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ダウンタウンに繰りだそー♪

 僕が診察するとき、決まり文句の一つはどれだけ歩いてますか、運動してますか?です。日常的な軽い運動はすべての人にとって、経済的で精神的にもよく、しかも最も良く効く薬である。

 で、昨日もそう話していたのですが、どこを歩くかという話になりました。彼は軽い糖尿病で肥満傾向がなかなかとれない。しかしよく歩いてます。

 「今日も梅田のD百貨店、H百貨店をはしごして、天満のモールにも行きました。」
 「すごいなぁー、歩きすぎると膝とかにトラブルが起きる可能性があるので気をつけてくださいね。」
 「そうやなぁー、体重も減らさなあかんと思いつつ、つい天麩羅屋にふらふらと・・・」
 「誘惑が多いところを歩いてるからじゃない?」
 「うーん、でも運河の脇の道とかよう歩いてはるけど、僕からしたらしょうむない。今何が流行りか、面白いのか、そんなん見ながら歩くのが頭にとってもええんですわ」

 そういえばウインドゥ・ショッピングというのは久しくしてないなぁ。ネットのせいか。

 僕の住んでいる地域に数10年続いているランドマーク的な書店があります。結構大きく目立つので、スケールはぜんぜん違いますが梅田における紀伊国屋的存在という感じ。ちょいちょい覗いているので顔見知りだったのですが、ついこの前、上品な女性店主が・・・

 「実は6月いっぱいで止めることにしたんです。」
 「えー!!(ショックを受ける僕)」
 「ごめんなさいね、うちも介護とかいろいろあって。それに今はネットでしょう。やはりきびしいのよ。」 
 反省するワタシ・・・ 

 僕も購入する本の9割はネットになってました。

 でもな、失敗が多いのだ。誰かの推薦なんぞ全く当てになんないぜ。最近は少し中を見れるシステムが出来ていますが、やはり実際の質感、活字の雰囲気で本は判断したほうが確かだ。店頭でこれ面白そうと思って購入した本は実際面白いです。ネットの確率は満足度から考えると半分くらい?それ以下?

 とりあえず実際に購入するものは街に出て触ろう。人の感性を感じられるようにブラブラしよう(時間あんのか?いや、診察時間をけずってでも。オイオイ)と激しく思ったのであった。

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あーあ。

(でく)のぼうの時間

 僕にとってのパラダイスの一つは間違いなく本屋さんである。あまり大きすぎてもいけない、程よい大きさで、適当にすいていて、店主の本の好みがかなり僕に近い、そんな本屋さんで過ごす時間は、うるさ型のシェフが好みの市場で過ごすときのように、他に何も考えず物だけに集中できる至福の時なのである。

 といっても最近はネットで買うことが多いな。便利だもーん。でも結構失敗している。他人の書評なんぞ全く当てにできんぜ、まったく。やはり直接手に取って、持った感じ、活字の感じ、文章の肌触りを確かめないといけませんのである。

 この前、ある会の始まる時間つぶしに10年ぶりに入った本屋さんは久し振りの高打率でした。なんといっても小西康陽の新作が見つかったのが大きい。知ってる?ピチカートファイブのリーダーね。前のエッセイ集「これは恋ではない」は僕の宝物の一つですが、10年ぶりの新作は「僕は散歩と雑学が好きだった」。これはかの植草甚一氏の「僕は散歩と雑学が好き」からパロッたものです。この本は僕の10代における航海地図みたいなもので、彼も好きだったのかと嬉しくなりました。

 しかし掘り出し物は「のぼうの城」。これは勘だけで買いましたが、ドンピシャです。戦国時代の武将の話なのですが、一種独特の傑作の匂いがあって、時代物なんかほとんど買わない僕が買ってしまった。帯に「この男たちは、文句なしにかっこいい」とありましたがそのとおり!
映画化必至という感じですが金がかかりすぎるかな。CGで出来るか。キャスティングしたくなるような、現代感覚あふれる物語です。まあ読んでみ。爽やか、いい気分です。

 で、やることがいっぱいあるのに今日も風呂場で1時間。でもまあいいや。ああ面白かった。これが一番だよ。

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やっぱり犬童監督で映画化されるらしい

僕のダライ・ラマ

 ダライ・ラマの本を読む。彼の言葉に日本の写真家が撮った彼の日常生活の写真を合わせた本である。僕はダライ・ラマが好きだ。そんな風に言っていいのか(おそらくいけないだろうな)判らないくらいえらい、言ってみれば生き神さまであるが、なんともいえない温かみのある風貌である。そこらへんにいるおっちゃんみたいでもある。

