カテゴリー別アーカイブ: 医学

しつこい男

 考えてみれば僕の足の障害というのは結構歴史が古い。20年位前に左足のアキレス腱不完全断裂。その3年後くらいに右股関節の捻挫。これが全部対側の関節に負担をかけていたのだろう、15年後くらいに全く対称的に右足のアキレス腱完全断裂、そしてリハビリ中に左股関節の捻挫と、まあ踏んだりけったりですわ。

 もう何のかんの言っても歩くのはかなわんなーと思って3年も経つのか。

 ちょっとした移動は自転車を使い、うっとおしいなと思いながらも日常生活は適当にこなしていた。というかゴルフもやっているし旅行で山歩きもしていた(どうして出来たのだろう?)し、まあなんとなく十分ではないながらも普通以上の行動範囲はキープしてきたわけだ。
  
 しかしこれではいかーん、と考えを変えた。やりたいことがいくつかあるが、そのためにはしっかり走れる足腰が不可欠なのである。パワーリハも何とか時間を作り鍼灸、マッサージを受け、歩行のメカニズムに関して勉強しているうちにある変化がでてきた。特に最近新しいトレーニングを加えてからの変化が大きかったように思う。

 8月に入ってから自分の感じとしてかなり自然に歩行が出来るようになってきたのである。ここ何年かの間で最も大きな変化である。痛みもマシになってきている。

 なんというかこんな長い時間あまり変化しない状態の足でも、刺激を与えていくとやはり変化していくのだなと身をもって知る。

 あきらめてはいけません。運命の女神はめげないでしつこく続けるものに微笑むのである。

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勝手に考えてくれたまえ

コーヒーと痛み

 僕はコーヒー・アディクトであり、日に2,3杯は必ず飲んでいる。多いときは10杯近く。で以前、コーヒー常飲者はコーヒーを止めると作業能率が落ちるという文献を読んだことがあり、ますます止められないじゃないの。

 最近スポーツ能力とカフェインの関係を調べた文献があり、どちらか言うとプラセボ効果という結論であった。

 で、面白いのでコーヒー関連の最新の医学情報を見てみると、運動前にコーヒーを2杯飲むと、その後の筋肉痛を50%近く減らすことができるという報告があった。コーヒーの筋肉痛緩和効果はアスピリンのような鎮痛薬で一般にみられる鎮痛効果より高いという。ほんとかよ?

 カフェインの疼痛緩和作用は、普段カフェインを摂らない人や運動しない人に著明に現れるようである。

 「カフェインで筋肉痛を和らげることができれば、運動を始めた最初の週から長時間の運動プログラムに入るのが容易になる」とジョージア大学の Victor Maridakis氏はニュースリリースで語っている。

 今回の研究は、カフェインを摂る習慣がなく筋肉トレーニングも定期的に行っていない9人の女子大学生を対象に、運動後の筋肉痛に対するカフェインの影響を検討した小規模研究である。研究結果は『Pain』オンライン版に12月11付けで掲載され、同誌2月号に掲載予定である。

 カフェインに鎮痛効果があることは調べてみると一応裏づけがあるようだ。この発表は運動後に筋肉痛に限ってみれば既成の鎮痛薬より効くというのがミソだな。

 今、癌の骨転移の痛みに苦しんでいる方を診ている。鎮痛作用があるのであればお勧めしてみてもいいかもしれない。効けばいいな。

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タバコと同じで本当にうまく感じるときは案外少ない。じゃない?

リハビリ奇兵隊

 昨日、僕が世話人で定期的にやっている「今更訊けないこんなこと勉強会」がありました。講師はリハビリテーションでは世界的に有名な森之宮病院のリハビリテーション科部長、矢倉一先生で、「自宅で出来るリハビリテーション」というお題をお願いしていました。

 先生はリハビリテーション専門医且つ神経内科医で、ミラーニューロンなどの専門的な話から「だらけ体操」という誰でも出来るベッド上運動の紹介など(これも裏づけがある)、僕にとっては本当に有益で頭がニコニコするような時間でした。今までの使いまわしでなく、ちゃんとこの小さな会のためにパワーポイントを作っていただいて恐縮です。

