カテゴリー別アーカイブ: Pearls

パワーリハ・re-mix

春だなぁ。桜もなんだか今日で終わりの感じです。薄くけぶった春の風の中、ゴルフの打ちっぱなし(車はもち、オープン)と犬の散歩に出かけたのですが、後はおとなしく第6回パワーリハビリテーション学術大会に出す演題の抄録を書いていました。で、いろいろ勉強し直ししていたのですが、もう一度おさらいというか、パワーリハのエッセンスをまとめてみよう。

パワーリハビリテーションはその名前とジムに置いてある筋トレ機器のような外観のマシンのせいで、相変わらず筋肉トレーニングと思われており、「高齢者に筋トレしていいのか!危なくないのか?」といった誤解から解放されていないように思います。パワーリハは筋トレではない!ぜーんぜんちゃう!というのがやっぱり一番大事なとこかな。ではなにか?パワーリハはヨガです。いいですかー、皆さん。ストレッチと言ってもいい。

僕はアキレス腱を切って手術してからもともとあった股関節の故障が悪化して、結構歩行もままならない状態が続いていました。で、ある時パワーリハをやったのですが、終わったその瞬間から足が軽くなり、歩行に力が要らなくなる、リラックスした感じがして驚きました。今やっても同じように感じます。パーキンソン病の患者さんで、同じように終了後から急に歩行状態が改善する方が居られますが、その効果が筋トレで得られるわけがない。低負荷の反復運動による筋の脱力、協調運動の改善が考えられますが、これを日常的に繰り返すことにより神経—筋肉連関の再構築が起こり動かしやすくなるのです。

筋トレはレジスタンス運動であり、無酸素運動です。パワーリハは有酸素運動であることが証明されており、血圧の低下、糖尿病の改善が起こります(当院でも経験済み)。今それ以外にも心臓疾患、呼吸器疾患のリハビリにも有効と報告されています。つまりキモは、本来有酸素運動が有効なのに歩いたりすることさえ困難な方でさえパワーリハなら可能であり、その恩恵を受けることが出来るということです。

パワーリハのもう一つの特長として脱落が少ないということが挙げられます。リハビリテーションは本来苦しい。動きにくい身体を動かしていくのですから痛みもあるしつらいです。やる気のある人しか続きにくいのですが、パワーリハはそんなことがない。気持ちがいい。たまにスポーツをすると「ああーいい気持ち」というのがあるでしょう?あの感じが起こります。低負荷でしんどくない、単調な反復運動にはβエンドルフィンなどのいわゆる脳内麻薬といわれる内因性オピオイドを分泌させる作用があり、それが作用しているようです。それ以外にも神経伝達物質であるアセチルコリンやドーパミン、セロトニンの増加も報告されています。それらは認知症、パーキンソン病や欝の改善に有効な可能性があり、実際にそのような例も多く報告されています。このような物質の作用と身体の状態が良くなっていくことでの達成感、やる気の増大などで行動変容が起こります。実際の身体機能の改善より日常生活での行動範囲が増える方が多いのもそのせいと考えられます。

といったところかなぁ。やったことのある人はわかると思うけど筋トレじゃなくてヨガに近いでしょう?ヨガが出来ない人にも出来るし。問題は器材が高価であり(西ドイツ製の医療器械だからなぁ、安全のためには仕方ないですが)、1家に1台というわけにはいかないところだ。でもジムに通うような感じで障害のある方、なくても運動不足の方は利用すると非常に快適に生活がおくれるようになると思います。一時言われたように魔法の機械ではありません。でも確実に、何もしないよりはるかに有益な、素敵なマシンです。しかもちゃんと学術大会が開かれ、データの蓄積が行われている唯一の器材です。

最近新しくできたデイサービスに筋トレと称して機械が置いてあることが多いですが、あれは本当に筋トレでパワーリハではありません。安全かどうかは知らない、というか高齢者に過度の筋トレは本当に危ない。丈夫な奴でも故障することが結構多いのに、と思います。ワチッアウト!まあ他の所のことはいいや。

で、僕は出勤している限りは毎日パワーリハをやり、以前ブログで書いたようにミニトライアスロン参加を目指すと・・・。やっぱり行動変容は起こっている気がします。

抗加齢より好加齢

光陰矢のごとし。しみじみ。Pearlsの更新日時をホームページで見るたびに感じます。この前は1月かー。もう3月じゃん。ブログの「外来ウォッチ」も、ちょっと更新していないとあっという間に日がたってびっくりしますが、それはいかに日常業務に追いまくられているか、仕事の繰り返しの毎日であるかということである。これでいいのか、院長。

