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抵抗と移動のドライブ

 人間はもともと変化を好まなく出来ている。それが生物学的に安全であるからである。今そこそこいけてるのに何で結果のわからない、危険な道を選ばなくてはならない?いいじゃん、今のままで。違う道を選ぶにしてもあんまりレベルの違うことはいやだ。

 それでいいのか?それって進歩を目指さないということではないのか。現状維持が最重要項目か?なんていろいろフラストレーションのたまることの多い今日この頃ではありますが(自分自身に対してでもある)、新聞の書評でむっ、と思わせる奴に出会った。マサオ・ミヨシという学者のインタビュー集である。

 彼は戦前、戦中の英語教育を受け戦後まもなくアメリカにわたり、カリフォルニア大学バークレー校で英文学の正教授となった。これはすごいことである。敵であった国の人間を教授にするアメリカも度量があるが、彼の能力の高さがしのばれる。それよりもすごいのは彼の特徴としての「移動」である。場所もそうだが自分自身の仕事の領域をどんどん変えてしまう。市民運動に手を染め、英文学を放棄し、また介入した日本学も放棄してまた新たな道へ。一流の成し遂げたものを放棄して新たな道を目指すのである。

 大体まだ読んでもいないのにブログに書いていいのかという気もするが、僕は柄谷行人の書評だけで感じるものがあったのだ。彼のこの「かくも絶え間ない、抵抗と移動のドライブは、どこからくるのか」、これは読めば明らかになる。大体このような傑出した人物のことが今まで明らかになっていなかったということだけでもなにか閉塞した陰湿な状況を感じますが、そういう抵抗も動力となっているのだろう(想像ですが)。こういう本を読みましょう。愛とか何とかは読むより実行しているほうがいいよ。

 ジジイになってもライク・ア・ローリングストーンです。

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「抵抗の場へ」という本です

楽しくないけど知っといたほうがいい事実

 最近の浴室本は「世界を見る目が変わる50の事実」である。ジェシカ・ウィリアムズというイギリス公共放送BBCの女性ジャーナリストが著者。普段余り目にすることの無い興味深い事実を挙げて解説を加えている。

 例えば「世界の死刑執行の81%はわずか3カ国に集中している。中国、イラン、米国である」とか「日本女性の平均寿命は84歳だがボツナワ人の平均寿命は39歳」・・・発展途上国、多くはアフリカだが、平均寿命が短い原因として新生児死亡率が高いこと以外にエイズの影響力が非常に大きいことがわかった。「地雷によって世界で毎時間1人は死傷している」・・・あんな時代遅れの兵器が今でも使用されている一つの理由が安価であること。1つ400円!対人地雷禁止条約が発効し世界で139カ国が締結している。しかし47カ国が締結しておらず米国、中国、ロシアはやっていない!米国は地雷を作っている企業との関係である。

 グローバリゼーション-貿易、通信、投資を通じて世界がより深く結ばれること-もいい事ばかりでなく、富裕国が途上国をいろいろな意味で搾取の手段にし、犠牲を強いていることもよくわかる。まあこれは搾取ではないが、タイ人の血が混じるタイガー・ウッズの1日の収入は、ウッズの帽子を作るナイキのタイ工場労働者の38年分の年収である、というのもあるぞ。タイガーがタイに来たとき労働者はそうプラカードに書いてデモをしたそうだがタイガーは彼らとの面会を拒否したそうだ。僕はタイガーのファンだから複雑だな。

 発展途上国に教育施設を作るため募金を!というのを見るとまず日本のことに金を使ったほうがいいのではという意見が出る。僕もそう思うときがある。しかし世界は1つのクラスなのである。学級委員みたいなのもいるしグレているのもいる。みんな自分のことだけでなくクラスのことも考え、助け合わなくてはいけないのだ。自分の国、自分の事情だけに完結していてはいけない。そのために世界のことを知る必要がある。表面的なことでなく真実を知る必要があるのだ。案外真実は伝わらない。貴重な本だ。是非お勧めしたい。

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表紙はかわいいけど・・・

元旦ばなな

 新年明けましておめでとう御座います。

 区切りですよね、こういうのは。毎日の生活を自分で1章1章区切っているのですが、このような強制的な区切りは意味がある。いっそ大切にしていくべきかと思います。リセットのいい機会ですよね、誰も文句を言えない。

 大晦日から元旦にかけて何をしていたかというと本を読んでいました。この時期に読もうと思っていた本があってそれを1冊読破し、2冊目も終わりかけである。選択がよかった。読み終わった1冊はよしもとばななの「デッドエンドの思い出」です。

