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記憶違い

 記憶はあいまいだ。確かにそうだったという記憶も、時間が経つにつれ一部は忘れ、一部は混同し、同じ場所同じ時間に居合わせた同士でも、話すと食い違いが起こっていることはよく経験する。

 人間の記憶は他者の意見により変化するということを証明したレポートがある。

 権威ある「サイエンス」誌に掲載された論文の解説によれば、

 数十人の被験者が、5人ずつのグループに分けられ、警察の逮捕の様子を追った現場レポート風の短いドキュメンタリー映像を見せられた。3日後、被験者たちは、ドキュメンタリー映像についての記憶テストを受けた。さらにその4日後、被験者たちはもう一度呼び出され、今度は脳スキャナーにかけられた状態で、映像についてのさまざまな質問を受けた。

 被験者たちは、同じグループで映像を視聴した他の人々の回答を見せられた。ところが、「ライフライン」として提示された回答は、実はどれも間違いであり、しかもその質問は、前回、彼らが自信を持って正しく回答したものだった。驚くべきことに、この偽のフィードバックは被験者の回答を変化させた。ほかの人の意見に従って、事実と異なる回答を行った確率は70%近くにものぼった。

 問題は、彼らの記憶が実際に変化していたかどうかだ(過去の研究において、人は社会に同調するために、間違っているとわかっている回答も行うことが確認されている)。このことを調べるために、研究チームは、被験者をさらにもう一度呼び出し、再び記憶テストを受けさせた。その際に被験者には、前回見せた回答は、実は同じグループで映像を見た人のものではなく、コンピューターでランダムに生成したものだったと告げた。すると、最初のテストと同じ回答に戻るケースも見られた一方、40%あまりの回答は依然として間違ったままだった。これは、前回植えつけられた虚偽の記憶が、被験者の中ではすでに事実となっていたことを示している。

 虚偽の記憶が永続したケースと、「社会への同調」によって一時的に誤った回答をしたケースとで、脳の活動を比較した結果、研究チームは、記憶間違いの神経的要因を突き止めることに成功した。主要な引き金になっているとみられるのは、2つの脳の領域、海馬扁桃体が同時に激しく活性化することだ。

 海馬は長期記憶の形成に関わっていることで知られる領域、扁桃体は脳の感情中枢だ。この2つの領域が同時に活性化すると、正しい記憶と虚偽の記憶は、虚偽の記憶のほうが社会的要素を帯びていた場合、入れ替わってしまうことがある、と研究チームは述べている。このことは、他者によるフィードバックは、われわれの記憶する体験を形づくる強い影響力を持っていることを示している。

 だそうです。「何となくそう言われればそんな気もする・・・」なんてセリフはよく言ってるような気がするなぁ。冤罪とかもこうやって起こるのかなぁと思う。他人の記憶も強く主張すれば変化させることも可能だということで、そう考えれば恐ろしい。脳は視覚もうまく自分でつじつまが合うように調節するので錯覚というのが起こるのだが、記憶もそうなのか。ある脳学者が「脳は騙されやすい」と述べていたが、そういうことね。 

 記憶だけでなく記録はやはり大事である。マメにメモを取ることの重要性はよく判ってる。助かってることも多い。他人の意見に左右されやすい自分の脳力を過信しないように。まあ全然してないけど。

嗅覚を鍛える

 イグノーベル賞ってのがあるけど、これって十分、医学賞の候補じゃなかろうかね。

 大腸がんとおならの関係を研究したのは、歯科医で美白歯科研究会代表を務める山岸一枝氏と、名古屋大大学院工学研究科の八木伸也准教授。山岸氏は、歯周病患者の呼気に独特の臭気が含まれることから、その物質の解明に興味を抱き、成分を採取して分析するため、超微粒子を活用した触媒を研究する八木准教授に声をかけてスタートした。

 歯周病はがん発症と関連があると言われているが、2人はこの「臭気」ががんと何かつながりがあると考えた。そこで、実際にがん患者が発する臭気を採取、分析することにした。

 八木准教授に話を聞くと、「呼気だと不純物が多い」ということもあり、腸内にたまった「純度」の高いガス成分を調べるためおならを分析し、大腸がんとの関連性を調べることにしたという。近年、大腸がん患者は国内で増加している一方、自覚症状がないためがんを発見しにくいというのも、今後研究結果を役立てるうえで大腸がんを選ぶ動機づけになったようだ。