 ある雑誌で彼がウォーキング・マシーンを使っている写真を見た。彼の仕事場に置かれているようであるが、宗教色のある周りの置物とウォーキング・マシーンのミスマッチが面白く、いつもと同じ格好で歩いてるダライ・ラマは、おお現代の人なんだという強い印象を僕に与えた。

 神様が糖尿病や高血圧だと駄目だよね、やっぱり。

 佐野元春に「霧の中のダライ・ラマ」という短い曲がある。この曲は僕に後光の差すオレンジ色の霧の中に浮かび上がるダライ・ラマをイメージさせる。こんな曲を書かせるのは彼が親しみやすい感じを与えるからだろうな。多分。

 で、彼の本の中に「自分自身のマインド・コントロールが大事なのだ」と書いてあって僕は然り!と思ったのだ。外的なものでなく、考え方だけが人間を幸せにすることが出来る。どう感じるかというよりも、どう感じたいか自分を変えていくことがポイントなのだ。主体は自分にある。

 少し前に読んだ宗教に関する本も同じ事を感じさせた。当たり前のことなのだが実行は難しい。奥儀はこれなのである。

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おおっ!

 

フォトグラファーズ・ライフ

 アニー・リーボビッツの写真集をお昼の時間に眺める。「ア・フォトグラファーズ・ライフ」、一人の写真家の人生と題された写真集である。

 彼女は世界で最も有名な写真家の一人で、全米で過去40年間に発刊された雑誌の表紙を飾った写真の評論家における人気投票で、なんと1位と2位を取った。ローリング・ストーン詩のジョン・レノンがオノ・ヨーコに抱きついている写真。ジョンが亡くなる前日に撮られたものだ。僕でも知ってる。2位はデミ・ムーアの妊娠中のヌード写真。バニティ・フェア誌に載った。これも有名。

 彼女はミュージシャンやスターの写真で知られているが、報道畑の出身である。この写真集は名前のとおり、仕事としての写真のほかに、今まで発表していない両親や子供の写真(だんなは全く出ず)がはさまれている。一番多いのは、とてもとても親しい間柄というのがわかる作家で批評家のスーザン・ソンタグの写真。どんな関係か、うーむ、微妙だ。

 この写真集は低い声で、静かにしっかりと語る。明るい話ではない。正直で、カッコづけはまるで無い。真実を浮かび上がらせると言うか、ミュージシャンでもこういう人だったのか、うーんと思わせるような写真ばかりである。中身が、ハートが写っている。

 最後の方はお父さんが亡くなったというのが判る。写真集は終わるが、この頃にスーザン・ソンタグが白血病で亡くなったというのを全く別のことから知った。そんなことがこの写真集をまとめさせたのだろう。      本当にいい本です。

 
 気に入ってる写真を載せておこう。マイケル・ムーア。アメリカの医療事情を批判した「シッコ」の監督。ブッシュをバカ扱いした映画で有名。この本人とスタッフの面構え!見てるとやる気になる。

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真ん中の太った人

 

スピ−ド!

 金城一紀を読んでいる。「SPEED」。彼には珍しく女子高校生が主人公である。おもしろいでー。だいぶ前に買ったのだがなんとなく出だしが気に入らなくて読んでなかった。恒例の入浴本を探している時ふと気になって読み始めたのだが面白いのなんの。

 考えてみると僕は金城一紀がかなり好きだ。彼の著書一覧を見るとなんと全部読んでいたのだった。最初に読んだのは直木賞を取った「GO」だ。これは本当に面白かった。痛快。金城一紀はコリアン・ジャパニーズだが、主人公も同様。本当にカッコよろしい。

 「フライ・ダディ・フライ」は昨年映画にもなったが、これに出てくるメンバーが「SPEED」にも登場する。彼の作品は登場人物が重なることが多く、ちょっと毛色の違う短編集にも、あれっ、どこかで見たやつが、というのがよく登場する。みんなとてもイカシた高校生達である。

 だいたい僕は学園物というか、学生が主人公の本が好きだ。一時そんなのばかり読み漁っていた時がある。なんでだ?行動の規範が欲でないからだな、多分。これが僕をリフレッシュするのだ。べつにそんな欲ばかりの人と普段付き合っているわけじゃないけどね。

 彼の作品の高校生達はソウルフルである。これだよ。いま自分でなぜ僕が金城一紀が好きかわかった。これが僕の求めているものなのだ。

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いいです!