 この人は何を言っているのでしょうかとお思いの方もおられるかと思いますが、実は結論を言いたいがための枕で御座います。この前ブログでも書きましたが抗加齢医学会主催のセミナーに行ってきました。講師、受講者あわせて総勢30名程度の非常に内容の濃いセミナーで、大学教授、助教授が5人も参加され、抗加齢クリニックを運営されている方の内容の濃い話もフォーマル、インフォーマル聞くことが出来て大変勉強になりました。

 その中で「カロリー制限」がこれからの抗加齢医学の一つの柱になるという話が出ました。単に低栄養ではなくて、十分なビタミン、アミノ酸など必須の栄養は取りながらもカロリーのみ制限するとすべての動物で寿命が延びることはほぼ定説化しています。なぜか?これも今多くの説が出ていて、実際にカロリー制限をしなくても同効果が得られる薬品の開発(ある酵素が増えるからそうなるという説はいくつか出ていて、それを薬品で再現する)もアメリカではベンチャー企業がすでに始めていますが、実際に食事制限をして寿命を延ばそうという団体もあるようです。痩せこけ骨と皮になりながら「快調です、健康は素晴らしい!」と語っている人の映像(アメリカ人らしいなぁー)は僕も見たことがあります。

 「健康のためなら死んでもいい!」というのは健康おたくをからかう台詞ですが、本当に冗談ではなくなってきます。何のために抗加齢医学はあるのか?

結論。それは毎日をご機嫌に過ごすためにあるのです。毎日が楽しい、こんな生活を出来るだけ長く続けたい、そのためにあるのです。単に寿命を延ばすことに意味はない。楽しく面白い生活を出来るだけ長く続けるため身体精神のコンディションをハイに保つ、それが目的です。抗加齢医学というのは誤解を招きやすい。アンチエイジングではなくアメリカでもヘルシーエイジング(健康な加齢)やオプティマルエイジング(望ましい加齢)という言葉を使う場合も多くなっていますが、僕は抗加齢ではなく好加齢という言葉を使いたい。グッドエイジング、ラブエイジングという感じですね。

そう考えれば目指すものは明らかになってきます。楽しい生活とは何か、自分がなりたい自分、やりたい生活とはどんなものなのか、まずはっきりそのイメージを持つことから始まります。

今度今の診療所に好加齢クリニックを部分的に開きます。皆さんの楽しい生活のために出来るお手伝いをやっていきたいと考えています。でもそのためにはまず自分がラブエイジングな生活をしていなければだめですよね。冒頭のパラグラフがここでつながる。こんな生活でいいのか、院長?慶応大学の眼科教授で好加齢医学会会長の坪田先生は「こんなに遊んでいいのかというくらい遊ぶことは脳の抗加齢になる」とある講演でおっしゃっていました。いいかい、やるぞー(と単なる言い訳であった)。

甘い生活

うーむ、ブログを書くようになってからpearlsを書く余裕がなくなってきたな。領域も違うしネタもあるのだが他にデスクワークは山ほどあるし、なかなか時間が取れない。久しぶりである。なんか長らく顔を出さなかった会合に久しぶりに行くみたいで違和感があったりして。恥ずかしいような申し訳ないような。すいませんねー。

今日はアマーいお話である。スイーツね。僕は食事の後必ず甘いものがほしくなるタイプである。これは単に習慣かもしれない。外食だとそういうケースが多く、いつの間にかどこで食べても食後はデザート、ドルチェが欲しくなるのである。いや、高級なものはいりません。アイスとかそんなので十分です。

ある時、知り合いの漢方の先生と雑談をしていた。彼が甘いもの(白桃であった)に凝った時があってわざわざ産地から取り寄せては毎日数個ずつ食していたと。その頃からどうも身体が痒くなり、年のせいかと思って保湿をしたりいろいろやったのだがどうも取れない。ふと気になって白桃を止めてみたところ嘘のように痒みが取れた。べつに糖尿になった訳ではない。同じように患者さんで原因不明の痒みを訴える人に良く聞いてみると、やはり甘いものを多くとっている人が多く、やめるように諭すと本当に痒みが消えることが多い。甘いものはいけないよ・・・というような話である。