 おならの成分を吸着するため、ナノ粒子を備えた小型の基板キットをつくり、直接おならを吹きかける方法で採取。2005~07年に、22人の大腸がん患者からサンプルを得た。その結果、別途採取した健常者のおなら成分と比較して、腐ったたまねぎのようなにおいがする無色の気体、メタンチオールが10倍以上の高さで検出された。

 八木准教授によると、メタンチオールの量は食べ物によって多少は変化するという。実際にこの時も、健常者に硫黄分を多く含む卵を連日食べてもらったうえでおならを採取、分析した。メタンチオールの数値は上がったものの、わずかだったという。対照的に大腸がん患者の場合は、「極端に多い量のメタンチオールだった」と八木准教授は振り返る。

 この検査結果を元に、山岸氏と八木准教授のチームは、おならに含まれるメタンチオールと大腸がんとの関連性を論文にまとめた。2011年8月11日、論文は消化器系の病気を扱う英国の専門誌「GUT」電子版に掲載。さらには英科学誌「ネイチャー」の関連誌「ネイチャー・レビュー(消化器病学)」10月号でも取り上げられた。

 八木准教授は、ゆくゆくは「おならの検査」で大腸がんの早期発見につなげたいと考える。基板キットは簡単につくることが可能で、検査方法も痛みをともなわず手軽にできる。今後、おなら成分と大腸がんの因果関係がさらに究明されれば、初期症状のがんを発見する有効な手段になるかもしれない。「例えば人間ドックのひとつの項目におならの検査が取り入れられ、異常が見つかれば精密検査を受けるといったキッカケになれば」と、八木准教授は期待を寄せる。J-CASTニュース 10月22日)

 「ネイチャー」ですぜ。すごいですね。是非人間ドックのツールとなってほしいけど、検査の説明をするのは結構楽しそうだ。「今すぐいけますか?」と訊いたりして。キットをもって帰って出そうになったら慌てて捜したりしてね。

 以前犬の嗅覚を利用して癌患者を診断するというのがニュースになったことを思い出した。体内の異物というのは何かしら異臭を発するのか。感覚的にはうなずけるけど。嗅覚は五感の中でももっとも原始的な感覚であり、本来敵の匂いなど危険を察知するセンサーとして使われてきた(何かを察知したというのに、匂うって言葉を使いますね)。鍛えればかなり有用な感覚であろう。

 タバコを吸わなくなってから患者さんを診察して「タバコ吸ってるでしょう」とすぐ判るようになったが、もうワンランク上の嗅覚を獲得しなくてはならんな。どうすればいいでしょう?

そんな匂いますか?

苦痛の減るヨーグルト

 夜寝るとき、プロバイオティックスのカプセルを1つ飲む。簡単に言うと乳酸菌だ。ヘルシーパスの製品で有胞子乳酸菌といい、胃酸に負けないで腸に達して腸内細菌叢を理想的なものに変えてくれる僕のお気に入りである。サプリメント数々あれど一押しで、サプリ何がいい?と尋ねられるとまずこいつをお勧めする。

 いや、飲んでみればわかりますよ。2,3日で〇ンコが全然違うんだもん♪ 僕は前から便秘でもなんでもないが、うむ!と思わずトイレでうなったのである。効いてるなーというのがありありとわかるのです。サプリメントはリピーターが案外少なかったりするのだがこいつはリピーターが多いから、効果を実感している人が多いんだと思う。別に〇ンコが変わるというのが大事なのではなくて、腸内細菌叢の改善は免疫機能を強化し、アレルギーを抑え、抗がん作用を示すのである。それが目に見えるという話。

 で、乳酸菌関連でヨーグルトのこんな報告があった。

 アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークのジャビア・ブラボーが率いる研究チームはまず、普通の実験用マウスに、プロバイオティクスの豊富な餌を与えた。その後、マウスの行動を調べたところ、有意な変化がみられた。

 水中に落とされるなどのストレスの多い条件下にマウスを置いたところ、プロバイオティクスを摂取したマウスは、摂取していないマウスに比べて、不安に関連する行動を示すことが少なく、ストレスホルモンの分泌も少なかったのだ。

 この行動の変化には、ニューロンの活動を抑制する神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が関与している。研究チームがマウスの脳を調べたところ、プロバイオティクスを摂取していた群では、記憶と、感情の制御に関わる領域において、GABA受容体が増えていた(人間に投与される一般的な抗不安薬も、これと同じような効果をもたらす)。

