゴリー別アーカイブ: 医学

流行りもの

 急に寒くなった。オープンもおしまいやー。外来でも風邪ひきの方がすごく増えてきた。

 とりあえず今の流行りものは「吐き下し」である。ノロウイルスやロタウイルスが有名だがいろいろなタイプのウイルスがこのお腹の風邪の原因となる。本当に突然気分が悪くなる。吐く。その後、水のような下痢。発熱は少し、というのが典型的だが、下痢にならない人や、嘔吐はわずかで下痢がとってもしつこい人などバリエーションがある。

 便に排泄されるウイルスが手について、それがいろいろな場所について、そのウイルスをまた手につけた人が口から感染して、という経路をたどる。一度体内に入ったウイルスの増殖は早く、基本的に自分の免疫力しか頼りにならない(タミフルはこのインフルエンザウイルスの増殖を押さえる。一般的なウイルスの増殖を抑える薬はない)。唯一の予防法は手についたウイルスを出来るだけ早く洗い流すこと。流水でウイルスは洗い流せる。1日に5回以上手を洗う人は風邪になりにくいというデータがある。しかしできるだけきちんと洗うこと。2秒だけ手を水を触れさせる、みたいな洗い方はだめ。

 こんだけ多いと絶対うつるな、と思っていたが、かるーく下痢っぽくなっただけで治まってしまった。僕の体の中にはものすごい数の抗体が出来ているのだろう。ここ20年以上風邪で寝込んだことはない(ずる休みはあるぞ)。ナイーブで傷つきやすいのにそう思われない理由である(と思ってんだけど。違う?)。

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インフルエンザワクチンはうってね

 

認知症にならないために

 城東区民ホールで講演会が今日ありました。医師会と保健センター共催で、健康に関する講演会を年に1度、ゲストをお呼びして今年で4回目になります。第1回 認知症とは?、第2回 パワーリハビリテーション、第3回 メタボリックシンドロームと、なかなかトレンディな話題を選んでいるせいでいつも400名くらい聴衆が集まります。僕は医師会の中で担当となっているのですが、もう4回か、早いものであるという若干の感慨を覚えました。

 今回は日本福祉大学教授、京都大学名誉教授の久保田競先生で、「認知症にならないために」というこれまた興味深い講演をセッティングできました。先生の著書である「バカはなおせる」を僕は提案したのですが残念ながら会議でみなさんに穏便に却下されました。

 先生は40代後半からジョギングを始められ、今日もスーツにジョギングシューズと70代に見えないファッションです。2ヶ月前に発表されたばかりの論文など新しい知見を交えて1時間お話をしていただきました。呆けのポイントである前頭前野を鍛えるには歩くか走ること、最低1日15分。野菜を食べ緑茶を飲み、快感と感じることをどんどんすれば認知症にはなりません、というのが非常に乱暴なサマリーです。簡単です。よかったですねー。

 講演のあと、数人のご高齢のおば様たちが「お久しぶりですー」とか仰りながら先生を囲みました。患者さんのご家族だろうか、追っかけみたいだなー、やはり実力がある人は違うね、と感心して見ていたのですが、ひとしきりご歓談の後先生が来て仰ることには「いやー、高校の同級生だよ。僕のポスターがはってあるのを見て友達を誘ってきてくれたんだ」とのことでした。いやー、話は聞いてみないとわかりませんね。

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お疲れ様でした

 

 

見かけによらず

 医学書は大概の教科書と同じく退屈です。眠れない夜は少しのアルコールと快適なベッドと医学書さえあれば10分もたず清らかな夢の世界へ・・・んー、なんでかなー。もう少し面白く書かんかい!と思ってる方も多かったのか最近読んで楽しい医学書がぼちぼち出てきました。

 「日常診療のよろずお助けQ&A 100」・・・なんてタイトル、なんて装丁でしょう。最悪です。しかし内容は素晴らしい。2人の救急の先生と1人の僻地の診療所の先生が書かれているのですが(やっぱり偉そうな先生はこんな楽しい本は書かんな)、本当に訊きたい、だけどあまり本には載っていないいけてる内容が、最新の文献を駆使しながらもユーモアたっぷりに書かれています。いい本です。こんな本を書きたいなー。