甘いもの、白糖の害は多く報告されている。糖尿病はもちろん、痒みと相通ずるがアトピー性皮膚炎や、青少年のきれやすい体質と関係が深いという報告も多い。以前このpearlsでも書いたが糖分は体内の酸化を早め、物が古びるとセピア色に変わるがそれと同様のメイラード現象を体内で起こして老化を促進する。

最新版のAmerican Journal of Clinical Nutrition によれば、砂糖を添加した飲食物の大量摂取と、膵臓癌の発症リスク増大が関連することが明らかになったとのこと。スウェーデン人約8万人が対象で8年間の観察期間。最もリスクが高かったのはソフトドリンクを大量に摂取した場合。コーヒーなどに砂糖を加えた場合も結構リスクが高く、いずれにしろ膵臓癌発症リスクは食事から摂取する砂糖の量と関係があることが統計的に証明された。

ものすごく困った結果である。悲しいなー。もともと甘い砂糖は人間の生存に必要無いと言われている。必需品ではないのだ。でも必要なく身体に害があるからうまいんだろうな、きっと。装飾品は華美になるのである。いろいろな病態がすべて砂糖に帰するわけではなく他のファクターも絡んでくるのであろうが、いずれにしろ摂取量は少ないにこしたことは無い、間違いなく。

今日から食後のスイーツは中止である。さてと・・・代わるものは何か?そんなものを探すより人生自体を甘美にする方がいいであろう。甘い生活。ドルチェビータ。なんと美しい響きか。でもスイーツを止めるのも難しいがこれの実現もなかなか・・・。

心も肌も乾燥はいけません。

 冬になると全身のかゆみを訴えるご老人が増える。皮膚がカサカサである。乾燥性皮膚炎である。空気も乾燥し暖房も入れるとますます乾燥が増悪する。「老化とは乾燥である」という言葉もあるとおりただでさえ水分が少ないのに、おしっこの回数が多くなるからと水分を取りたがらないご老人が多い。それに唾液分泌が少なくなって口が乾燥しても、知覚的にわかりにくくなっているのでよけい水分摂取量が減る。

 ご老人に限らず小さな子供でも乾燥肌は多い。アトピーまでいかなくても乾燥肌で背中に掻き傷をたくさん作っている子が増える。

 そんな時「お風呂に入るとき、タオルはなに使っているの?」と尋ねると、驚くほどの確率で「ナイロンタオル」という答えが返ってくる。泡がいっぱい出てゴシゴシこすれて、なにかすごい清潔になった気がするタオルですが、かなり前に皮膚の黒変が問題になったことがある。こいつが悪者なのである。「いけないんですか?知らなかった」と言われる方も多い。

 身体の外側を覆う皮膚はバリアとして重要な役を担っている。病原体やアレルゲンが体内に侵入するのを防ぎ、一方では体内の水分が蒸発しすぎるのを防ぐ。皮膚の中で最も外側にある角質層が特に重要だ。細胞がきっちり並んでいることに加え細胞内や細胞間がケラチンやセラミドなどの繊維やたんぱく質、脂質で満たされているからである。

 ナイロンタオルは角質層の細胞をはがしてしまいバリアが壊してしまう。普通のタオルでもゴシゴシこするのはよくない。乾布摩擦や垢すりなんかちょっと失神物だ。石鹸も皮脂を取りすぎてしまうことがあるのであまり大量に使わないほうがいい。少量を泡立てる、それを身体にそっと置いて撫ぜるだけで十分なのである。伊丹十三の「女たちよ!」だったか「ヨーロッパ退屈日記」だったかどちらかに、石鹸は使うときこすらないでいいのだと主張している友人の話が書かれていて、彼は風呂場で石鹸の泡をつけたまま、じっと身体が冷えてくるのを我慢しながら「これが正しい身体の洗い方なのだ」と呟いているのだろうかと皮肉っぽく書かれてあったのを思い出した。彼の友人は何十年も前からスキンケアの真髄を会得していたのである!