 

海辺のカフカ

 年末、新年と、時間があるようでもあり忙しいようでもあるような特殊な日々で「海辺のカフカ」を読みました。最もノーベル賞に近い日本作家である村上春樹氏の、おぉ!今確かめるともう3年も前に発刊されている!本です。彼は僕のモスト・フェバリットな作家の一人であったのですが、ここ4.5年はなんとなく遠ざかっていました。しかし短編集「東京奇譚」でやっぱりすごくいいじゃないのと思い、エッセイである「走ることについて語るときに僕の語ること」で完全に再びLOVEとなりました。

 で文庫本にもなってるしボリュームもあるしという訳で、まとまった休みのこのときに読むのは最適と前から気になっていたカフカなのですが、実はさっき読み終わったばかりで感想がでてこない。・・・でもね、すごくいいです。彼のモチーフとして世の中に理不尽に現れる邪悪なものに対して傷つきやすい人間が戦いを挑むというのがありますが今回もそれで、相当傷つきながらもラストに希望を感じるのが彼の長編の好きなところです。

 文庫本で1000ページ以上もありますが、途中から読むのを中断するのが苦痛となり、残っているページがまだあるのが嬉しいという久々の感覚(覚えている最近は村上龍氏の「半島を出でよ」か)を覚えました。いったいどうなるんだろうというこのワクワク感!謎に満ちた話です。いろいろ考えさせられることも満載で、思い出は生きていく糧となるとか、教養は人間を変えるとか、そして最終的に、タフに生き続けろ!というメッセージが今残っているのですが、きっと読みかえすとまたまったく違ったところが強く印象に残るだろうという予感、というか確信があります。

 新年に読み終わったことだし、もう一度多くの謎、メッセージを考えながら読み返し、今年の自分の判断の一つの糧にしたいなと思います。まあそれだけ惚れ込んでいるってことだな。こんな本に出会うと、本が好きでよかったなと思います。きっとネットでもいろいろ書いている人が多いだろうから(ネット上に寄せられた感想や意見をまとめた「少年カフカ」だったっけ、という本も在ったはずです)少し調べてみようと思います。

 P.S.この本を中心に語ったサイトがあり、そこに村上春樹氏が寄せた言葉がありました。「本は自分の内部の凍った海を打ち砕く斧でなければいけない」

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外国にもファン多し

共感覚者になりたい

 朝いつもどおり愛犬を連れて散歩に出る。おぉ!世界が光り輝いているではないか!光の粒子が湿気を追いやって、明らかに昨日と空気の重さが違っている。これは梅雨が明けたに違いない。散歩を終わって(朝の散歩は散歩と言うよりも実はウンチ係というのが正しく10分以内。だけどよー、雨が降ろうが槍が降ろうがアヒルが降ろうが行くんだぜー)テレビで確認したがニュースで近畿地方の梅雨明けは発表されていない。しかし気象庁がなん言おうが僕の中では梅雨明けだい!俺の五感がそう言っている!と気張っていたのですが、やっぱり梅雨明けと発表されたそうです。・・・つまんない。

 しかしこれは梅雨明けと自分ではっきり認識できたのは僕としては初めての経験だったので嬉しかったです。世間の皆様はもっと感性豊かかもしれませんが、僕は空気の匂いとか重さで季節感をわりと意識する方で、夏の訪れはそこはかとなく空気に混じるプールの塩素の匂いです。今年はまだないな。ちなみに冬は雪のそっけない水っぽい匂いです。

 「共感覚者」という人たちが10万人に1から4人いると言われています。彼らは音や味が形や色として見えるのです。ピアノの音を聞いたりすると、珠を転がすようなとか、なんとなくイメージが浮かんできますが、彼らははっきりとそれを認識でき、他の人がそうじゃないというのが分かると驚愕するという感じのようです。この味はとがっていてギザギザする、とか金平糖のような形がカラフルにサキソフォーンから飛び出してくるのが見える。これは当初、感覚神経の混線と考えられていましたが、実は原初人間の持っていた感覚で、それが失われることなく生き残っていたということらしい。そういえば・・・という気がしますね。かけらはありそうです。

 いいなー、共感覚者。なりたい!そう思うのは私だけ?

