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プチ変装

 眼鏡がない。いつもと同じところに置いたんだけどなぁー、無い。朝、時間もないし、もうかけなくなった古い奴を出してきて鏡の前で確認。うん?なんだか誠実そうな感じがするぞ・・・(本当にそう思ったのである。中身がそうだとは言ってない)。デザインがダサいとおしゃれを自認するおばさんに言われたこともあったから何となくかけなくなったのだが、悪くないじゃないか。むしろ仕事にはこの方がいいかも。

 お昼にスタッフにそう感じたという話をすると、「うーん(誠実には疑問符だな!)、優しそうな感じがしますね」ということで、仕事中はこいつでいくことにした。「じゃあ仮面メガネですね」「それは真実を隠しているということかな?君の言いたいのは?」

 接客業の方なんかは、そして女性は状況により眼鏡をかけ替えるというのは当たり前のことかもしれないな。勝負メガネとか。でも僕はしたことがない。遊びと仕事で眼鏡を変える友人はいたな。しかしそんな単純じゃなくもっと細かいシチュエーションによってかけ替えるのは面白いぞ。

 以前眼鏡を選んでいた時、かけるとすっごく薄情に見える眼鏡があった。すごいのである。ビジネスのみ、何の温かみもないという印象を与えるこのメガネは面白くて思わず購入しようとしたのだが周りの反対にあい止めた。こいつはタフな交渉の場(いろいろあるじゃないか、公私ともに)にかけていく。冗談も言わない。極力言葉少なく。髪型なんかもポマードでこってりなんていうのがいいかな。

 かけるともっさりと世間知らずの田舎者に見える奴は持ってるぞ。こいつはちょっとした講演なんかの時にいいかも。ダサい服。髪も寝癖のまま。発音不明瞭。意味なく突然笑う。マッド・サイエンティスト。

 変装である。プチ整形ならぬプチ変装。ある美容整形外科医が、整形は形を変えるのではなくその人の気持ち、自信を変えるのだと言っていた。だから必ずしも手術が必要とは限らないと。眼鏡は性格も変えそうだ。バラエティも多いしいいぞ。

 とりあえず種類がいるな。似合う眼鏡をたくさん持つのじゃなく、印象を変えるのが目的。最近は安く手に入るし。まずは薄情タイプ。こいつを何とかしたい。

これはアカンな。

記憶違い

 記憶はあいまいだ。確かにそうだったという記憶も、時間が経つにつれ一部は忘れ、一部は混同し、同じ場所同じ時間に居合わせた同士でも、話すと食い違いが起こっていることはよく経験する。

 人間の記憶は他者の意見により変化するということを証明したレポートがある。

 権威ある「サイエンス」誌に掲載された論文の解説によれば、

 数十人の被験者が、5人ずつのグループに分けられ、警察の逮捕の様子を追った現場レポート風の短いドキュメンタリー映像を見せられた。3日後、被験者たちは、ドキュメンタリー映像についての記憶テストを受けた。さらにその4日後、被験者たちはもう一度呼び出され、今度は脳スキャナーにかけられた状態で、映像についてのさまざまな質問を受けた。

 被験者たちは、同じグループで映像を視聴した他の人々の回答を見せられた。ところが、「ライフライン」として提示された回答は、実はどれも間違いであり、しかもその質問は、前回、彼らが自信を持って正しく回答したものだった。驚くべきことに、この偽のフィードバックは被験者の回答を変化させた。ほかの人の意見に従って、事実と異なる回答を行った確率は70%近くにものぼった。

 問題は、彼らの記憶が実際に変化していたかどうかだ(過去の研究において、人は社会に同調するために、間違っているとわかっている回答も行うことが確認されている)。このことを調べるために、研究チームは、被験者をさらにもう一度呼び出し、再び記憶テストを受けさせた。その際に被験者には、前回見せた回答は、実は同じグループで映像を見た人のものではなく、コンピューターでランダムに生成したものだったと告げた。すると、最初のテストと同じ回答に戻るケースも見られた一方、40%あまりの回答は依然として間違ったままだった。これは、前回植えつけられた虚偽の記憶が、被験者の中ではすでに事実となっていたことを示している。