 さらには、対照群のマウスで、腸と脳を結ぶ神経を切断したところ、上記のような変化はみられなかった。つまり、プロバイオティクスの豊富な餌を与えても、マウスのストレス徴候は緩和されなかったという。

 ほかにも、今年に入って、スウェーデンの研究チームが、マウスの脳の発達に腸内細菌の存在が影響していることを明らかにしている。フランスの研究チームも、人間の被験者にプロバイオティクス食品を30日間、多量に摂取させたところ、「心理的苦痛」のレベルが低下したという研究を発表している。

 うーむ。不安、心理的苦痛が減るのかー。いいじゃん。心労の多い私にはぴったりでそれで気に入ってるのかもしれんな。

 乳酸菌、プロバイオティックスは腸内に十分達しないものもあるのでよく調べてから購入くださいね。

100歳の誕生日

 この10月4日は日野原重明先生の100歳の誕生日であった。

 皆さんもご存じのように日野原先生は聖路加国際病院の理事長として現役でお仕事をされており、それ以上に種々のお仕事、講演等大変お忙しく過ごされている。今度抗加齢医学会のゲストスピーカーとして来ていただくのだが、会長がアポイントのお約束をした時、4年先までいっぱいとのことだったそうである(しかし来年の総会には来ていただくことになった)。

 「食事では、30歳のときの体重を維持するために1日1,300キロカロリーまでと決めています。朝食はアップルジュースにティースプーン4杯分のオリーブ油を入れたもの。昼食はクッキー3枚と牛乳。夕食では週2回、脂身のないステーキを食べ、大きな魚は週に5回とっています。それからお皿いっぱいのサラダも。朝食をきちんと食べた方がいいという人もいますが、私の場合は夕食に比重を置いたいまのペースが体に合っているんです。」
(長寿の原則であるカロリーリストリクションを以前からされているわけである)。

 日々の睡眠時間は4時間半、週に1度は徹夜をするという生活だったが、96歳にして徹夜をやめ、睡眠を5時間に増やした(睡眠時間の必要度は個人差が大きい。うまく午睡を取っておられる気がする)。病院ではエレベーターを使わず階段を上り下りする(ニッチな運動は必須である)。

 「それから、新しいことにどんどん挑戦することです。人間には22,000の遺伝子があります。それを目覚ませるには新しいことを始めるのが一番いい。」

 とまあ抗加齢医学の歩く教科書である。朝日新聞の誕生日記念インタビューを読んでいたのだが、驚いたことが一つ。

 「どうすればチャーミングな笑顔がつくれるのか、鏡を見て練習しているの。笑いすぎると目がなくなっちゃうから気をつけないと。それから週1回、エステに通っています。ちゃんと顔のマッサージをしているからシワが全然ないでしょう。おしゃれ心も大切ですよ。今日は紫のネクタイに、ポケチーフをコーディネートしました。女性からも好評ですよ。」

 うーむ。勿論露出の機会が多いからであろうが、100歳にしてこの感覚はやはり只者ではない。当たり前だが自分を見切ってない、こんなもんと思わず、100歳であろうが150歳であろうがちゃんと外見に気を配る男性。

 おみそれいたしました。少しでも近づきたいと思います。

はっはー!

 

This week

10月1日、朝愛犬の散歩に出たら突然秋になっていた。風に夏の湿り気はなく、金木犀の香りが漂っている。今年の夏よ、バイバイ。

 

今週は勉強会が2つ。

木曜日に夜の8時過ぎから10時まで城東区医師会館で「肺がん」の画像を中心とした勉強会。済生会野江病院放射線科部長の大中先生がコメンテーターの形で参加され15人程度が参加。

城東区医師会学術部の主催であり、主として呼吸器専門の先生方がご自分の症例を紹介、意見を交換する。若い先生方が多かったが、その勉強熱心なこと、博識、読みの鋭さに感銘を受ける。

自分の読影の甘さをしみじみ反省。患者さんのマネージメントの仕方も勉強になった。時間が遅いので正直どうしようか迷ったのだが参加してよかったです。

 

土曜日は某製薬会社本社重役会議室(32階ですごい景色、すごい設備!)で関西医大付属枚方病院心臓血管病センター内科、湯浅文雄准教授の講演の座長をする。

「高コレステロール血症患者さんの最前線治療戦略」。大学のデータを中心に有益な面白い話を聞く。

心筋梗塞症例は実際LDL(悪玉コレステロールですね)が高くない例が多い(これは常識に反するデータ)がLDL/HDLは圧倒的に2以上であり、やはりこの比が心血管イベントの予測に有効なのでは、とか、スタチン(高コレステロール血症の薬ね)使用例は予後がよく炎症反応の抑制効果が大きい、特にストロングスタチンは、といった話題の話。LDLは新生児の値である50mg/dlまで下げてもいいのではということであった。