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メッチャ面白いです。

 

 

向現Cogen

 村上龍氏の「5分後の世界」といういかした小説に「向現Cogen」という薬が登場する。現実の日本と違うパラレルワールドで時間が5分遅れた別の日本では、第2次大戦は終わっておらず、日本はアメリカに降伏せず、地下にもぐってゲリラ戦を繰り広げている。登場してくる日本人たちは、想像する過去のいい部分を持っている日本人で、礼儀正しく、弱音を吐かず、意志が強く、堂々として優しい。

 偶然別の日本に移動してしまったえー加減な主人公が、徐々にその別の世界の日本人にシンパシーを感じ、最後の究極の戦闘シーンで友人を助けるために元の世界に戻ることを放棄する(それはどのような行動で表されるか?彼は自分の時計の針を5分遅らせるのである)のはぐっとくるが、「向現」は戦闘シーンに現れる。麻薬のようなもので、負傷して痛みのため意識が遠くなりかけたりした時、「向現」を内服することで常時に戻るのである。

 なんというか、使われ方がひじょーにカッコよろしい。出た!「向現」だ!みたいな感じで思わず好きになってしまうが、作者もお気に入りのようで、自分のサイトの一つの名前に使っていた。現(うつつ)に向うというのが効能そのままだ。

 なんとなく自分がパッとしない時、「向現」のような薬はないものか?リアルに現実に立ち向かう勇気の出る薬。最近のビジネスマンの「飲む、打つ、買う」は「胃カメラを飲む」「欝」「{会社を止めようと}宝くじを買う」だそうだが、本来の「飲む、打つ、買う」に戻るような(まっ、これが魅力があるとは思いませんが}。

 軽症欝に有効な「パキシル」「トレドミン」?うーむ、違うなー。「ハルシオン」?全然。案外「バイアグラ」ってのが一番近いか。出でよ!真の「向現」!

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本では平凡な外観のようです

陽炎のように

 勝海舟の「氷川清話」をパラパラと読む。角川文庫で昭和47年発行とある。30年以上前に買ったのか・・・。僕は何度か引越しをしているが、そのたびに本を処分している。しかし数度のそのような大粛清を生き延び僕の手元に残っている何冊かは、間違いなく僕の心の奥の何かに深く触れた本である。

 この本も古本屋で見たら間違いなくスルーしそうな日焼け振りである。ページの周りが茶褐色に縁取られ、セピア色の過去そのものである。

 しかし内容は色あせない。

 勝海舟が75歳くらいの時に彼の弟子やファンの人が回顧談を引き出しそれを速記したもの。最初に刊行されたのが明治31年らしい。「外交について」だとか「人物評」だとかいくつかのパートに分かれているが、どこをとっても幕末、明治維新の大立者、肝の据わった意見が聞ける。

 その中で最近の世相について「金持ちの屋敷の周りに植えてある樹木なども、身代が左前になると、どんな大木でも勢いがなくなって見える。人間もそのとおりで、元気の盛んなときには、頭の上から陽炎のように炎が立っているものだ。然るに此の頃往来を歩いてみると、どうも人間に元気がなくて、みんな悄然としておるらしい。これは国家のためにも決して喜ぶべき現象ではないよ」と述べる。

 頭の上から陽炎のように炎が立っている、というのが好きだ。明治維新の頃はそんな奴がごろごろ歩いていたのだろう。

 頭の上から陽炎のように炎を立てたい。

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37歳咸臨丸艦長の時。陽炎立ってるねー。

世界の果ての庭

 松岡農相とZARDの坂本泉水さんが亡くなった。どちらの方にも特に思い入れがあったわけではないが、天寿を全うされたわけでなく、覚悟の上であったのか突然であったのかも分からないが、ともに不幸な逝き方であったと悲しく思う。ご冥福をお祈りする。

 ニュースを見てもいい気持ちにならないから本を読む。西崎憲氏の「世界の果ての庭」。第14回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作だそうです。前に一度読んであまりの好みに狂喜した。がっちり僕のテイストだったのだ。また読み返そうと思っていて、手に取った。全然ストーリーを覚えていない。まあ、覚えられないような話だ。これは5つ位の別の話が平行にすすむのだが、ショートストーリーがアト・ランダムに出てくる。時代も主人公も、語り口も全く違うのだが一貫した味わいがある。それは清潔で落ち着いていて、上品で教養があるのだがなんとなくちょっとエロティックで、夢のような話だがとてもリアリティがあるのだ。

 全く違う話が平行に進行していくが最後にそれがどうなるかというと・・・

 別に役に立つわけでない。人生が変わるわけでもない。しかし読んでいると心から「好きやなー」と思える本。僕にとって映画ではメル・ギブスンの「危険な年」(映画を2回見、ビデオを買い、DVDを買った)にあたる感じの本です。実はまだほかにもあるんだけど。時間があれば是非、と言いたいが僕の好みは変なので別にお奨めはいたしません。

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