 虚偽の記憶が永続したケースと、「社会への同調」によって一時的に誤った回答をしたケースとで、脳の活動を比較した結果、研究チームは、記憶間違いの神経的要因を突き止めることに成功した。主要な引き金になっているとみられるのは、2つの脳の領域、海馬扁桃体が同時に激しく活性化することだ。

 海馬は長期記憶の形成に関わっていることで知られる領域、扁桃体は脳の感情中枢だ。この2つの領域が同時に活性化すると、正しい記憶と虚偽の記憶は、虚偽の記憶のほうが社会的要素を帯びていた場合、入れ替わってしまうことがある、と研究チームは述べている。このことは、他者によるフィードバックは、われわれの記憶する体験を形づくる強い影響力を持っていることを示している。

 だそうです。「何となくそう言われればそんな気もする・・・」なんてセリフはよく言ってるような気がするなぁ。冤罪とかもこうやって起こるのかなぁと思う。他人の記憶も強く主張すれば変化させることも可能だということで、そう考えれば恐ろしい。脳は視覚もうまく自分でつじつまが合うように調節するので錯覚というのが起こるのだが、記憶もそうなのか。ある脳学者が「脳は騙されやすい」と述べていたが、そういうことね。 

 記憶だけでなく記録はやはり大事である。マメにメモを取ることの重要性はよく判ってる。助かってることも多い。他人の意見に左右されやすい自分の脳力を過信しないように。まあ全然してないけど。

メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか

 イカしたタイトルだ。「メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか」、こりゃどういう意味だ?

 以前本屋さんで見て興味をひかれたが購入までには至らず、今回著者の明川哲也氏が「叫ぶ詩人の会」のロックボーカリストで詩人のドリアン助川氏というのに気がついて読もうと思った。彼はラジオのDJを以前やっていて、その記事を読んだことがあった。中高校生を個人的にも社会的にも鼓舞するようなDJで興味をひかれた。

 で、これは傑作ですぜ。文庫本で630ページのボリュームですが、なんやかんやしながら1週間ほどで読了。

 人生に絶望した男が不思議なネズミに導かれて「憂鬱の砂嵐」を追い払う4つの宝を探しにメキシコへ向かう冒険譚(といっていいのかな)。ファンタジーの形式ですが自殺と食事の関係やメキシコの歴史など非常に興味深く勉強になる話がいっぱい出てくる。インゲン豆の消費国は自殺が少ない、というのは因果関係の裏付けはともかく興味深い。著者は食事の重要性についてあるスタンスをもっているようだ。

 世界の中で自殺率が高いのはラトビア、ウクライナといった寒く経済的に恵まれない小国であるが、なぜこの温暖で恵まれた日本に多いのか?特に若者、女性の自殺率は世界でもワースト1に近い。韓国も急追している。中国、北朝鮮はデータに信憑性がなくリストアップされていない(世界保健機構のデータ)、といった話が出てくる。

 メキシコは非常に不幸な侵略されるだけされた歴史を持っており(国民の80%が混血だそうである)、今だに恵まれない政治経済状況であるが、自殺率は極端に少なくハゲも少ない。

 4つの宝が著者の提示するその答えであるが、皆さん読んでみてください。

 イメージがすごくカラフルで奇想天外、しかしなかなかに深い話です。1年後に読み返してみようと思った。

助川氏の昔の勇姿です。

 

守れ!絶滅危惧種

 クリニックの近くにイカ焼きの名店がある。「シスター」という。おじいさんがやっている。名前の由来は知らない。

 たこ焼きとかと違って、いか焼きのスタンダードといえるものが皆さんの頭に思い浮かぶか想像もつかないが、僕にとっていか焼きのスタンダードはシスターなのである。うまい、モチモチ、でかい!他のイカ焼きを食っても(まあそういう機会はあまりないですが)ほとんどお話にならないのであった。店の間口は小さく、場所を説明してもほとんどの人は行きつけない(写真参照)。はいれば中も正直、工場のようである。が、しかしそこもまたよし。僕の中のB級の王者であった。