少人数の会で僕自身の疑問点も沢山訊けて満足しました。


こういった会に出ていると、参加される先生方はかなりかぶっているということに気づく。出る人は常に参加し、出ない人は出ない。また別の情報収集の仕方があるのだろう。

会に出るのは人に会うのと一緒で最初はおっくう。でもいざやってみると得ることが多いケースがほとんど。糸井重里氏はこのことを入浴に例えていた。風呂に入るのは最初はおっくうでも湯上がりを後悔したことはないと。

出来る限り出るのが義務と心得ておこう。しかし参加された先生方の名簿を見ると僕より若い先生ばかりで何となくフーンと思う。昔はどんな会でも最年少のことが多かったんだけど最近は圧倒的に最年長。まあ深くは考えまいよ。

昔の人の言うことは(または成功するダイエット)

 昔から健康に関して言われていることはたくさんあるが、これが結構正しい。

 寝る子は育つ・・・寝ると成長ホルモンの分泌が盛んになるからだ。腹八分目・・・これぞ生活習慣病の極意。早起きは3文の得・・・午前中の方が創造的な能力が発揮されやすいというのは脳科学的に証明されている。そのほかいっぱいあるぞ。来年の抗加齢医学会も「故きを温ねて新しきを知る」というか、健康に関する諺の科学的な検証をする企画が設けられている。

 これというのも、昔の人は賢いというか、観察する時間がいっぱいあったからだろうなぁ。エビデンスをひたすらに観察することで得ていた。治療法も少ないし真剣だったんだと思う。

 で今年の欧州糖尿病学会でまた同様の発表があった。よく噛んで食事をすることで、あまり噛まないで飲み込む“早食い”に比べ、食後の血中グルカゴン様ペプチド(GLP-1)値とペプチドYY(PYY)値が上昇することが確認された。奥羽大学薬学部の斉藤美恵子氏らが行った試験で明らかになったもの。

 GLP-1は今話題の小腸から出るインクレチンという、インスリンの分泌を刺激するホルモンの一つ。PYYは視床下部に働きかけて、食欲を抑制することが知られている。この2つが働くことは糖尿病の発症抑制、また治療にきわめて有用と考えられる。

 よく噛むというのは30回、早食いは5回という定義をしていて、GLP-1とPYYの分泌量は大幅に変化した。座長から「おばあさんによく噛めと言われたものだが、どれくらい噛んでいいのかわからなかった。いいヒントを有難う」とコメントをいただいたそうである。

 やっぱりよく噛まなくてはならない。僕は恐るべき早食いで2,3回しか噛んで無いような気がするが、大いに反省する。この前、高槻赤十字病院内科部長の金子至寿佳先生の講演で、インクレチンは野菜を食べるとよく出る、肉類は少ない、という話を聞いた。食事の最初に野菜を食べるようにと。

 そこで秘訣を教えよう。ダイエットを成功させようと思ったら、食事の前に野菜を30回以上噛んで食べることだ。そして満腹が近いと思ったら、その時にやめること。空腹を感じた時にのみ食べること。習慣で食べるのはよくない。ゆっくり食べると少食でもあまり空腹を感じなくなる。

 間違いない。ダイエットは簡単だよ(本当にやる気があればね)。

手を丁寧に洗う

 今日日曜はずーと雨が降った。涼しい。もう夏は終わってしまうのかしらん。まわりでも風邪をひいている人が多いようである。

 という訳でもないが以前買っていた「かぜの科学」を読む。著者はジェニファー・アッカーマンという「ナショナル・ジオグラフィック」なんかに寄稿しているサイエンスライター。原題は「Ah-Choo!? ―The Uncommon Life of Your Common Cold」という気の利いたものである。

 一般的な風邪、common cold というものは医学部ではほとんど講義されない。少なくとも僕の時代ではそうだった。今はどうか知らないが、僕の患者さんの話を聞いてもあまり変わって無いような気がする。なぜなら大学病院の医者は風邪の患者さんが来ても通り一遍の薬しか出さないから。開業して風邪の患者さんがワンサと来てからいろいろ工夫するようになる。