 入浴後は保湿をおこなう。バリア機能の保持と保湿とは全く同一ではないが(セラミドは両方の性質を持つ)、保湿のみでもそれなりにバリア機能は改善される。ただし尿素は角質を溶かして皮膚をつるつるにするので子供さんやアトピーの方には適さない。大事なのは入浴が終わってから3分以内に塗ることである。入浴して皮膚内に入った水分が蒸発するときは周りの水分子も引っ張って蒸発するので何も塗らなければ皮膚は入浴前より乾燥する。しかも皮脂も減っているのでどんどん乾燥する。保湿剤は脱衣場に置くこと。身体の水分を拭くのもゴシゴシこすらずタオルをあてて水分を取る(こういうのは女性をよく知っているのだろうが男性は全く無知である)。

 アトピー性皮膚炎はアレルギーということで食事制限を厳格にしている親御さんも多いが、基本は皮膚が弱いということでスキンケアが非常に重要である。今春「ネイチャージェネティックス」にアトピーの患者さんは角質の構造と保湿能力に大切なたんぱく質であるフィラグリンを作る遺伝子異常率が非常に高いというレポートが載った。アトピーになりやすさを左右する要因として皮膚のバリア機能が重要ということだ。アトピーの患者さんの皮膚は炎症のない部分でも普通の部位より水分の蒸発が1.5倍ほど多く保湿能力が低いと報告されている。角質セラミドも6割程度しかないとされている。ポイントはスキンケアなのだ。ナイロンタオルの使用をやめただけでアトピーといわれていたのが一挙に改善した例が何例もあった。

 僕はコスメティックには全く未開発な人間で、整髪料もほとんど使用したことがない。僕の後輩でこういったことに詳しく、実践もちゃんとしている男がいるが、彼の顔はツヤツヤである。うーむ、そろそろ考えねばなるまい。うちの法人で扱っている清酒の「大関」が米を材料にして作っているスキンローションを塗ってみるとこれがなかなかよろしい。僕は車の小さな傷もタッチペイントでちょいちょいと直しておくだけであまり気にしない人間なのだが、自分のボディペイントも気にかけるようにしよう。こういうことをちゃんとすると内臓のこともちゃんとするようになる。是非皆さんも、特に男性の方、1に清潔、2に保湿です。来年からちゃんとしようね。

脱水ですよ

パワリハの総師、国際医療福祉大学大学院の竹内教授著「認知症のケア」を読む。210ページ一気読みである。竹内教授とは何度か直接お話したことがあるのだが、こんなに認知症介護に深入りしている人とは知らなんだ。

ものすごくシンプルに書くと、先生は認知症ケアの大基本は「脱水、便秘、低栄養、運動不足の克服」であると。これはものすごく示唆に富んだ話なのだが、ちょっと脱水について。

医者の間では(特に大学病院では)何でも「点滴!」という医者はアホであるということになっている。ちょっとした風邪で「点滴してください」という患者さんには、僕も水分が飲めていたら必要ないですよと言っている。でもデイサービスに来られているご老人で、食事が取れない、しんどそうという方に明らかな脱水のサインが無くても点滴すると著しく改善するという感じは持っていた。

老人の脱水のサインは難しい。もともと「老化とは乾燥である」。ただでさえ乾燥気味で唾液分泌も悪く大概口腔中は乾いている。皮膚もつまむと元に戻らない。それがスタンダードであるような(というかすでに脱水状態だな、これは)認知症のご老人の軽度の脱水傾向を見破るのはかなり難しいと思う。

脱水になると血液は濃縮され循環が悪くなる。脳循環の悪化は意識レベルを下げる。各臓器のエネルギー代謝は悪化し倦怠感が強くなる。不純物、代謝産物は運び出されず、産生される熱量も放熱されないため発熱となり、結果ますます脱水は増悪する。人間の体重の60%は水であり、その水分環境で恒常性が保たれている。脱水は細胞の生存を支配する。

ご老人とまでいわないまでも、最近の健康ブームで水分摂取の重要性を説く人は多い。元気なご老人も意識して飲水量を増やしている方がいるが、これがまた夜間頻尿の原因になっていたりする。1日の総水分量が大事で、夜間は飲水を控えても脳梗塞の発症率は変わらないという文献があり、そのお話をしてもあまり止められないのはやはり何か有用性を意識されておられるのかもしれない。

健康な成人は1日2000cc、ご老人は1300ccが推奨される最低量だ。発汗がひどくない限り、あまりスポーツドリンクの有用性は無い。認知症の方は便秘も増悪因子なのだが、水分摂取は便秘も改善する。先生はある老健施設で、摂取水分量の増加に伴い認知症が改善していったデータを示されている。

デイに来ている方はすべて脱水症の可能性がある。飲水を促すことは今まででもやっていますが、認知症の改善に大きな効果があるというのは目から鱗でした。早速うちの施設でも飲水量を調べ(家庭内で少ないことが多い)、十分に水分を取られるようにしていきます。

「認知症を見守るのではなく回復させる施設へ」。トライする大きな目標ができてとても嬉しく思った。

 