 そこの息子さん(時々手伝っているのを見かけた。40代)が診断書を書いてほしいと来られた。

 「就職するのよ」「えっ、店つがないの?」「ありゃ親父でなきゃ無理よ。名人芸。とても僕にはできないから。もう親父も80だからねー。今年中かなー、店閉めるよ」

 大ショックである。もうあのイカ焼きは一生食べれないのか。いっそお昼休みに僕が習いに行ってなんとか技術の習得は無理か?うちのスタッフを行かすか?うーむ。

 その話を友人にする。すると彼女もお願いしていたクリーニング屋さんが閉店するので出すところがなくなって困っていると同じようなことを言う。

 「ご主人が名人芸なのよ。ドライにしなくちゃダメなところでも水洗いで本当に丁寧にするの。シミなんかも本当にきれいに取るし。この芸は伝えなくっちゃとうちの主人も言ったんだけどめんどくさいって」。そのうちご主人は脳梗塞をおこされて仕事ができなくなってしまったのだ。

 「こういう日常生活の名人芸ってどんどんなくなるよな」「ほんとうにそうよ」「これってさ、天然記念物みたいにその地区で保護しなくちゃいけないんじゃない?何とか芸を伝えるため補助する」「へんな町興しよりいいわね」「そうだよー、絶滅危惧種を守れ!芸を継続させよ!これは地域にとって必要だ!」

どうよ!

 

嗅覚を鍛える

 イグノーベル賞ってのがあるけど、これって十分、医学賞の候補じゃなかろうかね。

 大腸がんとおならの関係を研究したのは、歯科医で美白歯科研究会代表を務める山岸一枝氏と、名古屋大大学院工学研究科の八木伸也准教授。山岸氏は、歯周病患者の呼気に独特の臭気が含まれることから、その物質の解明に興味を抱き、成分を採取して分析するため、超微粒子を活用した触媒を研究する八木准教授に声をかけてスタートした。

 歯周病はがん発症と関連があると言われているが、2人はこの「臭気」ががんと何かつながりがあると考えた。そこで、実際にがん患者が発する臭気を採取、分析することにした。

 八木准教授に話を聞くと、「呼気だと不純物が多い」ということもあり、腸内にたまった「純度」の高いガス成分を調べるためおならを分析し、大腸がんとの関連性を調べることにしたという。近年、大腸がん患者は国内で増加している一方、自覚症状がないためがんを発見しにくいというのも、今後研究結果を役立てるうえで大腸がんを選ぶ動機づけになったようだ。

 おならの成分を吸着するため、ナノ粒子を備えた小型の基板キットをつくり、直接おならを吹きかける方法で採取。2005~07年に、22人の大腸がん患者からサンプルを得た。その結果、別途採取した健常者のおなら成分と比較して、腐ったたまねぎのようなにおいがする無色の気体、メタンチオールが10倍以上の高さで検出された。

 八木准教授によると、メタンチオールの量は食べ物によって多少は変化するという。実際にこの時も、健常者に硫黄分を多く含む卵を連日食べてもらったうえでおならを採取、分析した。メタンチオールの数値は上がったものの、わずかだったという。対照的に大腸がん患者の場合は、「極端に多い量のメタンチオールだった」と八木准教授は振り返る。

 この検査結果を元に、山岸氏と八木准教授のチームは、おならに含まれるメタンチオールと大腸がんとの関連性を論文にまとめた。2011年8月11日、論文は消化器系の病気を扱う英国の専門誌「GUT」電子版に掲載。さらには英科学誌「ネイチャー」の関連誌「ネイチャー・レビュー(消化器病学)」10月号でも取り上げられた。

 八木准教授は、ゆくゆくは「おならの検査」で大腸がんの早期発見につなげたいと考える。基板キットは簡単につくることが可能で、検査方法も痛みをともなわず手軽にできる。今後、おなら成分と大腸がんの因果関係がさらに究明されれば、初期症状のがんを発見する有効な手段になるかもしれない。「例えば人間ドックのひとつの項目におならの検査が取り入れられ、異常が見つかれば精密検査を受けるといったキッカケになれば」と、八木准教授は期待を寄せる。J-CASTニュース 10月22日)