 風邪に対する医学書というのもないなぁ。インフルエンザや肺炎はごまんとあるが、一般的な風邪、ライノウイルスが中心の、1週間以内に完治することの多い風邪というものに対しては、系統だった学問というのはないようです。一般的な医学雑誌でまれに特集されるくらいかな。

 で「かぜの科学」は、サイエンスライターらしい切り口で(実際に風邪薬の治験などにも参加する)、歴史から文献的な紹介までユーモアを交え、退屈させないで読ませてくれる。

 で結論だが、気になる特効薬は残念ながら、ない。予防として有効なのは①手を頻繁に洗う ②顔を触らない、これにつきます。手についたウイルスが(流行っているときは机や本などいたるところにウイルスがいる。それを触って手につく)顔から口に入るので、その経路を断つのが大事。治療として個人的にはかかったかなと思ったら出来るだけ早く(数時間以内に!)NSAIDs(抗炎症剤)を飲んで睡眠時間を長くとると悪化しない感じはあります。この本にも同様のことは書いてあった。

 手を洗うのは大事だなぁ。それも丁寧に洗うこと。石鹸を使い、指の間から爪まで丁寧に時間をかけて洗う。出来れば(公共の場であれば)蛇口も触らない、トイレのドアも肘で開ける、顔を触るのも右利きの人は左を使う方がいいと「かぜの科学」は主張するが、なかなかね。

 手を洗うというのは風邪を意識しているかどうかは別として、人によりかなり個人差があるようだ。ゆっくり手を洗うというのはなかなか上品な習慣のように思える。慌てないで、今までの出来事と自分を振り返りながら丁寧に手を洗う、これはレディの習慣であると書いてあった本を読んだ記憶がある。レディじゃない人も、これからの季節は丁寧に手を洗いましょ。

表紙はなかなか可愛い

 

暑いは気のせい?

 お盆も終わりですが、お昼時の暑さはなかなかのものである。僕は非常に暑さに強くて、クーラーをつけて寝たことがなく(この夏でもだ!せいぜい除湿を1時間ほど)、PCいっぱいでかなり熱がこもる診察室でもクーラーをつけていると調子が悪くなるので時々切る。忍耐強いNナースがふと見ると汗をいっぱいかいているので「暑い?」と訊くと、ささやくような声で「暑いです…」と言ったので非常に反省した。

 しかし「心頭滅却すれば火もまた涼し」という諺もある。実は先ごろ『European Journal of Applied Physiology』誌にそれを実証するような結果が発表されていた。この研究では、男性の自転車競技選手7名に固定した自転車を用いて30分のタイム・トライアルを行わせた。このとき研究結果を大きく左右したのは、テスト環境の実際の温度ではなく、被験者に見えるように表示されていた温度だったというのだ。

 3つの試験が行われた。まずは室温を摂氏約21.8度に設定した試験。2つめの「暑熱」試験では室温を約31.4度に設定。そして最後の「虚偽」試験では、表示室温は26.0度だったが、実際の室温は約31.6度と、3つの試験中で最も高温に設定された。

 試験はランダムに実施され、7名の被験者は全員、3つの試験をすべて受けた。その結果、約21.8度での成績は平均約16.63kmで、暑熱試験の成績(同約15.88km)を上回った。しかし虚偽試験は、他の2つよりもさらによい成績(同約16.74km)を記録した。

 また、被験者がこれらの自転車運動で発揮した平均パワーも、虚偽試験(184.4ワット)が暑熱試験(168.1ワット)を上回った。約21.8度での試験と虚偽試験は、実施時の室温が後者は10度近く高かったにもかかわらず、発揮されたパワーに大きな差はなかった。

 過酷な条件下であっても、温度の表示といった視覚的な刺激だけで運動パフォーマンスに直接的な影響を与える可能性があるということが示されたのである。

 なかなか興味深い。プラセボ効果という、実際に効果がない薬物でも効果があると信じていればそれなりに有意の効果を示すという現象は医者ならだれでも知っている。言い換えてみれば、心理的な作用は十分身体的パフォーマンスに影響を与えるということであり、この実験もそれを証明したということだ。

 「暑い、暑いっていうな!」と怒る人がときどきいるが、暑いという言葉を聞いているともっと暑くなってくるからだろう。「いやー、いいお気温で」と言ってる方がいいな。やせ我慢も意味がある。まっ、僕は単に鈍いだけだけどね。

 でも診察室はちゃんとクーラーをつけていることにする。みんなのためね。

水分摂取と脳梗塞

 高齢の患者さんが何よりも恐れているものの一つに脳梗塞がある。その予防としてジャンジャン水分を取りなさいとテレビで言ってたとかで、皆さん夜目を覚ましたら、習慣のように1杯水を飲むと言われるのですが、これは科学的に実証されているのであろうか?昔読んだアメリカの雑誌では否定されてたような気がするのだが、しかし有効なような気もするし…

 

 この疑問に名古屋大学大学院泌尿器科学教授、後藤百万先生が答えている(日本医事新報2011年3月19日号)。

 脱水により血液の粘度が上昇し脳梗塞や心筋梗塞のリスクが増すことは報告されている。しかし!