アルコールってどうよ。

アルコールってどうよ?僕はもともとアルコールに強いほうではない。すぐ顔が赤くなるほうだがなぜか嫌いではなく、ビールは好きな飲み物ベスト10のダントツ1位であるし(昔の発売し始めた頃のモルツが1番好き。いまはギネスとかサッポロの黒です。しかし大体考えてみるとアルコール以外の何がランキングに入るのか?)、ウオッカなんかも結構好きです。しかし1年ほど前にアルコールを止めてから、というか毎日飲むのは止めて週に1回ビール350cc程度と超ランクダウンしてから、アルコールにたいしてちょっと冷静になったようです。

アルコールは適量だと体にいい、動脈硬化を防ぐとか言われていますがむしろ実際上は過飲による弊害のほうが問題で、この世にタバコとアルコールが無ければ現在の3分の2くらいに病気は減少するだろうとも言われています。脳細胞に対する悪影響も確かなものらしい。特に最近、飲むと顔が赤くなるいわゆるお酒に弱い人にたいするアルコールの悪影響が明らかになってきました。では怖い話を一つ。国立がんセンターなどが参加している厚生労働省研究班の報告から・・・

アルコールは体内で悪酔いの原因物質であり発がん物質でもあるアセトアルデヒドに分解される。アルコールを飲んでから顔が赤くなるフラッシング反応はアセトアルデヒドによる。酒に弱い人が強くなったといってもそれは酔いに体が慣れるだけで決して分解能力が高まるわけではない。アルコールをアルデヒドに代謝するアルデヒド脱水素酵素には正常型以外にヘテロ欠損者(酒に弱い人)とホモ欠損者(酒が飲めない人)が存在し、アルコール飲酒後の血中アルデヒド濃度がそれぞれ6倍、19倍となりフラッシング反応が引き起こされる。ヘテロ欠損者は少量飲酒の場合健常人と比較して8.84倍の食道癌発ガンリスクがあり、3合以上飲酒した場合11.4倍の発ガンリスクがあることが判明した。アンケート調査によると、過去にフラッシング反応があったケースではヘテロである確率は95%であり、以前もしくはお酒を飲み始めた頃にフラッシングを経験した人は食道癌のハイリスクと考えられる。毎日飲み続けると体内にアセトアルデヒドが常時滞留し、血液から呼気に放出される時に、食道や咽頭でガンを引き起こすのではないかと考えられている。さらに、かなりの量を飲まれてきた方は特にハイリスクであり、さらにこうした人では、食道以外にもがんが多発することも指摘されている。
 

簡単に言うと酒に弱いやつが無理して飲んでると癌になりまっせ、ということだ。アセトアルデヒドは本当に困ったやつで、シックハウス症候群の原因とも言われているし、酒を飲むと湿疹が出たりする人がいるが、これも汗に分泌されるアセトアルデヒドが原因とされている。では酒に強いやつは幸せかって?飲みすぎると肝硬変だぜー。酒は百薬の長とか言うがちょっと怪しくなってきた。酒は毒?しかし・・・

僕があまり酒を飲まなくなったのは精神的なこと(気分的に酒による酔いが必要でなくなった)や飲むと全く仕事が出来なくなるとかいったことが大きいが、でも全く飲まないというのもどうやら不可能なようだ。村上龍氏は「人間は罪を求めて酒を飲む」と書いている。そうだなー、罪無しの人生も寂しいし。癌になるような罪は避けたいが、まっ、そこが微妙なとこだね。

ジェネリック医者

最近外来でジェネリックはありますかと時々尋ねられる。僕の診療所は院外処方をしているので、患者さんが好きな薬局に行ってそこに置いてあればジェネリック医薬品を使用できるような形で処方箋を書きますと答える。新しい有効成分を含む医薬品を「先発医薬品」と呼ぶのに対し、先発医薬品の特許が切れた後に他の製薬会社が販売する「同一有効成分、同一投与方法、同一用法用量、同一効能効果」の製剤を「後発医薬品」又は通称として「ジェネリック医薬品」と呼ぶ。最近テレビでよく宣伝をしているので行き渡ってきたんなぁと思う。世界のほとんどがジェネリックを使っているんだ、成分も一緒だし安くなるんだったらこっちのほうがいいよなーと普通思うな。でも本当に全く同じなのだろうか?薬剤師の知り合いが結構1錠1錠にむらがあったりするとか言ってたな。