 「ネイチャー」ですぜ。すごいですね。是非人間ドックのツールとなってほしいけど、検査の説明をするのは結構楽しそうだ。「今すぐいけますか?」と訊いたりして。キットをもって帰って出そうになったら慌てて捜したりしてね。

 以前犬の嗅覚を利用して癌患者を診断するというのがニュースになったことを思い出した。体内の異物というのは何かしら異臭を発するのか。感覚的にはうなずけるけど。嗅覚は五感の中でももっとも原始的な感覚であり、本来敵の匂いなど危険を察知するセンサーとして使われてきた(何かを察知したというのに、匂うって言葉を使いますね)。鍛えればかなり有用な感覚であろう。

 タバコを吸わなくなってから患者さんを診察して「タバコ吸ってるでしょう」とすぐ判るようになったが、もうワンランク上の嗅覚を獲得しなくてはならんな。どうすればいいでしょう?

そんな匂いますか?

あっと驚くコーチングセミナー

今日は日曜日だったが当院で念願のコーチングのセミナーを開催した。

講師は木村純子コーチである。カリスマです。午前10時から3時間、うちのスタッフを対象にNLPの講義、引き続いて午後1時から3時間、外部からの聴講者含めて42人を対象にコーチングの講義。ともにワークショップ形式で大変実のあるものであった。

木村コーチは数年前から日常的に着物を着用されておられるそうで、講義時もチャーミングな着物姿であった。イメージを思い浮かべることがいかに大切かという話をされた時、好きだという餃子を想像してくださいと彼女は、形、色、味、匂い、調理の音などをゆっくり想像させるように描写されたのだが、その言葉のあまりのイメージ喚起力のすごさに驚いた。プロだなー。

また基本的な相手の受容、賞賛を講義においても実践されておられるのにも感銘した。本当に気持ちがいい講義なのである。6時間の長丁場にも笑みを絶やさずどんな質問にも本当に丁重に優しく答えられる。後の打ち上げ会の振る舞いでも思ったが本当にカッコよすぎる人格者である。

冷静になるにはdissociateする(幽体離脱のように上から自分を眺める)、意識は脳、無意識は身体がつかさどっており、自分に注意が向きすぎているときは身体能力がうまく働きにくい(ゴルフだとよくわかる)、相手のリソースを引き出すために意見が言いたくなっても5秒待つ!受容する。集団でディスカッションする時、意見を述べにくい方にも話していただくために必ず1分間全員に話してもらう、それを守って全員にマイクを回す。など、個人的にちょっと勉強したNLP、コーチングなどのバラバラな知識、手法が、単に知っているというのではなくドン!と納得して腑に落ちたのである。これは全然違う。

聴講に来ていただいた方々からも、「目から鱗でした」「今まで考えたことなかった。明日からすぐ実行してみます」とか嬉しい言葉をいただいた。そして何より嬉しかったのは、うちの外来、介護のスタッフが本当に興味を持ってくれたことであった。打ち上げでも木村コーチを囲んで話が弾んだ。

ひとえに木村さんの人徳であり実力です。どうも有り難うございました。僕も男性版木村になりたいと思います(本当に)。またのお話を楽しみにしております。

苦痛の減るヨーグルト

 夜寝るとき、プロバイオティックスのカプセルを1つ飲む。簡単に言うと乳酸菌だ。ヘルシーパスの製品で有胞子乳酸菌といい、胃酸に負けないで腸に達して腸内細菌叢を理想的なものに変えてくれる僕のお気に入りである。サプリメント数々あれど一押しで、サプリ何がいい?と尋ねられるとまずこいつをお勧めする。