 脱水の無い正常人で水分多量摂取が血液の粘度を低下させるかどうか検討した研究では影響がなかったと報告されている。別のデータでは、1週間の水分過量摂取後、排尿回数は増加したが有意の粘度の低下はなかった。これは心血管疾患のリスクを有する患者さんでも同様であった。

 この問題に対する論文は結構多く、関連661論文の中適切な22論文のシステマティックレビューでは、脱水は確かにリスクを増加させるが、水分の多量摂取によって脳梗塞の発症率を低下させたという論文は一つもないということだそうである。

 

 早朝には神経内分泌系の働きで血液粘度が若干上昇するといわれる。この予防として頑張って夜水を飲んでも尿として排出され、血液粘度の低下は一過性のごくわずかであってあまり脳梗塞の予防にはなり得ないというのが結論だな。もちろんこれは正常な状態の人であって、暑くて異常に発汗しているとか脱水の時は別である。口渇を覚えているときはちゃんと水分を取った方がいい。

 日々の生活でノドも乾いていないのに無理して水を飲むことはない。むしろ非常に多い悩みに夜間の多尿があって、睡眠不足になっておられる場合さえある。よく訊くと、意識して水分を取っておられる方が多いのである。夕刻以降はあまり飲まないでもOK(水分量は1日のトータルが問題という文献もあった)とお話しすると、夜の排尿回数が減って楽になったという方もおられたのであった。

 ということで、普通に生活している方の場合は意識して水分を取らなくていいということになる。

 ちょっと気になるのは、ご高齢の方は知らない間に脱水傾向になっていることが多い(口渇中枢の働きが弱くあまり喉が乾かない)ので、年齢により結論が異なる気もする。すくなくともちゃんと自立して日常生活を送られている方の場合はあまり水分摂取を意識しなくていい。それより禁煙や体重コントロール、規則正しい運動の方が大事というのが妥当なところかな。

アルコールよりは水の方がいいと思う。

 

男性ホルモンが足りないよ

 うーん。僕はクリニックで男性外来をやっている。中年男性に多い、いわゆる男性更年期(明らかな病気じゃないけど何となくしんどい、やる気が出ない、気が晴れない、EDとか)が対象である。普通の検査では調べない男性ホルモンや成長ホルモン、副腎皮質ホルモンなどを検査し、異常があればプロラクチンや下垂体ホルモンのFSH,RHなど、それに関連したホルモンを調べて原因を考える。

 男性ホルモンの低下が脳腫瘍など器質的なものや鬱病が原因でなければ、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)として男性ホルモンを増加させる治療を行う。

 大体対象年齢は40歳以降と考えているのだが、最近若い男性が多いのだ。20代後半から30代前半。ピッチピチの年代じゃないか!?しかも彼らは本当にその年代として男性ホルモンが少ないのである。おじいちゃん並み。

 特徴がある。①見るからに草食系 ②IT関係 ③女性に興味がないわけではないが熱心ではない ④趣味もあるが文化系で基本的に体を動かすのに積極的でない ⑤バーチャルはOK なんてとこかな。人間的には信頼のおける感じが多い。 しかし。

 日本男性の精子数は減少しているという報告があるが(異論もある)、こういう患者さんが増えていることを考えるとそうかもしれないと思う。環境ホルモンが原因という説もあるが、ITへの嗜好と関係があるような。女性でプログラマーとかすごく少ないし。直接的な感情の衝突と縁遠くなると男性ホルモンは少なくなる気がします。勿論そうでない方もいっぱいおられるのですが。

 いずれにしろ少しでも治療の効果があるととても嬉しそうな表情をされ、僕も本当に嬉しくなる。この仕事をしてよかったと思う。そして男って弱いなぁーと思う。感情のぶつかりを恐れるな!筋力つけて肉弾戦で行け!体温が直接わかってこそ社会で生きていく意味がある。頑張ろう、ニッポン。頑張ろう、日本の男たち。

 

象にもまけず。