 特に興味深かったのは、これからのリハビリテーションは専門職だけがやっていくのではなく、様々な職種、一般の方も含めていろいろな人がリハビリテーションマインドをもって関わっていくべきだという主張でした。それを彼は土方歳三の新撰組(武士だけ)から高杉晋作の奇兵隊(武士以外、一般庶民も含む混成部隊)へ、という言い方をされていました。

 これは僕の考えていることと同じで、身体にトラブルの多い高齢者がますます増加していくこの時代に専門職の方だけに頼るのではなく、みんなが勉強してみんなでリハビリテーションをやっていこうというパワーリハビリテーションのコンセプトに一致します。矢倉先生はパワーリハの支持者で、今まで多くの患者さんを当院に紹介していただいていますが、最近では患者さん同士の口コミから紹介してくれといわれるとおっしゃってました。嬉しいなぁ。

 外来パワーリハビリテーションはこの暑いのに遠方から多くの方が来られ、ドロップアウトも無く熱心に続けられています。良くなりたい!その強い意志を感じます。そのためには僕たちはどうしていけばいいか?謙虚に熱心に勉強を続けることだ。そう再確認した日でもありました。

 矢倉先生、本当に有難うございました。

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優秀且つ謙虚な先生

 

禁煙外来

 20歳の時にタバコを止めてからほとんど吸ってない。吸い始めの頃はかっこいい吸い方とかいろいろ考えたりして結構本数も多かったのだが(バカだったわけです)、気分悪くなったり、クラブ活動で長距離を走るようになってこれでは走れんと切実に思ったりしたのですぐ止めた。

 僕の意志の力はトータル0.2馬力くらいしかないので、止められたのは結局好きじゃなかったのだろう。

 で、禁煙外来である。タバコ1箱1000円の噂が出てから(ニューヨークではほんとに1000円位するようですが)急に訪れる人が多くなった。みんな実は止めようかなーと思っていたのだが、きっかけがなかったという人が多い。早く1000円になれへんかなーと思てますなんて人もいて、自立して何かを決定するというのはなんと難しいのであろうか。

 今までの経験では男性はかなりの禁煙達成率である。ほほ100%。それに比して女性は成績が悪く、半分くらいであろうか。最初に禁煙外来に来られたときから女性はなんとなく歯切れが悪い。あまり切実さがないのね。

「で、タバコを止めようと強く思ってる?」
「えー、薬のんだら勝手に止められるんでしょう?」
「あのね、止めようと強く思ってなきゃ無理よ」
「えー!うそー」

 うそー、と言いたいのはこっちである。薬で依存性をかなり絶つことは出来ても、喫煙は習慣という、なかなか抜けない罠があるのである。これを忘れ去るには本人の強い意志が不可欠である。習慣を変えるのはかなり難しいのだ。

 喫煙の悪影響を調べる手段として呼気中の1酸化炭素量を調べる。正常は1%以下で、禁煙すると数日で値が下がってくる。本当に禁煙したかこれで調べることが出来る。今までの最高値は20歳の女の子の13%で、これはなかなかのものですよ。禁煙外来に来る大概の男性は5%程度である。彼女はお母さんが引っ張ってこられたのだが、予想したとおり2回目の外来には来なかった。今頃どうしているのであろうか。

 今の僕の眼には、この時代に喫煙をしているというのは相当のチャレンジャーという気がする。死をも恐れない勇者である。その勇気を別の方面に。あなたならきっと出来る。

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ベタでした。

ケアをするという生き方

 今日はJONET(城東区ケアマネージャー連絡協議会)と医師会の共催で緩和ケア勉強会があった。緩和ケアとは末期癌等で治癒の見込みがなく痛みが著しく強いとか死を受け入れられないという患者さんを、積極的治療をせず安らかに看取ることを中心にするというケアの形態である。在宅で末期癌の患者さんを診る機会が増え最近注目されている。ホスピスは病院における典型である。

 もともと僕が末期癌の在宅患者さんを持ったことで、緩和ケアに興味を持ったことが始まりだ。某製薬会社さんに、いろいろ教えていただけるような先生知らない?と話していたら、エキスパートの先生がいる、それならみんなで話を聞きましょうということになり、講演をしていただくことになった。

 演者は淀川キリスト教病院のホスピス長、池永昌之先生です。緩和ケアの第一人者で恰幅がありとても落ち着いた感じの先生だが、司会としてお会いしたとき、最初に気がついたのが「眼」だった。