 よしもとばななは1時期モストフェバリットの作家でした。「ムーンライトシャドウ」という短編は、個人的に好きな短編のアンソロジーを編むとしたら、間違いなく最初に思い出す大好きな作品で、最後の2行は本当に涙が出てくる。今まで10回くらい読み返していると思います。でもここ数年は遠ざかっていました。ちょっとつまらなかった。

 「デッドエンドの思い出」は書評もよかったし、彼女自身が1番好きとコメントしていることもあって気になっていたのですがどうも機会がなかった。しかし読んでよかったです。最近本当に素晴らしいと思った短編集は村上春樹の「東京奇譚」ですが、個人的にはそれに匹敵します。

 甘くない不幸な話ばかりなのですがみんな救いがある。一言で表現できないですが、特別な関係の人に対してだけではなく、普通の関わりの人達に対しても、気を使った思いやりの心があれば何とか人はやっていくことが出来るというメッセージを感じました。アメリカの作家であるカート・ボネガット・ジュニアが「愛は負けても親切は勝つ」という言葉を残していますが、それと同じかなと思います。

 少し引用。

 この世の中に、あの会いかたで出会ってしまったがゆえに、私とその人たちはどうやってもうまくいかなかった。
 でもどこか遠くの、深い深い世界で、きっときれいな水辺のところで、私達はほほえみあい、ただ優しくしあい、いい時間を過ごしているに違いない、そういうふうに思うのだ。

 いがみ合ったりするのはつまんないですね。
 グッド・ラック!

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幸福な思い出があれば生きていける

クールジャパン!

 本屋さんをブラブラ覗いていると、大友克洋氏が描くペットボトルらっぱ飲み高校生(かっこよすぎ!)が表紙の雑誌が眼に止まりました。

 「おお、ブルータスではないか!」。特集は「WHY?WHAT?クールジャパン!?」です。かなり前から日本は主としてポップカルチャーが世界から注目されているのですが、いったいどのへんが受けているのか、その分析ですね。10年ほど前、日本で一番原稿料の高い雑誌であったブルータスは、この号でもフランク・ミューラーとかが登場していて、ま、結構売れてんのかしらね、という感じです。

 久しぶりに買ったブルータスですが、内容はとても良かった。すみからすみまで退屈なし。Never a dull momentでした。まあ、僕の好みはあまり一般的ではないと言われていますが。

 日本はポップカルチャーだけでなく、プロダクツや生活様式まで結構格好いいと思われている感じがよくわかりました。ロシアなんか驚きです。アメリカで日本マニアのお爺さんのお家に招待されてことがあって、そのあまりの本格ぶりに驚いたことがあるのですが、外国の日本マニアの人ってその熱心ぶりはかなりおたくっぽいのかもしれません。

 米国の広告代理店「ワイデン+ケネディ」のCEOが、なぜ日本がクール(これはいけてる!ってことです。念のため)なのかという問いに、「クオリティーは、日本人以外の人がジャパンと聞いてまず連想する日本のDNAだ。その土台にクリエイティブが加わっているからだ」と述べています。彼は「クオリティー」こそ日本のキモと力説しています。これが無くなればだめと。

 これはかなり正しい気がします。そして「4時間前にカフェに忘れた財布がそのまま戻ってきた!これぞクールジャパンだよ」と言っている人もいました。物だけでなく人間のクオリティーもかなりハイレベルなところがあると思います。僕たちは日常でこいつを追及したいですね。

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内容も外見も

毒蛇は急がない

 開高健が好きだった。父親が買ってくれた「フィッシュ・オン」は中学、高校と何度読み返したか判らない。それから「夏の闇」「輝ける闇」などにすすみ、一時最もなりたかったのは戦争特派員だった。影響受けやすいな。

 その尊敬する開高健大兄がよく言われていた言葉が「毒蛇は急がない」だった。うん?大して含蓄のある言葉とも思えない。

 しかし最近、身にしみるのである。僕はセカセカといつも急いでいる。それで結局集中できていない。心から満足できる結果も得ていないのである。あせっていると大事なものを見落とす。急がば回れ。少しペースダウンして落ち着いて進んだ方が大きなものを得られるのでは。結果的にそのほうがゲインは大きいのだ。

 「僕はバンコックでチェンマイの貴族に居候していた時、結論を早く出しちゃいけない、人を早く判断しちゃいけない、ということを教えられたの。万事急いではいけない。毒蛇は急がないと。」

 疲れてパラパラページをめくっていると出てきた。啓示?