医事新報という雑誌に本田孔士(大阪赤十字病院院長)先生がジェネリックについて書かれていた。それに一部補足してここに書く。
健康保険未加人者が多く一流メーカーの薬が買えない人も多い、そしてジェネリックを扱う会社の規模が大きくてMR(薬の説明、販売をする人)を多く抱えている欧米と、ほとんどが健康保険に加入していて、ジェネリックを扱う会社のMR数は圧倒的に少なく医者に対して情報提供できる体制の整っていない日本の、社会的背景の違いを全く説明せずに、「欧米(実際は一部の国)では よく使われているから」という断片的情報のみで、あたかも先発品と全く同質の薬であるかのような誤解を容認している日本の現状には問題がある。各国のジェネリック薬品比率を調べてみると、ドイツ41%、米国40%、スウェーデン39%、デンマーク22-40%、イギリス22%、オランダ12%、フランス3-4%、イタリア <1%、スペイン<1%、ポルトガル<1% と、ジェネリック薬品比率が多い国というのはドイツ・米国・スウェーデン程度であった。
テレビのコマーシャルでも、「料金が半額で、しかも先発品と同じ効き目なんだってね」と患者さんに言わせているが、本当に「同じ効き目」が実証されたのだろうか。たとえ先発品と同じ主成分を含むとしても、同じ治療効果が正確な治験によって十分に証明された上でのことなのだろうか。 同じ成分、同じ溶出率だから同じ効果があると、一概に言い切れないのが薬である。先発の会社は主成分構成以外の、例えば「製造技術」で、後発メーカーに知らされてない何かを持っている場合がある。 医薬品にも、その成分はわかっても、例えば溶媒の質や作り方の手順に妙があったり、他者にはなかなか同じものが作れない製造技術が隠されている場合が、すべてとは言わないが、ある。 同じ器械を使い、同じ手順で手術をしても結果は必ずしも同じではなく、その過程に言葉では伝わらないノウハウがあるのと同じであ る。料理でも、同じレシピ、同じ手順で作っても、名人と素人で味は決して同じではない。
日本のジェネリックを扱う会社は、医療者に対して、先発品の会社のようなMRによる情報提供や副作川モニターシステムを持っていない会社が多い。少なくとも、日本では現在、そのような状態で流通している薬であるという情報を、ユーザーである患者さんに十分に知らせた上で、どうするかを尋ねるべきである。安全性情報努力を割愛・省略することにより、先発より3割ほど安くしているのである。

主な趣旨は「本当に全く同じ効果、安全性か?」「トラブルが起きた場合対応は十分考えられているのか?」ということだと思う。ここらへんは人間が使用する薬剤の要だが、厚生労働省は医療費を下げようという意図が先行してそのあたりを隠している。こういったことはよくやってはるみたいです。薬剤費を下げたければ新薬の値段を下げればいいのにと思うが(薬の値段は薬会社が決めるのではなく厚労省が決めるのである。これも自由競争の社会なのになんか変じゃない?)そこはあまり問題にされない。なぜだか僕にはわからぬ。

個人的に何種類か使ってみた感じでは効果はそんなに大きく変わらない感じがするが、薬局と相談して評判のいいのを選んでいるのですべてのジェネリックがそうだというわけではない。これはもうわからん世界だなー。少々高くても先発品を使うか、アドバイスを受けて、いいと思ったらジェネリックを使うか、それはあなたが決めること。人任せではなく自己責任、自分の健康は自分で守ってねという、小泉政権の思想そのままですね。僕に出来ることは正確に情報を伝えることだと思います。もうすぐ医者も選択制になったりしてね。ジェネリックだけど安いからいいやとか。いや、保険制度も危ういですから冗談ではございません。

No Pain, No Gain

No Pain, No Gain. 痛みを伴わなければ進歩はない。これは20年以上も前のSoloflexのコピーだ。自宅で出来る一体型筋トレマシーンのはしりで、そこそこいい値段がしたと思うが、その頃大学院生だった僕は広告イメージの格好よい男性の裸体とこのコピーにひかれ早速購入したのである。

それは一人暮らしの僕の部屋に置くのにはあまりに大きく、大学院生のたまり場である共同の研究室に設置された。あるときふらりと研究室に入ってきた教授が「何やこれ!?遊び道具を置いとくな!」と言いながら蹴飛ばしたので我々の仲は険悪となった。生活がまさに研究と一体となっているのですと主張したい大学院生と、私物を仕事場に持ち込むなと言う教授との、まあよくある話です。今となっては教授の気持ちもよくわかるがその頃は怒り心頭で、わからずやのもとでは仕事は出来んと飲み会でのネタによくなった。