 人間の心の深淵を覗いたことのある、というかずーとそれに付き合ってきた、楽観性を捨てたニュートラルな眼である。表面を見透かし、内面だけを見ているような眼。精神科のドクターに同じような眼を見ることが多い。

 もともと医者向けに実際的な麻薬の処方などを織り込んだスライドを最初用意されていたのだが、聴衆の多くがケアマネージャーや看護師、介護士であることがわかると、死にゆく人とのコミュニケーションのとり方にスライドに変えられた。講演慣れしている方は違う。

 タイトルは「ケアをするという生き方」。僕が普段接している病弱な高齢者の方との付き合い方にも大変ヒントとなることが多くあった。大変有意義な1時間でした。真摯に話を聞くということが基本である。

 最後の「ケアをするという仕事を選んだということは、ケアをするという人生を選んだということなのである」というのが身にしみた。
 どうも有り難う御座いました。

 

花粉の季節

 花粉症の人が先週から急に増えてきた。辛そうである。うっとおしそうである。同情を禁じえない。

 3年ほど前、少し鼻がむずむずするのでなんか変だなと思って抗体価を測った。

 びっくり。

 杉やヒノキやカモガヤやヨモギや、年中アウト!じゃないのと思うくらい、いろいろな花粉の抗体が検出されたのである。しかも値がかなり高い。これが患者さんだったらお気の毒でもらい泣きするくらい派手なデータであった。

 でもねー、それ以来、症状が出ないんだよ。全くでないというわけではない。すこしむずむずするな、というのはあるのだが、薬を飲むまでには至っていない。抗体価と症状は相関しないというのは医学的に常識ではあるが、それにしても乖離が大きい。

 まあ、鈍いということかもしれんね。

 花粉症の方にお知らせ。テレビで「御行儀が悪いのではありません」といって鼻に指を突っ込んでいるCMがあるでしょう。花粉は鼻腔内の粘液に触れて破裂し症状が出るのだが、粘液に触れる前に花粉をトラップすると症状はかなり緩和される。白色ワセリンは安価で花粉をトラップする同じ効果があるので鼻の穴の内側周辺に塗るといいです。

 マスクは普通のマスクでいいですが、ガーゼを鼻を包み込むようにつけてからマスクをすると倍以上花粉が防げます。必ずガーゼとともにマスクを装着するように。

 今いろいろな花粉症の治療法が開発されつつあります。つらいけどもう少し!何とかやり過ごそう。

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見るだけで鼻が・・・

 

 

二言のある医者

 「おぬし、確かよな?」「おお、武士に二言はない!」

 素晴らしいことである。しかし医者に二言はある。

 この変化の激しい世界において、以前の常識が引っくり返ることは稀ではない。医学の世界においても同様であって、10年前の常識が、じつは間違ってましたー、絶対にしないでね、ということは結構起こることである。

 今では常識の心臓や脳の急性期血管造影と血管拡張は僕の研修期の頃は本当に常識に反することだったし、内視鏡を使って手術をするなんぞ想像の範囲を超えることであった。つまり二言あるのは進歩するからなのだ。

 そんな大技でなくっても、エクセレントな小技もあるぞ。

 注射するときアルコール綿で消毒する。常識であるが実はこれはただの水でもよく、極言すれば拭かなくてもいいのである。

 皮膚の常在菌は皮膚の酸性環境で生存できる。体内は中性である。注射針で押し込まれても増殖できず、また中性でも増殖できる病原性のある黄色ブドウ球菌などは皮膚ではあまり増殖できず、注射により体内に入る菌数(わずか数個とのこと)ではすぐ免疫機構でやられてしまう。

 実際にアルコール綿と蒸留水で消毒したグループを比較した673人参加した結果では、ともに感染は認められなかったとのこと。

 すごい。傷の治療は乾かすのではなく、浸潤環境を保つためにサランラップを貼るほうが治癒がきれいで早いというのに続く目からウロコの知見である。

 常識を疑う好奇心と柔らかい頭、科学的な推察能力、実行できる決断力がないとこういうことは出来ない。

 二言のある医者はすごい実力者なのである。

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するのは好きですがされるのは嫌い

 

 

 
 

絶食のススメ

 昨日の夕食が終わったとき、どうもおかしいと思った。なんか・・・気持ち悪いな・・・その後すぐ嘔吐、下痢の発作に襲われた。やられちまったよー!