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巨匠。ちょっと父親に似ている。

賢く生きるな 楽しく生きろ

 僕は20代の頃から結構引越しをしている、はからずも。僕のような面倒くさがりがなぜ引越しが多いのか、その事実だけでも人生は思うようにならないものだなぁということが証明できる。アメリカでも1回やったもんなぁ。

 10回近い引越しのたびに荷物の選別が行われるわけだが、そのとき、本というのは非常に厳しい選択にあう。ずーと持っていこうという本は非常に少ないわけだ。その数少ない本の中には会田雄二の「選択の条件」や勝海舟の「氷川清話」、倉橋由美子「交歓」なんかがあるが、こいつもそういった本だなというのを本棚を見回していたときに見つけた。

 ある時検診か何かの仕事に行くのに僕は食事の時間がなく、しかしあまりに空腹なためにコンビニでおにぎりを買って、そのついでに公園で食べるお供として隣にあった古本屋で目に留まったその本を購入したのである。悲惨だなぁ。これって40代の話だよ。院長は優雅で…なんていう奴がいたらその場でバックドロップをかけたくなるが、まあそれは別の話だ。

 これは人生に対する箴言集だ。そんなものは大概下らないが(一時僕は大量に読んだことがあってこの結論に達した。悩んでたん?そんなことないなぁ、わからん!)、こいつはちょっと違っていて、何でこういう言葉が出てくるのか、素直に感嘆します。

 うーん、となんとなく元気がないときに目に留まって読むと少し気分が変わりました。それってすごいことではないか。少なくとも俺には気になる本です。君には知らん。

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「賢く生きるな、楽しく生きろ」という本です

 

ワイルド・ソウル

 エー、またやらなあかん事務仕事をナップザックの肩紐がちぎれんばかり詰め込んで帰ってきたのですが、ついこの間仕入れた垣根涼介著「ワイルド・ソウル」を僕の主たる読書室である風呂場で読み出したら(主たるリスニングルームは車ね)もう止まらん。ケアマネの皆さん、意志の弱い私をお許しください。意見書は明日全部書きます・・・多分。

 気に入る本は何かしらフェロモンがある。クンクン。この本は前から気になっていたのだが、アマゾンのusedで安かったからつい上下巻とも買ってしまった。簡単に言えば復讐譚である。いいなぁ、復讐。こういうのがすきなのは欲望を置き換えてやってもらっているからかしらね。

 1960年代といえばすでに僕は生まれているが、そんな頃でも日本政府はブラジルのアマゾン地域にひどい条件で(それを知らせずに)移民を募っていた。ほとんど詐欺である。ほんとにひどい。日本政府はいざとなると助けてくれると思っている皆さん、そんなことは絶対にない。彼らは原則、自己保身だけである。忘れないように。

 主人公はこの世の果てのような移植地で家族も亡くし、そのまま総てを捨ててもいいような状況で見知らぬレバノン人に助けられる。

 「15年前、この国にやってきた。飢えていた時期がある。」「その時ある男が俺を救ってくれた。その借りを返したい。」
 その言葉に江藤は首を捻った。「だが、その相手は俺じゃない。」
 「それでいいんだ」平然とハサンは返した。「俺はその相手から受けた恩をお前に返す。お前もこの俺から受けた借りをいつかは誰かに返す。そういうふうにして世界はつながってゆく」

 こういう考え方はあんまり一般的じゃないかもしれぬ。しかしシビレませんか。自分と世界はつながっているいう感じ方。こうありたい。

 舞台が現在に移ったところで本を閉じた。今から何に復讐するのだろう。ワクワク。しかしこんなことをやってると利用者さんから俺が復讐されるな。今から書こっと。

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風呂で読むからヘナヘナ

 

1に肉体、2に文体

 村上春樹氏が今年のフランク・オコナー国際短編賞を受賞した。これをとればノーベル文学賞といわれているフランツ・カフカ賞に続いての海外文学賞(しかも相当権威のある)受賞で、本当に今世界で一番ノーベル文学賞に近い作家だ。

 しかし彼に対する日本の文壇の扱いは無視に等しい。まあ無視されたほうが彼にとっていい気がする。作家と編集者がつるんで酒場でぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ・・・(繰り返し)しているアナクロな世界は村上氏と対極の世界だ。

 彼は夜は10時に就寝し、6時に起きて10kmジョギングし、午前中に仕事をすませて午後は好きなことに使う。音楽を聴いたり散歩したり。大体日本にいない。彼は言う。「フルマラソンを数回走れば文体は変わる」「僕は1に肉体、2に文体です」。彼は100kmマラソンの経験もあるし、フルマラソンも20回以上走っているはずだ。生まれながらの健康フリークだったわけではない。30歳まではジャズ喫茶の経営者で1日40本以上のタバコを吸っていた。ある時これではいけないと走り出し、今ではほとんど贅肉が無い。