しかしSoloflexはその使命を十分に全うすることなく単なる場所をとる服かけになってしまったのである、予想通り。しかし捨てるにはしのびず、今でも僕のもとにある(なんと物持ちのいい!)。しかし使ってない。

これを有効利用しよう。これがテーマである。相変わらず僕の足の状態は一進一退、じゃなくって明らかに最近Gain しつつある。これは靴のソールを工夫したりも大きいが、基本的にパワリハも含む筋肉トレーニングが1番大事と実感している。サボるとてきめんに可動性が落ち痛みがよみがえる。

日本の高齢者が寝たきりになる原因は認知症と筋骨格系疾患がほぼ同程度。みんな認知症は恐れるが関節や腰のトラブルは、「年だから」と深く考えていないことが多い。しかしそれはあなたの生活レベルを大きく落とす可能性が高い。予防が非常に、もう一度言おう、ひじょーに!大事だ。それには日常的な動作だけでは不十分で、ある程度時間をとってトレーニングをすべきである。

単なるトレーニングをするといっても持続しない。目標を設置することにする。僕は1年後にミニトライアスロンに参加することだ。まだジョギングも怪しい僕が何とか計画を立てて頑張ろうと思う。筋肉を鍛え(Soloflexよ、出番だ、まずハタキをかけなきゃな)、走り、泳ぎ、自転車をこぐ。腹筋も6分割ぐらい出来るかな、えへへ・・・(取らぬ狸の皮算用だ)。「ランナーズワールド」によれば、フルマラソンを5時間40分で走る93歳のランナー、ファウジャ・シンは、初めて走り出したのが81歳の時だそうだ。こんなことを知ると不可能ではなさそうな気がする・・・

とりあえずはじめよう。一緒にやりたい人、参加者を募る。結果は1年後にご報告します(その頃わからないように削除してたりして)。

若いのにカラメル化

あぁ、もう1年たったか…去年も夏休みの終わりにパールスを書いていました。去年と同じく何も考えず、文明を離れた場所でぽつねんとしていたのですが、なんと生まれて初めて眩暈を経験。頭を動かすと目がぐるぐる回って数秒でおさまる。どんどん増悪もしないようで、これはどうも良性発作性頭位変換眩暈症のようだと考えて1日おとなしくしていました。起こるとわかっている方向に頭を動かすとだんだん慣れてくるのでそう指導しても良いとアメリカの教科書に書いてあったのを覚えていて、この患者さんが来ると僕も軽い方にはそう言う時があったのですが、みなさん「そんな…」と答える。自分でなってみて思いました。「そんな…。吐くやないか!」自分より頑強な人の言うことは信用してはいけません。

頭を動かないと全然平気なので結果的にまたまた本がよく読めました。アンドルー・ワイル博士の「ヘルシーエイジング」をまるまる読んでしまったのですが、これは素晴らしい本です。僕はこのたびおめでたくもまだ少数しかいない抗加齢医学会の専門医になったのですが、今巷ではびこるアンチエイジングという言葉にはどうも抵抗がある。年取ることは悪いことではないのでー、だのになんでアンチだ!このヘルシーエイジングという言葉を使うべきですね、本来の理念から言うと。その年齢におけるベストの身体的、精神的健康を保つ(オプティマルヘルス)というのが目指すべきところですから。

「ヘルシーエイジング」でワイル博士は1つの仮説を紹介しています。「カラメル化による老化」。カラメル化?砂糖を加熱するとキャラメル色に変色しますね。これをいうのですが、料理の際に砂糖をクリームやバターと混ぜて加熱する、つまり糖質とたんぱく質やアミノ酸が反応するとトーストやグラタンのきつね色になりおいしい匂いがします。これをメイラード反応(この本ではマヤール反応と書いています。同じことですがメイラード反応のほうが一般的)といって多くの魅力的な料理の基本であるのですが、これは古ぼけた写真が黄ばんでくることや、土が褐色であることのひとつの理由でもある。そしてこれは生物の体の中でも普通に起こっているのです。

生体には糖質や蛋白がいくらでもありますし、触媒もあって加熱しないでも体温だけで完全な反応が起こる。動脈硬化や白内障など老年病の進行が糖尿病の方で特に早いのは常識ですが、その病理変化のかなりの部分がメイラード反応の結果として生じているとされています。もしかしたら老化とは、我々の体組織のゆっくりとした褐色化、つまりカラメル化ではないのか?