 難しいことを難しく話すのは簡単。簡単なことを難しく話す人も多いのですが、難しいことを簡単に伝えることが一番能力が要るし大切なことです。そうなりたいもんだと思ったのがひとつ。もうひとつは僕が好きなティム・ハーディンが歌っていた曲のタイトル、You can’t judge books by the cover 本の内容はカバーじゃわからないよ、人は見かけじゃないよってことを考えました。

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しかしダサいです。

フィジカル

 この前機会があって、プロゴルファーを目指す若者たちの練習を見た。非常に真剣でありハングリーである。10名以上いるこの中でひとりもなれないかもしれない。

 だけどその中で印象的だったのは、彼らがとても明るいことだった。勿論若いからだけど、中学生がじゃれあっているような、邪気の無い振る舞い。思うことはフィジカルに自信のあるやつらはたいがい明るいということだ。

 なんでだ?身体能力があるというのは絶対自信が付くからな。そういった明るさとともに、運動によりベータエンドルフィンといった脳内の快楽物質が常に出ているせいに違いない。

 久保田競先生の「バカはなおせる」でも、身体を動かすことはもっともボケを防ぐ上で有力な方法だと力説されていた。先生自身もスーツであろうが必ずスニーカーを履かれていて、常日頃から颯爽と歩くことを意識されている。

 身体にトラブルがあっても、それで活動を休止してしまわないで動かし続ける、その努力を怠らないことがもっとも大切なのだ。

 身体を鍛えることに時間と労力を割くことは、実は一番効率的な幸福への道だったりして。いろいろな意味で。

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明るいことは美しいな、やっぱり

ラップと偏見

 昨日は勉強のため「ラップ療法の実際」というDVDを見た。今まで傷の治療は①消毒②ガーゼというのが一般的だったのだが、実はこの2つは治りにくくさせていた可能性がある。傷があると浸出液が出てくるが、この中に創傷治癒に大事な成分が含まれており、消毒とガーゼはそれを損なう。水道水(!)でできるだけ洗って後はラップを貼っているだけで湿潤環境が保持され治癒機転が促進されるという「ラップ療法」は、最近の医学領域における目からうろこの新説である。

 このような説は権威が言うと認められやすい。「ラップ療法」は学問的裏づけもあり非常に説得力があるのだが、食品用ラップというあまりにも一般的な素材を使っているということと、学会とは少し離れたプライマリケアを実地に行っている医師からの提言ということで、褥創にも非常に簡単で有益という素晴らしいエビデンスも集積しつつあるのに厚労省や学会は反応を示していない(薬品会社の関係とかいろいろ複雑なことがあるに違いない)。実際に困っている臨床医からはすばやく反応があったのだが。

 今は全く一般的な経食道エコー法というのがある。これも20年以上前に学会で発表している先生がいた。個人病院の先生だった。有用性は判っているのだがはかばかしい反応が得られない。「何でこんないい検査なのにわかってもらえないのかぁ」と発表の席上で本当に無念の表情で思わずもらしてしまったその発言を今でも覚えている。その後大学が取り上げ始め、その先生の名前は消えてしまった。

 本当にいいものを曇りなく見極めるのは難しい。素晴らしい発明だというものも、元をたどればもっと前に考えている人がいて、どういうわけか彼は認められず、ある人は賛辞を受ける。早すぎた?そういうのもあるかもしれない、しかし人間が権威とか肩書きに左右されやすいというのも大きな要素だ。あなたはパッケージにとらわれず純粋に中身を評価できる?

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こいつ

知識は人を救う

 昨日はある障害者施設でスタッフ対象の講義をしました。主たるテーマはエイズの感染予防について。利用者の1人がHIV陽性(エイズ感染者、発症はしていない)で、多くの施設で利用が断られているためその施設で引き受けようとしたところ、スタッフの半数が反対しているので安全性について勉強したいということでした。

 エイズはあなたたちに関係の無い病気ではありません。それどころかかなり一般的な病気となりつつあり、東京とか大阪では、リスクの高い年齢層(10代から40代)だと150人に1人がHIV陽性と考えられています。僕も2年ほど前、非典型的な間質性肺炎の患者さん(カリニ肺炎だった)を病院に送ったところエイズが判明し2週間ほどで亡くなられた経験があります。