 肉体が変われば文体が変わり、生活態度が変わる。ものの見方が変わり性格も変わる。運命は性格だという思想に従えば運命も変えられる。

 健康であるためには運動をしなさい、というのは誰が何を言っても変えられない事実だが、それには単に肉体のコンディションを保つという以外にこういう意味があるのだ。そこを見落とさないように。

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誰かに似ているんだけど…

368Y Par4 第2打

 村上龍氏はかなり好きな作家です。今まで連載もので毎回どきどきして、なんというか続きを読むのが楽しみでもあり、つらかったような不思議な感覚を味わったのは、ブルータスに連載していた彼の「テニスボーイの憂鬱」以外ありません。「料理小説集」は何度も読み返すくらい好きだったし、「69」「走れ高橋」も本当に面白かった。上下2巻を2日で読んでしまったのは「愛と幻想のファシズム」「半島を出でよ」以外他の作家数冊しかないと思います。

 で本屋さんを覗いていたら「368Y Par4 第2打」というゴルフ小説があるではないか!確か昔読んだ記憶があるのですが、パラパラ見たら全く記憶に無いので読むことにしました。前はゴルフにまったく興味が無い頃に読んだからなぁ。

 ところがこれはゴルフ小説ではありません。アメリカでゴルフのプロを目指す青年が希望のモチーフになっていて、主人公のイベント屋のおっさんが大きな苦難の仕事をやっていく各々のシーンにゴルフが挿入される。テーマのひとつは村上氏が何度も書いている日本とアメリカの関係ですが、大事なテーマはタイトルにある第2打です。

 ゴルフをされる方はわかると思いますが、第1打でともかく遠くに飛ばそうと思う段階から次に第2打の重要性がわかってくる。シングルになるとアプローチに執念を燃やすという具合で、上達とともにディーテルが重要になってきます。

 僕はやっと第2打の重要性がわかった段階で、これがうまくいくと大概いいスコアで上がれる。第1打がだめでもリカバリーが十分きくショットなのです。これはメタファーです。最初がチョロで70ydしか飛ばなくても、林に突っ込んでも、第2打の出来いかんが結果を左右する。前にはクリークがある、右に曲がってグリーンがチラッとしか見えない。勇気と判断で刻んでいくかギャンブルするか、ギャンブルは大概失敗する。が常に刻んで何の人生!男の子だろ!

 やり始めは勢いで行くが、次の段階、こいつが難しい。これをうまくやれば後はディーテルをつめるだけだし、最後の詰めでパットということになります。第2打の重要性、今の僕は実際の仕事もゴルフも同レベルかと思います。

 本では大変印象的な第2打で結論はお楽しみ。こういう具合にいきたいです。

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技術書よりこっち

 

読んでる方の「精度」はどうよ。

 昨日は休みだった。本を読んだ。実は僕は活字中毒である、相当。基本的にトイレも風呂も本を持って入る。最近さすがにこの暑さで長風呂をする気はなくなったが、冬から春にかけて浴槽で結構読破した。

 理事長になってから、こうすれば成功するとかいった類のビジネス書や、人生の幸せは、とかいった生ぬるい哲学書みたいなやつをたくさん読んだ。なにか求めていたのだ。しかし何も残っていない(2,3冊いいやつがあったけど)。小説を読むと心に残る影の濃さがぜんぜん違う。「人生はかぼちゃ!!」とハウツー物に書いてあっても「ふむ」と思うだけ。しかし小説に引き込まれて「人生はかぼちゃなのか…」と感じたらずーと残っている。

 で、最近は医学関係のもの以外は小説しか読まない。どんなジャンルの小説でも、結局は人間の生き方を描いている。できるだけ面白いものを読もう。

 昨日は気になっていた伊坂幸太郎の短編集「死神の精度」を読む。予感にたがわず面白かった。本好きな人は判ると思うけど、新聞の広告を見ただけでビビッとくる本があって、大概外れない。伊坂幸太郎は好きなタイプではないけど、こいつは面白そうだ。死神が主人公だけど、仕事は上から指定された人間が死ぬのに値するか1週間で評価すること。「可」もしくは「見送り」と評定。介護保険の調査員のようだ。

 音楽が何よりも好きで、ジャンルは問わない。人間の世界に仕事で来ると、暇を見つけてCDショップで試聴する。そこでよく同僚と会う。主人公が仕事をするときは常に雨…などなどディーテルが面白い。神は細部に宿りたもう。

 短編集はCDと同じで、話のならびが曲の順番と同じく重要。CDはキャッチーな曲が最初で、力の入った曲が最後か、最後から2番目というのが多いけど、短編集も似たようなもんだ。「死神の精度」も最後の話がものすごーく良いです。この話があるからかなり平均点が上がったと思う。採点は☆☆☆☆にしよう。