むむー、甘いものを食べると体の中で組織がカラメル色に変色していく気がしませんか?そこの女の子!君のお腹の80%はカラメル化しているぞ!この説は1部認められて研究が進んでいますが老化の本態かどうかは断言できない。しかし糖化の最終産物が身体の様々な障害を引き起こすのは間違いないようです。そもそも古来人間の手に入る糖質源は熟した果物か蜂の巣とかそんなもんだったのだ。甘いものはいかん!これから食べないようにしよう、と深く決心して3時間後には忘れてましたが。眩暈がしそうです。

しかし糖を断たないととうがたつよ、みなさん。若いのにカラメル化はいけません。

薹が立つ(とうがたつ) 1.蕗(ふき)や菜の花などの、花茎が伸びる。固くなって食べ頃を過ぎてしまう。2.人が、その目的に最適の年齢を過ぎてしまう。若い盛りが過ぎる。特に、婚期についていう。

植木君は友達

この前のパールス以来、どうも植物が気になっています。ペットはいまや完全に人間のコンパニオンとしての地位が確立され、今の日本では12歳以下の人口よりペット数のほうが多いという、信じられないことになっています。飼い主に擬人化され、また特に犬は犬同士より人間に関してよりシンパシーを感じているような半人間が多い気がします。今君が飼っているのは犬じゃないよ、犬の着ぐるみを被ったちっちゃい男だ、よく見てみ。

犬が歩いている部屋で観葉植物が静かにたたずんでいる。昔サボテンが喋るというのがあったなぁ。優しい言葉、励ましの言葉を植物に話しかけていると葉がつやつやしてくるというのもよく聞く話だけど本当のところどうなんだろう。

「樹功」というのがあります。気功の一種ですが、近年リバイバル著しいらしい。木に向かって立ち、木から気を貰いつつ自分の気を練ってゆく。木と対話しながら自らも樹木となって同一化する感覚を磨いていき、自分の人間としてのあり方を相対化していく総合的な感性トレーニング。自分の気のタイプに応じて好適な樹種も異なり、自分にあったパートナー的な“私の木”を見つけることも重要なポイントとなるようです。

アロマテラピーとかフラワーレメディとか、香りや飲用することで体調を整えることも最近では普及してきていますが、もともと薬は薬草というか植物から得られたものが多いのです。そこで大事なのは単に物質としてある要素を摂取すればいいというものではなくて、樹功や園芸療法(園芸に参加することで認知症や欝などが改善することが報告されている)のように植物との関係性からその植物に「治癒」されるという可能性があることです。その関係性から、伝統的な薬草医は人間のためだけに際限なく採取することはせず、1部は他の生物のため、一部はその植物のために残しつつ(1番勢いの強い葉を!)残り物だけをいただくという植物と付き合う作法を持っていました。人と植物は共生していくのです。

恐竜の絶滅には60以上の説がありますが花によって滅ぼされたという説があります。草食恐竜の食料は羊歯だったのですが、胞子は水の仲立ちがいるため羊歯は水辺に繁殖していました。しかし花は花粉による風媒という画期的なシステム、ついで蜜を利用した昆虫との共同作業を開発したため繁殖力が大きく、羊歯はだんだん北方に追いやられ、恐竜も北方に移動せざる得なくなりました。その時期に隕石の落下が起こり決定的に恐竜は絶滅したのです。

花はその時期再び画期的なシステムを生み出しました。果物です。そしてパートナーとして哺乳類を選び、果物を食べた哺乳類が移動した先で種を排出することにより勢力を広げて行ったのです。哺乳類である人間は植物によって選ばれたことで今があるというわけですね。

どうも周りにある植物が静かに僕たちをじっと見つめている気がしませんか?あんなこともこんなこともみんな見られているぞ。悪いことは出来ません。人間だけがこの世界を支配しているという考えはとっても傲慢ですね。「プラントロン」という機械は植物の葉に電極を取り付けて電位を測定し、それを音声信号化するものなのですが、これが面白いくらい植物の環境に対する反応を反映するそうです。そして大事なのは、そこで聞き取れるのは植物とそこにいる人間との関係性を表現しているようだということです。あぁ、枯れちゃったのはもうあきれたからに違いないですね。ショック死かな。明日からちゃんと挨拶してあげよう。いいですか、みなさん。