 冬になると必ず流行る嘔吐下痢症である。昨今ノロウイルスが有名になったが、それ以外でも何種類かのウイルスが同様の症状を起こす。1日に何人も同様の患者さんを診ていて、もう完全に抗体は出来ているはずと思っていたがまだまだ新手はいたらしい。

 やらなくてはならないデスクワークがあったのだが、ともかく眠いのなんの。免疫系が賦活している時は眠く、だるくなる。おお頑張れよと思うのだが、気持ち悪いし異様にだるく、本当に青息吐息で寝床につく。

 今日1日は基本的に絶食である。水分は何とか取れたのでお茶とアップルジュースだけで過ごす。全然お腹がすかないのでらくちんである。それどころかある種のすがすがしさがある。

 週末絶食というのがあって、土日絶食は飽食で疲れきった胃腸を休ます意味で非常に有益で、体調が大変よくなるらしい。食べないと基礎代謝が下がるのでダイエットという意味ではいい方法ではないが、胃腸の機能を上げる意味では考慮していいな。

 体重を量ったら1kgしか減っていなかった。ちぇ。でも吐き気も下痢も治まってきたし、1、2日の絶食は悪くないぜ。本当に定期的にしようと考えている。君もどう?

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スッカラカンだ!

 

シェイクよりキスね!

インフルエンザがどうもそろそろ大流行!となりそうな雰囲気になってきました。どう見てもこれはインフルエンザじゃないな、って人が検査してみると実は、というのが昨日も数人。皆さん、手洗いを!

手洗いといえば昨日面白いニュースを見つけた。

病気が感染する確率はキスより握手のほうが高いので、挨拶は握手より頬にキスを。
上記は、イギリスの「DAILYTELEGRAPH」誌が13日付けの報道で伝えたもの。今回の研究に関わったロンドンの衛生学専門家、サリー・ブルームフィールド氏は次のように話している。「人の手は、病気などの感染経路としては特筆すべきもの。握手とは相手の皮膚と自分の皮膚が接触するという行為だが、握手する前、その相手が何を触っていたかわからないわけだ。風邪をひくとキスはしないほうがよいとはよく言われるが、実際には、握手のほうが病気感染の確率は高い」。
また同国の別の伝染病専門家、ジョン・オックスフォード氏も、「ほほへのキスは握手ほど病気感染の確率は高くない」と話している。
2人の専門家は、「フランス人のほほとほほを合わせる挨拶のやり方は、握手よりも衛生的な行為」だとしている。

これを口実に悪用しそうな人を数人知っていますが皆さん、真似しないようにね!

P.S. 昨日抗加齢医学会認定施設の少なさをブログで書きましたが、今年新たに認可されたのは3施設だけで、今年の申請数はどれくらいだったのだろうと考えていました。ところが、あるところから却下されたのでいろいろ参考意見を欲しいと連絡をいただきました。結構な施設数が却下されたようであった。頑張った甲斐があったなー。

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しびれるお話

 ペラペラと医学雑誌を、じゃないな、カチッカチッとクリックしながら医学トピックスをネットサーフィン(死語ですか?)していたら、おお!天下のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンの編集者へのレターのページに面白い記事が載ってるぞ。

 Thunderstorms and iPods — Not a Good iDea (NEJM 357(2):198-199.2007)雷雨にアイポッドはいい考えじゃありません。イヤフォンで長時間音楽を聴く事は永久的な聴力障害も報告されているが、それに加えてまたまずい事例が加わった。カナダからの報告。37歳男性、iPodを聴きながらジョギング中、約2.4m離れた樹木に雷が落ちたのだが、それとともに衝撃を感じた。胸部・左下肢に2度熱傷、2つの線状のやけどが前胸部・頸部に沿ってイヤフォーンの位置に一致した外耳まで到達していた。両鼓膜は破れ、重篤な伝導障害を生じている。側頭骨はあぶみ・きぬた骨関節で両側分断されていた。

 おお、恐ろしい!iPodは雷までダウンロードしたわけね。ゴルフの時の雷は結構怖いものであるが、夏の夕立の時なんか何も知らずにiPodを装着して歩いてる若者なんぞごろごろいるぞ。音楽にしびれたかと思ったら落雷だったりして(極めておじんギャグ。すまん。)

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ひぇー!