 いや、飲んでみればわかりますよ。2,3日で〇ンコが全然違うんだもん♪ 僕は前から便秘でもなんでもないが、うむ!と思わずトイレでうなったのである。効いてるなーというのがありありとわかるのです。サプリメントはリピーターが案外少なかったりするのだがこいつはリピーターが多いから、効果を実感している人が多いんだと思う。別に〇ンコが変わるというのが大事なのではなくて、腸内細菌叢の改善は免疫機能を強化し、アレルギーを抑え、抗がん作用を示すのである。それが目に見えるという話。

 で、乳酸菌関連でヨーグルトのこんな報告があった。

 アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークのジャビア・ブラボーが率いる研究チームはまず、普通の実験用マウスに、プロバイオティクスの豊富な餌を与えた。その後、マウスの行動を調べたところ、有意な変化がみられた。

 水中に落とされるなどのストレスの多い条件下にマウスを置いたところ、プロバイオティクスを摂取したマウスは、摂取していないマウスに比べて、不安に関連する行動を示すことが少なく、ストレスホルモンの分泌も少なかったのだ。

 この行動の変化には、ニューロンの活動を抑制する神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が関与している。研究チームがマウスの脳を調べたところ、プロバイオティクスを摂取していた群では、記憶と、感情の制御に関わる領域において、GABA受容体が増えていた(人間に投与される一般的な抗不安薬も、これと同じような効果をもたらす)。

 さらには、対照群のマウスで、腸と脳を結ぶ神経を切断したところ、上記のような変化はみられなかった。つまり、プロバイオティクスの豊富な餌を与えても、マウスのストレス徴候は緩和されなかったという。

 ほかにも、今年に入って、スウェーデンの研究チームが、マウスの脳の発達に腸内細菌の存在が影響していることを明らかにしている。フランスの研究チームも、人間の被験者にプロバイオティクス食品を30日間、多量に摂取させたところ、「心理的苦痛」のレベルが低下したという研究を発表している。

 うーむ。不安、心理的苦痛が減るのかー。いいじゃん。心労の多い私にはぴったりでそれで気に入ってるのかもしれんな。

 乳酸菌、プロバイオティックスは腸内に十分達しないものもあるのでよく調べてから購入くださいね。

100歳の誕生日

 この10月4日は日野原重明先生の100歳の誕生日であった。

 皆さんもご存じのように日野原先生は聖路加国際病院の理事長として現役でお仕事をされており、それ以上に種々のお仕事、講演等大変お忙しく過ごされている。今度抗加齢医学会のゲストスピーカーとして来ていただくのだが、会長がアポイントのお約束をした時、4年先までいっぱいとのことだったそうである(しかし来年の総会には来ていただくことになった)。

 「食事では、30歳のときの体重を維持するために1日1,300キロカロリーまでと決めています。朝食はアップルジュースにティースプーン4杯分のオリーブ油を入れたもの。昼食はクッキー3枚と牛乳。夕食では週2回、脂身のないステーキを食べ、大きな魚は週に5回とっています。それからお皿いっぱいのサラダも。朝食をきちんと食べた方がいいという人もいますが、私の場合は夕食に比重を置いたいまのペースが体に合っているんです。」
(長寿の原則であるカロリーリストリクションを以前からされているわけである)。

 日々の睡眠時間は4時間半、週に1度は徹夜をするという生活だったが、96歳にして徹夜をやめ、睡眠を5時間に増やした(睡眠時間の必要度は個人差が大きい。うまく午睡を取っておられる気がする)。病院ではエレベーターを使わず階段を上り下りする(ニッチな運動は必須である)。

 「それから、新しいことにどんどん挑戦することです。人間には22,000の遺伝子があります。それを目覚ませるには新しいことを始めるのが一番いい。」

 とまあ抗加齢医学の歩く教科書である。朝日新聞の誕生日記念インタビューを読んでいたのだが、驚いたことが一つ。

 「どうすればチャーミングな笑顔がつくれるのか、鏡を見て練習しているの。笑いすぎると目がなくなっちゃうから気をつけないと。それから週1回、エステに通っています。ちゃんと顔のマッサージをしているからシワが全然ないでしょう。おしゃれ心も大切ですよ。今日は紫のネクタイに、ポケチーフをコーディネートしました。女性からも好評ですよ。」

 うーむ。勿論露出の機会が多いからであろうが、100歳にしてこの感覚はやはり只者ではない。当たり前だが自分を見切ってない、こんなもんと思わず、100歳であろうが150歳であろうがちゃんと外見に気を配る男性。

 おみそれいたしました。少しでも近づきたいと思います。

はっはー!