 エイズウイルス自体の感染性は弱く、血液が入らない限り他の体液で感染する可能性は非常に少ない。e抗原陽性のB型肝炎キャリアーのほうがはるかに感染性は強く、そのB型肝炎キャリアーが10名いる800人が一緒に過ごす施設で10年にわたって観察された結果、1名の発症もなかったという報告がある。それから考えると普通の係わり合いをしてる限りHIV陽性の方から感染する可能性はとても少ない。血液がどこかについても手袋をしてハイターで清拭、その後30分ほどおいて水洗いするとまず問題ない・・・等など話しました。しかし質疑応答では不安感は消えない、理屈はわかったけど実際はねぇーという印象でした。

 正体のはっきりしないものに接する事は恐怖がある。B型肝炎キャリアーは受け入れているのにエイズだと不安になるのは、実は意外なところから感染するのだとかいう新しい事実が判明する可能性があるからでしょう。それは否定できない。医学的な知識が必ずしもあるわけではないから、というのもあるでしょう。反対される方の気持ちは十分判ります。しかし、現時点で感染の可能性は極めて少ないということがはっきりしているのに受け入れないのは福祉に携わる人間の精神として問題がある気がします。

 もっと事実を知ること。アメリカでは受け入れるのが普通ですが、今まででそのような施設で発症者がどれくらいあったのか、そのようなデータは調べた限りではわかりませんでした。そのような知識を深めること、それが患者さんを救うことになる。僕たちの施設でも同じような問題は必ず出てきます。勉強を急がなくてはならない。そう思いました。

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エイズウィルス

崖っぷち!

 休みは僕にとって運動dayです。ゴルフ(僕は以前はカートに乗らず歩いてました。怪我をしてから割りと乗ってますが最近また歩くことが増えてきた。やる気でやればゴルフはかなりハードです)に行くか、少なくとも練習場に行くかまたは犬と結構歩くか、筋トレらしきものをするか、いずれにしろweekdayよりはるかに身体を動かしているので気分よろしい。

 これはここ10年くらいからで、少なくとも30代の頃より健康的な生活をしています。医者が不健康でどないすんねん、という気持ちもありますが、ここら辺の年になってくると、何もしないと確実に体力、筋力は落ちてきます。明白な事実。特に痛いとこもないと人間はしんどいことはいやですから楽に楽にいこうとしますがNo Pain, No Gainは原則です。進化は必ず痛みを伴う。楽にいけるのは進化でなく変化です。それも悪いほうへ。

 日常、ちょっとしたことでも身体を動かしましょう。リモコンは止める。そしてメインテナンスを心がける。自分でストレッチ、マッサージはとても大切で、特殊な人がやることでなく万人がやるべきことのように思います。特に40歳を過ぎてからは。

 目に付くところに「崖っぷち!」と書いた掛け軸を飾って日々鍛錬するように(スラムダンクか)。心からの忠告です。

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何で急にこんなこと言うてんの?危機感は突然意識される。

感情の処方箋

 「アエラ」を読んでいると興味深い記事があった。『「病は気から」は本当だ-科学的に徹底検証』で、ジョージカプラン(これは確か生存曲線で有名な人だ)の古いデータから、自分が健康だと感じている主観的健康感も持たない人は持つ人と比べて10年間で3.6倍死亡率が高かった、というのを紹介。他の疫学調査からも主観的健康感のあるなしで大きく生存率が違うということで、結論として身体的健康状態以外にも精神的に健康か、人間関係はうまくいっているか、加齢を前向きにとらえているか、などのファクターが大切としている。

 これは別に画期的な結論ではない。これらのデータも原著に当たってみないと比較している対象が同条件かなどの疑問がないわけではないが、概ねほとんどの医者は結論にうなずくと思われる。「気持ち」が総てではないが、健康に与える影響はおそらく想像以上に大きく、免疫や内分泌に与える客観的な指標の変化も最近はとらえられている。

 感情を病気の予防や治療に積極的に取り入れることはこれから盛んになっていくだろう。笑うと免疫能が上がるということで癌患者さんを寄席に連れて行ったりすることは数年前から話題になっていたが、誰も馬鹿な試みだとは思わない。

 強い感情は人生を破壊することさえある。これをポジティブに使うこと、その方法論が出来ればサプリメントなんか目じゃないくらい効力を発揮するだろう。ただ感情は非常に個人的なもので一律に考えることは難しい。自分自身が主治医になって感情の処方を書くのが近道だ。前回書いた「触媒を捜せ」である。