 

満足すんなよ!

 スティーブ・ジョブス氏が亡くなった。朝外来に降りたとき、チーフのジェットO嬢が顔を見るなり教えてくれた。

 彼とは同じ年である。ビル・ゲイツ氏もそう。ともに及びもつかないが、圧倒的にスティーブ・ジョブスが好きであった。

 この前、ある会で、そこそこ成功し、適当におしゃれで、ちょっと傲慢な、僕と同年輩くらいなオジさんたちの集団を見た。その時、まさに稲妻のように僕の心にジョブスの、あの有名な科白がひらめいたのである。

 Stay hungry, stay foolish

 「それくらいで自己満足してんじゃねぇよ!」

 スタンフォードの学生たちに向けられた言葉は、実は僕らくらいの世代が噛み締めるべき言葉である。

 心よりご冥福を。

 

遊びのレッスン

 毎日の仕事に追われ、時間がぶっ飛んでいく。こんなもんだと思っているが、暇だと困るだろーと思っているが、このまま年を食っていくのもどうなのかな。

 「ライフ・レッスン」という本がある。サナトロジー(死の科学)のパイオニアで、ベストセラーになった「死ぬ瞬間」の著者である精神科医、エリザベス・キューブラ・ロス氏が、ご自身が脳卒中で半身不随になってから書かれた本である。タイトル通り死に面した彼女の今までの経験、考えを、レッスンという形にして、いま生を謳歌している人々に教えてくれる本である。最初に読んだとき、これはとても一気に読めないなと思い(ヘビーだからというのじゃなく、あまりにも納得できる言葉が多いから)、ちょびちょびと折にふれ読んできた。読み終わっても勿論売ったりせず、僕の最重要図書の1冊であった。

 最近なぜか手に取って読み始めた。情けないことにほとんど覚えていない。それだけ新鮮である。

第10章「遊びのレッスン」。

死の床にある人を見ていると、人間にとって遊びたいという欲求が果たす役割がはっきりわかってくる。彼らが愛する人と話している内容は、ともに分かち合った遊びの時間、楽しい時間の記憶にまつわるものである。人生の最後にあって、遊びはそれほど重要な話題になりうるものなのだ。

自分の人生を振り返った時、彼らが一番後悔するのは「あんなにまじめに生きることはなかった」ということなのだ。長年、死の床にある人たちのカウンセリングをしてきたが、「週5日でなく6日働けばよかった」とか「1日8時間でなく9時間労働をしていれば幸福な人生を送れたのに」という人は一人もいない。誇りを持って仕事の成果を語る人はいるが、そんな人でも人生の最後には、仕事の成果以上のものがあったのだということに気付く。仕事の成果に匹敵するほど充実した私生活がなければ虚しい人生になるということを発見するのである。

 ぼくは仕事が面白ければいいんじゃないのと思った、最初は。仕事と遊びが等価だと一番いい。それが理想。仕事って一生懸命やるとこんなに面白いものって無い。ゲームと同じようなスリルや達成感を実生活のレベルで味わえるんだから。

 しかし、今はやっぱり仕事と遊びは違うんじゃないかなと思う。

 自分の益にならないことに熱心になること。好きで面白いから、お金がかかっても頭を使って工夫すること。単純に面白いと思ったり美しいと感嘆したり、うっとりしたりすること。生産性の高い人生を目指すなら無駄?

 いいや、そんなことはない。「神は細部に宿り給う」という言葉があるが、こういった人生の些細な時間がその人間の一番深い部分ー魅力だったりソウルだったりーを形づくっているに違いない。

 という訳でせっせと遊びことにした。遊ぶのは時間を作り出す工夫、情熱、そして体力、気力が必要なのだよ。結構難しいぞ。

ロス氏